生殺与奪のキルクレヴォ

石八

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第1章

ドロックストーンの真価

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 耳に劈くような咆哮が鳴り響くリーデダンジョンの10階層。

 黒鉄で出来た短剣を構える悠真の前には悠真の短剣よりも黒い色をしたドロックモンキーが臨戦態勢で悠真を睨みつけていた。


 後方には気絶しているルーフとタナが伸びている。

 正直ドロックモンキーの手によって殺されても仕方がない連中だが、今までルーフたちに殺されてきた者のためにもギルドに突き出すのが1番だろう。


『グギャァァァァァァ!!』

 再び気合を入れるように雄叫びをあげるドロックモンキー。

 ルーフやタナをどうするか以前に、まずは目の前の敵を倒さなければならない。

 なので今は雑念を捨て、ドロックモンキーとの戦闘に全神経を研ぎ澄ました方がいいだろう。


「……やるか」

 雑巾を絞るように短剣の柄の部分を握る。
 そして悠真も臨戦態勢に変更し、相手の出方を伺った。


 まさに一触即発の沈黙の中で睨み合う悠真とドロックモンキー。

 その時間はとても短いのだが、悠真にとっては1時間2時間のように感じた。


 その間約10秒ととても短いものだ。
 そんな短い時間で痺れを切らしたドロックモンキーは、強靭な足を折り曲げ、悠真を正面から襲いかかる。


「見える……!」

 振り下ろされる大木のような腕。
 速さも勢いも他のモンスターとは比べ物にならないくらい鋭く、悠真の頭目掛けて振り下ろされる。


 だが、悠真は『判断力はんだんりょく』のスキルを行使し、短剣で受け流しつつも攻撃を躱し、『腕力わんりょく』と『逆上ぎゃくじょう』の乗った重く鋭い一撃を腕に叩き込んだ。


『グギィ!』

 切断とまではいかなかったが短剣の刃を半分ほど埋め込み、引き裂くことが出来た。

 だがそんな傷もドロックモンキーにとってはまだまだ軽いものらしく、切られた腕を悠真に向かって思いっきり振り払う。



 ドロックモンキーの頭の中では今の攻撃で敵は吹き飛ばされていた。

 しかし敵はドロックモンキーの懐に潜り込んでおり、ドロックストーン付近を貫かれていた。


『グギァァ!?』

 ドロックストーン付近が弱点かは分からない。
 だが腕を切った時と比べると手応えがあることが分かる。

 ボスモンスターと聞いてどんな敵かと思っていたが、想像よりも明らかに弱い。

 攻撃が大振りなため威力は高いが避けることはとても容易い。

 それに攻撃後の硬直も長いので、簡単に反撃をすることができる。

 悠真は腹に刺さった剣を抉るように引き抜き、反撃を受ける前にその場から退き魔力を溜める。


「『火球』!」

 2発分の魔力を込めた火球を展開し、ドロックモンキーの胸元目掛けて弾き飛ばす。

 図体がでかいため多少軌道がズレてしまったが、胸部の下辺りに命中し、ドロックモンキーの全身を火が包んでいく。


『グギギギギ……』

 火球を受けて叫ぶどころかうずくまって動かなくなる。


 さすがに呆気なさすぎないか?

 そのまま2発目の火球を撃とうとしたところ、今までにないくらいの『危険察知きけんさっち』が発動し、悠真の全身から血の気が引く。


 何が起こるか分からない。

 『広角視覚こうかくしかく』を展開し、新たなモンスターが来ないか警戒する。

 しかし周りにうごめく影はなく、踞るドロックモンキーと後方で倒れているルーフとタナのみ。

 警戒を続けていても『危険察知きけんさっち』はドロックモンキーからしか向けられていない。


 先程展開したスキルを解除し、剣を構えた瞬間──


『グガァアァァァアアァア!!』



 ────空気が弾けた。









「はぁ……はぁ……」

 悠真の両手にはルーフとタナの足が掴まれている。

 先程まで悠真とルーフたちが居た場所は真っ黒に焼け焦げていた。


 何が起きたか分からなかった。

 だが微かな記憶を張り巡らせ、悠真はドロックモンキーの『特性』に気づけた。


 ドロックモンキーは全身に纏わりついている火を突如口で吸い始めた。

 するとみるみるうちにドロックストーンが色鮮やかな赤色に染まり、火属性の魔力で満ち溢れた。

 そしてそのドロックストーンから火球の10倍以上はある炎の玉が生成され、それが弾け、レーザーのように放出された。

 結論から言うとドロックモンキーは火属性の魔法を口で吸収し、ドロックストーンに吸収した魔力を取り込み、倍の力で跳ね返すことができると推理した。


 吸収から放出までは時間がかかっていたので避けることは用意ではあった。

 だが後方には気絶しているルーフとタナがいる。

 悠真の中では見捨てるというよりも助ける……いや、ここで死なれちゃ困るという思考になり、加速を利用して救出したのだ。


 さすがに全身を鎧で固めた男2人を1人で運ぶのは骨が折れるような作業だった。

 しかし『加速かそく』『腕力わんりょく』『逆上ぎゃくじょう』の3つのスキルのおかげでなんとか間に合わせることが出来たのだ。

 ルーフとタナの大剣と短剣、盾は燃え尽きてしまったのだが……今までしてきたことの見返りとして考えても軽いものである。


「どうしたものか……」

 火属性魔法は使えないことが分かった。

 短剣だけで戦えないことはないのだがやはり接近する必要性と危険性を考えたら魔法が使えないのはかなり厄介だった。

 火属性魔法が通じないからといって水属性魔法が弱点とはかぎらない。

 そもそも水属性魔法は使用不可なので論外だ。


「せめて使えるものはないか……?」

 アイテム袋の中を手探りで探す。

 まずはソードゴブリンから拝借した大剣。
 重い割には切れ味が悪いためドロックモンキーには向かない。

 よって却下だ。


 他は換金用の石が各種2個ずつにさまざまな回復薬。
 そして空き瓶に野営用タオルケットと火打ち石……ろくな物がない。

 あとはここに来る前に狩り取っておいたイエローホーネットの羽根や毒針(仮)しかない。

 毒針(仮)というのは悠真が名付けた名称である。

 理由は簡単。
 自分にはなんの害がなかったこの針はゴブリンやビックホーンボアには効果があり、毒状態に陥り死に至らせたのだ。

 そのため一応なにかに使えるかもと取っておいたのだが……このダンジョンはボスモンスターと宝箱の中身以外は持ち出せないためただの邪魔な物になってしまった。


 ドロックモンキーの皮膚は固くはないが分厚い。
 それに巨体なため、毒針を刺したところで毒が回り死に至らせるまで時間がかかってしまうだろう。

 せめて体内に取り込ませることができれば可能性は大いにあるのだが……それは不可能に近いだろう。

 つまり接近戦でどうにかしなくてはいけないのだ。


 悠真はルーフとタナをその場に降ろし、再び短剣を構える。

 ドロックストーンはまだ微かな赤みが残っている。
なので油断は禁物だ。


『グガァァァ!』

 ドラミングをするように丸めた拳で胸を叩き、大きな音を鳴らし出す。

 ドロックモンキーもまだまだやる気のようだ。


「行くか……!」

 手から血が滲み出るくらいの力で黒鉄の短剣を握る悠真。


 お互いに睨み合い、そして中断されていた戦闘が再び開幕した──



















 -ディスヴェルク王国 オーベル城-

 大広間で筆宮が念写で作り出したトランプやUNOに没頭している中、ある者は自室で借りた本を読んでいた。

 彼女の名は由奈
 『植物使役しょくぶつしえき』という名のSSスペシャルスキルを所持している女の子である。

 由奈が使える植物使役のスキルは単に植物を使役するだけでなく、魔力を使用して何も無い所から存在する植物を生成することもできるのだ。

 しかしこの世界の植物を知らない由奈はエルナに相談し、ある程度の植物のことが書かれている植物図鑑を借りたのだ。


「『ヒリュ草』すり潰し液体状にすることで擦り傷程度の傷を治すことができる、その代わり刺激が強い。 『イレーキ』赤い花弁をした花。水に溶けた毒や細菌を浄化することができる……か」

 真面目で勉強熱心、そして人の面倒が好きな由奈は休みの日でも活躍できるように必死に植物の容姿や特性を暗記していた。


 そんな由奈の勉強を邪魔する男がいた。


「よー! 由奈も遊ばね」
「だからノックしろって言ってるでしょバカ!」

 ノックもせずに由奈の部屋に入るのは戸田竜也とだりゅうやである。

 竜也は『魔物使役まものしえき』と由奈に似たSSスペシャルスキルを所持している。


「まーまー、いいだろ? 昔からよく遊んでたじゃねぇか」

 何故ここまで竜也が馴れ馴れしいかというと、竜也と由奈は小さい頃からの幼馴染みで親同士の中も良く、保育園の頃からよく遊んでいたのだ。

 そのまま小学校も同じ、そして中学校も同じかと思いきや親の都合で隣町の中学校に竜也は行ってしまったのだ。

 そして高校生になり、3年ぶりの再開を果たしたということである。


「遊ばない! 私は自分のスペシャルスキルの練習をしなきゃならないんだから……竜也もしたら?」

 そんな由奈の言葉に竜也は口を尖らせて椅子に座る。


「えー……だって魔物使役って言ったってよ、魔物いねぇじゃん! それに召喚できる魔物だってこんなもんだぜ?」

 机に魔法陣が生成され、そこから小さな白い魔物が現れる。

 いや、それは魔物というよりも猫なのだが……


『ミャー!』
「可愛い~! って違う! こんな可愛い子が魔物のわけないじゃない!」

 怒りながらも猫を叩きつけないようにそっと机に戻す由奈。
 竜也が魔力を止めるとその猫は小さくなって消えていく。


「一応成長するとすごい魔物になるらしいんだよ。でもまだまだ経験不足だからこの程度が限界だよ……ってそんなことはいいんだよ! 遊ぼうぜ!」

「はぁ~……そんなんじゃ活躍できないよ? ほら、頑張ろうよ」


 竜也が幼馴染みとだけあって由奈は学校でもよく面倒を見ていた。

 そのおかげで裏では『由奈ママ』と呼ばれており、由奈自身もそれがあまり好きではなく1度竜也の面倒を見ないことにした。

 そしたら授業中は寝るわ遅刻してくるわズボンが裏返しになってたわと結局我慢出来ず今に至るのだ。


 以前に「由奈って俺の母さんみたいだな!」と竜也に言われて思いっきり腹パンしたことがあるのだが、今はそんな関係でもいいなと由奈自身思っていた。

 竜也は頭もそこまで良くないし体格も普通。
 運動が大の得意でまるで子供のようだが、そんな竜也を由奈は好いていた。

 一度勇気を振り絞って告白をしたのだが、回りくどい告白をしてしまって竜也が理解してくれなかったという無念な結果に終わってしまったのだ。


 なので今は好意に気づいてもらおうとしているのだが……結果的に面倒を見すぎて『お母さん』という立ち位置になってしまったいる。


「まぁまぁ、たまには息抜きも必要だって! ほら、エルナさんが言ってただろ? 4日後、訓練が終わったら遠征に行くって」

 エルナはここを出る前に2-3の生徒全員に言ったのだ。


『この休みを含めた4日間で訓練が終わります。そしたら実際にこの世界に触れてもらうため、近くの街に遠征します』と。

 今の2-3の生徒達の剣や魔法の腕前はまだ荒削りな者も多いが、一般的な冒険者よりも強くはなっていた。


 だがまだ外の世界を味わっていない身分なため、いつか赴く神の塔攻略のための前準備を済ましておく必要があった。

 神の塔は3つのグループに分かれて攻略をする。
 そして数ヶ月に1度オーベル城に集まり現状報告をする、というのがエルナの決めた計画だ。


「確かにエルナさんが遠征に行くとは言ったけど……それと遊ぶことになんの関係があるの?」

 そんな由奈の言葉におどおどしつつもなにかいいことを思いついたのか分かりやすい顔になり、由奈を説得しだした。


「えーと……ほら! ここで気入りすぎて由奈が倒れたら大変だろ?」

 完全に今考えた言い分だが、確かに最近勉強しすぎていたかもしれない。


 たまには竜也のわがままにも付き合ってあげることにするか。


「分かったわ……私も遊ぶよ」
「そうか! ならさっさと行こうぜ!」

 由奈の手を握って竜也は皆の居る大広間に向かう。


 城内に『手を掴むなー!』という声が響き渡り、大広間にいる男達は「またか!」と腹を抱えて爆笑したのであった。
























如月 悠真

NS→暗視眼 腕力Ⅰ 家事Ⅰ 加速Ⅰ 判断力Ⅰ 火属性魔法Ⅰ 広角視覚Ⅰ

PS→危険察知Ⅰ

US→逆上Ⅰ

SS→殺奪
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