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第三夜
084.聖女とラルス
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「ラルス! ラルス? 元気だった? ご飯ちゃんと食べてた? つらくなかった? 大丈夫?」
リヤーフやアールシュと同じように、ラルスを抱きしめたまま、矢継ぎ早に質問を重ねてしまう。恥ずかしくて顔が見られない。
「イズミ様」
「あっ、あのね、たくさん嘆願書書いたよ! ラルスが追放されませんようにって! エレミアス死ねって! もげろって!」
「イズミ様」
「ラルス、生きてて、生きててよ、お願い。どこででもいいから……生きてて……っ」
ぎゅうぎゅうとラルスを抱きしめる。顔見たら、絶対キスしたくなる。もっと触れたくなる。だから、離れられない。
「イズミ様、苦し……っ」
「あ、ごめん!」
あ。
離れちゃった。目が合っちゃった。相変わらずイケメン。めっちゃ好み。白じゃなくて、紫の服着ているんだ。ねぇ、ちょっと痩せた?
近づいてくる顔に、迷いが生じる。キスしていいの? こんなところで? めっちゃ偉い人の部屋でキスしてもいいの?
「ラル――」
一度、優しく頬に触れて、ラルスはわたしの様子を窺う。唇にするかどうか、迷ってる感じ? まぁ、理性的な行動ができなかったから、こうなっているわけだもんなぁ。我慢しなくちゃ。欲に忠実になっちゃいけない。罪を重ねちゃいけない。
わたしは顎を引いたまま。ラルスも何もしないままソファに座る。隣に座る。対面座位に持ち込まなかったわたしは偉い。めっちゃ偉い。
「嘆願書、読みました。ありがとうございました」
「ど、どういたしまして」
「どうして、あのようなことを?」
「ラルスが好きだから、に、決まってるでしょ」
「……ありがとう、ございます」
これ、伝わってないね。失敗した! マジ言葉って難しい! 愛してるって言ってもいいものなのかな? それは彼にとっては鎖にならないかな? どう言うのが正解なのかわからない。
「好きよ、ラルス」
回りくどいことを考えるのは無理。駆け引きとかできない。アールシュの言う通り、ほんと直情型。
「好き」
ラルスは目を丸くして、困ったように微笑んだ。
「私も好きですよ」
「わたしの『好き』は夫と同じくらい愛してるって意味だよ? ちゃんと伝わってる?」
「愛してる、ですか……」とラルスはしばらく顎に手をやって考えていたけれど、いきなり、顔が真っ赤になった。あ、これ、やっと通じた感じ?
「……あぁ、八人目の夫にしたい、というあの冗談ですか」
「伝わってない! 伝わってないなぁ! もう!」
困惑したままのラルスの頬をむぎゅと両手で挟み、口づける。
「せ、イズ」
「うるさい」
舌を挿れ、ラルスに言葉を紡がせない。くぐもった音は聞こえるけれど、意味のない言葉のよう。ラルスはしばらく何かを発していたけれど、徐々に舌を絡ませてきてくれる。
これは罪になるのだろうか。
リヤーフは「キスも罪だ!」と言いそうだけれど、ごめんね、止められないんだ。背徳感溢れるキスなのに、すごく満たされている自分がいる。本当にごめん。
夫たち以外の人とセックスはしないと約束した手前、ラルスと今交わることはできないし、今後は離れ離れになるからどうしようもなくなる。だから、これは、最後のキスだ。最後の告白だ。
「ラルスのことが好き。どうしようもなく好き。夫たちと同じくらい、あなたのことを、愛してる」
「イズミ、さまっ」
ずるりと背中が滑る。ラルスの顔は、ずっと目の前にある。わたしを見下ろし、泣きそうな顔をしている。抱きしめ合って、キスをする。
ほんとは衣服が邪魔。裸で抱き合いたいけれど、我慢。我慢するんだ。ちゃんとお別れをするために。
「お願い、生きて。死なないで。わたしのために、生きていて」
「お約束します。あなたのために、生き続けると」
「約束だよ。それから、それから、わたしの役目が終わったら……」
何十年先の話だろう。わからない。でも、いつか。いつか。
「お願い、わたしを拐いに来て」
たぶん、もう、それしかない。
わたしは七人の夫たちを愛している。八人目を増やすことはできない。だから、七人の夫たちに十分に愛を注ぎ、子どもを生んで、子どもたちを育ててから、そのあとで、拐って欲しい。そしたら、夫たちも子どもたちも、納得して許してくれるんじゃないかな。聖女のセカンドライフ、みたいな感じで。
「晩年、魔物に拐われたっていう聖女みたいに。ラルスが拐いに来てよ、わたしを」
ラルスは困ったように笑ったあと、「拐いに行きます」とキスをしてくれる。
「何年、何十年かかったとしても、あなたを拐いに行きます」
「約束だよ」
「ええ、約束です」
何度も何度も、キスをする。心変わりをしないよう、互いの気持ちを確かめるかのように。
「手紙、書いてもいい?」
「もちろん。私も書きますね」
「向こうで結婚しちゃダメだよ」
「それ、七人も夫がいるあなたが言いますか?」
そりゃそうだな、と笑う。でも、違うんだろうなと思ってラルスを見上げる。真っ黒な瞳がわたしだけを映す。
あの真っ黒な刺繍は、きっとラルスのことを指していたのだと思う。八人目はあなたなんじゃないかな、なんて彼には言わないけれど。もちろん、夫にも言わないけれど。
「ラルス、拐いに来てね」
それは、呪いの言葉だろうか。それとも、救いになるだろうか。わたしにはわからない。
ラルスの頬を伝う涙が、キラキラ光って綺麗。袖で拭ってあげて、わたしは笑う。
「しばらくお別れだけど、ずっと待ってるから」
「はい。私もずっと、ずっと、待っています。必ず、拐いに行きます」
「おじいちゃんとおばあちゃんになっているかなぁ? でも、二人きりで結婚式、しようね」
「そうですね。聖樹の下で」
何度もキスをする。舌を挿れ、唾液を吸い、もっと深くまで繋がりたくても我慢する。誰に気兼ねすることなく裸で抱き合える日まで、我慢。
……あぁ、ほんとは欲しいんだけどね! めっちゃセックスしたいんだけどね! でもさすがに、これ以上の罪は重ねられない。自制心、自制心。
「……うぅ、我慢」
「そうですね。抱きたくて仕方ありませんが、また罪を重ねるのは……」
理性的に我慢できるようになったよ、わたし。それが普通なんだと思うけど! 気持ちいいことを我慢するなんて、ほんとは無理なんだけど!
でも、ラルスとまた会うためだもの。今はキスだけで我慢する。
「ラルス、もっかい言って。抱きたくて仕方ないって。めっちゃきゅんきゅんする」
ラルスは笑って、わたしの耳元で囁いてくれる。
「愛しています、イズミ様。あなたが気を失うまで抱きたくて仕方ない」
体が震える。堪らなく、気持ちいい。
再会したとき、気を失うまで抱いてくれるってことだよね!? わぁ、めっちゃ待ってる!!
「愛しています、イズミ様」
……ありがとう。その言葉だけで、何十年も待てそうだよ。
でもでも、できれば、早めに迎えに来てくれると嬉しいかな! 出産に耐えられる年齢のうちにね!
ずっと、待ってるからね。ずっと。
リヤーフやアールシュと同じように、ラルスを抱きしめたまま、矢継ぎ早に質問を重ねてしまう。恥ずかしくて顔が見られない。
「イズミ様」
「あっ、あのね、たくさん嘆願書書いたよ! ラルスが追放されませんようにって! エレミアス死ねって! もげろって!」
「イズミ様」
「ラルス、生きてて、生きててよ、お願い。どこででもいいから……生きてて……っ」
ぎゅうぎゅうとラルスを抱きしめる。顔見たら、絶対キスしたくなる。もっと触れたくなる。だから、離れられない。
「イズミ様、苦し……っ」
「あ、ごめん!」
あ。
離れちゃった。目が合っちゃった。相変わらずイケメン。めっちゃ好み。白じゃなくて、紫の服着ているんだ。ねぇ、ちょっと痩せた?
近づいてくる顔に、迷いが生じる。キスしていいの? こんなところで? めっちゃ偉い人の部屋でキスしてもいいの?
「ラル――」
一度、優しく頬に触れて、ラルスはわたしの様子を窺う。唇にするかどうか、迷ってる感じ? まぁ、理性的な行動ができなかったから、こうなっているわけだもんなぁ。我慢しなくちゃ。欲に忠実になっちゃいけない。罪を重ねちゃいけない。
わたしは顎を引いたまま。ラルスも何もしないままソファに座る。隣に座る。対面座位に持ち込まなかったわたしは偉い。めっちゃ偉い。
「嘆願書、読みました。ありがとうございました」
「ど、どういたしまして」
「どうして、あのようなことを?」
「ラルスが好きだから、に、決まってるでしょ」
「……ありがとう、ございます」
これ、伝わってないね。失敗した! マジ言葉って難しい! 愛してるって言ってもいいものなのかな? それは彼にとっては鎖にならないかな? どう言うのが正解なのかわからない。
「好きよ、ラルス」
回りくどいことを考えるのは無理。駆け引きとかできない。アールシュの言う通り、ほんと直情型。
「好き」
ラルスは目を丸くして、困ったように微笑んだ。
「私も好きですよ」
「わたしの『好き』は夫と同じくらい愛してるって意味だよ? ちゃんと伝わってる?」
「愛してる、ですか……」とラルスはしばらく顎に手をやって考えていたけれど、いきなり、顔が真っ赤になった。あ、これ、やっと通じた感じ?
「……あぁ、八人目の夫にしたい、というあの冗談ですか」
「伝わってない! 伝わってないなぁ! もう!」
困惑したままのラルスの頬をむぎゅと両手で挟み、口づける。
「せ、イズ」
「うるさい」
舌を挿れ、ラルスに言葉を紡がせない。くぐもった音は聞こえるけれど、意味のない言葉のよう。ラルスはしばらく何かを発していたけれど、徐々に舌を絡ませてきてくれる。
これは罪になるのだろうか。
リヤーフは「キスも罪だ!」と言いそうだけれど、ごめんね、止められないんだ。背徳感溢れるキスなのに、すごく満たされている自分がいる。本当にごめん。
夫たち以外の人とセックスはしないと約束した手前、ラルスと今交わることはできないし、今後は離れ離れになるからどうしようもなくなる。だから、これは、最後のキスだ。最後の告白だ。
「ラルスのことが好き。どうしようもなく好き。夫たちと同じくらい、あなたのことを、愛してる」
「イズミ、さまっ」
ずるりと背中が滑る。ラルスの顔は、ずっと目の前にある。わたしを見下ろし、泣きそうな顔をしている。抱きしめ合って、キスをする。
ほんとは衣服が邪魔。裸で抱き合いたいけれど、我慢。我慢するんだ。ちゃんとお別れをするために。
「お願い、生きて。死なないで。わたしのために、生きていて」
「お約束します。あなたのために、生き続けると」
「約束だよ。それから、それから、わたしの役目が終わったら……」
何十年先の話だろう。わからない。でも、いつか。いつか。
「お願い、わたしを拐いに来て」
たぶん、もう、それしかない。
わたしは七人の夫たちを愛している。八人目を増やすことはできない。だから、七人の夫たちに十分に愛を注ぎ、子どもを生んで、子どもたちを育ててから、そのあとで、拐って欲しい。そしたら、夫たちも子どもたちも、納得して許してくれるんじゃないかな。聖女のセカンドライフ、みたいな感じで。
「晩年、魔物に拐われたっていう聖女みたいに。ラルスが拐いに来てよ、わたしを」
ラルスは困ったように笑ったあと、「拐いに行きます」とキスをしてくれる。
「何年、何十年かかったとしても、あなたを拐いに行きます」
「約束だよ」
「ええ、約束です」
何度も何度も、キスをする。心変わりをしないよう、互いの気持ちを確かめるかのように。
「手紙、書いてもいい?」
「もちろん。私も書きますね」
「向こうで結婚しちゃダメだよ」
「それ、七人も夫がいるあなたが言いますか?」
そりゃそうだな、と笑う。でも、違うんだろうなと思ってラルスを見上げる。真っ黒な瞳がわたしだけを映す。
あの真っ黒な刺繍は、きっとラルスのことを指していたのだと思う。八人目はあなたなんじゃないかな、なんて彼には言わないけれど。もちろん、夫にも言わないけれど。
「ラルス、拐いに来てね」
それは、呪いの言葉だろうか。それとも、救いになるだろうか。わたしにはわからない。
ラルスの頬を伝う涙が、キラキラ光って綺麗。袖で拭ってあげて、わたしは笑う。
「しばらくお別れだけど、ずっと待ってるから」
「はい。私もずっと、ずっと、待っています。必ず、拐いに行きます」
「おじいちゃんとおばあちゃんになっているかなぁ? でも、二人きりで結婚式、しようね」
「そうですね。聖樹の下で」
何度もキスをする。舌を挿れ、唾液を吸い、もっと深くまで繋がりたくても我慢する。誰に気兼ねすることなく裸で抱き合える日まで、我慢。
……あぁ、ほんとは欲しいんだけどね! めっちゃセックスしたいんだけどね! でもさすがに、これ以上の罪は重ねられない。自制心、自制心。
「……うぅ、我慢」
「そうですね。抱きたくて仕方ありませんが、また罪を重ねるのは……」
理性的に我慢できるようになったよ、わたし。それが普通なんだと思うけど! 気持ちいいことを我慢するなんて、ほんとは無理なんだけど!
でも、ラルスとまた会うためだもの。今はキスだけで我慢する。
「ラルス、もっかい言って。抱きたくて仕方ないって。めっちゃきゅんきゅんする」
ラルスは笑って、わたしの耳元で囁いてくれる。
「愛しています、イズミ様。あなたが気を失うまで抱きたくて仕方ない」
体が震える。堪らなく、気持ちいい。
再会したとき、気を失うまで抱いてくれるってことだよね!? わぁ、めっちゃ待ってる!!
「愛しています、イズミ様」
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ずっと、待ってるからね。ずっと。
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