我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

文字の大きさ
101 / 574
第二章 反撃のサナフ教国

第百話 引っ越し大作戦(三)

しおりを挟む
 僕が出会った猫は、ずいぶんと丸々としていて、不思議な猫だった。そして、僕の今置かれている状況を変える猫でもあった。


「ハーグ隊長」

「いかがなさいましたか? ロッダ様?」


 今、僕はレジスタンスの戦力を全てルーグ砂漠に避難させるため、殺風景な隠れ家の一つを訪れていた。そこに居るのは、レジスタンスの戦力を率いるハーグ・トラウト隊長。僕の兄の近衛だった人、らしい。
 大柄で厳つい顔立ちのハーグは、極力優しい顔で応対しようと努め……失敗して恐ろしい笑顔を浮かべて僕に問いかけてくる。


「僕は、やはり旗頭でなければならないのか?」


 ただ、もうその顔に慣れている僕は、特に言及することなく胸の内にある疑問を告げる。そして、その様子に、ハーグはサッと辺りを見回す。


 あぁ、確かに、他の奴に聞かれるわけにはいかないだろうな。


 旗頭たる僕のこんな言葉が他の者に聞かれて、広まってしまえば、士気の低下に繋がりかねない。

 周りに人が居ないことを確認したハーグは、それでも声をひそめて話しかける。


「ロッダ様は、我々の希望です。あなた様以外が旗頭などあり得ない」

「……僕は要らない子供だったはずなんだがな」


 そう、そのはずだ。僕は、両親の顔も、兄の顔も知らない。知っているのは、貧しくも明るい町と、そこで必死に僕を育ててくれたマリー姉だけ。


「要らないなどということはあり得ません。我らは、皆、あなた様を必要としています」

「……そうか」


 双子の忌み子。それが、生まれたばかりの僕につけられた呼び名だったらしい。忌み子を嫌った両親は、僕を捨てた。それを拾ってくれたのが、マリー姉、マリー・フィズだった。
 マリー姉は、僕にアーク・フィズという名前をくれた。僕を優しく、厳しく、育ててくれた。とても、暖かい心を教えてくれた。

 しかし、そんなマリー姉は、今は居ない。レジスタンスが立ち上がる前日、マリー姉はミルテナ帝国の騎士に殺された。そして、それをきっかけに、僕はレジスタンスの旗頭となり、名前もサナフ教国に伝わる偉大なる名前とやらに変えさせられた。

 ただ、僕はマリー姉の死が、レジスタンスの誰かが手引きしたものだと思っている。僕を、殺された教皇の唯一の血族である僕を、レジスタンスに引き込むため、誰かが、『反抗の意思を持つ凶悪な人間』としてマリー姉の名前を挙げたのだと思っている。最初は分からなかったが、徐々に分かってきたこのレジスタンスという組織の内実を知れば知るほど、僕は、その疑いを強めていった。


「にゃあ」

「もう向こうは終わったのか?」

「あぁ、タロが頑張ってくれた。あとはお前達だけだ」


 僕を旗頭にと求める者は、信用できない。僕が信用できるのは、ずっと昔からの知り合いであるリリナくらいのものだろう。

 迎えに来た猫とバルディスに従いながら、僕はそう考える。

 ただ……。


 もしかしたら、バルディス達は、信用できるのかもな。


 明らかに外部の人間であるバルディス達。しかも、猫に至っては、人間の陰謀に関わっているなどとは思えない。目的が何であれ、もしかしたら、僕の助けになってくれるかもしれない。


 マリー姉。僕は、国なんてどうでもいいけど、復讐のために戦うよ。


 力のない僕には、何もできない。力をつけるにも時間はない。それならば、力を持つ者を引き入れれば良い。


 後で、リリナにも相談しよう。


 リリナは、駆け引きは苦手だが、相談相手としてはこれ以上なく頼もしい。

 新たに見つけた光を掴み取るべく、僕は強い決意を胸に、歩くのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


記念すべき第百話っ!

と思っていたら、そういえば、最初が第零話にしていたから、今百一話目だと気づいた今日この頃……。

そして、感想ももらえてとても嬉しいです!

あとは……今回が作戦の始動だと言っていたのに、あまりそれっぽくなってない?

作戦が始動していることは間違いないんですけどね。

ロッダの背景をどうしても入れたくて、ここ以外だと入れにくいかなぁってことで、今回はこんな話になりました。

うーん、タイトル変えるべきだったかなぁ?

変えるとしたら、『引っ越し大作戦(一)』から変えなきゃいけない気がします。

とりあえずは、このままにしておいて、後になっても引きずるようだったら変えることにしますね。

それでは、また!
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...