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第一章 どうして魔族なんかに……
第六話 惑う心
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酔っているとはいえ、私一人を相手に、彼らは全く歯が立たなかった。
魔族は実力主義であり、片翼のために自らを磨くもの、ではあるものの、それでも文官、という道を選んだ彼らは、大抵戦闘面が不得意な者ばかりだ。
私は、拳のみで立ち向かったにもかかわらず、そこには死屍累々といった状態の新人しか居ない。
「わぁお……これ、ワタシのせいかしら……? 勘が鈍っているどころか、昔より研ぎ澄まされてたりしないかしら……?」
と、そこに、どうやら新人の回収係になっていたらしいデリクさんが現れる。
片翼らしき存在に関しては、一番に仕留め……いや、昏倒させたので、今この場に、私の気持ちを乱す存在は動いていない。動いては、いない、のだが……。
「オリアナちゃん?」
「どうやら、日頃の鬱憤が溜まっていたようです。後で、お相手願いますね?」
「え゛っ」
こんな風に、軽口でも叩いていなければ、すぐにでも、この足は片翼らしき存在の元へと向かってしまいそうだった。
今すぐに抱き締めて、私だけを見てほしいと思ってしまう自分を必死に否定して、クルリと踵を返す。
「では、また後で」
「えっ? ちょっ、オリアナちゃん? 手伝ってくれたりは……?」
「勘が鈍っている疑いをかけてきた相手の手伝い、ですか?」
「こっそり根に持ってた!?」
「大丈夫です。回収くらいは楽々でしょう? 多少汚くとも、それがデリクさんのお仕事です。私の仕事は終わったので、のんびり過ごして、後でサンドバッグを叩きのめしますので」
「サ、サンドバッグ……。ねぇ、それって、ワタシのことじゃないわよね!? ねぇっ!?」
そんな叫びに応えることなく、私はさっさと歩き始める。
心は、『早く、片翼の元へっ』と告げるのにそれを振り切るようにして、早足で進む。
そんな私が、ようやくまともな思考を取り戻したのは、家に到着してからだった。
「……何なの、あれは?」
片翼と対峙した瞬間の、あの感覚は普通ではない。いや、きっと、だからこそ、魔族はこぞって、あれを運命の人のように思ってしまうのだろう。
「呪いじみてるわね」
片翼という存在を知っていて、ソレに対峙した時の心構えもしていたはずなのに、惑わされかけた。もう二度と、悲劇を繰り返したくはないのに、うっかり求めかけた自分が憎い。
その日、夜遅くまで、防音の結界を施したトレーニングルームで、サンドバッグが悲鳴を上げることとなる。もちろん、本物のサンドバッグであり、デリクさん、というわけではない。
いくつかのサンドバッグがボロボロになったところで、私はようやくシャワーを浴びて、眠りに落ちた。
ただ……きっと、私はまだ冷静ではなかった。私の片翼が魔族である、ということを、完全に失念していたのだから。
その失念していた事実を、私は翌日、嫌というほど思い知ることとなる。
魔族は実力主義であり、片翼のために自らを磨くもの、ではあるものの、それでも文官、という道を選んだ彼らは、大抵戦闘面が不得意な者ばかりだ。
私は、拳のみで立ち向かったにもかかわらず、そこには死屍累々といった状態の新人しか居ない。
「わぁお……これ、ワタシのせいかしら……? 勘が鈍っているどころか、昔より研ぎ澄まされてたりしないかしら……?」
と、そこに、どうやら新人の回収係になっていたらしいデリクさんが現れる。
片翼らしき存在に関しては、一番に仕留め……いや、昏倒させたので、今この場に、私の気持ちを乱す存在は動いていない。動いては、いない、のだが……。
「オリアナちゃん?」
「どうやら、日頃の鬱憤が溜まっていたようです。後で、お相手願いますね?」
「え゛っ」
こんな風に、軽口でも叩いていなければ、すぐにでも、この足は片翼らしき存在の元へと向かってしまいそうだった。
今すぐに抱き締めて、私だけを見てほしいと思ってしまう自分を必死に否定して、クルリと踵を返す。
「では、また後で」
「えっ? ちょっ、オリアナちゃん? 手伝ってくれたりは……?」
「勘が鈍っている疑いをかけてきた相手の手伝い、ですか?」
「こっそり根に持ってた!?」
「大丈夫です。回収くらいは楽々でしょう? 多少汚くとも、それがデリクさんのお仕事です。私の仕事は終わったので、のんびり過ごして、後でサンドバッグを叩きのめしますので」
「サ、サンドバッグ……。ねぇ、それって、ワタシのことじゃないわよね!? ねぇっ!?」
そんな叫びに応えることなく、私はさっさと歩き始める。
心は、『早く、片翼の元へっ』と告げるのにそれを振り切るようにして、早足で進む。
そんな私が、ようやくまともな思考を取り戻したのは、家に到着してからだった。
「……何なの、あれは?」
片翼と対峙した瞬間の、あの感覚は普通ではない。いや、きっと、だからこそ、魔族はこぞって、あれを運命の人のように思ってしまうのだろう。
「呪いじみてるわね」
片翼という存在を知っていて、ソレに対峙した時の心構えもしていたはずなのに、惑わされかけた。もう二度と、悲劇を繰り返したくはないのに、うっかり求めかけた自分が憎い。
その日、夜遅くまで、防音の結界を施したトレーニングルームで、サンドバッグが悲鳴を上げることとなる。もちろん、本物のサンドバッグであり、デリクさん、というわけではない。
いくつかのサンドバッグがボロボロになったところで、私はようやくシャワーを浴びて、眠りに落ちた。
ただ……きっと、私はまだ冷静ではなかった。私の片翼が魔族である、ということを、完全に失念していたのだから。
その失念していた事実を、私は翌日、嫌というほど思い知ることとなる。
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