我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第一章 アルトルム王国の病

第四十八話 エルブ山脈攻防(三)

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 降り下ろされたはずの戦斧。

 絶望を一身に受けたはずのバルディス。

 しかし……バルディスは生きていた。頭を潰されることなく、生きていた。それはひとえに……。


「にゃおーんっ!! (猫流奥義、ガリガリプラスッ!!)」


 一匹の白猫のおかげだった。


「オォォォオッ!」


 タロの魔力を帯びた爪を受け、バルディスの剣ではびくともしなかった戦斧が弾かれ、仮面の魔族は後方に吹き飛ばされる。


「タ、タロ?」


 呆然とした様子で呟くバルディスに、タロは応えることなく、仮面の魔族を見据え、毛を逆立てる。


「ふーっ、ふしゃーっ(我輩の大切な友を傷つけた代償は、しっかり払ってもらうのだっ)」


 怒りをあらわにしたタロの姿に、バルディスは呆気にとられる。

 そして、タロに対して、手酷い拒絶をした自覚があっただけに、バルディスはそれ以上の言葉をかけられない。


「タロ、助かった。仮面の魔族、足止め、頼む」

「にゃあっ(了解なのだっ)」


 しかし、言葉がかけられないのはバルディスだけだったらしい。ディアムは平然とタロに言葉をかけて、頼み事までしてしまっている。


「ちょっ、ディアム? 私達はタロに頼み事をするような資格は……」


 いや、言葉をかけられなかったのは、ラーミアも同じだった。ただ、平然としたディアムの様子に思わず抗議をしかけたラーミアは、タロの様子を見て言葉を失う。


「ふしゃーっ(我輩は紳士ではあるが、敵にまで優しくはないのだっ)」


 ラーミアとディアムには、タロが何を言っているのか理解できないものの、その小さな身の内に秘めた強大な魔力だけは感知できる。思わず震えが来そうな程の魔力が、鋭い殺意とともに仮面の魔族へと向かっていることは分かる。


「ラーミア、バルの治療。俺、雑魚の足止め」

「っ、え、えぇ、分かりましたわっ」


 戸惑いながらも、言い争っている間はないと察したラーミアは、バルディスの治療へと向かう。そして、仮面の魔族が吹き飛ばされたことによって唖然とし、膠着こうちゃくしていた敵も動き出す。


「て、撤退だっ! 撤退するぞっ」


 あまりにも強烈な魔力に当てられ、大将とでも言うべき仮面の魔族がいとも簡単に吹き飛ばされたのを見て、まだ無事な騎士達は撤退しようとする。しかし……。


「ぎゃあっ」

「ぐあっ」

「な、何でっ」


 その撤退命令を、仮面の魔族は許さなかった。生きていた騎士達は、死に絶えた騎士によって次々に殺され、死に絶えた騎士の仲間入りを果たす。

 ディアムは、その様子を慎重に見定めながら、生きている騎士を中心に、影の刃で殺していく。逃げ腰になって混乱の最中にある騎士を殺すのは容易い。が、死した騎士が復活してくるのは、痛みや疲労を感じない分だけ厄介だった。

 そうして、泥沼の戦いは、続行される。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


タロ、やっと登場です!

ヒーローは遅れてやってくるもの、というセオリーに則って、遅い登場ではありましたが、これから存分に活躍させます。

ちょっと回想も入れるとは思いますけどね?

とりあえず、次も明日更新できるように頑張って参ります。

それでは、また!
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