我輩は紳士である（猫なのに、異世界召喚されたのだが）

第五章 ルビーナ商国とボスティア海国の闇

第五百三十話 案内

「多分、この辺りだと思うが……」


　俺は今、ハーレ・クートと名乗るボスティア海国の五番隊隊長とともに、街を歩いていた。


「どこに飛ばされたか分かるか？」

「……それが、俺も一緒に飛ばされていたからなぁ……ちょっと待ってくれ」


　実際、俺は飛ばされていた。このハーレが捜しているタロによって、激流に呑まれていた。だから、そこだけは嘘ではないのだが、それを告げればハーレは大きく目を見開く。


「あの激流の中に居たのかっ！？　怪我はっ！？」

「あぁ、問題ない。しっかり『結界』を張っていたおかげで、しばらく平衡感覚がなくなるくらいですんだ」


　本気で心配をしてくるその様子に、この女性はきっと、隊でも慕われている隊長なのだろうなとぼんやり思う。


　いや、そんなことより、タロとの関係を探らなければな。


「ところで今さらだが、その生き物はいったい何なんだ？　ここら辺では見ないものだと思うが……」


　そう尋ねれば、ハーレは眉間にシワを寄せてウンウン唸り出す。


「話しても良いのだろうか……いや、巻き込むわけには……しかし、こいつは結構強そうだし……」


　ブツブツと話している内容は、性能の良い耳のおかげで全て聞こえてしまう。


「一応、その生き物にも『結界』を張ってやったから、怪我はしていないと思うんだがな」

「っ！？　そうかっ！　それはありがたいっ」


　タロが無事だと分かるや否や、目を輝かせるハーレ。そして、俺が告げた言葉が決断の一手となったのか、ハーレは周りには誰も居ないというのに、声を潜めて話し出す。


「実は、ここだけの話なんだが……あの生き物は、地上の人間に捨てられたみたいなんだ」


　……は？


　ちょっとばかし、何を言っているのかの理解が追いつかず、俺は硬直してしまう。ハーレはそんな俺の反応をどう取ったのか、『やっぱり許せないよなっ』と大きくうなずく。


「そ、そうだな。……ちなみに、なぜ、捨てられたと？」

「そりゃあ、こんな時期にわざわざ海神の腕輪をつけた可愛い生き物がポツンと取り残されていたら、そう思うのが普通だろうっ」


　……いや、そこは危険生物を疑うところだろう？　もしくは、密偵の役割をこなせる生き物だとか。


　激しく突っ込みどころのある返答に、俺は何と返して良いのか分からないながらにうなずく。そして、そんな中、ハーレは更なる爆弾を落とす。


「そして今、その生き物はとある貴族に命を狙われているんだ」


　……タロっ、本当に、何をしでかしたんだ！


　とりあえず、俺は内心でそう叫ぶのだった。


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タロの知らない現状に、バルディスも困惑中。

さて、ここからバルディスにはしっかりと動いてもらわなければならなさそうです。

それでは、また！