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第一章 帰還と波乱
第五十六話 発動(三人称視点)
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城内に勤務する使用人と、そこで過ごす王族。彼らは、その半数が操り人形と化していたが、それでも正常な思考をまだ残している者も居た。
「おいっ、黒幕はまだ分からないのか?」
「申し訳ございません。何分、誰が正常なのかを疑い続けなければならないため、そもそもの調査が進んでおりませんゆえ」
「殿下、騒いでいても仕方ありませんて。それより、僕はさっさとここから逃げ出すべきなんじゃないかって思うんですけども?」
「それができれば苦労はしない。このまま、俺が居なくなれば、それこそティアルーン国は終わりだ」
城の片隅に存在する薄暗い部屋。普段から使われることのない空き部屋であるそこに集うのは、三人の男達だ。一人は、殿下と呼ばれた赤い髪に紺色の瞳を持つ青年。年の頃は二十代といったところだろうか? 鋭い目つきで残りの二人を見やる彼は、一見王族としてはシンプルに見える服装だが、よく見れば染色から生地にいたるまで、高価な一品だ。紺色の瞳に合わせた紺色のウエストコートに、黒いコート、紺のブリーチズ、そして、白のクラバットという組み合わせの彼は、二人の反応にほぞを噛む。
「ですが、このままでもティアルーン国は滅びてしまいますでしょうに」
「それも分かっている。だから、早く原因を取り除きたいのだ」
少しばかり軽薄な印象を受ける貴族服の男。黄色のふんわりとカールした髪に、糸のように細い目。彼は、殿下と呼ばれたアグリ・ティアルーンの側近を務める男であり、ジルク・スティードという。ついでに、もう一人の男も貴族服で、緑の長髪に、厳格そうな顔立ち。モノクルをつけた黒目を持つ側近であり、名前はリグルド・ゼイスという。この二人の側近も、同じく二十代くらいであろう姿だ。
「リグルド、おば様への連絡はどうなっている?」
「それが、使者を出したものの、未だに帰ってきておりません」
「下手をすると、消されたかもしれませんねぇ」
「っ……リーリス国の助力を得ることもかなわない、か……」
リーリス国の現王妃は、ティアルーン国出身だ。そのため、彼らはリーリス国の王妃にこの度の現象に対する助力を求めようとしていたのだが、そのあても外れたようだ。
「……こうなれば、実力行使しかないか?」
「キメ顔で言ってるところすみませんが、殿下って、そんなに強くないと記憶してますけども??」
「言うな、ジルク。殿下とて、強くなりたいと願ってきていたのだからな」
「いやぁ、だって、僕らにどうにかしろって振られたら、どうにもならないやないですか」
「それでも、ここは言わぬが仏というやつだ」
「そんなもんですかねぇ?」
リグルドとジルクが話し合う背後で、アグリは羞恥からか顔を真っ赤にしてプルプル震えるが、二人はそれに気づくことはない。ただし……。
「おわっ」
「なっ」
「くっ」
突如として発生した大きな揺れに、三人はバランスを崩して壁に手をついたり、尻もちをついたりする。
「何事だ!?」
そして、彼らは……そのまま、床をくり抜かれ、自由落下を始めるのだった。
「おいっ、黒幕はまだ分からないのか?」
「申し訳ございません。何分、誰が正常なのかを疑い続けなければならないため、そもそもの調査が進んでおりませんゆえ」
「殿下、騒いでいても仕方ありませんて。それより、僕はさっさとここから逃げ出すべきなんじゃないかって思うんですけども?」
「それができれば苦労はしない。このまま、俺が居なくなれば、それこそティアルーン国は終わりだ」
城の片隅に存在する薄暗い部屋。普段から使われることのない空き部屋であるそこに集うのは、三人の男達だ。一人は、殿下と呼ばれた赤い髪に紺色の瞳を持つ青年。年の頃は二十代といったところだろうか? 鋭い目つきで残りの二人を見やる彼は、一見王族としてはシンプルに見える服装だが、よく見れば染色から生地にいたるまで、高価な一品だ。紺色の瞳に合わせた紺色のウエストコートに、黒いコート、紺のブリーチズ、そして、白のクラバットという組み合わせの彼は、二人の反応にほぞを噛む。
「ですが、このままでもティアルーン国は滅びてしまいますでしょうに」
「それも分かっている。だから、早く原因を取り除きたいのだ」
少しばかり軽薄な印象を受ける貴族服の男。黄色のふんわりとカールした髪に、糸のように細い目。彼は、殿下と呼ばれたアグリ・ティアルーンの側近を務める男であり、ジルク・スティードという。ついでに、もう一人の男も貴族服で、緑の長髪に、厳格そうな顔立ち。モノクルをつけた黒目を持つ側近であり、名前はリグルド・ゼイスという。この二人の側近も、同じく二十代くらいであろう姿だ。
「リグルド、おば様への連絡はどうなっている?」
「それが、使者を出したものの、未だに帰ってきておりません」
「下手をすると、消されたかもしれませんねぇ」
「っ……リーリス国の助力を得ることもかなわない、か……」
リーリス国の現王妃は、ティアルーン国出身だ。そのため、彼らはリーリス国の王妃にこの度の現象に対する助力を求めようとしていたのだが、そのあても外れたようだ。
「……こうなれば、実力行使しかないか?」
「キメ顔で言ってるところすみませんが、殿下って、そんなに強くないと記憶してますけども??」
「言うな、ジルク。殿下とて、強くなりたいと願ってきていたのだからな」
「いやぁ、だって、僕らにどうにかしろって振られたら、どうにもならないやないですか」
「それでも、ここは言わぬが仏というやつだ」
「そんなもんですかねぇ?」
リグルドとジルクが話し合う背後で、アグリは羞恥からか顔を真っ赤にしてプルプル震えるが、二人はそれに気づくことはない。ただし……。
「おわっ」
「なっ」
「くっ」
突如として発生した大きな揺れに、三人はバランスを崩して壁に手をついたり、尻もちをついたりする。
「何事だ!?」
そして、彼らは……そのまま、床をくり抜かれ、自由落下を始めるのだった。
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