生殺与奪のキルクレヴォ

石八

文字の大きさ
4 / 60
第1章

殺奪 -キルクレヴォ-

しおりを挟む





 闘技場に向かうと剣の訓練が終わっても残っていたのか7人ほど仲良くグループを作り談笑していた。

 重い扉を開けて闘技場に入ると悠真の姿をチラ見してくるがすぐに視線を戻して話を再開する。

 どうせ話の内容なんてくだらないに決まってる。
 魔法の訓練が始まるまで悠真は壁の端にもたれかかって訓練が始まるのを静かに待つ。


 しばらく待ってるとポツポツと闘技場に人が現れ始め、小林がが入ってくると悠真に気づきキッと睨む。

 正直剣術ではまだ悠真の方が上だ、それにスペシャルスキルだってたかが制限の多い転移だ。

 剣術や魔法は覚えられるとエルナが言っていた。
 ならスペシャルスキルを持っていない自分でもまだ上位にくい込むことが出来る。

 ここで怠けずに真剣に取り組めば絶対に活躍できるようになる。

 自分もルザインならいつか、そういつかスペシャルスキルを習得する可能性がある。

 その日までひたすらトレーニングだ。
 絶対にこの世界で生き残って綺麗なお嫁さんを見つけて素晴らしい人生を歩んでやるんだ。


 そんなことを考えていたらエルナが闘技場に入ってきて魔法の訓練の始まりを告げて闘技場の中心に歩いていく。


「これから魔法の見本を見せますね。魔法を出すコツは手のひらに血液に集める感じです。口ではあまり説明出来ないので体で覚えるしかありません。では……『火球』」

 やはり炎姫の真田や魔女の蓮花に比べて火力はとても低いが立派な火球を飛ばしている。

 何回も何回も飛ばしてるとエルナの足元がふらつき倒れそうになる。

 クリードがエルナを優しく抱き寄せて口元に銀色の果実を運び齧らせるとエルナの顔色がみるみるうちに良くなっていく。

 どうやら魔力が全回復したようだ。


 あの銀色の果実……かなりレア物のアイテムに見える。
 火球を10発撃って倒れるということは魔力はあまり多くないとみた。


「では皆さん、まずは覚えやすいスタンダードな『火球』『水球』『風切』の一つを選んで試してみてください」

 エルナが指示をしてクリードに連れられて闘技場の隅で座り、クリードは皆を回ってコツなどを教えている。

 とりあえず魔力は10しかないので火球と水球を2回ずつ繰り返し魔力を2残してエルナにゆっくりと歩み寄る。


「エルナさん、エルナさんって何属性の魔法を使えるんですか?」

 悠真が問うとエルナは火と風属性の魔法が使えると教えてくれた。

 エルナの魔力は全回復したようなので違う属性の魔法を交互に使うように促す。


「その……火球と風切を繰り返して使用しろってどういう意図があるのですか?」

 とりあえずやってみてくださいと伝えると不思議そうにしつつもエルナは火球と風切を繰り返し使用して合計10回以上展開したがエルナの顔色はとてもよく本人もよく分からない様子だった。


「同じ魔法、もしくは同じ属性の魔法を使うと消費魔力が大幅に上がるんですよ」

 そう聞くとエルナは信じられないと言った顔をして悠真に「どういうことですか?」と聞き直す。


「り、理由なんて不明です。でも魔法の実験をしていたら気づいたんです。では僕はもう魔力がないのでここで座ってますね」

 エルナの隣で腰を下ろして談笑をする。

 先ほどの銀色の果実の名前は話せなかったらしいがとても高価な果物らしく、予想通り魔力を大幅に回復させるアイテムということを知れた。

 魔法の練習をしていた者は消費魔力が増えることなど知らずにバンバン使用して顔色を悪くして膝をついていた。

 だが魔法特化のスペシャルスキル、そして勇者のスペシャルスキルを持った和田などはピンピンしている。

 彼らも同じ魔法を何回も使用していたはずなのだがやはりスキル補正的なのが働いているのだろう。

 今日のために実験をしておいて良かった。
 おかげで地面にぶっ倒れるという惨めな姿を見られることがなくなったからだ。


 倒れた生徒にクリードが小さく切った銀色の果実を食べさせると全回復とはいかないが魔力が戻ったようで顔色が良くなっていた。

 悠真も立ち上がりクリードの元へ銀色の果実を貰おうとしたのだがそこにさっきまでぶっ倒れていた小林が何故か立ち塞がる。


「悠真、お前さっきまであそこでサボってただろ。何食おうとしてんだ」

「僕はここで訓練する前にしっかりと確認したんだ。だから馬鹿みたいに使用して倒れることないように節約したんだよ」

 さすがにイラッときて口が荒くなってしまったのだが真っ当な意見を言われ小林は苛立ったのか拳を握り殴りかかろうとするが和田に止められる。

 和田が諌めると小林はわざと聞こえるくらい大きな舌打ちをして友達と悠真の悪口を言うために遠くに行ってしまった。

 本当に考えといい行動といい幼稚すぎる。
 ていうかこの世界に来て変な圧力が消えたのか段々周りへの恐怖が無くなってきて自然と喋れるようになった気がする。


「如月くん、大丈夫かい?」

 和田に無事を伝えてクリードから銀色の果実の欠片を貰い少し齧る。

 すると1/3ほど食べただけで魔力が全回復した。
 おそらくスキルだけでなくステータス面でも一番下なのだろう。


 そのまま火球、水球と繰り返し銀色の果実を齧るのを3回ほど繰り返して魔法の練習をしたがやはりスキル欄は寂しいままだ。

 なんなんだ? もしかして自分はスペシャルスキル『スキル習得無効化』でも覚えているのだろうか。

 実は表記されてないだけで裏スキルみたいなものでもあるのかもしれない。


「悠真くん! 魔法は撃てたかな?」

 蓮花が嬉しそうにちかづいてきて話しかけてくる。
 だが撃てないことを伝えると「なら頑張るしかないね!」と言って友達の元に喋るために行ってしまった。


「おい、悠真」

 いつの間にか転移されており小林に後ろに回り込まれていた。
 そして返答をするため振り返ろうとした刹那──


「ぐっ!?」

 小林に顔面をぶん殴られそのまま吹き飛ばされて馬乗りになり悠真はただひたすら殴られ続ける。


「気に入らねぇんだよ! その目つきも態度も声も存在も! そして西園寺さんに気に入られてるのに何でもないようにしてるそのお前が!」

 なんでいきなりキレてんだ。
 それに滅茶苦茶な暴論を言って自分を正当化しようとしてるコイツがムカつく。

 一番むかつくのは関係の無い西園寺さんの名前まで出された挙句何も言えず反抗できない自分がなによりもムカつく。


「小林くんやめるんだ! こんなことしてなにになるんだい!?」

 和田が引き剥がすも小林は転移してすぐに悠真を殴り続ける。

 転移には精神統一が必要なはずだが吹っ切れた小林に精神統一してる暇はない。

 おそらく怒りが、そして嫉妬がなによりの原動力になり転移の可能性を広げたのだろう。


「小林くんやめてよ!」

 蓮花が声を荒らげると小林が蓮花に振り向き殴る手を止める。
 そのまま小林は悠真の上で脱力してクリードに連れていかれた。


「悠真くん!大丈夫!?」

 大丈夫と言えば嘘になる。
 体のあらゆる場所が痛いし口の中に血の味が広がっているからな。

 やっぱり負け組はどこに行っても負け組なんだな。
 勝手な難癖つけられても助けてくれるのは和田と蓮花のみ。

 他の連中は関係ないようにどこか遠くを見てたり面白そうに見てたりと誰も心配なんてしてくれない。

 本当に酷い話だ。
 殴られた自分をまるでゴミのように見ている。

 まるで「当たり前だな」とでも言うように。


 口から血の塊をぺっと吐き出して「大丈夫だよ」と答える。

 蓮花は悲しそうな顔をしてたが悠真の返答を聞いて少しだけ落ち着いたのかホッとしていた。

 決めた、自分を見て嫌がる者、そして嫌う者がいて、そんな自分が傷ついて優しい者が悲しむんだったら……



 自分はもうこの城を出る。

 知識なんてそれから覚えればいい。
 知識で勝つとか決めたっけな……訓練すれば小林なんて超えれるって思ってたっけな……

 でもそれ以上にこんな自分に心配してくれる西園寺さん、そして和田に迷惑をかけたくない。

 こんな険悪な雰囲気になってしまったら神の塔のための訓練もままならなくなってしまうだろう。

 そう決心して悠真は口元に付着した血液を拭き取り闘技場の扉を開けて部屋に向かう。

 城を出るのは夜だ、寝静まった夜中に部屋の窓から飛び降りる。

 3階だが高さはそんなにない、それにふかふかの草がクッションになってくれる。

 だが足への負担は凄まじいだろう。
 なので掛け布団と敷布団を先に落としてクッション代わりにしよう。

 エルナやクリードは悠真を心配そうに見て和田を含めた生徒はそんな悠真を不思議そうに見る。

 だがただ1人、西園寺 蓮花はそんな悠真の表情の変化に気づいて何かに気づいたのであった。











 自室に戻りシャワーを浴びる。
 スマホなども一応カバンの中に入れて出発の準備をする。

 出発するのは夜中、時間的に言えばあと3時間くらいだ。
 30分後に階段を上がってくる音が聞こえる、おそらく訓練が終わったのだろう。

 城の後ろには森林が広がっている。
 城の近くのためモンスターも少ないはずだ、目標は森林の奥、そしてさらに遠くだ。

 それまでしばらく睡眠をとることにしよう。
 今日の夜はバレずにそして遠くに行く必要がある、

 これでもし捕まって連行されたら『逃亡者』として永遠に笑われ続けるだろう。

 悠真はきっちりとメイキングしてあるベッドに体を預ける。

 イヤホンをし、スマホでアラームをセットして眠りにつくのであった。




 『ピピピピ!ピピピピ!』と甲高い音が脳内に響き渡る。
 アラーム音の設定を間違えてしまったらしい。

 体を起こしてカバンの中にスマホ、イヤホン、そして申し訳程度の茶菓子を入れて部屋の窓を開ける。

 いつの間にか洗濯されてあった向こうの世界から着てきた服に着替えてベッドの掛け布団とシーツを敷布団の下に重ねる。

 外に放り投げた時に軽い掛け布団やシーツがどこかへ飛んでいく可能性を考慮して重量感のあり分厚い敷布団を上にした。

 窓から布団を放り投げると少し時間を置いてボフッという小さな音が聞こえてくる。

 下を覗くと布団が真下に着地していた。

 地上までの距離は10mもないと思うがやはり怖いものは怖い。

 だが自分のせいで罪のない人も傷ついてしまうのは1番嫌だ、だから自分の足が多少怪我しようと飛び降りるしかない。

 窓の淵に乗っかって足を外にぶら下げる。

 高所恐怖症なら絶対に飛び降りることはないと思うが幸いにも悠真は高いところは平気、むしろ得意な方だったので余裕だった。


 暗黒の夜空には暗い世界を照らす半月の月が眩しいくらいに輝いていた。

 多少雲もかかっていたが星もたくさん見え、まるで田舎の夜空のように綺麗だった。


「さて……行こうかな」

 飛び降りようとすると悠真の部屋の扉が開かれる。
 後ろを向くとそこには蓮花が呆然と立ち尽くしていた。


「悠真……くん?」

 ゆっくりと蓮花が歩み寄り窓の淵に置いてある悠真の手にそっと触れる。

 蓮花の手は震えており、悠真がこれから何をするかを察しているようだった。


「西園寺さん、僕は別の道を歩むことにするよ」

 そう言うと自分のバスローブの裾をシワが出来るほど握っており、肩が少し震えているのが見てわかる。

 蓮花は闘技場で分かってしまったのだ、悠真が責任を持ってしまいここからいなくなること、そして誰にも気付かれずに自分の力で強くなりに行くことも。


「止めても……止まってくれないんだよね?」

 その言葉に頷くと蓮花は下唇を噛んで俯いてしまった。

 そんな表情になってほしくないのに出ていこうとしたのだがこれじゃ本末転倒である。

 それにクリードの訓練も結局1日ですっぽかしてしまった、いつか再開したら謝罪をしなければならない。

 いや、逆に考えればクリードは待っている可能性もある。
 蓮花がいくら悠真のことを急いで伝えてもがむしゃらに走れば見つかることは少ないだろう。


「ねぇ、私、止めないから。それに悠真くんがどこかに行っても誰にも言わないから!」

 意外な反応だ。
 普通なら無理矢理にでも悠真を掴んで窓の淵から降ろすはずである。


「でも……いつか、いつかまた会えるよね?」

 そんな確証はない。
 この世界は優しくない。
 悠真が明日に死ぬ可能性もあるし蓮花が神の塔にみんなで挑戦して多大な犠牲が出てその中に蓮花がいるかもしれない。

 そんなことを思いつつも自然と首を縦に振ってしまう。
 心のどこかで寂しいと思ってる自分がいるのかもしれない。

 だがこの気持ちは蓮花にしか現れない、この気持ちを知るのは当分あとかもしれないな。


「じゃあ……元気でね」

「うん、西園寺さん。またいつか」

 蓮花が後ろを向き悠真は身を放り投げる。
 その時何故か蓮花の頬に涙が伝っていたのに気づいて空中で時間が止まったように長く感じる。


「悠真くん──だよ」

 風の切る音とカーテンが風で煽られた音で蓮花の言葉が遮られる。

 中途半端に聞こえた言葉に「え?」と間の抜けた声をあげてしまう。

 その刹那背中に柔らかい感触が伝わる。
 上手く着地したようだが蓮花の言葉が聞こえなくて気になってしまい自分の部屋を見上げる。

 悠真の部屋から髪を耳にかけた蓮花が身を乗り出していた。
 月明かりに照らされた髪の毛は美しく、ついドキッとしてしまう。

 そんな蓮花の頬には星のように輝く大粒の涙がぽろぽろと流れており手を小さく振っていた。

 手を振り返して悠真は急いで森林の中に走っていく。
 そんな悠真を見届けて蓮花は自分の部屋に戻っていった。









 森の中を走ってまだ10分くらいだろうか?
 意外とぬかるんでおらず、デコボコとした地形はないため走りやすかった。

 ただ樹海のように後ろを振り向けばもう城の光も見えず、四方八方木と草の祭りとなっている。

 今更だが水を持ってこなかったことがとても悔やまれる。
 茶菓子なんて腹にたまらないし無駄に口の中の水分が飛んでしまう。

 カサカサと音がして足元を見ると7cmほどの大きさのトカゲが1匹チョロチョロ走っていた。

 やはり城の近くの森林とだけあってモンスター、魔物の姿が見えなくて安堵する。


 しばらく走り続けると木の上に歪ながら赤いリンゴのような果実が実っていた。

 小石を拾い投げても命中しないのでわざわざ木の上に登りリンゴのような果実を3つ収穫してカバンに入れる。

 走りながら赤い果実を1つ齧ると甘味は少なく酸味が多かったがとてもみずみずしく喉が潤う。

 いつもなら適当に食べて捨てるのだが芯は捨てるものの種も噛み砕いて腹の足しにする。


 意外な新事実なのだが意外と種の中が甘くてびっくりした。
 種は少なかったが多少ながら腹には貯まるだろう。

 しかしいくら走っても走っても同じような光景が広がるのみ。

 少し疲れたので木の幹にもたれかかり足をマッサージしながら呼吸を落ち着かせる。

 首元に変な虫が近づいてきて変な声をあげてしまったのだが気にせずマッサージを続ける。

 別に虫が苦手な訳ではない、突然現れたからびっくりしたのだ。

 マッサージが終わり立ち上がり足首に溜まった乳酸をコキコキと回して抜き、再び走り始める。

 木の上にも意識を集中させ、食料となる果実を隅々まで探す。

 黄色い粒の果物や青い果物もあったが毒があったら怖いので見たことのある赤い果実のみ探す。

 しかしなかなか見当たらない。
 あまり自然に自生している果物ではないのだろうか?





 走っていると大きな渓谷を見つける。
 その渓谷は高さ20mほどある大きなもので、滝が流れているのか水の跳ねる音が聞こえる。

 向こう側まで10mほどあり、回り込みたかったのだが崖に囲まれているためここを越えるしかないらしい。

 だが向こう側まで行く方法はない、腐りかけの木が橋になってるわけでもなく、階段があるわけでもない。


「ここを下るしかないのか……」

 つまりロッククライミングをするという事だ。
 高所恐怖症ではないがやはり勇気がいる。

 落ちたら即死だ、渓谷の底に連なる今に体を強く打って内蔵が飛び散るだろう。

 だが幸いにも絶壁ではなく内側に傾斜がある渓谷だったのでゆっくり下れば滑り落ちることはない。

 足で踏み台になれる窪みを探してゆっくりと下りる。

 やはり緊張してしまい手が震えてしまい突起した岩を掴む手が覚束無い。


 30分で半分ほど下ると休憩できそうな小さな穴蔵があったのでその中に腰を下ろして手についた汚れを叩き落とす。

 いつの間にか手のひらの人差し指の付け根辺りから血がじんわりと滲み出ていた。

 おそらく岩を掴んだ時に切れてしまったのだろう。


 カバンから赤い果実を取り出して2つ目を食べる。
 今回のは意外と甘かったがみずみずしさが少なく種も硬かった。

 これだったらさっきの酸っぱい方が良かったな、甘いけど口の中になんか残る感じがする。

 ちょっと気は引けるが外に向かって芯を投げ捨てる。
 まぁもともと自然の物だしなんとかなるだろう。


 すると渓谷の底から「グルゥ!?」という声が聞こえて立ち上がり覗き込むとそこには牙が剥き出しの黒い犬が落ちてきた果実の芯を噛み砕いて飲み込んでいた。

 その犬の大きさはシェパードぐらいの大きさで目が赤く光っている。

 初めて見たがおそらくアレがモンスターなのだろう。

 しばらく見入っていると犬がこちらを見て「ぐるる」と唸り声を上げていた。

 しまったと思い身を隠すが時既に遅し、犬は大きな遠吠えをあげ、仲間の犬が2匹追加され3匹になってしまった。

 その犬は渓谷の急な傾斜を長い爪で器用に登ってくる。
 口から涎を垂らし悠真を獲物として襲いかかってくる。


 だが立場的に悠真が有利だ。
 悠真は登ってくる犬を蹴って追い返すが落ちながら体勢を整えて再びしつこく登ってくる。


「くっ……しつこいなぁ!」

 足に伝わる生ぬるい感触。
 そして柔らかいようで硬い犬の皮膚に嫌悪感を覚えつつもただ自分の身を守るために一心不乱に蹴って落とす。


 しばらく落としていると黒い犬の口角が上に上がったのを確認したが気にせず迎撃体制に移る。

 1匹の犬が吠えると足元が暗くなる。
 上を見上げると黒い犬が口を開けながら飛び降りてきた。

 このモンスターは知力が高いらしい、最初の3匹は囮で獲物を狩るのは後ろに回り込んでいた4匹目だったのだ。


「ぐっ!?」

 なんとか避けようとしたが左腕に勢いよく噛み付いてくる。
 
 顎の力がとても強く噛みちぎろうとしてくるので力を振り絞って突起した岩に叩きつけて引き剥がす。

 それを見て3匹の犬たちが再び登ってくる。
 ここで死ぬなんて御免だ、でも戦力差が圧倒的すぎる。

 カバンの中からスマホを取り出してカメラのアプリを開き連写してフラッシュさせると犬たちは目を伏せる。

 夜の暗さに慣れた目では昼間の光よりも眩しいスマホのフラッシュは厳しいだろう。

 そのままポケットにスマホをしまい助走をつけて渓谷の底に流れているの川に飛び込む。

 もし浅かったらそれで終わりだが食い殺されるよりはマシだ。


 飛び込むと悠真の体が沈み数秒後水面に顔を出す。
 案外深く、そして濁ってないため気持ち悪くはならなかった。

 問題があるとすればスマホはもう水没してしまい使い物にならなくなってしまっているだろう。

 犬たちは流れていく悠真を惜しみながらも森の中を駆け抜けてどこかへ行ってしまった。


「助かった……」

 安堵の声を漏らすがまだまだ危険は続いていた。
 水流が異常に激しくそのまま勢いよく流されてしまう。

 岩から生えてる木を掴むがすぐに根っこごともげて一緒に流れるので木を捨ててなんとか登れる場所を探す。

 だが鼠返しのようになっており掴めるところが全くない、そして下手に壁沿いに泳いでしまったので腰を強打する。

 そのまま痛みと寒さで意識が半分飛びつつも水流に身を任せていると滝が見え始める。

 抵抗することが出来ずにそのまま投げ出されてしまい滝壺に落とされる。


「…………ぷはぁ! ぐっ!」

 なんとか生きてたが噛まれた左腕が痛み肩が外れたような痛みに襲われる。

 狂犬病とかにはなってないよな? これだけは神頼みしかないが。

 全身を濡らしスマホを開くとバチッと音がなりつい落としてしまう。

 やはりもうスマホは生きてないようだ、とりあえずカバンにゆっくりと入れる。


 その時気づいたのだが茶菓子はもうぐちょぐちょになっていた。

 無事なのはイヤホンと赤い果実1個のみ。


 左肩を押さえて水を吸って重くなったズボンをなんとか持ち上げながら歩いていると目の前に先ほどの犬が4匹待ち構えていた。

 おそらくここまで流れてくるのを予測していたのだろう、本当に知能が高いモンスターだ。


「くそっ……やるしかないのか……」

 上着を脱いで赤い果実を包み振り回す。
 あまり強くはないが鈍器の完成だ、水で重くなり遠心力で重みを増す先端部分を当てれば魔物だって多少はダメージ受けるだろう。


「かかってこい……!」

 クリードに教わった体勢になり頭の上で鈍器もどきをクルクルと振り回す。

 犬たちは一斉に4匹全力疾走してくる。

 やはり平地だとさっきよりも動きが速く鋭い。
 あの犬の注意点は牙と脚の長い爪だ。


 ヌンチャクのように振り回し接近してきた犬の下顎を捉えて一旦振り下ろしてから遠心力をつけて振り上げる。

 1mほど吹っ飛ぶがすぐに立ち上がり襲いかかってくる。
 やはりこれだけじゃ死なないらしい。

 しかし犬もただではやられずに素早く動き回り連携をとっている。

 囮として襲いかかってきた犬を殴り飛ばすと2匹の犬が噛み付いてくる。


 悠真の左手と左足を噛みつかれて呻き声を上げながら自分の体ごと犬を鈍器で吹き飛ばす。

 1匹川の方に吹き飛ばされたのでそこへ走っていき後頭部を思いっきり右足で踏みつける。

 犬は暴れて踠き爪、などで悠真の足を削ってくるが関係ない。
 今はただ1匹ずつ敵を沈めるだけだ。


 1分ほど右足で押さえつけながら他の3匹も相手してると足元の犬の抵抗が無くなっていき体を痙攣させて動かなくなる。

 窒息させた。
 いくら魔物でも犬と同じ、肺呼吸をしている。
 だから窒息させることが1番武器がなくても倒せる方法だ。

 さすがの知力の高いこいつらでも水の中で死んだ演技なんて出来ないだろう。

 魔物を倒して自信がついたのか世界が明るく見え始めた気がする。

 空を見上げると真上に月があるためただの思い違いだろう。


 しばらく振り回していると先端の赤い果実が潰れてしまったため服の中にスマホを入れて振り回す。

 小さくはなったが硬くなったため威力は増したであろう。
 それに漏電してるため電気属性(笑)が追加されてるはずだ。

 2匹吹き飛ばし噛み付いてきた1匹の犬の顔面を思いっきり蹴りつける。

 もう嫌悪感なんてない、この世界は向こうの世界とは違う、手を抜いた者が真っ先に負けるのだ。

 だったら俺は敵となる者を殺し尽くして負け組から勝ち組に成り上がってやる。

 蹴りつけて体勢を崩した犬の顔面に鈍器で1発、2発、3発。
 そして4発目を打ち込むと手足をプルプル震わせていたので5発目を叩き込んで殺す。

 残り2匹、魔物の動きが鈍ってきている。
 ここまで走ってきた疲労としぶとく粘る悠真の攻撃で衰弱してきてるのだろう。

 だが諦めずに2匹で応戦してくる。
 悠真も体がボロボロになっている。

 が、それがどうしたと言わんばかり無我夢中で犬を吹き飛ばしている。

 何を悠真が駆り立てているのかは不明だ。
 しかし今まで溜まったストレスや鬱憤なのが力に変わっているのだろう。


 しばらく殴っていると服がボロボロになりスマホがどこかへ飛んでしまった。

 だが1匹は瀕死なので顔面を踏み潰して絶命させる。

 しかしそれでも犬は諦めずに1匹で勇猛果敢に突撃してくる。
 悠真は横に避けて腹を蹴りあげて地面に叩きつける。

 犬の背中に乗りカバンからイヤホンを取り出して首に巻き力強く引っ張る。

 犬は「ぐる……ぅぅ……」とだんだん呻き声も小さくなっていき倒れる。

 窒息させる前にイヤホンが切れてしまったので顔面を2度3度踏みつけて犬の頭部を踏み潰し悠真は砂利の上に倒れ込んだ。



「か、勝った……! 勝ったぞ!」

 身体中が痛い、だが勝利という優越感で拳を空に振り上げる。

 スペシャルスキルを持ってたらもっと楽に戦えたんだろうな。

 この世界にゲームのようなレベル制度があるかもしれないので頭の中で『開け』と念じてステータスを開く。

 すると寂しかったスキル欄が微かに光ってスキルが2つ解放されていた。


[NS→[暗視眼あんしがん](目に意識を集中させると昼間のように明るく世界が見える)]


 何故さっきの犬が使ってたスキルを覚えたんだ? と、首を傾けたが次のスキルを見て悠真は目を見開き納得した。


[SS→[殺奪キルクレヴォ]スキルを持つ生き物を殺す、死亡させた場合相手のスキルを自分のスキルとして習得できる。(奪う条件として本人が関わることが必要)(同じスキルの場合はスキルレベル上昇の経験値としてなる)]


 つまり1匹目を倒して世界が明るく見えたのはいつの間にかスペシャルスキルが開花していたというわけだ。

 悠真は不敵に笑う。
 しかし血を流しすぎて意識が朦朧としていつの間にか気絶してしまった。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...