我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第三章 セイクリア教国の歪み

第百七十七話 手がかり

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「ふにゃん……(フレッド……)」


 ご老人が居た場所を見つめ、佇むブチ。我輩、その様子にかける言葉が見つからない。ただただ、ブチ自身が心の整理をつけるのを待つしかない。
 と、そんな時だった。フワリと覚えのある匂いがしたのは。


「にゃっ(これはっ)」

「タロ?」


 ピンと耳を立てて、我輩、駆け出す。


「っ、タロっ、どこに行くんだっ」


 後ろでバルディスが騒いでいるものの、今は集中なのだ。どの方向からの匂いかは分かっている。だから、そちらに向けて走れば良いだけなのだ。

 部屋を一つ通り抜けたところで、我輩、どこから匂いが香ってくるのかを判別するためにスンスンと匂いを嗅ぐ。すると……。


「どうしたっていうんだ。タロ」

「にゃあっ(そこなのだっ)」


 すぐに追い付いたバルディスから声をかけられたものの、我輩、匂いの場所を突き止めてそれへと前足を伸ばす。


「にゃあっ。にゃあっ(バルディスっ、これなのだっ。これなのだっ)」

「ん? 何だ? その布は?」


 そう、バルディスが言うように、我輩、布をテシテシしながら叫んでいた。白い、何のへんてつもない布。しかし、その匂いは見逃すことができないものだ。


「にゃあっ(これから、ラーミアの匂いがするのだっ)」

「何っ!?」

「バル? タロ、何て?」


 ブチを気にしながらもこちらに来たらしいディアムに問われて、バルディスは我輩の言葉を通訳する。


「この布から、ラーミアの匂いがするらしい」

「っ、タロ、少し、貸せ」


 そう言われて、我輩、布から退く。
 ディアムはその白い布を手に取ると、それを調べ始める。


「確かに、ラーミアの魔力。ただ、それ以上は、不明」

「そうか。だが、手がかりならあそこにも残ってはいるな」


 そうして、バルディスは背後の、あの非道なことを企んで、我輩やディアムに成敗された男どもへと視線を移す。


「何としても情報を手に入れるぞ」

「御意」

「にゃっ(もちろんなのだっ)」

「……その布の持ち主なら、『入らずの祠』に行くって言ってたよ」

「にゃあっ!? (うわっ!?)」


 バルディス達とともにラーミアを見つけ出すべく気合いを入れていると、突如として背後から幼い声がかかる。そっと振り向いてみれば、そこにはやはり、小さな半透明の少女が居た。


「にゃ……(それは……)」

「あいつら、懲らしめてくれたお礼。それじゃあね」


 そう言って、少女は光の粒となって天へと昇る。良く見れば、ここに居たほとんどの半透明の者達は姿を消していた。


「どうした? タロ?」

「にゃー(心優しきレディに、情報をもらったのだ)」

「…………さっきから気になっていたんだが、タロもブチも何と話してるんだ」


 あまり聞きたくなさそうな表情で問いかけてくるバルディスに、我輩、堂々と話す。


「にゃっ(ここで殺された、半透明の者達なのだ)」

「…………そうか」

「バル?」


 なぜかバルディスの顔色が良くない気がしたものの、我輩、気にしないことにする。
 昔、飼い主と一緒に居た頃にも、半透明の者達と話をしていたら、なぜか青くなる人間が居た。飼い主は何とも思わないようだったが、半透明の者達が恐れられていることは何となく知っているのだ。


「にゃあ(優しい者達だったのだ)」


 我輩のことを心配してくれたり、情報をくれたりと、とても良くしてもらえた。もちろん、何かブツブツ言ったまま関わってこない者も居たが、そういう者も居ることは知っているのだ。我輩としては、関わってくれた者が親切だったから、それで充分なのだ。


「……そうか」


 青い表情でうなずくバルディスに、ディアムは何か聞きたそうにはしていたものの、口には出さない。きっと、最初に無視されたことで諦めたのだろう。


「にゃあにゃ。にゃーにゃ(ラーミアは『いらずのほこら』とやらに向かったらしいのだ。男達から情報をもらうのと平行して、そっちにも向かうと良いと思うのだ)」

「分かった」


 ラーミアの話題を出せば、バルディスはキリリとした表情に戻り、しっかりと対応してくる。


 うむ、早くラーミアを見つけるのだ。


 そう思って、我輩、はりきるのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


思いがけず手に入れたラーミアへの手がかり。

半透明さん達、最後の最後でしっかりと働いてくれましたよ。

次回は、ラーミア捜しの続きです。

それでは、また!
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