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記憶
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浅草から押上までは東武伊勢崎線で一駅だ。ゆらゆらと流れる夜の隅田川とアサヒビールの金色のオブジェを、さゆはさざめく様な不安を抱えたまま眺めた。
夜は野菜中心の鍋にしようと買ったスープが少し重い。改札から少し歩いた所で、手にスーパーの袋が食い込んで顔をしかめるさゆに気付いて、「持つよ」とタキが引き受けた。
「あ、ありがと」
部屋着の他に、さゆの好きなオレンジジュースと、ルークのおやつ、歯ブラシまで買ってしまったので、荷物が一杯だ。
「あ、見て」
タキに促されてさゆはスカイツリーを振り返った。地球をイメージしたという、青い特別ライティングに染まったツリーの上に、半分だけ欠けた月が、所在なげに浮かんでいる。
タキの部屋に入ると、ルークが尻尾をふりふりしながら挨拶にやって来た。「可愛いねえ」と撫でると、「にゃあ」と返事をされた。床でルークが寛ぐ傍ら、さゆが鍋の準備をしようとすると、タキが横で野菜を刻み始めた。さゆが礼を言うと、
「俺、二人で旅行とか料理とかするの、夢だったんだよね」
そう言ってタキは微笑んだ。タキの包丁捌きは見事で、白菜、ネギ、春菊、大根に豆腐、そして少しの豚肉が綺麗に切り分けられ、鍋に投入されてゆく。
「タキすごいね。なんでも器用だね」
さゆはタキと出会って、少しは料理を学んだけれど、未だに苦手意識が強い。小さなキッチンで、タキの横で買って来た和え物と煮物をより分ける。
「うん、でも俺は、さゆが作ってくれたお弁当も、好きだったけどな」
包丁とまな板を手早く洗いながらタキが呟く。その何気ない言葉がとてつもなく幸せで、さゆは生まれて初めて、「料理も少し、楽しいのかも知れない」と思った。
タキの家にはカセットコンロが無いので、出来上がった鍋を敷物の上に直接置いた。二人でゆったりと鍋をつつきあう。味付けは、さゆがキムチで、タキがポン酢。ルークは夜ご飯のカリカリに夢中だ。タキが、
「春に東京都美術館でボストン美術館展があるらしいよ、その頃にはまた出歩けるといいね」
と話すので、さゆはゴッホ展にも行きたかったなあと思い出した。今年はどこの美術館や博物館に行きたいという話をあえて二人でしたけれど、実際今年を無事に乗り切れるかは、もう、誰にも分からない。それでも、その夕食の時間は、とても穏やかに過ぎた。途中で食事を終えたルークがさゆの膝をつつくので、抱き上げるとそのまま眠り出した。ふと、タキの背中の向こうにベッドが見えて、さゆはこの前の情事を思い出して、ドキッとした。
(今日も、やっぱりするのかな)
嫌ではないけれど、全然慣れない。さゆが時計を見ると、まだ午後八時だった。
「さゆ、俺、お皿洗っておくから、お風呂ゆっくり入りなよ」
バブを差し出しながら、タキが微笑んだ。
「う、うん」
頷きならがさゆは、隣の部屋にゆっくりとルークを降ろし、風呂場に向かった。
シャワーを浴び、身体中を丹念に洗う。ゆずの香りがする湯船に、おずおずと浸かった。ふう、としあわせな溜息を吐く。
ああ、タキが好きだなあ、と思う。
(なんで私にこんなに良くしてくれるんだろう)
私なんかに、とついつい思ってしまう。それとも、世の中のカップルは、みんなこんな風に、お互いを労わりあっているんだろうか。
ドア越しに、タキが皿を洗うカチャカチャという音が聞こえる。その音に、なんとなく耳を澄ましている、と。
ふと、火花が瞳の奥で散った気がした。
(え?)
気持ち悪さが込み上げて、バスタブに寄り掛かる。頭の中で映像がチカッチカッとまたたいている。
白黒。バスタブ。ガンガンッという音。男の喚き声。大きな腕。痛み、痛み、痛み。一面の紅。
(何)
分からない。実家の映像かも知れないけれど、TVの二時間ミステリードラマのシーンの様に、余りにも断片的だった。
さゆは実は、嫌な事をすぐに忘れたり、記憶に蓋をする癖がある。そうやってしか、やり過ごせない事が多すぎた。今の画廊と出会う前に絵を置いて貰った幾つかの画廊の客に、セクハラをされた事も一度や二度ではない。何気ない日常の瞬間に、そうやって忘れたはずの記憶の欠片が、ふっと浮かび上がる日がある。絵のイメージも、そういう部分に依拠している面もあった。
湯船に浸かり直して、荒くなった呼吸を整える。
(あんまり遅くなるとタキが心配する)
気分が回復すると、さゆは風呂場を出た。
「いや、とっても似合ってる。可愛い。すごく可愛いよ」
タキの買ってくれたピンクのパジャマを着てみると、タキは非常に喜んでくれた。
「片付けありがとう。明日のお米とか、準備していい?」
「ありがとう。じゃ、俺もシャワー浴びてくるね」
タキもシャワーに向かうと、さゆは再び台所に立った。ピンクのハートのパジャマを着て、彼氏の家で料理している自分は「女の子」みたいだと、なんだか不思議な感じだ。明日の朝は味噌汁にしようと、残った野菜を刻んだ。
「さゆ、髪乾かしなよ。今体調崩すと大変だよ」
あっという間に上がって来たタキが、さゆに後ろからゆるく抱きついた。
「あ、うん」
そのまま、導かれるままにベッドに座ると、後ろに座ったタキが、ドライヤーで髪を乾かしてくれた。
「さゆは、短い髪が好きなの?」
タキと出会うずっと以前から、さゆの髪はショートだった。
「え、あ、好きとかじゃないけど。なんか似合わない気がして」
義父はさゆが化粧したり、髪を伸ばすのを「デブスには似合わない」と禁止した。きっと、さゆに男が出来るのが嫌だったのだろう。そのまま、なんとなくショートでいる。
「さゆがもし嫌じゃないなら、伸ばしてみたらいいのに。カラーも入れたりして。きっと似合うよ」
「あ、うん、じゃ、伸ばしてみる」
タキが自分を変えてゆく。きっと、良い方向に。
ドライヤーの電源を切ったタキは、手ぐしで丹念にさゆの髪を梳かした。
「今度、ブラシとか、お箸とかも買いに行こう。駅前にニトリもあるし」
そう言いながら、タキはさゆをそっと抱き寄せる。そのまま首筋にキスをした。
(うわわわわわ)
さゆは口から心臓が飛び出しそうだ。タキが耳元で「今日、いい?」と聞いてくる。さゆがなんとかブンブン頷くと、少し苦笑しながら電気を消した。
「はあ、可愛いなあ」
改めてタキは正面に座り、さゆを抱き締めた。タキの温かな腕の中で、さゆは自分とタキの鼓動を聴いた。タキはやがて「さゆ、愛してるよ」と囁いて、キスをしながら一枚ずつ服を脱がして、床に落としてゆく。さゆは、普通のカップルってこんな風にセックスするのかな、と妙な考えが頭を掠めた。
(うわ、やっぱり恥ずかしい)
生まれたままの姿になったさゆは、居心地悪く身じろぎした。タキが布団をめくってくれるので、真っ赤になりながらその中に入る。シーツの感触が気持ち良い。裸になったタキは一旦横に下りて、ベッドサイドに置かれたゴムを付けた。
「ふふ、ゆっくりしようね」
そう言いながらタキはさゆに覆い被さる。お腹の上に手をそっと置くと、キスをしながら脇腹を撫で始めた。
(あ、気持ちいい)
タキは、前回さゆが気持ち良かった場所を覚えているようだった。さゆも、初めて抱かれた時ほどの恐怖心は、もうない。脇腹から太腿、そして胸へと、タキに身体中をキスされながら愛撫されると、あっという間に身体が熱くなり、声が漏れ出した。
「あ、あっ・・・恥ずかしい・・・」
タキが微笑みながら深いキスをしてくる。そのまま身体に触れられると、頭が沸騰しそうな快感が溢れ出てくる。
「あ・・・ああっ・・・んっ・・・タキ、好きだよ」
タキはさゆがリラックスしているのを見て、もう一度首筋に丹念にキスをすると、さゆの太腿を撫でで、足をゆっくり開かせた。この体位が、ものすごくさゆは恥ずかしい。
タキが布団の中で陰部にキスをする。何度も震えが走るような快感。口元に手を当てて、さゆは夢中で喘いだ。自分でも信じられないような艶っぽい声を出している。
「嬉しい」
見つめ合ったタキも、息が上がっている。そのままさゆの髪を撫でて、ゆっくり、指がさゆの中に割り入った。
「・・・・っ・・・・・」
「大丈夫?」
タキの優しい声に頷くけれど、やはり膣の中の感触は特別だ。普段は感じる事のない、異物感。さゆが身体を強張らせたのをタキも感じたのか、タキは膣の周りやクリストスもゆっくり撫でながら、指の本数を少しづつ増やしてゆく。キスと撫でられる気持ちよさの中で、愛液がどんどん出ているのがさゆにも分かった。
(でも、やっぱり少し怖いな)
タキの荒い息の感じとか、感触とか、タキとだからこういう事も出来るけれど、やっぱりまだ、性的な事に少し恐怖がある。
「さゆ、平気?痛くない?」
「・・・うん・・・大丈夫・・・」
(優しい人)
さゆはタキの背中に手を回す。タキはもう一度軽くキスをしてから、
「さゆ、愛し合おう」
そう言うと、さゆの入口に自身を付けた。片手を恋人繋ぎにする。グッと差し込まれる感触に、さゆは眼を閉じた。充分に濡れた膣を、タキが押し広げる。何度か出し入れを繰り返すと、もう自分がタキを受け入れたのが、さゆにも分かった。
「大丈夫?」とタキが耳元で囁く。キスをしながら、しばらくそのまま抱き合った。痛みはない。やがてタキが少しさゆの腰を折り曲げてから、ピストンを始める。何度か挿入されると電流の様な気持ちよさが走って、さゆは声を上げた。
「あああっ・・・はっ・・・気持ちい・・・・」
タキの額にも汗が浮かんだ。暫く交わると、段々と腰の動きが早くなってゆく。
(強いな・・・)
前回よりもタキの挿入の力が強くて、痛みはないけれど感触が凄い。タキの嵐のようなキスを受けながら、さゆは溢れ出る快感の海に溺れた。段々と、激しい奔流が身体の内側からせり上がって来る感触がしてくる頃、タキが大きく息を吐いた。荒い息を繰り返しながら、さゆの横に寝そべった。
さゆは何だか「普通に」セックス出来たのが嬉しくて、タキの胸に顔を埋めた。しばらく脱力していたタキも、やがてさゆの髪を撫で始めた。
「・・・さゆ、もしかしてもう少しでオーガズムだったね」
「え?」
「女性が一番気持ちいい瞬間だよ。さゆにも感じさせてあげたい」
タキはさゆの髪にキスをする。さゆは今のままで充分だけれど、これより気持ちよくなる事なんてあるんだろうか。
「なんか、力とかペースの加減が出来なくて・・・・最後の方、強くなっちゃったね・・・痛かったらごめんね」
「ううん、全然そんな事ないよ」
「さゆ」
タキはさゆを抱き締める腕に力を込めた。
「俺、来月から仕事が忙しくなると、ストレスがコントロール出来るかすごく不安なんだ。・・・もし、俺が・・・また性依存になったら、どうか」
祈るように、タキは呟いた。
「どうか、すぐに、俺から逃げて。さゆの事だけは傷つけたくない」
夜は野菜中心の鍋にしようと買ったスープが少し重い。改札から少し歩いた所で、手にスーパーの袋が食い込んで顔をしかめるさゆに気付いて、「持つよ」とタキが引き受けた。
「あ、ありがと」
部屋着の他に、さゆの好きなオレンジジュースと、ルークのおやつ、歯ブラシまで買ってしまったので、荷物が一杯だ。
「あ、見て」
タキに促されてさゆはスカイツリーを振り返った。地球をイメージしたという、青い特別ライティングに染まったツリーの上に、半分だけ欠けた月が、所在なげに浮かんでいる。
タキの部屋に入ると、ルークが尻尾をふりふりしながら挨拶にやって来た。「可愛いねえ」と撫でると、「にゃあ」と返事をされた。床でルークが寛ぐ傍ら、さゆが鍋の準備をしようとすると、タキが横で野菜を刻み始めた。さゆが礼を言うと、
「俺、二人で旅行とか料理とかするの、夢だったんだよね」
そう言ってタキは微笑んだ。タキの包丁捌きは見事で、白菜、ネギ、春菊、大根に豆腐、そして少しの豚肉が綺麗に切り分けられ、鍋に投入されてゆく。
「タキすごいね。なんでも器用だね」
さゆはタキと出会って、少しは料理を学んだけれど、未だに苦手意識が強い。小さなキッチンで、タキの横で買って来た和え物と煮物をより分ける。
「うん、でも俺は、さゆが作ってくれたお弁当も、好きだったけどな」
包丁とまな板を手早く洗いながらタキが呟く。その何気ない言葉がとてつもなく幸せで、さゆは生まれて初めて、「料理も少し、楽しいのかも知れない」と思った。
タキの家にはカセットコンロが無いので、出来上がった鍋を敷物の上に直接置いた。二人でゆったりと鍋をつつきあう。味付けは、さゆがキムチで、タキがポン酢。ルークは夜ご飯のカリカリに夢中だ。タキが、
「春に東京都美術館でボストン美術館展があるらしいよ、その頃にはまた出歩けるといいね」
と話すので、さゆはゴッホ展にも行きたかったなあと思い出した。今年はどこの美術館や博物館に行きたいという話をあえて二人でしたけれど、実際今年を無事に乗り切れるかは、もう、誰にも分からない。それでも、その夕食の時間は、とても穏やかに過ぎた。途中で食事を終えたルークがさゆの膝をつつくので、抱き上げるとそのまま眠り出した。ふと、タキの背中の向こうにベッドが見えて、さゆはこの前の情事を思い出して、ドキッとした。
(今日も、やっぱりするのかな)
嫌ではないけれど、全然慣れない。さゆが時計を見ると、まだ午後八時だった。
「さゆ、俺、お皿洗っておくから、お風呂ゆっくり入りなよ」
バブを差し出しながら、タキが微笑んだ。
「う、うん」
頷きならがさゆは、隣の部屋にゆっくりとルークを降ろし、風呂場に向かった。
シャワーを浴び、身体中を丹念に洗う。ゆずの香りがする湯船に、おずおずと浸かった。ふう、としあわせな溜息を吐く。
ああ、タキが好きだなあ、と思う。
(なんで私にこんなに良くしてくれるんだろう)
私なんかに、とついつい思ってしまう。それとも、世の中のカップルは、みんなこんな風に、お互いを労わりあっているんだろうか。
ドア越しに、タキが皿を洗うカチャカチャという音が聞こえる。その音に、なんとなく耳を澄ましている、と。
ふと、火花が瞳の奥で散った気がした。
(え?)
気持ち悪さが込み上げて、バスタブに寄り掛かる。頭の中で映像がチカッチカッとまたたいている。
白黒。バスタブ。ガンガンッという音。男の喚き声。大きな腕。痛み、痛み、痛み。一面の紅。
(何)
分からない。実家の映像かも知れないけれど、TVの二時間ミステリードラマのシーンの様に、余りにも断片的だった。
さゆは実は、嫌な事をすぐに忘れたり、記憶に蓋をする癖がある。そうやってしか、やり過ごせない事が多すぎた。今の画廊と出会う前に絵を置いて貰った幾つかの画廊の客に、セクハラをされた事も一度や二度ではない。何気ない日常の瞬間に、そうやって忘れたはずの記憶の欠片が、ふっと浮かび上がる日がある。絵のイメージも、そういう部分に依拠している面もあった。
湯船に浸かり直して、荒くなった呼吸を整える。
(あんまり遅くなるとタキが心配する)
気分が回復すると、さゆは風呂場を出た。
「いや、とっても似合ってる。可愛い。すごく可愛いよ」
タキの買ってくれたピンクのパジャマを着てみると、タキは非常に喜んでくれた。
「片付けありがとう。明日のお米とか、準備していい?」
「ありがとう。じゃ、俺もシャワー浴びてくるね」
タキもシャワーに向かうと、さゆは再び台所に立った。ピンクのハートのパジャマを着て、彼氏の家で料理している自分は「女の子」みたいだと、なんだか不思議な感じだ。明日の朝は味噌汁にしようと、残った野菜を刻んだ。
「さゆ、髪乾かしなよ。今体調崩すと大変だよ」
あっという間に上がって来たタキが、さゆに後ろからゆるく抱きついた。
「あ、うん」
そのまま、導かれるままにベッドに座ると、後ろに座ったタキが、ドライヤーで髪を乾かしてくれた。
「さゆは、短い髪が好きなの?」
タキと出会うずっと以前から、さゆの髪はショートだった。
「え、あ、好きとかじゃないけど。なんか似合わない気がして」
義父はさゆが化粧したり、髪を伸ばすのを「デブスには似合わない」と禁止した。きっと、さゆに男が出来るのが嫌だったのだろう。そのまま、なんとなくショートでいる。
「さゆがもし嫌じゃないなら、伸ばしてみたらいいのに。カラーも入れたりして。きっと似合うよ」
「あ、うん、じゃ、伸ばしてみる」
タキが自分を変えてゆく。きっと、良い方向に。
ドライヤーの電源を切ったタキは、手ぐしで丹念にさゆの髪を梳かした。
「今度、ブラシとか、お箸とかも買いに行こう。駅前にニトリもあるし」
そう言いながら、タキはさゆをそっと抱き寄せる。そのまま首筋にキスをした。
(うわわわわわ)
さゆは口から心臓が飛び出しそうだ。タキが耳元で「今日、いい?」と聞いてくる。さゆがなんとかブンブン頷くと、少し苦笑しながら電気を消した。
「はあ、可愛いなあ」
改めてタキは正面に座り、さゆを抱き締めた。タキの温かな腕の中で、さゆは自分とタキの鼓動を聴いた。タキはやがて「さゆ、愛してるよ」と囁いて、キスをしながら一枚ずつ服を脱がして、床に落としてゆく。さゆは、普通のカップルってこんな風にセックスするのかな、と妙な考えが頭を掠めた。
(うわ、やっぱり恥ずかしい)
生まれたままの姿になったさゆは、居心地悪く身じろぎした。タキが布団をめくってくれるので、真っ赤になりながらその中に入る。シーツの感触が気持ち良い。裸になったタキは一旦横に下りて、ベッドサイドに置かれたゴムを付けた。
「ふふ、ゆっくりしようね」
そう言いながらタキはさゆに覆い被さる。お腹の上に手をそっと置くと、キスをしながら脇腹を撫で始めた。
(あ、気持ちいい)
タキは、前回さゆが気持ち良かった場所を覚えているようだった。さゆも、初めて抱かれた時ほどの恐怖心は、もうない。脇腹から太腿、そして胸へと、タキに身体中をキスされながら愛撫されると、あっという間に身体が熱くなり、声が漏れ出した。
「あ、あっ・・・恥ずかしい・・・」
タキが微笑みながら深いキスをしてくる。そのまま身体に触れられると、頭が沸騰しそうな快感が溢れ出てくる。
「あ・・・ああっ・・・んっ・・・タキ、好きだよ」
タキはさゆがリラックスしているのを見て、もう一度首筋に丹念にキスをすると、さゆの太腿を撫でで、足をゆっくり開かせた。この体位が、ものすごくさゆは恥ずかしい。
タキが布団の中で陰部にキスをする。何度も震えが走るような快感。口元に手を当てて、さゆは夢中で喘いだ。自分でも信じられないような艶っぽい声を出している。
「嬉しい」
見つめ合ったタキも、息が上がっている。そのままさゆの髪を撫でて、ゆっくり、指がさゆの中に割り入った。
「・・・・っ・・・・・」
「大丈夫?」
タキの優しい声に頷くけれど、やはり膣の中の感触は特別だ。普段は感じる事のない、異物感。さゆが身体を強張らせたのをタキも感じたのか、タキは膣の周りやクリストスもゆっくり撫でながら、指の本数を少しづつ増やしてゆく。キスと撫でられる気持ちよさの中で、愛液がどんどん出ているのがさゆにも分かった。
(でも、やっぱり少し怖いな)
タキの荒い息の感じとか、感触とか、タキとだからこういう事も出来るけれど、やっぱりまだ、性的な事に少し恐怖がある。
「さゆ、平気?痛くない?」
「・・・うん・・・大丈夫・・・」
(優しい人)
さゆはタキの背中に手を回す。タキはもう一度軽くキスをしてから、
「さゆ、愛し合おう」
そう言うと、さゆの入口に自身を付けた。片手を恋人繋ぎにする。グッと差し込まれる感触に、さゆは眼を閉じた。充分に濡れた膣を、タキが押し広げる。何度か出し入れを繰り返すと、もう自分がタキを受け入れたのが、さゆにも分かった。
「大丈夫?」とタキが耳元で囁く。キスをしながら、しばらくそのまま抱き合った。痛みはない。やがてタキが少しさゆの腰を折り曲げてから、ピストンを始める。何度か挿入されると電流の様な気持ちよさが走って、さゆは声を上げた。
「あああっ・・・はっ・・・気持ちい・・・・」
タキの額にも汗が浮かんだ。暫く交わると、段々と腰の動きが早くなってゆく。
(強いな・・・)
前回よりもタキの挿入の力が強くて、痛みはないけれど感触が凄い。タキの嵐のようなキスを受けながら、さゆは溢れ出る快感の海に溺れた。段々と、激しい奔流が身体の内側からせり上がって来る感触がしてくる頃、タキが大きく息を吐いた。荒い息を繰り返しながら、さゆの横に寝そべった。
さゆは何だか「普通に」セックス出来たのが嬉しくて、タキの胸に顔を埋めた。しばらく脱力していたタキも、やがてさゆの髪を撫で始めた。
「・・・さゆ、もしかしてもう少しでオーガズムだったね」
「え?」
「女性が一番気持ちいい瞬間だよ。さゆにも感じさせてあげたい」
タキはさゆの髪にキスをする。さゆは今のままで充分だけれど、これより気持ちよくなる事なんてあるんだろうか。
「なんか、力とかペースの加減が出来なくて・・・・最後の方、強くなっちゃったね・・・痛かったらごめんね」
「ううん、全然そんな事ないよ」
「さゆ」
タキはさゆを抱き締める腕に力を込めた。
「俺、来月から仕事が忙しくなると、ストレスがコントロール出来るかすごく不安なんだ。・・・もし、俺が・・・また性依存になったら、どうか」
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