生殺与奪のキルクレヴォ

石八

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プロローグ

証明

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 この世の中は何故こうも理不尽で不平等なのだろうか。

 人は生まれた時から個人個人で能力を持っている。
 だがその能力を活かせるかは個人の問題である。


 例えばコミュニケーション能力を例に挙げよう。

 コミュニケーション能力というものは絶対音感や空間把握能力と違って誰しも最初は空白で、まっさらな白紙のノートからペンをいれていくものである。

 では何故必ずしもコミュニケーション能力に長けている者劣っている者が現れるのか。

 その理由は簡単だ、それは育ってきた環境のせいだ。
 もう一度言う、育ってきた環境で個人のコミュニケーション能力は大きく変動する。

 そしてそのコミュニケーション能力というのはあるとないとで今後の人生を大きく変動させる。


 例えば和田だ。
 今でも覚えていることがある。

 彼とは一年生の時も同じクラスだったが彼の自己紹介は今でも覚えている。

 ほとんどの人が初めて見る顔だというのに彼は爽やかな笑顔で自分の善し悪しを簡潔に話して「皆さんと仲良くしたい」と言い放った。

 「皆さんと仲良くしたい」なんて誰でも言えることである。
 だが彼の顔には好印象を掴むための歪みはなく心の底から望んでいたのだ。

 人間というのは人の考えてることを顔を見て大体嘘か誠かを判断することが出来る。

 和田の言葉は嘘偽りなく心の底から「皆さんと仲良くしたい」と発したのだ。

 その言葉を聞いてまず人はその人の顔と目を見る。

 どんな善人で、嘘をつかない人でも大勢の、しかも初めての人の前では表情は必ずと言っていいほど強ばってしまう。

 だが和田にはそれが無かった。
 それを見た同級生は皆同じことを思った。

 「カッコイイな」と。


 この「カッコイイ」と言う言葉は恋愛対象でのカッコイイではない。

 男は喋ってみたい、遊んでみたいと。
 女は質問してみたい、趣味を共有したいと。

 それと別で僕、如月 悠真は全然ダメな自己紹介をし、失敗の模範解答と言える発言と表情をした。


 顔は強張り笑ってる表情の割には目が笑っていない。

 そして「ぼ、僕は……えと……如月 悠真です……よろしくお願いします」このたった数秒の発言でクラス内のカーストランクに組み込まれる。

 男は友達にならなくてもいいな、話しかけなくてもいいなと。
 女はオタクっぽい、根暗とかマジキモと。


 そう、この一言の違いで学校生活を大きく左右したのだ。



 だがそんなカーストランクの自分より下の男が憧れている女子に好意を持たれていたと知ったらどう思うか?

 悠真は気づいていない、だが和田を含めた男子、そして女子はみんな分かっている。


 『蓮花は悠真の事が好き』ということが。

 もし悠真がコミュ障では無ければ今頃交際している可能性もある。

 だが逆も然り、コミュ障だからこそ好意をもたれたということもある。


 蓮花は派手な人は得意ではない、そして下心のある目を簡単に読み取れる。

 男と話せば視線は胸元に行き目を見て話してくれない。
 そして明らかに下的な理由で話しかけてくる輩もいる。

 だが蓮花にとって悠真は違った。
 悠真の視線には下心はなく、多少言葉は詰まってるが本心で話しかけてくれた。

 それは悠真がコミュ障という理由もあるがそんな悠真を蓮花は気になり話しかけたりした。

 そんなことをする度に蓮花は気づいたのだ。


 「悠真くんが好きなんだ」と。

 人が人を好きになる事なんてちっぽけな理由でいいのだ。
 好きになるんだったら話したら話があったでもいいし趣味があったでもいい。

 匂いが好きでもいいしセックスしたら相性が良かったという理由でも全然構わないのだ。

 悠真の事を好意丸出しで話しかけてる蓮花を見て気持ちのいい男はいない。

 それどころか立場を今すぐにでも変わりたい悠真はそんなことに気づいてなく曖昧に返答してる。



 そしてそれがイジメに繋がる。

 もし蓮花が好きな男が和田だったらどうなるか?
 それはみんな悔しいが「和田なら仕方ないな」と諦めがつく。

 では何故こうなってしまったのか?
 それは全てコミュニケーション能力の優劣で決まった勝手な個々の価値観でしかないのだ。

 そして向こうの世界で下の者はこの世界で救われるはずもなかった。

 他の人間が世界に一つしかないスキルを持っているのに悠真はノーマルスキルすら持っていない。

 これを理不尽で不平等と言わずなんと言えばいいのか?



 悠真は闘技場の端でひたすら同級生のスキルを見ることしか出来ない。

 あるものは世界陸上のチャンピオンですら凌駕するような速さを見せ、あるものは任意の場所に転移している。

 予知夢や魔物使役などのスキルを持つものは実験できなかったが頭の中でステータスを開いてそのスキル説明を見て興奮していた。


 蓮花はエルナから魔法の魔言を聞いていた。
 魔言とは魔法を唱えるために必須な言葉のことである。

 簡単に説明すれば火を出すためにメラと言い回復するためにホイミと言うようなものだ。

 「火球!」と蓮花が手を前に突き出すと的に向かって火の球が多少失速しながら飛んでいき的を粉々にする。

 真田という女子はスペシャルスキルの『炎姫』という火魔法、炎魔法のスペシャリストらしく同じく使っているのだが蓮花に火魔法のスキルはない。

 蓮花はスペシャルスキルの『魔女』により基本魔法を全て使えるのだとか。

 さらに鍛錬を積めば火や水、風に光の上位互換の魔法も使えるらしい。

 つまり蓮花は火力も出せ回復も出来る万能型ということだ。


「おい悠真、お前スキル何持ってるんだっけ?」

「な、何も無い……よ」

 分かってる癖にわざわざ近づいてきて悠真の応えを聞いて腹を抱えて笑うのは小林だ。

 彼は転移という半径50m以内の範囲を一瞬でテレポートするという能力だ。

 蓮花と同じで鍛錬を積めば一度行ったところに行けるようだが今は半径50mが限界らしい。

 何故そんな小林が転移してでも近づいてきて話しかけてきたか。

 その理由は色々あるが簡単に言えば小林はイジメの主犯なのだ。


 小林は蓮花と同じ中学校から来たらしく長年好意を持っていたのだが話しかけても素っ気ない態度を取られてとても苦悩していた。

 それなのに蓮花が悠真に仲良くしようと、その悠真は適当に返事してるのを見て心の底から黒い何かが溢れたのだろう。

 そしてそれが行動に繋がりイジメとなった。


「お前も神の塔だっけか? 一緒に来るんだろ? その時は荷物持ち頼むぜ……ぷっぷぷ……」

 それだけ言うと転移してみんなの元に戻って楽しそうに話を始めていた。

 悠真は何回も何回も頭の中で開けと念じてステータスを開くがやはりスキル欄は寂しく何も書いてない。

 そんな悠真を見て和田はゆっくりと歩いてくる。


「如月くん、なんて言ったら分からないけどさ……その、気にしなくてもいいと思うよ。確かにスペシャルスキルが無いのはアレだけどノーマルスキルとかは覚えられるってエルナさん言ってたよ? だからさ、挫けずに一緒に頑張ろ?」

 優しく手を差し伸べてくる和田。
 その手を掴んで悠真は同級生の元に引っ張られていく。


「スキルが多いやつはいいよな」

 ついボソッと言ってしまった言葉、しかし和田は他の友達と喋っていた。


「ん? 如月くん何か言ったかい?」

 自分でもなんて言ったか分からなかった。
 だが頭の中で自分の声が復唱される。

 何故自分でもこんなこと言ったのか分からないが、これは明らかに嫉妬である。

 和田は最初からスキルを3つも所持している。
 しかもスペシャルスキルは『勇者』という名前だ。

 現実でも勝ち組だった彼がこの世界でも勝ち組で自分はどこに行っても負け組という事実につい妬みの発言をしてしまった。


 皆は和田を囲んで仲良く会話を交わしている。
 その中で悠真の方を見たりする者は1人もいない。

 蓮花が悠真に近づこうとすると相澤が『迅速』で近づき小林が『転移』で道を塞ぐように回り込む。

 少し悲しそうな表情をしつつも蓮花は相澤、そして小林と仕方なさそうに会話していた。

 そんな事を相澤と小林が気づくはずもなくただ喋れてることに喜びを感じていた。


「皆さま、これで実験の方を終わりにしたいと思います。明日からは剣と魔法の訓練です。魔法は練習すれば誰にも使えるので頑張りましょう。そしてあとはこの世界についての勉強も3日かけて行いますので頑張りましょうね」

 そう言ってエルナは退室する。
 そのエルナに続いて退室する者はおらず、皆自分のスキルの実験をしていた。

 悠真はすることがないので大人しく静かに闘技場の扉を開く。


「あれー? 悠真は残ってスキルの実験しないのかー?」

「おいおい小林、悠真はスキルが無いんだよ!」

 相澤と小林がコントのように二人芝居をするとそれに釣られて蓮花と和田以外が大爆笑する。

 これを和田や蓮花を止めようとするもさすがに人数が多く笑うのを止めるので精一杯だった。


 そんな奴らに反論なんて出来ず大人しく自分の部屋に帰るしかない。

 そして悠真は手を強く握り、固く決心した。


 「実力で負けても知識で負けない」と。

 この世界でのルールなどは向こうの世界とはかなり違う。
 そのため真面目に取り組まないといつか絶対損する。

 スキルがない自分が出来ることと言ったら勉強しかない。

 選択肢は2つ、勉学に励み誰よりもこの世界の事を知るか怠惰し、何もせずに皆が神の塔を攻略するのを待ち自分は街中でダラダラとすることだ。

 だったら得のある前者の方が圧倒的に良い。
 知識とは何事も凌駕する素晴らしい道具なのだ。

 正直怠けて城下町に行き美人な奥さんと幸せに暮らす未来もいいのだがこのままで食い下がるのは悔しい。

 部屋に戻り服をハンガーのような物にかけて砂埃を軽く叩き落とす。

 シャワーを軽く浴びてバスローブ姿になりベッドにもたれかかる。


「火球」

 手を蓮花のように突き出して魔言を唱えるが火なんて何も出ない。

 だが地味にステータスが[魔力8/10]と表記され魔力が2減ってることが分かった。

 つまり火球を使うための消費魔力は2という事だ。

 悠真は続けて2度、3度と「火球」と唱える。
 そして4回目を終えると激しい目眩を起こす。

 ステータスを辛うじて開くと[魔力0/10]と表記されてるのを見てベッドに倒れ込む。


「はぁー……はぁー……」

 まるで全力でフルマラソンを走った後のような疲労感と体の痛みが襲いかかる。

 火球と唱えたのは4回、そして消費魔力は2なので残魔力は2あるはずなのだ。


 ここで3つの仮定が生まれる。
 1.本当の消費魔力は3や4で火属性魔法の熟練度が上がり一歩前進した。

 2.同じ魔法、もしくは同じ属性の魔法を使えば使うほど疲労度、過労度が貯まり消費魔力が若干増える。

 3.体の疲労に合わせて消費魔力が増大する。


 確か水属性魔法のスペシャリストの蓮華美佳子れんげみかこは「水球」と唱えて水の球を前方に飛ばしていた、

 次は水球→火球→水球と繰り返して発動させて消費魔力の減りを確認する。


 とりあえず体がものすごくだるいので横になって睡眠をとることにした。







 目を覚ますと机の上に美味しそうな料理が置かれていたので椅子に座りスプーンを取り食事する。

 ステータスを開くと[魔力6/10]と表記されているのを確認した。

 体を休めたことにより魔力が自動回復したらしいがまだ全回復ではないらしい。


 睡眠時間は2時間くらいなので20分に1回復したと計算できる。

 だがこれは自分の場合なので蓮花のように魔女のスペシャルスキルを持ってる場合の消費魔力と自動回復時間は不明だ。

 食事を進めていると部屋の扉がノックされる。
 開くとそこには料理をお盆で持った和田が立っていた。

 「一緒にいいかな?」と聞かれたので了承すると部屋に入り悠真の反対側の椅子に座り食事を始める。


「如月くん、お願いがあるんだ」

 食事途中に声をかけられたため冷たいお茶でご飯を軽く流し込む。


「うん、どうしたの?」

 和田は若干言いたくなさそうにしてたが決心したのか口を開いた。


「もし、もし何かあったらすぐに僕を頼ってほしい。如月くんが僕のことをどう思ってるかは分からない。でも相澤くんや小林くんに何か言われたらすぐに僕に伝えて欲しいんだ。如月くんがノースキルだからこんなことを言ってるんじゃないんだ、彼らはこの世界に来て少し浮かれてるからいづれ君になにかしでかす。だからその時は頼ってくれ」

 スプーンを置いて和田は悠真の目をまっすぐ見て話す。
 その目はバカにしてるだとか騙すなどの雑念は込められてなく、和田自身の本当の気持ちを伝えてくれたのだろう。


「う、うんありがとう。その時はお願いするよ」

 そう言うと和田は爽やかな笑顔になりスプーンを掴み食事を再開した。


「如月くんってさ、この世界に来て1番落ち着いてるよね? 落ち着ける秘訣だとかそういうのはあるのかな? 僕はまだこの世界のことを認めきれてなくてさ……」

「ぼ、僕はゲームとか沢山してるからこんな感じの世界観とか見慣れてるって言えば分かる……かな?」


 それを聞いた和田は「なるほどね」と笑っていた。
 この世界一般的な強さでは負け組でも知識などで勝ち組になると決めた悠真は既にこの世界を認めていた。

 そのおかげでなんだか心が楽になりむしろこの状況を楽しいと感じるようになってきた。

 否めないのはノースキルと言う事実だけなのだが。



 食事が終わり和田と別れを告げたあと部屋を出る。
 扉の看板を『外出中』に変更して悠真は1階に向かう。


「すいません」

「……む? キサラギさまでありませんか、どうしたのですか?」

 話しかけた人はエルナの近くによく立っており、エルナのお世話係であるクリードだ。


「クリードさんも見てた通り僕はノースキルなんです。ですから自分の身を守ることが出来ない僕に剣術の基礎を教えてほしいのです」

 そう言うとクリードは少し目を閉じて唸る。
 表情から読み取れるのは「勝手に稽古をしてしまっていいのか」と考えてるだろう。

 するとそこにエルナが歩いてくる。
 クリードはすぐに立ち上がり敬礼のようなポーズをとる。


「クリード、いいじゃありませんか。皆スペシャルスキルを得て浮かれてるはず。キサラギさんの向上心は素晴らしいものだと思いますが……0の刻まで稽古してあげてもいいのでは?」

「皇女様がそう言うのであれば……かしこまりました。ではキサラギさま、闘技場に半刻後来てください。2刻ほど稽古をつける、途中退室は認めないぞ」

 それだけ言ってクリードは自室に戻っていく。
 エルナに頭を下げて感謝して自分の部屋に戻り配給された服に着替え直す。

 持ち物は何も無くていいらしいので身なりを整えて少しの間お茶を飲んで休憩する。

 魔力は全回復していたためクリードの稽古が終わり、睡眠をとる前に実験を行うことにするとしよう。



 闘技場に向かうとクリードが木刀を二本腰にぶら下げて立っていた。

 何故かは分からないが闘技場の隅にメイドさんが2人ほど立っていた。


「キサラギさま、もう一度確認するがどんなに泣こうと2刻の間は絶対にこの部屋から出さない。それでもいいのかな?」

「は、はい。覚悟は既に」

 そう言うとクリードは近づいてきて木刀を渡す。
 そして後ろに回り込み悠真に剣の持ち方をレクチャーする。


「右利きのキサラギさまは右手を上、左手を下にしてしっかりと柄を握ってくれ。そして背を伸ばしすぎず腰は曲げすぎず、走りやすく力を加えやすい体勢に」

 クリードの説明を一言一句聞き逃さずしっかりと言われた通りに構える。

 そして腕の力を抜いて刀身を利き目側へ少しずらした。


「その構えだ、木刀だから軽いが本物は鉄の剣だ。重量も増す、それを補うのがその体勢だ。では今からその体勢のまま半刻過ごすのだ」

「は、はい」

 半刻というのは30分のことだろう。
 1刻が1時間、2刻が2時間なので0刻は24時を示してるはずだ。

 30分間この構えをして体に無理やり覚え込ませるのだろう。
 だが腰を少しだけ曲げ、重めの木刀を持ち上げているのでかなり筋肉が使われる。


「キサラギさま、腕が下がっておるぞ」

「はい」

 腕を上げると次は上げすぎと言われた修正される。
 そしてその後に同じ体勢で闘技場を一往復しろと言われて丁寧かつ慎重に往復する。

 その間にも腰が上がってるなどと注意を受け、結局約1時間半ほど時間を費やしてしまった。


「うむ、そこらの兵士よりも全然いい構えになったな。では次は木刀を振ってみろ。私と一太刀交えるのはまだまだだ、今の構えを意識してゆっくりと素振りをするんだ」

「はい」

 木刀を振り上げてまっすぐ振り下ろす。
 だがクリードに指摘され再びレクチャーを受ける。

 剣先を曲げないように振り下ろすこと、腰を少しだけ伸ばして振り下ろす時に再び縮めること、利き手と逆足を前に出すこと。

 何回も剣を振り指摘され、再び剣を振り指摘されるのを繰り返していたら闘技場のメイドがクリードに近づいてくる。


 おそらく終わりの通告だろう。
 悠真の予想は当たったようでクリードが終わりを告げたので頭を深く下げて感謝の言葉を伝える。

 これを残り少ない時間で繰り返す。

 スキルはなくても覚えればいい、覚えれなくても基礎を覚えているだけで魔物の対処は出来ないことはなくなる。


 闘技場を出て自室に戻りシャワーを浴びる。
 再びバスローブに着替えてベッドにもたれかかる。


「水球」

 手を突き出して水球と唱えると魔力が2減ったことを確認できた。

 そして火球を唱えると再び2減り、再び水球を唱えると魔力が2減った。


 次が問題だ、これで次火球を唱えて魔力が2残れば成功だ。
 もしこれで2残らず再び0になった場合この仮定は間違いということになる。


「火球」

 すると多少目眩を起こしたが残魔力が2残ったことを確認して悠真は手をグッと握る。

 こんなの簡単な知識でしかない。

 それどころか明日の授業で教わる簡単なことかもしれない。
 だがそれでも自分で気づき証明できたことに意味があるのだ。


 そして悠真の頭にさらに次のことがよぎる。
 残魔力が1の時に消費魔力が2の魔法を使ったらどうなるのか? と。

 今の悠真の魔力自動回復は1回復するのに20分かかる。
 お茶を飲み、茶菓子を食べて時間を潰し、残魔力が3になったことを確認する。


「水球」

 魔言を唱え魔力が1になったことを確認して今度は「火球」と唱える。

 すると魔力は無くなり尋常じゃないほどの目眩と頭痛が襲いかかってくる。

 それどころか体の節々が痛くなりまるでインフルエンザにかかった時のように体が重くなり痛くなる。

 そのまま意識が遠のいて悠真はベッドの上で気絶でもしたかのように倒れ込み1日を終えた。










 目が覚めると太陽が部屋を若干だが照らしていた。
 朝食の時間は7の刻、7時なので今の時間は明るさ的に考えて5時くらいだろう。

 全身が汗でびちゃびちゃになりベッドに大きなシミを作っていた。

 ステータスを開くと[魔力7/10]と表記されていた。
 計算上20分に1回復するはずだ、それなのに約5時間経ったはずなのに全回復していない。


 悠真の場合は3時間と20分で魔力が全回復、火球を撃つための魔力を貯めるため40分も待つ必要があるという割に合わないのだが元々魔法職ではないためこれが妥当だろう。

 ビッショリと濡れた布団で寝るのは気が引けるのでシャワーを浴びて汗を流して体を拭き椅子に座る。

 軽くお腹が減っていたので茶菓子をつまみつつ半開きのカーテンを全開にするとエルナが庭で花に水をあげているのを見つけた。

 庭の手入れとか花の世話とかメイドがやると思ってたがきっとエルナの趣味か娯楽の何かなのだろう。

 とりあえず椅子に座り何もせずに1時間ほど過ごしていたら部屋の扉がノックされる。

 最近来客が多いなと思い部屋を開けると蓮花が立っていた。


「ごめんね、起こしちゃったかな?」

 結構前に起きたばかりと伝えると蓮花の表情が少し柔らかくなり部屋に入ってくる。


「どうしたの? こんな朝早くから」

「うん、ちょっとね」


 椅子に座らせてお茶を注いでマグカップを渡す。

 本来ならジュースとかを振る舞うのが正しいのかもしれないが部屋にはお茶と水、お湯しか無く、ジュースなどは王室間くらいでしか飲めないのだ。


「悠真くんって小林くんたちに嫌がらせを受けてるでしょ? それって私のせいらしいんだよね」

 「そうだよ」なんて言えるはずもなく「そうなの?」としか言えなかった。

 世の中には良い嘘と悪い嘘がある。
 まぁ、どちらも用途を間違えたらとんでもない事になるが。


「だから、この際言うけど……私は……私は悠真くんのことが」

 もしかして好きと言いたいのか?
 いやいやいやいや、こんな地味で弱っちい自分をこんな美少女が好きになるはずがない。

 蓮花が言い切る前に部屋の扉が再びノックされて和田が顔を見せる。

 そして和田は蓮花の表情を見て何かを察したのか悠真に「もうすぐ朝食だからね」と伝えて階段を降りていってしまった。


「西園寺さん?僕がどうしたの?」

 そう聞くが蓮花は顔を赤面させ手を横に振って「やっぱりなんでもない!」と言ってドタバタしながら扉を開けて階段を走って降りていってしまった。

 何故こんなことになったか悠真は分からず、扉を出て木の看板を裏返して王室間に向かったのであった。

 王室間に着き自分の席につくと友達と仲良く喋ってた蓮花が悠真に気づいて早歩きで近づき隣に座る。

 これから7日間剣と魔法の訓練、そして3日間の勉強がある。
剣と魔法の訓練のためにしっかりと食事を取らないといけない。

 今日はいつもよりも多めの朝食だったがご飯を1回おかわりして朝食を流し込んだ。










「それでは今から剣の訓練を始めます。クリードの指示に従いこれから2刻の間真面目に取り組んでくださいね。ではクリード、お願いします」

 エルナが指示するとクリードは「かしこまりました」と言い闘技場の端から鉄の剣を人数分持ってくる。

 闘技場の端にはメイドが3人ほど立っており、エルナは闘技場を出て何処かへ向かってしまった。


「ではまずは2人1組を組んで実際に剣を交えてくれ。相手を怪我させても彼女たちが回復させてくれる。むしろ相手を傷つける勢いで交えてくれ。実際のモンスターに出会って怯んでしまったら意味が無いからな」

 昨日の訓練では構えの稽古だったが違うのか?
 人数が多い分見る者が少ないから身体で効率のいい自分に合った構えを見つけろということなのだろうか。

 でも自分はクリードに構えを教えてもらったからその構えをするしかないだろう。

 それよりも2人1組という嫌いなワードが出た。
 2-3は偶数人なので余ることはないが……まぁ仕方ないか。


「おい悠真、俺と組もうぜ」

 話しかけてきたのは小林だ。
 明らかに「お前への不満をここでぶつけてやる」的な思惑があると思うがここは了承した。

 どうせ怪我させるために出鱈目な力で振ってくるに違いない。
 なによりも今の小林含め悠真以外の生徒は皆自分の力に慢心している。


「組んだな? では距離を取って始めてくれ。怪我をさせてもいいが止められてもなお剣を振るようだったら私が厳重な処罰を与える。では始めてくれ」

 クリードは闘技場の端に行きメイドの隣で仁王立ちしている。

 小林に誘導されてクリードから一番離れた場所、そして他の生徒が邪魔になり視界を遮られる場所に連れてこられた。

 悠真が教えられたとおり鉄の剣を持ち構えるとその姿に小林が笑ってカッコつけながら片手で剣を持った。


「行くぞ悠真!」

 剣を持ち走って接近して悠真を殺す勢いで剣を横から振るう。

 だがクリードから教えてもらった構えのおかげで冷静に対処することが出来る。

 怪我を与えることが出来ず小林はそのまま出鱈目に上から横からと剣を振るってくるが冷静に剣を構えて剣筋を防ぐ。


「守ってばかりじゃ勝てねぇぞ!」

 防がれてばかりで苛立ってしまったのか小林は剣を大きく振りかぶる。

 そんな隙だらけの大振りを見逃すわけなく悠真は首元に剣を振る。

 首元に剣を振られた小林はこちらに聞こえるくらいの歯ぎしりをして悠真の頭に剣を振り下ろす。

 そこにクリードの剣が割り込み小林の剣が後方へ弾き飛ばされた。


「今のはコバヤシさまの負けだ。それに最後の振りは明らかにキサラギさまへの殺意が向けられていたのだが?」

 そう告げられると舌打ちをして自分の剣を拾うために後ろを向いて歩いて行ってしまった。


「キサラギさま、昨日の構え忘れてないようで安心した。これからも意識するように」

 そのままクリードは他の人にコツなどを教えるため別の組に向かってしまった。

 見る限りやはり皆剣を振るうのが苦手、もしくはモンスターを殺すことがよく分かっていないのか剣筋が明らかに甘い。

 モンスターなんて見たことないため当たり前だが実際出会ってしまったら動けないのではないかと思う。


「悠真!もう一回だ!」

 懲りずに小林が接近してくる。
 また同じように対処しようとしたが小林は剣を振り上げずに目をつぶっていた。

 すると目の前から消えて後ろに回り込まれる。
 後ろを見ると剣を振り上げている途中だったので前へステップして距離を置く。

 再び小林は目をつぶり姿を消すと悠真の後ろに回り込み剣を振ってくる。

 だが転移後も転移前と同じポーズだったためすぐに避けることが出来た。


 小林の顔に苛立ちが見える。
 しかしスペシャルスキル転移の発動条件が何となく分かった。

 まだ慣れていないため精神統一が必要なのだろう。
 そのため目をつぶる必要がる。

 そしてモーション中に転移することはまだ無理らしい。
 本当に回り込んで切り込んでくるなら転移前に剣を振り下げて転移して悠真の背を切るはず。

 さすがにそんな事が思いつかないほど小林はバカではないだろう。

 つまりまだ転移を完全に使えるわけではなく色々な制約によって縛られているのだ。

 それが分かればもう対処は簡単だ。
 小林は自分の背を狙ってくる単純な動きしかしない。

 小林が転移した瞬間剣を後ろに振ると小林の腹を掠める。

 服が切れてハラリと腹が顕になると小林は剣を地面に叩きつけて舌打ちをして何処かへ行ってしまった。


「ふぅ」

 一息つきクリードに教えてもらった構えをしながら往復する訓練を1人で続けていたら時間になったのかクリードが終わりの告げる。

 次の訓練は魔法だ。
 休み時間は30分しかなく急いでシャワーを浴びて服を着ると悠真の部屋に小林が転移してきて胸ぐらを掴まれる。


「悠真、お前調子に乗るんじゃねぇぞ」

 そのままベッドに突き放して小林は転移してしまった。

 調子など乗ってない。
 ただ小林の動きが甘かっただけなのにこの仕打ちを受けるなんておかしい。

 どうせ自分が和田だったら笑って「すげーな!」とか素直に褒めるんだろうな。

 そんな複雑な心境になりつつも悠真は闘技場に向かうのであった。
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39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

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