290 / 574
第四章 騒乱のカレッタ小王国
第二百八十九話 非常識な男
しおりを挟む
バルディス達と別れ、ディアムと二人っきりの調査に少し浮かれていた私だったが、竜の森に入った直後、乱入してきた男によってそんな気分も霧散した。
先代魔王に良く似た男。ケントと名乗った彼は、とんでもなく非常識な男だった。
「よっこいしょ」
そんな掛け声とともに、倒した竜を持ち上げて運んだり。
「『解体魔法』」
と言って、見たことも聞いたこともない魔法で竜を解体してしまったり。
「これ、全部必要なのだろうか?」
「いえ、食料として、少しもらおうかと思っただけですので、これだけいただきますわ。残りはどうぞご自由に」
「ふむ、ならば、『収納』」
タロと同等かとも思える馬鹿容量の『収納』を展開したりと、そろそろ驚くことに疲れてきた。
「カレッタ小王国は、こんな人材を持っていたのですね」
「かなり、脅威」
あまりにも強く、非常識な男の姿に、私達は警戒心をさらに引き上げる。こんな人材が居て、今まで竜の森を調査してこなかったというのは何とも腑に落ちない。つまりは……。
勇者、かもしれませんわね。厄介なことになりましたわ。
タロと同等。いや、もしかしたら、それ以上の化け物が目の前に居るかもしれない状況に、否応なく緊張感は高まる。
「それにしても、ラーミア殿もディアム殿もお強いな」
「いえ、それほどでもありませんわ」
「まだ、修行、必要」
竜を撃退しながら進むと、さすがに私達の実力にも気づいたらしく、ケントは手放しで褒め称えてくる。
「しかし、貴女方のような強者が居ながら、なぜ私に調査を命じられたのだろうか?」
「……私達は流浪の旅人です。今回は、興味を持って独自に動いているだけです」
ふぅむと考え込むケントに、私はとりあえずの言い訳を話しておく。
「私達は権力者と関わりたくはないので、もし、調査で何か分かったとしても、その結果は噂で流すくらいしかしない予定でした」
「むっ、そうであったか。では、貴女方と協力したことは、上には黙っておくとしよう」
「よろしくお願いしますわ」
少し匂わせるだけで、察して対処するケントに好感を持ちつつ、しかし、将来的に敵対する可能性も考えて慎重になる。
「ケントは、どのような命令の下、動いておられるのか、聞いても?」
そう尋ねれば、ケントはしばらくためらった後、少しだけ話してくれる。
「むぅ、私は、水が枯渇した原因の追及と、その原因の排除を命じられている」
「まぁっ、では、世間で噂されている魔王を倒すのですか?」
「いや、魔王を倒す予定はない」
ここで、言い淀むか、肯定するかをしてくれれば、私はケントが勇者であると判断できた。しかし、ケントははっきりと魔王討伐を否定する。
「そもそもの原因が分からないというのもあるが、その役目は勇者様のものだ」
「申し訳ありません。ケントがあまりに強かったので、もしかしたら、ケントが勇者様なのかと思ってしまいましたわ」
さらっと言い訳をしながら、ケントの目をじっくり見てみるものの、どうやら心の内を読ませないようにする技術に長けているらしい。その瞳からは、何も読み取れず、中途半端に核心に至れずにやきもきする。
後で、たっぷりと調査するべきですね。
会話から情報を引き出すことを諦めた私は、その後、大人しく引いて、機会を伺うことにするのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
飼主はさすがに全てを語ることはありませんでしたね。
次回も、おそらくラーミア視点か、もしかしたら飼主視点になるかもです。
それでは、また!
先代魔王に良く似た男。ケントと名乗った彼は、とんでもなく非常識な男だった。
「よっこいしょ」
そんな掛け声とともに、倒した竜を持ち上げて運んだり。
「『解体魔法』」
と言って、見たことも聞いたこともない魔法で竜を解体してしまったり。
「これ、全部必要なのだろうか?」
「いえ、食料として、少しもらおうかと思っただけですので、これだけいただきますわ。残りはどうぞご自由に」
「ふむ、ならば、『収納』」
タロと同等かとも思える馬鹿容量の『収納』を展開したりと、そろそろ驚くことに疲れてきた。
「カレッタ小王国は、こんな人材を持っていたのですね」
「かなり、脅威」
あまりにも強く、非常識な男の姿に、私達は警戒心をさらに引き上げる。こんな人材が居て、今まで竜の森を調査してこなかったというのは何とも腑に落ちない。つまりは……。
勇者、かもしれませんわね。厄介なことになりましたわ。
タロと同等。いや、もしかしたら、それ以上の化け物が目の前に居るかもしれない状況に、否応なく緊張感は高まる。
「それにしても、ラーミア殿もディアム殿もお強いな」
「いえ、それほどでもありませんわ」
「まだ、修行、必要」
竜を撃退しながら進むと、さすがに私達の実力にも気づいたらしく、ケントは手放しで褒め称えてくる。
「しかし、貴女方のような強者が居ながら、なぜ私に調査を命じられたのだろうか?」
「……私達は流浪の旅人です。今回は、興味を持って独自に動いているだけです」
ふぅむと考え込むケントに、私はとりあえずの言い訳を話しておく。
「私達は権力者と関わりたくはないので、もし、調査で何か分かったとしても、その結果は噂で流すくらいしかしない予定でした」
「むっ、そうであったか。では、貴女方と協力したことは、上には黙っておくとしよう」
「よろしくお願いしますわ」
少し匂わせるだけで、察して対処するケントに好感を持ちつつ、しかし、将来的に敵対する可能性も考えて慎重になる。
「ケントは、どのような命令の下、動いておられるのか、聞いても?」
そう尋ねれば、ケントはしばらくためらった後、少しだけ話してくれる。
「むぅ、私は、水が枯渇した原因の追及と、その原因の排除を命じられている」
「まぁっ、では、世間で噂されている魔王を倒すのですか?」
「いや、魔王を倒す予定はない」
ここで、言い淀むか、肯定するかをしてくれれば、私はケントが勇者であると判断できた。しかし、ケントははっきりと魔王討伐を否定する。
「そもそもの原因が分からないというのもあるが、その役目は勇者様のものだ」
「申し訳ありません。ケントがあまりに強かったので、もしかしたら、ケントが勇者様なのかと思ってしまいましたわ」
さらっと言い訳をしながら、ケントの目をじっくり見てみるものの、どうやら心の内を読ませないようにする技術に長けているらしい。その瞳からは、何も読み取れず、中途半端に核心に至れずにやきもきする。
後で、たっぷりと調査するべきですね。
会話から情報を引き出すことを諦めた私は、その後、大人しく引いて、機会を伺うことにするのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
飼主はさすがに全てを語ることはありませんでしたね。
次回も、おそらくラーミア視点か、もしかしたら飼主視点になるかもです。
それでは、また!
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる