我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)

星宮歌

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第三章 セイクリア教国の歪み

第二百六話 神託

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《タロさん、ストップ!》


 そんな声が聞こえ、しかも聞き覚えがあるそれに、我輩祈りを止めて顔を上げる。


「にゃ? (セイクリア?)」


 そう、それは、世界神、セイクリアの声だった。


《そうだよ。……そして、タロさん。祈りというものは、食べ物の名前の列挙じゃないからね?》

「にゃっ!? (にゃんとっ!?)」


 我輩、元の世界ではいつも、食べ物を祈っていたのだ。他の人間達も、『受験に受かりますように』とか、『家内安全』とかいう欲望を吐き出しているようだったので、祈りというものはそういうものだと思っていたのだ。それが今、違うと聞かされて、我輩、ショックを受ける。


《うん、タロさん。そっちの世界ではそれが普通……だったのかもしれないけど、こっちでは違うからね》

「にゃあ……(これが、カルチャーショックというやつなのだな……)」


 この世界に来てから、色々と驚くこともあったが、今回の驚きはまた、随分と大きかった。


《ここでは、僕が神託を降ろして色々なお告げをするんだ。うーん、そうだな。例えば、この場所で災害の兆しがあるから注意するように、とかね》


 『しんたく』だとか、『おつげ』という言葉は分からないものの、その後の説明で、とりあえずは注意喚起なのだということだけは分かった。そうなると、我輩が取るべき道は決まってくる。


「にゃあ。にゃーにゃ。にゃっ(それは、勝手に呼び出して悪かったのだ。我輩、欠片集めを頑張るのだ。それではっ)」


 我輩は注意喚起されても何かを動かせる者ではない。だから、セイクリアの仕事を邪魔しないようにさっさと去ることにする。


《あぁ、うん、それじゃあ……って、待って!? せっかくだから、少し話そうよっ》


 椅子から下りようとしたところで、我輩、なぜかセイクリアに止められた。それはそれは、慌てた声で。


「にゃ? (話?)」

《そうっ。ちょっとこっちでゴタゴタがあってね。それがタロさんのところに関係しそうだから、教えておこうと思って》


 そうしてセイクリアが話し出したのは、悪神ロンドが邪神に取り込まれたかもしれないという内容だった。


《タロさんには、神珠の欠片集めを頼んでいるから、邪神の復活を阻止してくれとか、討伐してくれなんて頼むつもりはない。ただ、邪神に干渉されないように気を付けてほしいんだ》

「にゃ……にゃあ? (邪神の干渉に気を付けろって……どうやって?)」

《とりあえずは、タロさんが二回ほど見ているだろう生け贄の儀式。そこにあった魔法陣に入らないことが絶対条件だよ》


 『生け贄の儀式』と言われて、我輩、少しの間何のことか分からなかったが、しばらく考えれば答えが出る。あの、サナフ教国と今居るセイクリア教国にあった異常な場所と入らずの祠の奥。おそらくそれが、生け贄の儀式が行われている場所だったのだろう。


「にゃあにゃ? (近づいて調査するのもダメなのだろうか?)」


 しかし、我輩、入らずの祠の調査はしたい。どうして人間が勝手に入って帰ってこないのか、同胞のためにも調べる必要があった。


《調査自体は構わないよ。魔法陣に触れさえしなければ良いわけだからね》

「にゃ(分かったのだ)」


 どうやら、それは許されるのだと分かり、我輩、ホッとする。飼い主を失った同胞のために、少しでも力を貸せるのだと分かったのだから。


《それじゃあ、タロさん。そろそろ時間を動かすよ》

「にゃ? (時間を動かす?)」

《うん、タロさんと会話するために、ちょっとだけ外の時間とタロさん付近の時間を変えたんだ。タロさんが話をしても邪魔が入らないようにね。時間が動けば、そこのお友達も動くから安心して》


 そう言われて振り向いてみると、ブチが彫像のように固まっているのが見えた。どうやら、ブチの時間は止まっているらしい。


《それじゃあ、またね。タロさん》

「にゃー(情報ありがとうなのだ)」


 そう言った直後、止まっていた時間は動き出すのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


確かに、神社とかでは皆、学業成就とか、家内安全とか祈るよなぁ。

タロの祈りが食欲オンリーでも不思議ではなかったよなぁ、と思いながら、多分、日本でタロに祈られた神様は頭を抱えただろうと思ってしまいました(笑)

どのタイミングで邪神のことをタロに伝えようかと思いましたが、やっぱりセイクリア教国に居るのに神託が全くないのはおかしいということで、この回に入れました。

この作品全体の大きな伏線の予定です。

それでは、また!
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