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第二章
第二十四話 運命の番
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その日は、何だか少しだけ、何かが違うという気がしていた。
何が違うのかは分からない。ただただ心が浮き立って、そわそわとしてしまうだけ。もしかしたら、特別講師が来ることを楽しみにしているのかもしれないとも思うが、何となく、それだけではない気もした。
落ち着かない様子で学園へ向かえば、その感覚はさらに強まる。
「リコ! おはよう!」
「ん。おはよう」
ケインに挨拶を返すことはできたものの、心は完全に上の空だ。
「今日こそ、リコに勝つからなっ!」
隣でケインが騒ぐものの、その内容が頭に入って来ない。
「? リコ?」
良い、匂いが、する……。
どこからともなく運ばれてくるその香り。自然と、私の歩く速度は速くなり、その発生源を求める。そして……。
……みつけ、た……。
とても、とても良い匂いの発生源。それは、どうやら物ではなく人だった。
……そっか、これが、運命の番…………。
室内であるにもかかわらず、光り輝いているように見える金の髪。背後からしか見えないため、顔は見えないが、見慣れない騎士のような服装をしていて、しっかりと帯剣もしている。
私の、番……。
今すぐにでも駆け寄って、その声を聞きたい。その瞳に私を映してほしい。そう、思うのに、私はそのまま動けなかった。
私に好かれても、きっと、迷惑……。
番の頭に、獣人特有の耳はない。当然、尻尾だって見当たらない。となれば、獣人ではない他の種族であるということで、相手は番だと言われても困惑するだけなのが目に見えている。
それ、でも……。
少しで良い。その声を、聞きたい。そう思いながら、私は、一歩踏み出して……。
「おっ、リコ! どうした? じいちゃんに会いたくなったか?」
そこで、すぐ近くから声がかかる。
「ダンお祖父様」
見れば、そこには毎日顔を合わせているダンお祖父様が居た。そして、改めて場所を確認すると、そこは学園の職員室だ。
「おぉっ、そうだ! リコ、今日はコイツと手合わせをすると良い! おいっ、セイン、ちょっとこっちに来てくれ!」
セイン、と呼ばれた人物。それが誰なのだろうかと疑問を呈する前に、その人は振り向く。
「ダン様? な………」
美しいアメジストの瞳を持つその騎士は、お祖父様の言葉で振り向いて、その瞳に私を映して止まる。
さっきまでは、それだけで、良かったのに……。
声を聞くだけで十分だと思っていた数秒前の自分に、思いっきり訂正をしたい。
人の欲に限りはないのだと。
「ダン様、彼女は?」
しかし、そのアメジストの瞳は、すぐにお祖父様の方へと逸れてしまう。
「ん? おぉっ、この子は、わしの孫だ! 可愛いだろう!」
ともすれば、お祖父様に嫉妬してしまいそうな心を必死になだめていると、かの騎士の呟きが耳に入る。
「孫……名前は、あぁ、いえ、私から名乗らねば失礼ですね」
名乗って、もらえる……?
そんな、ちょっとしたことでさえも、心が浮き立つ。
そのまま立ち尽くしていると、私の運命の番は、私の前に立ってニコリと微笑む。
「はじめまして。私は、ヴァイラン魔国の近衛騎士、セイン・ルナトリアと申します。この度は、特別講師としてこちらへ伺いました。こんな素敵なレディに出会えて、光栄です」
『ヴァイラン魔国』、『近衛騎士』、『特別講師』。それらの言葉に、考えなければならないことはあるはずなのに、最後の最後に、手を取られて口づけを落とされたことによって、全てが吹き飛ぶ。
「……きゅう……」
「リコ!?」
「えっ!? ちょっ!?」
周囲の慌てる声を聞きながら、私の意識は闇に閉ざされた。
何が違うのかは分からない。ただただ心が浮き立って、そわそわとしてしまうだけ。もしかしたら、特別講師が来ることを楽しみにしているのかもしれないとも思うが、何となく、それだけではない気もした。
落ち着かない様子で学園へ向かえば、その感覚はさらに強まる。
「リコ! おはよう!」
「ん。おはよう」
ケインに挨拶を返すことはできたものの、心は完全に上の空だ。
「今日こそ、リコに勝つからなっ!」
隣でケインが騒ぐものの、その内容が頭に入って来ない。
「? リコ?」
良い、匂いが、する……。
どこからともなく運ばれてくるその香り。自然と、私の歩く速度は速くなり、その発生源を求める。そして……。
……みつけ、た……。
とても、とても良い匂いの発生源。それは、どうやら物ではなく人だった。
……そっか、これが、運命の番…………。
室内であるにもかかわらず、光り輝いているように見える金の髪。背後からしか見えないため、顔は見えないが、見慣れない騎士のような服装をしていて、しっかりと帯剣もしている。
私の、番……。
今すぐにでも駆け寄って、その声を聞きたい。その瞳に私を映してほしい。そう、思うのに、私はそのまま動けなかった。
私に好かれても、きっと、迷惑……。
番の頭に、獣人特有の耳はない。当然、尻尾だって見当たらない。となれば、獣人ではない他の種族であるということで、相手は番だと言われても困惑するだけなのが目に見えている。
それ、でも……。
少しで良い。その声を、聞きたい。そう思いながら、私は、一歩踏み出して……。
「おっ、リコ! どうした? じいちゃんに会いたくなったか?」
そこで、すぐ近くから声がかかる。
「ダンお祖父様」
見れば、そこには毎日顔を合わせているダンお祖父様が居た。そして、改めて場所を確認すると、そこは学園の職員室だ。
「おぉっ、そうだ! リコ、今日はコイツと手合わせをすると良い! おいっ、セイン、ちょっとこっちに来てくれ!」
セイン、と呼ばれた人物。それが誰なのだろうかと疑問を呈する前に、その人は振り向く。
「ダン様? な………」
美しいアメジストの瞳を持つその騎士は、お祖父様の言葉で振り向いて、その瞳に私を映して止まる。
さっきまでは、それだけで、良かったのに……。
声を聞くだけで十分だと思っていた数秒前の自分に、思いっきり訂正をしたい。
人の欲に限りはないのだと。
「ダン様、彼女は?」
しかし、そのアメジストの瞳は、すぐにお祖父様の方へと逸れてしまう。
「ん? おぉっ、この子は、わしの孫だ! 可愛いだろう!」
ともすれば、お祖父様に嫉妬してしまいそうな心を必死になだめていると、かの騎士の呟きが耳に入る。
「孫……名前は、あぁ、いえ、私から名乗らねば失礼ですね」
名乗って、もらえる……?
そんな、ちょっとしたことでさえも、心が浮き立つ。
そのまま立ち尽くしていると、私の運命の番は、私の前に立ってニコリと微笑む。
「はじめまして。私は、ヴァイラン魔国の近衛騎士、セイン・ルナトリアと申します。この度は、特別講師としてこちらへ伺いました。こんな素敵なレディに出会えて、光栄です」
『ヴァイラン魔国』、『近衛騎士』、『特別講師』。それらの言葉に、考えなければならないことはあるはずなのに、最後の最後に、手を取られて口づけを落とされたことによって、全てが吹き飛ぶ。
「……きゅう……」
「リコ!?」
「えっ!? ちょっ!?」
周囲の慌てる声を聞きながら、私の意識は闇に閉ざされた。
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