忍びしのぶれど

裳下徹和

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第二章

9 鬼門秋葉原

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 跳と栄雲は、岩倉が業務にあたる赤坂仮御所を目指す。政局の動きや時代の流れなど、跳には読めない。赤報隊の名誉回復という確固たる信念を持つ栄雲の意見に従うことにした。
 二人は神田川に沿って東を目指す。日が暮れてきて焦燥感が募るが、栄雲がいるので走ることは出来ない。舟や人力車でも使いたくなるが、既に軍からの伝達がきていたら、乗せられたまま軍に引き渡されるかもしれないので控える。
 日本橋付近まで来たとき、駅逓寮の前島に助けを求めることも考えたが、本来別の担当の前島を巻き込むのは気が引け、通り過ぎた。
 皇居を西回りに進み、赤坂を目指したかったが、軍が検問を張っていた。変装してはいるが、石走に呆気なく見破られたことを思い出し、東から遠回りすることにした。
 秋葉原にさしかかる。火事で焼けてから再建されず、相変わらず野原のままだ。前にこのあたりで邦護連の者に襲撃された過去があるが、ここを突っ切れば、時間を短縮出来る。
 黄昏時の野原を歩いていると風が吹き、跳のもとへ人の気配を運んできた。
「走ります」
 栄雲の腕を引き、跳が駆け出すと、後方から何人もの人間が追ってくる音が聞こえ出す。
「待て!勅書を置いていけ!」
 赤報隊の残党達だ。結構な人数いる。この場所は跳にとっては鬼門のようだ。
 跳一人なら逃げ切れるが、栄雲がいる。見捨てるわけにもいかない。
 追ってくる残党達が背後に迫ってきて、刀を抜く音が聞こえた。
 その音に動揺したのか、栄雲が足をもつれさせて転ぶ。
 跳が助け起こしに戻るとするが、間に合わない。すぐさま拳銃を引き抜き、弾丸を追手に命中させるが、栄雲は斬りつけられてしまった。
「大丈夫ですか?」
 跳の呼びかけに、栄雲は苦痛のうめき声を上げる。暗くてわからないが、足を斬られたようだ。
 さらに寄ってくる残党達に向け拳銃を撃って牽制し、ひるんだすきに栄雲を背負い、跳は走り出す。
 痩せていて軽い栄雲でも背負って走るのは辛いものがある。残党達は予想していなかった銃での反撃に驚いて足が鈍っているが、弾が切れたら追いすがられ、殺されるだろう。
 距離が詰められてきたので、栄雲を背負ったまま振り向き、銃弾を放ち、再び走り出す。
 秋葉原を抜け、橋を渡り、神田の町へ入った。
 騒ぎを聞きつけ町の人々が顔を出すが、跳と追ってくる残党達を見て、家に引っ込み戸を閉めた。
 身を隠す場所がないかさがしながら駆けていると、聞き覚えのある声が耳に入る。
「跳さん。それに栄雲様も」
 声がした方を見ると、るまが目を丸くして立っていた。
 後ろから殺気だった怒声と足音が聞こえてきて、るまが何かを察する。
「追われているのですか?」
 跳がうなずくと、手招きしながらるまが走り出す。栄雲を背負って走るのも限界に近付いていた跳は、引き寄せられるように後を追った。
 るまが誘導した先は、神田カトリック教会だった。
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