生殺与奪のキルクレヴォ

石八

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第1章

増え続ける敵ほど恐ろしいものはない

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 悠真がリーデダンジョンに潜って約3時間が過ぎた。

 現在悠真はドロックモンキーのいない10階層を素通りし、11階層への階段を登っていた。

 前回は色々と寄り道などをしてしまい時間がかかってしまったのだが、今回は道も覚えているため前回よりも2倍以上の速さで登ることが出来た。


 相変わらず11階層に来ても灰色の壁で飽きてしまいそうだった。

 そして親切にも11階層に登ってすぐに帰還用転移型魔法陣が用意されていた。

 それはただの親切なのか、それとも帰還した方が良いという暗示なのかは不明だが、ここは新人の冒険者が多く来るためそんか心配はしなくてもよさそうだ。

 少なくともボスモンスターの住む階層よりも上なので、宝箱の中身が豪華になっていることを期待しているのだが、そうそう見つかる物ではないためその時はその時だ。

 呑気に水を飲んでいると聞き覚えのない音が聞こえ始める。


 ……何か羽根が擦れるような音がする。
 だがイエローホーネットとは違って重みのある音だ。

 目の前の十字路を渡らず、壁を背にして覗き込む。

 右にも左にも音の正体はなく、ただ音が大きくなるだけだった。


「後ろっ!?」

 後ろを向いてる間に攻撃を受けるかもしれない。

 そんなことは避けたいため、あまり使用したくないのだが『広角視覚(こうかくしかく)』を使用し、軽く後ろを向くだけで確認できるようにした。


 そこに居たのはイエローホーネットよりも小さいのだが色が濃く、手の先に鋭い鉤爪のような棘が付いている虫型のモンスター。

 その名はイエローホーネットの上位種の『イエロービー』だ。


 イエロービーは尻からイエローホーネットよりも細く鋭い針を突き出し、悠真に向かって高速で射出してくる。

 あまりの速さに対応出来ず悠真の頬を軽く掠める。

 地面に落ちた針からは少し濁った透明の粘り気のある液体がドロドロと流れ出ていた。


 黒鉄の短剣を抜き、相手の機動力を下げるために羽根を狙う。

 だがイエロービーもタダでやられるわけがなく、体を起用に捻り回避したあと羽根を擦らせ、頭が痛くなるような音を鳴らす。

 悠真の動きが少し鈍ったのを見逃さず、イエロービーは再び針を突き出し、悠真の胸元へ飛んでくる。


 頭が痛くて思考力が低下してしまい、どんな行動をしていいのかが分からない。

 迷っているとスキルの『判断力はんだんりょく』が自動発動し、紙一重で攻撃を躱しカウンターを与えることができた。

 黒鉄の短剣にしたことにより硬い甲殻を綺麗に切り裂くことが出来たのだがイエロービーはなんともないように飛び回っている。


 11階層に来て強さが格段に上がった。

 単純に力も硬さも素早さもイエローホーネットの2倍を超えている。

 もしかしたらまだこの階層に来るのは早かったのかもしれない。


『ギギ……ギィィ……!』

 イエロービーはいきなり丸くなり動きが鈍くなる。
 すると尻から針ではなく白く縦長の丸い何かがコロコロと転がり落ちる。

『ピー! ピー!』

 それは卵であり、尋常ではないスピードで幼虫が孵化して小さな声を上げ始める。


 そこまでは良かった。

 しかしその幼虫の成長はまさに異常であり、瞬きする頃にはイエローホーネットに成長していた。

 敵の数はイエロービーが1匹とイエローホーネットが3匹。

 卵を産んだイエロービーは朽ちることなく我が息子の成長を喜ぶように飛び回っていた。

 そんな飛び回っているイエロービーをイエローホーネットは3匹一斉に飛びつき、捕食を始めた。


 イエローホーネットが親であるイエロービーを食べ終えると、体が少し小さくなり色が濃くなる。

 そしてイエロービーが1匹から3匹に増加した。



 これはイエロービーの生態である。

 イエロービーは自分の命が危険になると下位種であるイエローホーネットの卵を平均3~4つ産み落とす。

 上位種であるイエロービーの養分をたっぷり含んだ卵はすぐに孵化し、幼虫になる。

 そして凄まじいスピードで成虫になったイエローホーネットにイエロービーは自ら餌になり、上位種になるための栄養を与える。

 そして十分すぎる栄養を得たイエローホーネットはイエロービーに進化し敵となる対象を狩るのだ。


 スキル取得の音はいつまで経っても鳴らない。

 殺奪の対象じゃないのかスキルを持っていないのか。
 それとも死んだ判定ではないのかは不明だが、とりあえず今は目の前のイエロービーに集中した方がよさそうだ。


『『ギィィィ!』』

 3匹が一斉に接近し、針を射出してきたり大きな顎で噛み付いてくる。

 イエローホーネットの針には何故か毒の効果がないため最悪避けなくてもいいのだが、上位種となれば警戒した方がいいだろう。

 ガントレットで針を弾く。
 やはり上位種のためガントレットも無傷ではなく少し擦り傷が出来てしまった。

 だが身を守れたため、ここは「攻撃を喰らわずにすんだ」とポジティブに考えることにした。


 悠真は広角視覚を使用して後ろに回り込んで大顎を開いているイエロービーの位置を確認、回避する。

 先程も使用したので少しばかり頭が痛いのだが、死ぬよりは何倍もマシである。


「火球!」

 右手に魔力を込めて火球を放つ。

 判断力や広角視覚は魔力を消費しないため、虫系に効果抜群な火球を惜しみなく展開することが出来る。


『ピギィィィ!?』

 いくら硬い甲殻でもやはり火属性魔法は十分に効くらしく、劈くような悲鳴が悠真の耳に突き刺さる。

 だがさすが上位種というべきかイエロービーは燃え尽きることなく体勢を立て直していた。

 ダメージを負ったイエロービーを庇うように接近する2匹のイエロービー。

 その後ろでは再び卵を産もうとしていた。


「させるかっ!」

 黒鉄の短剣を握り直し、悠真は全速力で走り出す。

 加速スキルのおかげで一瞬で間合いを詰めることに成功し、隙だらけのイエロービーの頭を弾き飛ばすことができた。


『ギギッ!』

 仲間の死に激昂したイエロービーは動きが激しくなる。

 だが悠真はまずはイエロービーではなく、死んでもなお産み落とした卵を火球で燃やし、イエロービーの増加を防いだ。


「火球!」

 再び右手から火球を放つがまだ不慣れなためスピードが遅く、イエロービーに当たる寸前で避けられてしまった。

 購入したばかりで使いたくないのだが、アイテム袋からタオルケットを1枚取り出して短剣に巻き付ける。

 そして焚き火用に購入した火打ち石でタオルケットに火を付けて燃やし、接近してくるイエロービーを切りつける。


 タオルケットが完全に燃えきっていないため完璧に切断することは無理だったが、地面に落ちたイエロービーを何度も叩きつけたため絶命させることができた。


『ギギギギ!』

 二匹目の仲間が目の前の敵に殺されてため生き残ったイエロービーは顎をカチカチと鳴らし怒りを顕にする。

 また卵を産み増えてしまうと面倒なためすぐに倒したかったのだが近づけば近づくほどイエロービーはその倍遠ざかってしまう。

 そんなイエロービーにしびれを切らし、めんどくさいと思った刹那──



『ギュイィィィィィ!!』

 頭が割れるほどの高音がダンジョン内に響く。
 つい悠真も耳を押さえて右膝を地面に付けてしまう。


「一体なんなん……だっ!?」

 イエロービーの背の方向には道があり、そこから1匹2匹とイエロービーが湧き出てくる。

 そして3匹4匹5匹6匹7匹……ついには数えれないくらいの数のイエロービーが溢れ出す。

 そして悠真がとった行動は……


「うわぁぁぁぁぁ!」

 もちろん逃走である。

 あれだけ大量のイエロービーを正面で向き合い戦うなんてただのバカしかいない。

 それに火球もあと5発ほどしか撃てないしタオルケットも消費したくない。


 悠真は来た道を加速スキルを利用して走り、帰還用転移型魔法陣がある11階層の入口まで戻り、リーデダンジョンから脱出した。


[PS→[危険察知きけんさっち]危険対象物(敵)などが近くに居ると微かだが場所が分かるようになる(スキルレベルが上がると的確になり範囲が増す)イエロービーからの殺奪]


 悠真は無我夢中で走っていたため、初めてのPS(パッシブスキル)の取得に気づくことは無かった。



─────────────────



「し、死ぬかと思った……」

 今は大広間の噴水のところに腰を下ろし、小腹が空いていたので携帯食料をむしゃむしゃと齧っていた。

 空はいつの間にか夕方になり、奴隷屋が店を開いていた。


 悠真に気づいたデッグは悠真の疲労をしらないので呑気に手を振っていた。

 別に手を振り返す意味は無いので頭をコクリと下げるとこちらまで聞こえるくらい豪快な笑い声を上げて自室に戻っていった。


「とりあえず……また同じ宿かな」

 悠真はゆっくり立ち上がり、福休亭に寄り道せずに向かい、料金を払って同じ部屋に泊まるのであった。


















 -ディスヴェルク王国 オーベル城-

 夜、一仕事を終えたエルナは自室でクリードに注いでもらったブラックコーヒーの比例なき香りを嗜んでいた。


「んっ……クリード、ミルクと砂糖持ってきて」

「かしこまりました」

 小さな車輪がついているワゴンにはコーヒーセットが入っており、そこにはミルクや砂糖が常備してある。

 毎日毎日エルナはブラックコーヒーをクリードに頼むのだが、結局甘い方が好きなのか一口飲んだ後にミルクと砂糖を要求してくる。


「し、失礼します!」

 そんな中、慌ただしくエルナの部屋の扉を勢いよく開けるのはディスヴェルク城で働く兵士である。


「どうかしたのですか?」

 エルナが事情を聞くとその兵士は懐から黄緑色の石を取り出す。

 それは『ギリズマ石』という名で、魔力を込めることにより込めた分に比例して目の前の情景を撮影できるというものである。

 とても高価な石なので市場ではあまり回っておらず、ダンジョンの宝箱か王国の城が所持してる鉱脈でしか今は入手することがほとんど不可能な石なのだ。


「これを!」

 兵士が魔力を込めて地面に立てるように置くと、目の前にスクリーンのような映像が現れる。

 その映像を見たエルナとクリードは度肝が抜けるほど驚いていた。


「これは……イルですよね……?」

 ディスヴェルク王国の付近にあり、年に1.2回ほどだが配給を行かせる村である。

 イルとディスヴェルクの間には迷いの森という名の森のせいで配給が行きづらいためほとんどはリーデに頼んでいるのだ。


「我々第3オーベル隊はエルナ皇女の命令に従い、イルに配給を勤めるため物資を運びました。しかし……」

 そして石の映像が変わり、そこには硬い地面に出来た大きな足跡が大きく映し出される。

 クリードが「オークか」と言うと兵士は肯定するべくクリードを見て頷く。


「我々がイルに到着する頃には村は全壊、そして生き残りも居なかったのです。そして気になることに村人の亡骸が人の手で埋められていました」

「人の手によって……? あの日はリーデの方が配給する日だったのでリーデの配給班ですか?」

 その意見に兵士は首を横に振る。
 兵士は村の中に馬車の跡が無いことを伝えた。

 馬車の跡が無いということはその村に配給は来なかった。

 つまり、その惨状を見て引き返したに違いないのだ。


「それなら一体誰が……?」

 クリードが考え込むと1人の顔が思い浮かぶ。
 そしてクリードが口を開こうとするとエルナの口も同時に開く。


「「キサラギさま?」」

 確か失踪した次の日の朝、庭に布団が落ちており、迷いの森付近の土に足跡が残っていた。


 もし万が一にも悠真がブラックハウという名の獰猛な黒い犬のモンスターに見つからず、イルに辿り着いたならその可能性は高いだろう。


「エルナさま……!」

「えぇ、私も同じことを考えていたわ」

 エルナは後ろに向き、自分の机の上にある書物に何かをメモし、それを兵士に渡すとすぐさま兵士はそれを持って部屋を出ていく。

 中には蓮花への伝言が書かれていた。


「クリード、腕の立つ兵士を用意しなさい。明日の朝、サイオンジさんを連れて迷いの森を抜け、イルに向かいます」

 クリードはそれを聞くとすぐにエルナの部屋を出てすぐさま兵士達が休んでいる塔へと向かう。

 自分の椅子に座り甘いコーヒーを飲み小さくため息をつく。

 様子がおかしかった悠真に何も聞いてあげれなかった自分を恨みつつも、エルナは早めに就寝し、今日の日を終えるのであった。





















如月 悠真

NS→暗視眼 腕力Ⅰ 家事Ⅰ 加速Ⅰ 判断力Ⅰ 火属性魔法Ⅰ 広角視覚Ⅰ

PS→危険察知Ⅰ

US→逆上Ⅰ

SS→殺奪
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