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第1章
秘密の名付け
しおりを挟む-9階層-
ボスモンスターがいる層の1つ前の層なので少し警戒していたのだが、普通モンスターが悠真を襲ってくる。
むしろ、8階層に比べてこの階層はモンスターの数が多少の差だが少ないようにも感じ取れる。
イエローホーネットの羽根の擦れる音も聞こえなければ、ソードゴブリンの重い足音も聞こえない。
出てくるのはビックホーンボアと普通のゴブリンのみ、もっと強敵が現れると思って警戒していたのだがその必要はなかったらしい。
「あ、あれ……?」
曲がり道の少ない道を真っ直ぐ進んでいただけなのにもう階段を見つけてしまった。
しかしその階段はただの階段ではなかった。
その階段の近くに張り紙がある、そこには[11階層への階段]と書かれていた。
その反対側には以前にもあった帰還用転移型魔法陣があり、階段と魔法陣の間には細い台座があり、その上に青白い色した丸い水晶が置かれていた。
「なになに……『ドロックモンキー(10階層)への転移石』……?」
どうやらボスモンスターを倒さず、スキップして11階層に行けることが出来るらしい。
優しい設計だと思うが、逆に考えれば挑むにはそれ相応の力が必要となるわけだ。
最悪帰ってまた挑戦してもいい。
だが説明を読み進めるとどうやらボスモンスターの部屋にも帰還用転移型魔法陣があるらしく、10秒間立っているだけで帰還出来るらしい。
だったら挑戦した方がいいだろう。
悠真は青白い水晶に手のひらを乗せてしばらく待つことにした。
すると自分の体が水晶と同じ色になり、目の前が真っ白に染まっていった。
-10階層-
目を開くと今までの迷路とは違ってただの大広間だった。
反対側に赤い扉がある。
おそらくその扉の奥に11階層への階段があるのだろう。
そこには絵で見たような黒い毛を纏ったドロックモンキーの姿がある。
しかしその姿に覇気はなく、それどころか床が赤黒い血が塗られ、体中の毛という毛が抜け落ちていた。
「なんでこんな姿に……」
少しだけ触れると音を立てて崩れ落ちるドロックモンキー。
体からは異臭が漂い、全身の筋肉が異常に柔らかい。
つまり死後硬直は過ぎていることが推測でき、死亡してから大分時間が経っていることも確認できた。
そして何より目的だったドロックストーンが抉り取られるように腹から無くなっていた。
「これってつまり最低1週間待つことになるのか……?」
契約期間は10日間。
話によれば最低1週間、最高1ヶ月の内にボスモンスターが復活するらしいのだが……これは一応10万クレを集めておいた方がいいかもしれない。
部屋の奥にある扉を開くとそこには11階層への階段を発見した。
正直、この先に登っても得はないだろう。
悠真は少し考えた挙句、帰還用転移型魔法陣の上で10秒間待ち、リーデダンジョン前の扉へと帰還したのであった。
───────────────
転移が終わり、目を開けるとそこには短剣を渡してくれた門番がこちらを見て安堵の息を吐いていた。
「お前……1日と半日が経っても帰ってこなかったら心底心配したんだぞ?」
空を見ると太陽が真上にある。
ダンジョンに潜ったのは夜中だったので本当に長い時間潜っていたらしい。
ていうか飯は食べたけど睡眠とってないぞ?
でもお金なんてないし……最悪野宿になるのかな。
「ところでこのダンジョンはボスモンスターと宝箱から入手した物以外は持ち出せないからな」
「えっ?」
そういえば背に納めていたソードゴブリンの大剣が何処かにいってしまっていた。
だが白い首飾りに黒いガントレットなどの装備。
回復薬と水入り瓶の中に入れておいた青い石は無くなっていなかった。
「うっ……!?」
悠真の視界が揺らぐ。
いつの間にか硬い地面の上に倒れてしまっていた。
「おい! おい! 大丈夫か!? おーい!」
門番が張り詰めた顔で肩を揺すってくる。
だが悠真の視界はどんどんと閉じていき、そのまま気を失ってしまった。
───────────────
目を覚ます。
見たことのない天井、そして柔らかい枕と毛布に敷布団。
ゆっくりと体を起こすと隣で読書をしていた門番が悠真に気づき腰を上げる。
「やっと起きたか、ここは私の休憩所だ。お前は飢えて倒れてしまったんだぞ」
飢えた?
何故? 硬いし臭かったけどあんなにビックホーンボアの肉を食べたのに?
「ほら、簡単なものだが……食べてゆっくりと休め。全く、無理しやがって」
渡されたものは平らな皿の上に乗せられた小さな土鍋。
蓋を開けると白い湯気がホワっと溢れ、とても美味しそうなお粥だった。
いただきますと言い、レンゲのようなカトラリーで掬い、口に運ぶ。
ちょうどいい塩味、そして体の芯まで温まるような適温でとても食べやすかった。
食べながら考えたのだが先ほどこの門番が言っていたこと。
あのダンジョンは修行するためのダンジョンだ。
つまり素材などを回収し、お金に替えるのが普通のダンジョンだが、あのダンジョンはそれがと不可能ということである。
仕様なのかもしれない。
しかしそれだったら何故この首飾りやガントレット、それに魔法に共鳴する石などは持って帰れるんだ?
また謎が生まれてしまったようだ。
─────────────────
「ごちそうさまでした」
なかなか美味しいお粥だった。
何故腹が減ったのかと考えたのだが、モンスターの素材を持ち帰れない、つまりお腹の中にあったビックホーンボアの肉まで消えてしまったということだ。
この門番が言うにはビックホーンボアの肉なんて食べれたもんじゃないらしい。
それに普通は携帯食料を持ち込んだり、食材を持ち込みダンジョン内で調理するのが常識なのだと言う。
短剣を返そうとしたのだが「もうお前の物だ」と言われ返却拒否されてしまった。
その代わりと言って宝箱から見つけた袋から黄色い瓶の回復薬を手渡した。
「ちょっとまて、こんな高価な物はさすがに受け取れない。ギルドで売れば1万クレはくだらない回復薬だ。もしもの時に取っておいた方がいい」
これも断られてしまった。
何を渡そうかと袋の中を探るが何も無い。
悠真の意図を察したのか、門番は見返りなどいらないといった表情で手首を掴んできて首を横に振っていた。
「俺は別に感謝をしてほしいわけではない。ただの罪滅ぼしなだけだ」
「罪滅ぼし?」
オウム返しするように聞き直すと、門番は悠真のような無謀な挑戦をする者を何人かダンジョンに向かうのを止めていたらしい。
どうやら過去にリーデダンジョンに舐めてかかった3名の冒険者の内、1人しか帰ってこないことがあったらしく、もうそんな惨状を繰り返さないために門番としてこの職に就いたと言う。
そんな話を淡々と話す門番。
さすがに『門番』と呼ぶのは気が引けるので名前を聞いた。
「俺の名はリデル。ただのしがない門番さ」
リデル……身長も普通で体格も普通、まさに中肉中背といった感じだ。
特徴は……少しだけ生える顎髭とさっぱりとした髪といった言ってはいけないのだがまさに普通な人だ。
「僕の名前は悠真、よろしくリデルさん」
名乗るとリデルは「ハルマ……」と復唱し、よろしくと言い手を差し伸べてきた。
手はとてもゴツゴツで大きく、まるで兄貴のような人だった。
20分ほど軽く談笑し、長居するのもあれなので一言二言とお礼を言い、悠真はリデルの休憩所をあとにした。
向かう場所は奴隷店である。
まだ昼間だが話だけはしてもらえるだろうと大広間に向かうのであった。
─────────────────
大広間に赴いた悠真。
奴隷店はまだ開いておらず、大広間の真ん中でピエロの格好した3人組がショーをしていた。
それを無視して悠真は奴隷店に真っ直ぐ進む。
古びた扉を軽くノックすると大柄の男が姿を現す。
誰だと聞かれたので自分の名を名乗ると、待ってろと言われ大柄の男は部屋の奥に行ってしまった。
しばらく待つとデッグが顔を出し、快く室内に入れてくれた。
「キサラギさま、もしかしてもう納品ですか?まだ1日しか経ってませんが……」
この前は『ハルマさま』と呼んでいたよな?
そうか、契約書で苗字を記名したから『キサラギさま』と呼び変えたのか。
「いや……実はすでに討伐された後だったんですよ。だからあと7日後位にまた行ってみようかなって」
それを聞いて何故かデッグは一瞬ニヤリと笑うが、すぐ悲しそうな表情に変わる。
「なるほど、それは災難でしたね。提案なのですが奴隷番号007と面会しますか?」
面会か、確かに話してみたいな。
お願いしますと丁寧に頼むとデッグは先ほどの大柄の男を呼び、奴隷番号007と言われる娘の部屋まで案内してくれた。
「あとは好きにしろ……いや待て、手を出すことは禁止だ。手を出したら相応の処罰を受けてもらうからな」
「分かってます、ありがとうございました」
頭を下げると大柄の男はデッグのいる部屋へと帰っていった。
─────────────────
「開けるよ?」
ノックをするが返事が帰ってこない。
そういえば喋れないんだっけ……扉を開けてくれるまで待つしかないか。
しばらく待つが扉が開かない
数分後、再びノックするが物音すら聞こえなかった。
「あのー……悠真です。居たら開けてくれるかな?」
すると部屋がドタバタと騒がしくなり、息を軽く荒くして扉を開けてくれた。
[すいません、誰の声がまだ分からなくて怖かったんです。是非入ってください、ハルマさま]
ササッと書いた紙を見て部屋に入る。
彼女の服は檻の中に入っていた時よりも綺麗な物になり、肌色も若干良くなっているように見える。
[ハルマさま、あの契約は不利と言いますか……あまり公平なものではありません。それなのにどうして受けてくれたのですか?]
彼女は素朴な疑問を投げかけてくる。
「どうしてって言われても……どうしてだろう。でもその代わり傷跡を完治してもらうように頼んだし別に不公平とは思ってないよ」
そう言うと何かを思い出したのか服の胸元を大きく開き、左胸を見せてくる。
[朝、とても優秀な人が来てくれて治してくださったんです。これもハルマさまのおかげです]
首の襟元の服を引っ張り、傷のあった左胸をチラリと見せつけてくるのだが、その姿を直視することは出来ず、少しだけ目を逸らしてしまう。
それに気づいたのか自分の姿を見て後ろを向いてしまった。
慌てて服を戻し[見るに堪えないものを見せてしまい申し訳ございませんでした]と弱々しい字を書いていた。
「確かに治ったことは確認できたよ……えーと、なんて呼べばいいんだろう」
彼女は[007と呼んでください。名前はないんです]と紙に書いて渡してくる。
007……そんな無愛想な名前で呼びたくない。
そもそもこれは名前じゃなくて品番と呼ぶものある。
「名前が無いのか……自分で名前を決めようとしたことはないの?」
それに対して、彼女は首を横に振る。
生まれて間もない時にどうやら親に捨てられてしまったらしい。
そして文字やこの世界の常識を教えてくれた人が居たらしいのだが、その人はもうこの世には居らず、1人でさ迷っていたら奴隷商人に捕まってしまったらしい。
そんな壮絶な過去があったなんて知らなかった。
クラスメイトと揉めて抜け出した自分が馬鹿みたいに思えた。
[ハルマさまが私を購入した暁には私の名前を決める権利が与えられるそうですよ]
名前を決める権利……か。
ネーミングセンス皆無の自分がこんな女の子の名前を決めてしまってもいいのだろうか?
「この言い方はあまり好きではないけどもうキミを購入したと同じだよね?だったら呼びやすいように名付けてもいいかな?」
その言葉を聞くと彼女は笑顔になり、綺麗な白になった猫耳をピコピコと動かす。
やっぱり彼女は笑っていた方がいい。
今まで生きていた中でこんな癒される笑顔があっただろうか。
「そうだなぁ……キミの名前は……」
白いし……ユキ? シロ? いやいや、ペットじゃないんだから。
もっと素敵で、そして可愛らしい名前にしたい。
[私はなんでも大歓迎です!]
なんでもと言われても……案外名前をつけるのって難しいんだぞ?
「…………よし!」
3分ほど熟考し、考え抜いた名前は……
「『レナ』これがキミの名前だ」
[レナ……素晴らしい名前ですね。これからは私はレナと名乗ります!]
どうやら喜んでくれたようだ。
レナは自分の頬を手で押さえて嬉しそうに顔を振っていた。
そして悠真の視線に気づき、クッションに顔を埋めてしばらく顔を見せてくれなかった。
如月 悠真
NS→暗視眼 腕力Ⅰ 家事Ⅰ 加速Ⅰ 判断力Ⅰ 火属性魔法Ⅰ 広角視覚Ⅰ
PS→NOSKILL
US→逆上Ⅰ
SS→殺奪
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