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第三章 セイクリア教国の歪み

第二百四十三話 救出(一)

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「俺に危害を加えれば、ディルクは死ぬ」


 そう宣言されて、俺とラーミアは動けなくなる。個人的にはディルクに思い入れも何もないが、ここで見殺しにしたとなれば教皇が黙ってはいまい。ここは、慎重に行動する必要がある。


「……要求は……何ですか?」


 ラーミアもこの状況の不味さに気づいて、渋々といった形で要求を尋ねる。
 ここにタロが居さえすれば、ディルクにかけられた『操術』を解除して、マギウスを捕らえてしまうことができるのだが、今、タロは恐らく教皇をどうにかするために動いている。
 バルディスは、俺とラーミアを信頼して、マギウスの捕縛に向かわせたのだから、俺達にできることはその信頼を裏切らずにこの場を切り抜けることだった。


「まずは、俺の拘束を解け」


 ふてぶてしく要求してくるマギウスに、俺は、わざとゆっくり、その拘束を解いていく。幸い、マギウスはそうやって少しでも時間を稼ごうとしている俺達に気づくことなく、黙ってそれを受け入れる。


「それが終わったら、ラーミア。お前は先程の術をそこの男にかけろ」

「はて、先程の術とは何のことでしょうか?」

「とぼけるなっ。さっきの『水球獄すいきゅうごく』だっ。もちろん、魔力抑制剤入りのな」

「……分かり、ました」


 これで、俺がラーミアから『水球獄』を受けることが決定してしまった。


 あれ、結構苦しいんだよな……。


 かつて受けたことのあるその術の苦しみを思い出して、俺は少しだけ遠い目をする。
 そうしているうちに、影による拘束は完全に解けて、マギウスは自由の身になってしまう。


「さぁっ、早くそいつを無力化しろ」

「……すみません。ディアム」

「…………大丈夫。俺、耐えられる」


 申し訳なさそうな表情のラーミアに、俺はとにかくゆっくり返事をする。そして……。


「『水球獄』」

「っ」


 水球に全身が閉じ込められ、息が苦しくなる。この『水球獄』の質の悪いところは、一口でもこの水を飲んでしまえば、しばらく魔力が使えなくなることにある。そのため、俺はとにかく耐える。

 しばらく耐えて、どうしても水を口に含んでしまい、意識が遠くなりかけたところで、俺はようやく解放された。


「ゴホッ、ゲホッ、ゲホッ」


 もう少し、早くに解放してほしかったとは思ったが、これも時間稼ぎの一貫。文句は言えない。


「ふんっ、これで魔力を使えなくなったな?」

「えぇ、そうですわね。残念ながら」


 そう、確かに、魔力は・・・使えなくなった。影を操ることも、闇に潜ることもできない。


「では、ラーミア。お前はこれを飲め」


 とりあえず無害なフリをして地面に倒れたまま隙を窺っていると、マギウスは怪しげな小瓶を取り出す。中に入っているのは、赤い色をした液体らしい。


「これは?」

「良いから、飲め」


 こんなことなら、あの小瓶が割れてしまうくらいにきつく縛りあげておくのだったと思うが、もう遅い。

 言われるがままに小瓶を受け取り、キュポンと蓋を取り外して臭いを嗅いだラーミアは、それを一気に煽った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


さて、怪しげな液体を飲み干したラーミアはどうなるんでしょうね。

次回もこの続きになります。

それでは、また!
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