我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第二章 反撃のサナフ教国

第百三十五話 砂漠の中の作戦(二)

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 タロが一直線に駆けてくるのを俺達はじっと観察していた。タロには、ただ一直線に走れと、そして、その際には自身の体重を軽量化する魔法をかけろと指示しただけだ。


「っ、追えっ、追えーっ!」


 一つ間を置いて、ようやく我に返った司令官らしき男が、タロを追うべく指示を飛ばす。そして、周りに居た騎士達は、その声ですぐさまキビキビと動き出す。
 タロは太っているといっても猫。こんな砂漠のど真ん中で見失えば、そのまま分からなくなってしまいかねない。そのため、彼らは急いで走り出したのだが……それは、こちらの思うつぼだった。


《今だ、ディアム》

《御意》


 その瞬間、騎士達が走っていた地面は消失した。


「へ?」

「ひっ」

「うわぁぁあっ!?」


 それは、ディアムの影を用いた落とし穴。必要に応じて硬度を変える影を用いて、普段は足場があるように見せかけていたのだ。幾人かの土魔法使い達に作ってもらった、大きな大きな土の箱の中に騎士達を落とし込もうと準備をしていたのだ。


「タロ」

「にゃ? にゃあ? (バルディス? どこなのだ?)」


 足を止め、キョロキョロと辺りを見回すタロ。俺はディアムから影の偽造を解いてもらい、姿を現す。


「ここだ。タロ」


 そう声をかければ、タロはすぐさま俺の元へと駆け寄る。


「にゃあっ(任務完了なのだっ)」

「あぁ、よくやったな。タロ」


 本当に、タロはよくやってくれた。軽量化の魔法を自身にかけた状態では走りづらいらしく、何度も走る練習をさせたが、上手くいったようで何よりだ。


「にゃにゃ? (しかし、我輩、何がなんだか分からないのだが?)」

「あぁ、そういえば話してなかったな。今回、タロにやってもらったのは、囮役、みたいなものなんだ」


 そう言いながら、俺は次々に真相を説明していく。


「まず、敵はタロを誘き寄せて、落とし穴に落とし、重傷を与えるつもりだったんだ」

「にゃっ!? (にゃんとっ!?)」

「ただ、その情報を先に手にした俺達は、逆に騎士達を落とし穴にはめるべく、こっちに落とし穴を作っておいたんだ」


 そう、騎士達の背後に当たるこの場所に作った落とし穴。それに、誘導するためにタロには走ってもらった。そのおかげで、今は騎士達は落とし穴の中で呻き声を上げるはめになっている。


「軽量化の魔法は、タロ自身が敵の仕掛けた落とし穴にかからないようにするためだ」


 敵が作る落とし穴は、俺達が作ったような特殊なものではなく、土の箱は同じように作っていても、上に被せるのは木の枝や布、そして、最終的に砂を怪しまれない程度に被せただけの原始的なものだった。だから、軽量化し、砂粒よりも軽くなったタロは軽々とそれを越えられたというわけだ。司令官らしき男が間抜け面を晒したのは、タロが落とし穴にかからないという予想外の事態に焦ったからにほかならない。


「にゃあ(なるほど)」

「バル、騎士、拘束完了」

「あぁ、ご苦労。というわけで、満足か? ロッダ」

「にゃ? (ロッダも居るのか?)」


 俺と同じく、ディアムの操る影によって姿を隠していたロッダは、俺の声で姿を現す。


「あぁ、我が儘を聞いてもらって、感謝する」


 ロッダは、この作戦を聞いて、自分も見届けたいと頑なに主張した。ジルクが二重スパイであることは話さなかったが、何か思うところでもあったのかもしれない。

 そんな風に思いながら、ひとまず脅威は去ったと安心していると、どこからともなく声が聞こえだした。


「……ぃ……ぉーいっ」


 その声に視線を向けると、そこには、大柄な男、ハーグが手を振りながらこちらへとやってきていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今日はちょっと早めに更新!

さてさて、今回は、敵の作戦が落とし穴で、こちらの作戦も落とし穴。

落とし穴vs落とし穴なお話でした。

前回の話で予想できた人は、きっと居ないはずっと思いながら書いてます。

次回もまた、楽しく書いていきますね~。

それでは、また!
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