忍びしのぶれど

裳下徹和

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第三章

⑩ 龍神と屑鉄

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 るまに教わったことにうつつを抜かしていて、事件の捜査はまるで進んでいなかった。
 焼死事件についての憶測はいまだに飛び交っているが、反政府組織や偽札づくりと結びつけるものはない。
 跳が、街中で郵便配達をする振りをしつつ聞き込みをしていると、捜査中の石走の姿があった。何か進展があったのかもしれないので、話しかけてみる。
「火を噴く龍が、龍の彫物を入れた人間を燃やしにくる。最近はそう言われているぞ」
 事件が解決を見せないうちに、噂は少し形を変えて広まり始めていた。三人の被害者が、彫物を入れた消防団員だったことが世間に知れ渡ったのだ。
 いつも無表情な石走が、うっすら顔に苦渋をにじませながら言葉を出す。
「捜査は進展していないのに、今度は蒸気ポンプ消火器が盗まれた……」
 蒸気ポンプ消火器は、消防団が警察の管轄になる前、フランスから輸入したものだ。蒸気ポンプで水を吸い上げて放水する。車輪もついて動かすことも出来る。江戸時代から使用されていた消火器具龍吐水が、ただの水鉄砲に見える程の性能だった。しかし、性能は悪くなかったのだが、操作が複雑なことや、大きな機体が日本の細い路地に不向きだった。銀座大火の時も出動しているのだが、成果をあげることなくなく、東京の街が灰となるところを傍観する結果となった。龍吐水の強化版ということで、「龍神」とあだ名されていたが、それ以降は「屑鉄」と呼ばれるようになっていた。
「今は無用の長物として消防局倉庫に眠っていた。それが最近盗まれていることに気付いたそうだ」
 石走の話では、蒸気ポンプ消火器は、消防団が警察の管轄になる前に保管されていた消防局倉庫に、そのまま置かれていた。残された足跡から、何名かで持ち去ったと思われるようだ。
「一体何に使うのだ。解体して金属として売れば、それなりの値になるかもしれないが、労力に見合うとは思えない。消防団員殺しと関係があるのか?」
「わからん。今のところ、殺された三人や、他の消防団員が藤巴党に関係しているという証拠は出てきていない。歌山は末端で働かされていただけで、藤巴党の中枢については、まるでわかっていないようだ」
 歌山は、使い捨ての駒だったか。
 石走は話を続ける。
「しかし、他の情報は引き出せた。歌山が龍を彫った消防団員は、四人いたらしい。最初に彫った龍は、髑髏ではなく、普通に玉を手にしていたそうだ。その後、殺された三人が現れ、玉を髑髏に彫り直したそうだ」
「何故そんなことを」
「歌山も理由は知らんそうだ」
 歌山はいつ頃の出来事か覚えていた。それが確かなら、彫り直しは違式詿違条例施行後なので、厳密には違法だが、今はそんな小さいことどうでもいい。
「彫り直しをしなかった最後の一人は生きているのか?」
「死んだとは聞いていないが、行方不明だ。数年前に火消しは辞めていて、その後の足取りがわからん」
「そいつを捜せって言うのか?」
「他の事件で人が持っていかれている。人手が足りん。みつけたら麦酒をおごる」
 妻子の恩人の復讐というのなら話は別だ。
「無理するな。随分と遅くなったが出産祝いだ。ただでいい」

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