黒板の怪談

星宮歌

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第一章 肝試しの夜

第十八話 声(芦田・鹿野田・望月グループ)

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 相も変わらず真っ暗なその場所。懐中電灯が生命線になりつつある今日この頃、芦田は沈痛な面持ちで周囲を探っていた。

 鹿野田に黒板へ椅子をぶつけるように指示をしたのは、芦田だ。
 それは必要なことだったとはいえ、もしかしたらそれが原因で鹿野田が骨折してしまったかもしれない。そう考えれば、芦田がその責任感から罪悪感を覚えてしまうのは仕方のないことだっただろう。ましてや、どんなにしっかりしているように見えても、まだ芦田も子供なのだから……。


「これは……」


 しかし、そんな罪悪感を抱えていても、見逃せないものがそこにはあった。


「手錠……?」


 いくら子供でも、手錠くらいは知っている。ただ、それは警察が使うような手錠ではなく、その先に球体の重りが付いた、アニメか漫画くらいでしか目にすることのないものだった。


「やたらと、トゲトゲしてるものが多いような……?」


 用途不明のトゲトゲとした金属製のものや、鎖などが幾つもある。
 もし、ここに大人が一人でも居れば、すぐにそれらが拷問道具やそれに類するものだと気づいただろう。少なくとも、こんなにのんびりとそれらを観察することはない。

 と、そこで、芦田はようやく、目的に沿ったものを見つけた。


「これ、ムチか? でも、この棒のところと一緒に括り付けたら添え木みたいになるか?」


 なぜこんなところにムチがあるのか、といったところまでは頭が回らなかったようだが、それでも添え木に出来そうなものを見つけられて、ホッと息を吐く。


「長さの調整は……おっ、ノコギリもあるっ! ……錆びてるが、何とかなるか? 後は、布も一応持っていくか」


 そうして、様々なものを回収した芦田は、他には何かないかと、大量のトラバサミの横を通り抜け、確認をしようとして……。


「芦田君!! 戻ってきて!」

「っ、望月!?」


 望月の大声に、それ以上の探索をやめて走って戻る。


「望月っ、どうした!? っ、鹿野田! 目が覚めたのか!?」


 なぜか、鹿野田から距離を取って立つ望月と、上半身を起こした状態の鹿野田。
 すかさず鹿野田へと近寄ろうとした芦田だったが、望月に腕を掴まれ、それは叶わなくなる。


「望月?」

「鹿野田君の様子が、おかしいの」


 鹿野田に向けて警戒をしているらしく、じっと鹿野田から視線を逸らさない望月。
 芦田は何がなんだか分からないといった面持ちだったが、次の瞬間にはその理由が分かる。


「ニ、ゲテ……ツカマル、マエ、ニ……」


 鹿野田の声は、確かに男子の中では少し高めではある。しかし、こんな、本当に女性と変わらない声が出せるのかと問われると疑問だ。しかも、よくよく見れば、鹿野田は意識がないままらしく、上半身は起こしているものの、だらんとうつむいた状態だ。


「アッチ、デグチ……ヒカリ、モトメテ……」


 すっと鹿野田のだらりとしていた右腕が持ち上がり、そのまま真横へ指を差す。


「鹿野田……?」


 そう、芦田が声をかければ、鹿野田は全身の力が抜けたらしく、そのままバタンと倒れる。


「っ鹿野田君!」


 慌てて駆け寄る望月と芦田。しかし、鹿野田は意識がないまま、懐中電灯でその顔を照らしてみても、顔色が悪いままで、変化はないように見える。


「今のは、一体……?」

「分からない。いきなり、鹿野田君が起き上がったと思ったら、ずっと『逃げて、逃げて』って……」


 望月自身も、鹿野田に何が起こったのかは理解できていない様子で、困惑しているようだった。


「……よし、今はとにかく、ここから離れよう。少なくとも、あの声は俺達を逃がそうとしてくれていたんだろうからな」


 少しだけ思考を巡らせた芦田は、すぐにそう決断する。


「……あの声を、信じて良いのかな?」

「分からないが、ここは怪我をしそうなものが多いから、そういう意味でも危険だろうし、離れた方が良いだろう。ただ……鹿野田の手当ては出来れば急ぎたいが、警告も気になる」

「だよね……」

「僕は、大丈夫だよー」


 と、そこで、不意に聞こえた鹿野田の声に、芦田と望月は一斉に振り向いた。
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