我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第四章 騒乱のカレッタ小王国

第二百七十七話 ラーミアの過去(三)

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「とりあえず、ある程度の期間も過ぎたことだし、事の真相を教えようと思ったんだけど、大丈夫そうかな?」

「しんそう、ですか?」

「そう、君の家で何が起こって、どうして君だけが生き残ったのか、知りたくないかい?」


 正直、今さら何があったのかを知ったところでどうにもなりません。知る意味など、見出だせませんでした。


「どうでもいいです」

「そうかそうか、やはり聞きたい……って、えっ?」

「どうでもいいです」


 何やら聞こえていなかったようなので、私は繰り返して宣言します。すると、アルバートは目に見えて慌て始める。それはもう、公爵たるものがそれで良いのかと思ってしまうほどに。


「い、いやぁ、そんなことはないだろう? ほらっ、ねっ?」

「どうでもいいです」


 間髪を入れずにそう言えば、アルバートは涙目になります。良い年したおじさん……見た目は青年ですが、その涙目は、全く可愛くないです。


「ほらっ、何と言ったかな? 確か、ディーって名乗ってた子も関わってるんだよ?」

「ディー……?」


 用事がそれだけなら退出の許可をもらおうかと思っていたところで、『ディー』の名前が出て、思い留まります。


「ディーが、なににかかわっていたのですか?」


 ようやく興味を移した私に、アルバートは安心した表情で事の次第を話し出します。


「君の家は、昔から不正の証拠が見つからないだけで、不正をしている可能性を疑われていたんだ。そして、現在の隠密部隊隊長が、それを調べるために、ディーを使った」


 呑気にディーと会える時間を楽しみにしていた私は、その衝撃の事実にハッと息を呑みます。ディーは、私のことは観察対象くらいにしか見ていなかったのだと思うと、胸がとても苦しくなりました。


「隠密の訓練と称して忍び込ませれば、多少怪しい者が居ても見逃される。それを狙っていたんだが……そこで、予想外のことが起こった。その家の令嬢に、ディーが見つかってしまったんだ」


 そう言われ、私は初めてディーと会った時のことを思い出します。あの時は、初めて同じくらいの年の相手を見ることができて、とても浮かれていました。


「そして、もっと予想外なことに、ディーはその令嬢を気に入ってしまった。家族にどんな罪があろうとも、その令嬢だけは生かしてほしいと嘆願するくらいには」


 そこまで言われて、私はようやく、今、自分が生きている意味を知ります。この命は、ディーが助けてくれたものだったのです。


「……うん、良い目になったね。これから、君には悪い噂が付きまとうだろう。時には、理不尽な目に遭うかもしれない。だから、今からは、それをはね除けるだけの力をつけなさい」


 まだ、心の整理はできていない。それでも、私がただ一人の心に救われたことは確かで、その恩を返したかったのも確かだ。


「わかりました。せいしんせいい、どりょくいたします」


 数十年後に、ディーと再会して、向こうが覚えていないことにショックを受けたり、ディーの本当の名前がディアムだと知ったりすることはあったものの、私は、ディアムの幼馴染みとして側に居られることが幸せでした。その想いが、まさか恋に変わるなんて知らずに、それからずっと、困難に打ち勝ちながら、幸せな時を過ごすこととなったのです。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


これで、ラーミアの過去は終わりです。

次回、竜の森に戻ります。

それでは、また!
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