我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第一章 アルトルム王国の病

第三十二話 リツの話

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「キュルルルゥ(うぅ、猫がこんなに怖いなんて知らなかったー)」

「いや、タロが異常なだけだ。普通の猫はお前にダメージを与えるなんてできないから」


 的確な突っ込みを行うバルディスに、我輩、何も言えない。一人、早とちりして、攻撃をしてしまったのは我輩なので、文句を言う筋合いなどないのだ。


「キュルゥン? (タロ、ご主人の仲間?)」

「にゃあ。にゃにゃー(仲間、というより、協力者なのだ。先程は、本当に申し訳なかったのだ)」

「キュッ。キュゥーン(はわっ。えっと、もう、大丈夫ー)」


 ううむ、我輩、こんなに良いに攻撃してしまったのか。む、胸が痛いのだ。


「キュルル。キューン(タロ、改めて、僕はリツっていうのー。よろしくねー)」

「にゃあにゃっ。にゃあ。にゃ(おぉ、我輩としたことが、自己紹介をしていなかったのだ。我輩は、紳士のタロなのだ。こちらこそ、よろしくなのだ)」


 礼儀を忘れるなど、紳士にあるまじき行為はできない。我輩、ペコリとお辞儀をして大きな大きなリツに自己紹介を行ったのだ。

 と、そこで、バルディスが口を挟む。


「そろそろ良いか?」

「キュッ? (なぁにー?)」

「にゃあ(あぁ、再会を邪魔して申し訳なかったのだ)」


 そうだ。元々、リツはバルディスとの再会を喜んでいたはずなのだ。そのために、岩に擬態しているといっても過言ではない体を動かして、話しかけてきたのだから……。


「いや、何でリツがこんなところにいるのかと思ってな」

「そういえば、ここはファルシスから随分と離れた場所のはずですね。ファルシスにしか生息しないはずの白竜がここにいるのはおかしいです」


 チャーを抱き抱えながら、ラーミアがバルディスの言葉の意味を話してくれる。

 我輩にも分かるようにしようとした、というわけではないのであろうが、これで話についていけるので感謝なのだ。


「キュルゥン。キュー(先代様に命じられたのー。ここに居なさいって)」

「先代様?」

「キューン。キュキューン(先代の魔王様なのー。ここで、人間を追い払えってー)」

「にゃあ? (バルディスの前の魔王がここに来たということなのだろうか?)」

「キュッ(そーなのっ)」


 さすがに、先代の魔王などという存在のことを知らない我輩は、それ以上は何も言えないし、考えるだけの土台もない。だから、我輩、バルディスらの話を聞こうとそのまま待機していたのだが……。


「先代魔王……その正体は謎に包まれ、どのような姿をしているのかすら分からなかった魔王、か」

「バル?」


 難しい顔で黙り込むバルディスは、何を考えているのか分からない。

 そして、そう思ったのは我輩だけではないようで、ラーミアもディアムも戸惑った表情を浮かべている。

 その様子に、我輩、早々にバルディスから会話の主導権を奪うこととする。


「にゃあ(リツは、どうやってその先代魔王を見分けられたのだ?)」

「キュー? (えっと、匂いとかー魔力とかー?)」

「にゃにゃ? (では、他には何か命じられたりはしていないだろうか?)」

「キューン(それなら、ここに強くて勝てない人が来たら、逃げるようにって言われたよー)」


 ふむふむ、どうやら、その先代魔王とやらは優しい者であるようだ。


「キュキュッ(でも、できるだけ来た人間は追い払って、この先に行かせるなって言われたのー)」


 つぶらな瞳をキラキラ輝かせ、尻尾をフリフリして、リツはその先代魔王を尊敬していることを全身で伝えてくる。

 しかし、その命令のせいでパクの花が採れなくなったことを考えると、素直にリツに同調するわけにもいかない。その命令さえなければ、アルトルムでの死人はもっと少なくなっていたかもしれないからだ。


「キューッ。キュキュッ? (でも、ご主人に会えるとは思わなかったのー。ご主人はどうしてここに?)」


 そうして、コテンと首をかしげて問いかけるリツに、バルディスは重々しく口を開くのであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

お、お待たせして、申し訳ないです。

ちょっと体調崩したり、忙しかったり、色々とありまして…………ついでにスランプっぽくもなりまして、更新が大幅に遅れて本当に申し訳ないです。

ちょっとしばらくは不定期更新になりますが、少しずつまた、三日に一度の更新に戻していきます!
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