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第四章 遠い二人

第七十五話 消滅(アルム視点)

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 ギースはピクリとも動かない。しかし、悪魔が消滅した瞬間を見たわけでもないため、ボク達は警戒しながら、一部の者だけで包囲網を狭めていく。


「ギース?」


 起き上がる気配のないギースに声をかければ、意識が戻ったのか、僅かに身動ぐ。


「う……こ、こは……?」


 ぼんやりとした表情で目を覚まし、どうにか起き上がったギースは、ボクを見てギョッとしたような表情になり、慌てて跪いて頭を垂れる。


「面を上げろ。……ギース本人で間違いないか?」

「は? その、本人ですが……」


 ボクの質問に困惑してみせたギースは、本物のように見える。


「いったい、何が……ぐっ……」


 困惑したまま、問いかけてきたギースは、しかし、その途中で苦し気に胸を抑える。


「が、ぁっ、誰、だっ……こ、のっ…………ふぅ、危ないところでした」


 しばらく苦しんだギースは、唐突に動きを止めて、何事もなかったかのように顔を上げる。


「ダメだったか」

「いえいえ、良い線はいってましたよ? もう少し引っ込むのが遅ければ、消滅していたでしょうからね?」


 明らかに、今、目の前に居るのは悪魔に乗っ取られたままのギースだった。そして、その悪魔は立ち上がろうとするのだが……力が入らないらしく、そのまま崩れ落ちる。


「っ、何をしたんですか?」


 僅かに焦りを浮かべたギースに、ボクは距離を保ったまま、種明かしをする。


「簡単なことだ。魔法は、まだ解けていない」


 そう言えば、何かに気づいたように、ギースはボクの背後を見る。そこには、包囲網に加わらなかった部隊が……ギースに、光の魔法を放った集団が、その場に残って未だ、集中していた。


「は、ははっ……先ほどの魔法を、私の中で威力を弱めて持続させている、というわけですか……」


 ギースは、とうとう起き上がっていることもできなくなり、そのまま前に倒れ込む。


「そういうことだ。諦めて、消滅するんだな」


 一度で仕留められなかった場合、ギース本人に害が及ぶ可能性は高い。最期のあがきとして、ギースを道連れにする可能性があるからだ。だから、今はとても危険な状況だった。


「ふふっ、これは、あなた方が、一枚上手だった、という、ことですかね?」

「あぁ」


 だんだんと、悪魔の声に力がなくなっていく。どうか、このまま消滅してくれと願いながら、ボクは悪魔の言葉に同意する。


「ざん、ねんです。彼女、は……美味しそう、だったの、で、すが、ね?」


 やはり、まだシェイラを狙っていたのかと殺意が込み上げるものの、もう、消滅まで時間がないのだろう。悪魔は、目を閉じてしまう。


「ふ、ふ……ですが、調子に、のら、ないこと、です……まだ、同胞が……」

「何?」


 『同胞』という言葉に、激しく嫌な予感がするものの、もはや、問いかけても答えは返ってこない。


「陛下、消滅が確認されたそうです」

「……そうか」


 釈然としないながらも、ひとまず、悪魔の討伐は叶った。今は、その事実を噛み締めるべきだと、不穏な考えを頭の外に追いやる。


「帰還する」


 これで、シェイラを取り戻すための土台は整ったはずだ。これで、また、シェイラがドラグニル竜国に来てくれる。……それで、良いはずなのに、胸の奥底にこびりついた不安が消えることはなかった。
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