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私、異世界で監禁されました!?の番外編
ヘルジオン魔国 開いた距離(サージェス視点)
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あの後、再びパイロが私の部屋を訪れることはなかった。
お互いに忙しく、すれ違うことくらいはあったものの、今回のこれは違う。パイロが自ら出ていったのだ。
そのことにショックを受けて呆然としてしまった私だが、徐々に沸々と怒りが沸いてくる。
(私は、パイロしかいらないというのにっ!)
パイロ以外など、どうでも良い。パイロさえ居てくれれば、私は幸せなのだ。
「ふんっ」
その日は、腹を立てながらふて寝した。しかし……翌日から、私は思い知ることとなる。パイロが強情になるとどれだけ厄介なのかを。
「パイロ、これをまとめておいてくれ」
「御意」
仕事面では、何一つ変わることのないパイロ。しかし、その反面、プライベートでは避けられ続けた。
「パイロ」
「何でしょうか?」
「今夜、私の部屋に来い」
「……申し訳ありませんが、仕事が立て込んでおりますので、失礼します」
仕事は今、少なくなっているはずなのに、そんなことを言ったり。
「パイロ……」
「失礼します。陛下」
たまたま二人っきりになって手を伸ばせば、ひらりと避けられてしまったり。
「……」
いつもなら、目を合わせてくれるはずのパイロが、どんなに見つめても全く目を合わせようとしなかったり……。
「うぅ……」
そこまでくると、分かってしまう。パイロは、私が後宮の件を承諾するまで、この冷たい対応を取り続けるつもりなのだと。正直、パイロに冷たくされるのは、酷く堪えていた。
そんな日々が続いた頃。その日も一日が終わり、私は、ベッドにうつ伏せで倒れ込む。ベッドのシーツは毎日換えられており、パイロの香りは全くしない。それが悲しくて、私はベッドに顔を押し付ける。
「どうして、こんな……」
もちろん、いずれは私の後継者を作る必要はある。しかし、それは今でなくとも良いはずなのだ。政情が落ち着いて、私が性転換してしまえば、私はパイロの子を産める。それで問題など、一つもないはずなのだ。
「……眠れない」
傍らにあった温もりがないだけで、一人のベッドは酷く寂しい。このまま眠る気にもなれず、私は軽く上着を羽織り、部屋の外へ出る。
本来なら、護衛の一人くらい連れ歩くべきなのだろうが、パイロとのことを隠すため、夜、この部屋の近くには人を配置していない。
暗い廊下を歩き、私は庭を目指す。しかし、人気がないと思っていたその場所には、どうやら先約が居た。
「――――か?」
「だが、――――」
誰かと誰かがヒソヒソと話しているのを聞き取り、この庭に来るということは、高位貴族だろうと辺りをつける。
庭を回れなかったのは残念だと思いながら引き返そうとしたところ、突如として、それは聞こえた。
「パイロ宰相は――――」
どうやら、彼らはパイロについて話しているらしい。それを知ると、俄然、興味が出てしまう。盗み聞きなんていけないことだと思いながらも、私は耳をすませてじっと彼らの会話を聞く。
「実行――もうすぐ」
「これであの男も、死ぬだろう」
「しかり、いかに宰相といえど、やり過ぎだ」
(……えっ?)
聞こえてきたのは、どこか物騒な話し合い。
「パイロ宰相の暗殺は、もう間近だ」
そして、決定的な一言を聞き、私は必死に悲鳴を飲み込む。
(ここから、逃げなくてはっ)
逃げて、そして、パイロに知らせなければならない。パイロを助けるため、私はそっと気配を消したまま、パイロの部屋を目指す。
「パイロっ、パイロ! 出てきてくれっ!」
夜にパイロの部屋を訪ねたことは、今まで一度もない。それは、私との仲を噂されないためではあったが、今回ばかりはそうも言ってられない。パイロが起きていることを祈って、小声で扉を叩くと、中でゴツンッと大きな物音がした直後、駆ける足音が聞こえる。
「っ、陛下っ、なぜ、ここに!」
「パイロっ、話があるっ!」
「っ、とにかく中へ」
おでこを赤くしたパイロは、扉を勢い良く開けて、青ざめた表情をしていたが、私の言葉を聞いて、すぐに入室を許可してくれた。
幸い、辺りには人の気配はなく、誰かに見られた様子はない。
「それで? なぜこんな夜中に私の部屋に来たのです?」
初めて入るパイロの部屋に、『シックで格好いいなぁ』なんて感想を抱いていると、鬼の形相をしたパイロが迫る。
「その、パイロを暗殺するとかいう話を聞いてしまって……」
さすがに怖いと思いながら、必死に言葉を捻り出すとパイロはその眉間のしわをさらに深めて、おもむろにため息を吐く。
「また、ですか……」
「『また』? どういうことだ、パイロ?」
まるで、今までにも似たようなことがあったと言わんばかりのパイロの言葉にきつく問い詰めれば、パイロは無意識の呟きだったのか、『しまった!』という顔をする。
「どういうことか、説明してもらえるんだよな?」
私は、怒りを抑えながらパイロに尋ねる。
パイロはしばらく視線を宙に浮かせていたが、私がもう一度『パイロ』と呼びかけると、観念したように私へと視線を戻す。
「分かり、ました。お話しましょう」
そうして話されたのは、今までに何度も、パイロは命を狙われてきたという、信じがたい話だった。
お互いに忙しく、すれ違うことくらいはあったものの、今回のこれは違う。パイロが自ら出ていったのだ。
そのことにショックを受けて呆然としてしまった私だが、徐々に沸々と怒りが沸いてくる。
(私は、パイロしかいらないというのにっ!)
パイロ以外など、どうでも良い。パイロさえ居てくれれば、私は幸せなのだ。
「ふんっ」
その日は、腹を立てながらふて寝した。しかし……翌日から、私は思い知ることとなる。パイロが強情になるとどれだけ厄介なのかを。
「パイロ、これをまとめておいてくれ」
「御意」
仕事面では、何一つ変わることのないパイロ。しかし、その反面、プライベートでは避けられ続けた。
「パイロ」
「何でしょうか?」
「今夜、私の部屋に来い」
「……申し訳ありませんが、仕事が立て込んでおりますので、失礼します」
仕事は今、少なくなっているはずなのに、そんなことを言ったり。
「パイロ……」
「失礼します。陛下」
たまたま二人っきりになって手を伸ばせば、ひらりと避けられてしまったり。
「……」
いつもなら、目を合わせてくれるはずのパイロが、どんなに見つめても全く目を合わせようとしなかったり……。
「うぅ……」
そこまでくると、分かってしまう。パイロは、私が後宮の件を承諾するまで、この冷たい対応を取り続けるつもりなのだと。正直、パイロに冷たくされるのは、酷く堪えていた。
そんな日々が続いた頃。その日も一日が終わり、私は、ベッドにうつ伏せで倒れ込む。ベッドのシーツは毎日換えられており、パイロの香りは全くしない。それが悲しくて、私はベッドに顔を押し付ける。
「どうして、こんな……」
もちろん、いずれは私の後継者を作る必要はある。しかし、それは今でなくとも良いはずなのだ。政情が落ち着いて、私が性転換してしまえば、私はパイロの子を産める。それで問題など、一つもないはずなのだ。
「……眠れない」
傍らにあった温もりがないだけで、一人のベッドは酷く寂しい。このまま眠る気にもなれず、私は軽く上着を羽織り、部屋の外へ出る。
本来なら、護衛の一人くらい連れ歩くべきなのだろうが、パイロとのことを隠すため、夜、この部屋の近くには人を配置していない。
暗い廊下を歩き、私は庭を目指す。しかし、人気がないと思っていたその場所には、どうやら先約が居た。
「――――か?」
「だが、――――」
誰かと誰かがヒソヒソと話しているのを聞き取り、この庭に来るということは、高位貴族だろうと辺りをつける。
庭を回れなかったのは残念だと思いながら引き返そうとしたところ、突如として、それは聞こえた。
「パイロ宰相は――――」
どうやら、彼らはパイロについて話しているらしい。それを知ると、俄然、興味が出てしまう。盗み聞きなんていけないことだと思いながらも、私は耳をすませてじっと彼らの会話を聞く。
「実行――もうすぐ」
「これであの男も、死ぬだろう」
「しかり、いかに宰相といえど、やり過ぎだ」
(……えっ?)
聞こえてきたのは、どこか物騒な話し合い。
「パイロ宰相の暗殺は、もう間近だ」
そして、決定的な一言を聞き、私は必死に悲鳴を飲み込む。
(ここから、逃げなくてはっ)
逃げて、そして、パイロに知らせなければならない。パイロを助けるため、私はそっと気配を消したまま、パイロの部屋を目指す。
「パイロっ、パイロ! 出てきてくれっ!」
夜にパイロの部屋を訪ねたことは、今まで一度もない。それは、私との仲を噂されないためではあったが、今回ばかりはそうも言ってられない。パイロが起きていることを祈って、小声で扉を叩くと、中でゴツンッと大きな物音がした直後、駆ける足音が聞こえる。
「っ、陛下っ、なぜ、ここに!」
「パイロっ、話があるっ!」
「っ、とにかく中へ」
おでこを赤くしたパイロは、扉を勢い良く開けて、青ざめた表情をしていたが、私の言葉を聞いて、すぐに入室を許可してくれた。
幸い、辺りには人の気配はなく、誰かに見られた様子はない。
「それで? なぜこんな夜中に私の部屋に来たのです?」
初めて入るパイロの部屋に、『シックで格好いいなぁ』なんて感想を抱いていると、鬼の形相をしたパイロが迫る。
「その、パイロを暗殺するとかいう話を聞いてしまって……」
さすがに怖いと思いながら、必死に言葉を捻り出すとパイロはその眉間のしわをさらに深めて、おもむろにため息を吐く。
「また、ですか……」
「『また』? どういうことだ、パイロ?」
まるで、今までにも似たようなことがあったと言わんばかりのパイロの言葉にきつく問い詰めれば、パイロは無意識の呟きだったのか、『しまった!』という顔をする。
「どういうことか、説明してもらえるんだよな?」
私は、怒りを抑えながらパイロに尋ねる。
パイロはしばらく視線を宙に浮かせていたが、私がもう一度『パイロ』と呼びかけると、観念したように私へと視線を戻す。
「分かり、ました。お話しましょう」
そうして話されたのは、今までに何度も、パイロは命を狙われてきたという、信じがたい話だった。
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