75 / 97
第四章 遠い二人
第七十五話 消滅(アルム視点)
しおりを挟む
ギースはピクリとも動かない。しかし、悪魔が消滅した瞬間を見たわけでもないため、ボク達は警戒しながら、一部の者だけで包囲網を狭めていく。
「ギース?」
起き上がる気配のないギースに声をかければ、意識が戻ったのか、僅かに身動ぐ。
「う……こ、こは……?」
ぼんやりとした表情で目を覚まし、どうにか起き上がったギースは、ボクを見てギョッとしたような表情になり、慌てて跪いて頭を垂れる。
「面を上げろ。……ギース本人で間違いないか?」
「は? その、本人ですが……」
ボクの質問に困惑してみせたギースは、本物のように見える。
「いったい、何が……ぐっ……」
困惑したまま、問いかけてきたギースは、しかし、その途中で苦し気に胸を抑える。
「が、ぁっ、誰、だっ……こ、のっ…………ふぅ、危ないところでした」
しばらく苦しんだギースは、唐突に動きを止めて、何事もなかったかのように顔を上げる。
「ダメだったか」
「いえいえ、良い線はいってましたよ? もう少し引っ込むのが遅ければ、消滅していたでしょうからね?」
明らかに、今、目の前に居るのは悪魔に乗っ取られたままのギースだった。そして、その悪魔は立ち上がろうとするのだが……力が入らないらしく、そのまま崩れ落ちる。
「っ、何をしたんですか?」
僅かに焦りを浮かべたギースに、ボクは距離を保ったまま、種明かしをする。
「簡単なことだ。魔法は、まだ解けていない」
そう言えば、何かに気づいたように、ギースはボクの背後を見る。そこには、包囲網に加わらなかった部隊が……ギースに、光の魔法を放った集団が、その場に残って未だ、集中していた。
「は、ははっ……先ほどの魔法を、私の中で威力を弱めて持続させている、というわけですか……」
ギースは、とうとう起き上がっていることもできなくなり、そのまま前に倒れ込む。
「そういうことだ。諦めて、消滅するんだな」
一度で仕留められなかった場合、ギース本人に害が及ぶ可能性は高い。最期のあがきとして、ギースを道連れにする可能性があるからだ。だから、今はとても危険な状況だった。
「ふふっ、これは、あなた方が、一枚上手だった、という、ことですかね?」
「あぁ」
だんだんと、悪魔の声に力がなくなっていく。どうか、このまま消滅してくれと願いながら、ボクは悪魔の言葉に同意する。
「ざん、ねんです。彼女、は……美味しそう、だったの、で、すが、ね?」
やはり、まだシェイラを狙っていたのかと殺意が込み上げるものの、もう、消滅まで時間がないのだろう。悪魔は、目を閉じてしまう。
「ふ、ふ……ですが、調子に、のら、ないこと、です……まだ、同胞が……」
「何?」
『同胞』という言葉に、激しく嫌な予感がするものの、もはや、問いかけても答えは返ってこない。
「陛下、消滅が確認されたそうです」
「……そうか」
釈然としないながらも、ひとまず、悪魔の討伐は叶った。今は、その事実を噛み締めるべきだと、不穏な考えを頭の外に追いやる。
「帰還する」
これで、シェイラを取り戻すための土台は整ったはずだ。これで、また、シェイラがドラグニル竜国に来てくれる。……それで、良いはずなのに、胸の奥底にこびりついた不安が消えることはなかった。
「ギース?」
起き上がる気配のないギースに声をかければ、意識が戻ったのか、僅かに身動ぐ。
「う……こ、こは……?」
ぼんやりとした表情で目を覚まし、どうにか起き上がったギースは、ボクを見てギョッとしたような表情になり、慌てて跪いて頭を垂れる。
「面を上げろ。……ギース本人で間違いないか?」
「は? その、本人ですが……」
ボクの質問に困惑してみせたギースは、本物のように見える。
「いったい、何が……ぐっ……」
困惑したまま、問いかけてきたギースは、しかし、その途中で苦し気に胸を抑える。
「が、ぁっ、誰、だっ……こ、のっ…………ふぅ、危ないところでした」
しばらく苦しんだギースは、唐突に動きを止めて、何事もなかったかのように顔を上げる。
「ダメだったか」
「いえいえ、良い線はいってましたよ? もう少し引っ込むのが遅ければ、消滅していたでしょうからね?」
明らかに、今、目の前に居るのは悪魔に乗っ取られたままのギースだった。そして、その悪魔は立ち上がろうとするのだが……力が入らないらしく、そのまま崩れ落ちる。
「っ、何をしたんですか?」
僅かに焦りを浮かべたギースに、ボクは距離を保ったまま、種明かしをする。
「簡単なことだ。魔法は、まだ解けていない」
そう言えば、何かに気づいたように、ギースはボクの背後を見る。そこには、包囲網に加わらなかった部隊が……ギースに、光の魔法を放った集団が、その場に残って未だ、集中していた。
「は、ははっ……先ほどの魔法を、私の中で威力を弱めて持続させている、というわけですか……」
ギースは、とうとう起き上がっていることもできなくなり、そのまま前に倒れ込む。
「そういうことだ。諦めて、消滅するんだな」
一度で仕留められなかった場合、ギース本人に害が及ぶ可能性は高い。最期のあがきとして、ギースを道連れにする可能性があるからだ。だから、今はとても危険な状況だった。
「ふふっ、これは、あなた方が、一枚上手だった、という、ことですかね?」
「あぁ」
だんだんと、悪魔の声に力がなくなっていく。どうか、このまま消滅してくれと願いながら、ボクは悪魔の言葉に同意する。
「ざん、ねんです。彼女、は……美味しそう、だったの、で、すが、ね?」
やはり、まだシェイラを狙っていたのかと殺意が込み上げるものの、もう、消滅まで時間がないのだろう。悪魔は、目を閉じてしまう。
「ふ、ふ……ですが、調子に、のら、ないこと、です……まだ、同胞が……」
「何?」
『同胞』という言葉に、激しく嫌な予感がするものの、もはや、問いかけても答えは返ってこない。
「陛下、消滅が確認されたそうです」
「……そうか」
釈然としないながらも、ひとまず、悪魔の討伐は叶った。今は、その事実を噛み締めるべきだと、不穏な考えを頭の外に追いやる。
「帰還する」
これで、シェイラを取り戻すための土台は整ったはずだ。これで、また、シェイラがドラグニル竜国に来てくれる。……それで、良いはずなのに、胸の奥底にこびりついた不安が消えることはなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,192
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる