我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第三章 セイクリア教国の歪み

第百九十話 尾行

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 市場での騒動を見た俺は、即座に聖騎士達の目がラーミアのそれと似ていることを見てとる。どこか虚ろなその瞳に、どうやら、教皇庁で何かが起きているらしい。


「タロ、バルに伝言。少し、尾行してくる」

「にゃっ」


 バルディスには念話で伝えても良かったが、それをすると、あの聖騎士を取り仕切る一番強そうな男辺りに警戒されそうだったため、手っ取り早くタロに伝言を頼んで送り出す。


 タロ、また迷子になったりは……しないよな?


 一瞬、そんな不安が頭に過ったものの、一応は信じてやることにする。タロもそこまで馬鹿ではないだろう。……そこまで馬鹿ではないと、信じたい。

 聖騎士達は、二人の男女をほとんど言いがかりのような形で連れていくことを決める。周りの市民達はその様子に恐れを抱いているようだったが、それを意に介した風もなく、その場を立ち去ってしまう。

 俺は、誰も見ていない路地で『闇化やみか』を使い、影に潜ると、素早く、慎重に、その一団を追いかける。

 静かに、威圧感を醸し出しながら進む聖騎士団は異様だったが、それでもとにかく追いかける。ラーミアの様子がおかしいことに関する謎を解き明かすため、教皇庁の中にまで入り込む。


「聖騎士長、グラハム・ヴェリー、ただいま帰還いたしました」


 強そうだと思っていた人間が、聖騎士長だったことを知ると、俺は入室の許可とともに影を辿って中の様子を確認する。
 そこは、神を崇める教皇庁にしては、随分と悪趣味な豪華さを誇った部屋であった。そして……。


 あれは、前四天王の一人、操術士マギウスか?


 フードは被っているものの、漏れ出ている魔力の波長までは隠せていない。その波長は、明らかに魔族のものだった。


 なぜ、こんなところに……? いや、だが、これでからくりが分かった。ラーミアもこの聖騎士長も操られているということが。


 操術士マギウスは、操術にのみ特化した魔族だ。その術の腕前は、同じ四天王すら操れるほどのもの。本人の戦闘能力はからっきしでも、操術による暗躍は恐ろしいほど向いていた。


「ご苦労。今回の収穫はその二人か?」

「はっ、その通りでございます」

「んーんんんー」

「むーむー」


 縛り上げられた男女が転がされ、抗議の声を上げるが、マギウスはそれを見て口許を緩める。


「ククッ、威勢が良いな。では、始めよう」


 二人の頭に手を当てるマギウス。操術を発動させるつもりなのだろう。何が目的か分からない以上、それを探るためにはもう少しこの場に残っていた方が良さそうだ。

 そう思いつつも、俺は聖騎士長をチラリと見る。すると、その視線を感じたのか、聖騎士長は慎重に辺りを見渡す。


「『操術そうじゅつ』」


 見つからないように身を固くしていると、マギウスの操術が発動する。今まで騒いでいた二人が静かになったところを見ると、成功したらしい。


「どうした? 聖騎士長」

「いえ、気のせいだったようでございます」


 どうにか俺の気配を気のせいだと思ってもらえたことに、内心安堵しながら、これからどうするかを考える。

 安全のためには、撤退した方が良いだろう。一度だけとはいえ、気づかれそうになったのは不味い。見つかれば、俺まで操術の餌食になるかもしれない。しかし、これから先、何をするかの情報もほしいといえばほしい。

 しばらく考えて、聖騎士長が部屋から出ていくのに着いていき、決断する。


 今は、撤退しよう。


 聖騎士長は厄介過ぎる。そう思っての決断だった。そうして、俺はバルディスとタロが居るはずの宿へと、影を辿りながら向かった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


主人公はタロなのに、中々タロを出せないのが寂しいです。

次回は、次回こそは、タロ視点ですっ。

また、迷子にならなきゃいいけど(笑)

それでは、また!
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