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第1章
結局勝つためには『嘘』が必須である
しおりを挟むダンジョンの外に出ると暑く眩しい太陽が悠真の帰還を出迎えてくれた。
白いパレットに青いペンキを塗りたくったような雲一つない空、そしてうるさいくらい騒がしい街。
潜っていた時間は4時間ほどだが、まるで2日3日は潜っていたのではないかと錯覚してしまうくらい外の空気が懐かしい。
今日はいろんな事があった。
ダンジョンの謎を解明し、新人狩りを捕まえ、契約書で交わした納品物のドロックストーンの回収。
まるで今までの日々がなんだったんだと思ってしまうくらい濃厚な日だった。
それにまだやることは残っている。
まずはギルドにルーフとタナを突き出し、その後に奴隷屋へ行きレナを助け出すことだ。
「やっと帰ってきたか……って、なんだそいつら」
ギルドに向かおうとしたところ、ちょうど休憩を終えたリデルが声をかけ、悠真が引きずっている男2人を見て不思議な顔をしている。
「えーと……この人たちは新人狩りです。10階層で襲われたんですけど気絶したんで運んできました」
ドロックモンキーのことは話さなかったが、リデルは悠真の説明を聞いて驚いていた。
どうやら最近新人冒険者の数が減ったらしい。
その多くがリーデダンジョンでの死亡らしく、リデルもどうしたものかと頭を抱えていたそうだ。
だがもし悠真の言うことが本当だったら被害者の数が減ると凄く感謝されてしまった。
「ではこの人たちをギルドに届けてきます」
「そうか、足止めして悪かったな。よろしく頼むぞ」
リデルと分かれを告げ、ギルド『炎水』に向かう。
その途中居眠りから覚めたルーフとタナが暴れたが、ドロックモンキーの尻尾を人の手で引きちぎることはできずそのままズリズリとギルドまで引っ張っていった。
───────────────
ギルドに入ると視線が一気に悠真に注がれる。
それもそのはず。
防具を全く身につけていない少年が、全身鎧を固めた男2人を引きずってきたからだ。
「あら、この前の……って、その方達は……?」
再び悠真はギルドのカウンター嬢、リコルに先程リデルに話した内容とほぼ同じことを話す。
するとなにかに気づいたのかギルドの奥の方に早歩きで歩いていき、1枚の紙を持ってくる。
「これ……この前更新されたのですが……その方達は『ルーフ』と『タナ』という名前ではありませんか?」
あれ? なんで名前を知っているんだ?
リコルが悠真に紙を手渡してくる。
それはこの前バルバの居る部屋に行く途中で見た賞金首の紙だった。
[最近現れた大剣と盾を持つ新人狩りの2人組:ルーフ タナ 報酬金1人15万クレ]
そう言われてみればこんな紙を見たことあるような気がする。
自分の記憶が正しければ前まで『名は不明』と表記されていたはずだ。
「はい、確かにルーフとタナと名乗っていました。しかし今はこの紙に書かれている大剣も盾もありませんし証明のしようが……」
「そうですね……でも彼らの暴れ方からしてほぼ確定ですよね。しかしもし違った場合冤罪になりますし……」
どうしたものか。
無理やり吐かせてもルーフとタナが自分の名前を言うとは限らない。
それに証拠品の武器も燃え尽きたため『絶対にこの2人が犯人』と断言できないところがかなりの痛手である。
「どうします? 時間はかかりますが国から審問官を呼びますか?」
「えーと……ちなみにどれくらいかかりますか?」
それに対しリコルは指を折り曲げながら数え、ざっと5日6日で来ると教えてくれた。
さすがに長すぎる。
別にこの街から早く抜けたいわけではないのだが、あまりのんびりしているとこの街にあいつらが来るかもしれない。
あいつらとは2-3の生徒のことである。
せっかく逃げ出したのにこの街で出会って見つかり、それで連れ戻されることなんてごめんだ。
それに連れ戻されたらまた小林たちになにか言われてしまうだろう。
誰かいないか?
悠真の『半魔眼』ではルーフとタナの名前は見えない。
それにこんなスキルを持ってることは出来るだけ秘密にしたい。
そのため、皆から信用を得ており、尚且つ人の名前が分かる人が求められる。
「あっ」
そんな人はいないと決めつけていたが、人の名前を知ることのでき、人からの信頼も厚い人がいた。
その名はUSの『 鑑定眼』を所持しているバルバである。
「リコルさん、バルバさんは居ますか?」
その質問に対し、リコルは少し難しそうな顔をする。
どうやらバルバは長い勤務のせいで体を壊してしまったらしい。
今はギルドの医務室で寝ているが、全快の見込みは少なくとも最低3日はかかるらしい。
「バルバさんにそのことは伝えておきます。それまで彼らはギルドが管理します」
リコルが声をかけると周りで見ていた野次馬冒険者たちがルーフとタナに群がり、ギルドの奥にあるという懲罰房に運んでいく。
その際にドロックモンキーの尻尾も一緒に運ばれてしまったのが、今更返してとも言えず、悠真はリコルに一礼してギルドを出た。
さぁ、次は奴隷屋だ。
悠真はアイテム袋にドロックストーンがあることを何度も確認し、軽い足取りで大広間に向かうのであった。
─────────────────
大広間は相変わらず人が多かった。
サーカスをするピエロの3人組、それを眺めて笑ったり感心したりする大人、笑いながら走り回る子供たち。
ダンジョンは殺伐としているが、ダンジョン外は本当に平和である。
「うわっ! す、すいません!」
サーカスを見ながら歩いていたため、隣で歩いていたガタイの良い白い髪の男とぶつかってしまった。
「あぁ、大丈夫だ」
「良かった……あれ? その声どこかで……」
そんなことを呟くとその男は焦りながら人混みをかき分けどこかへ行ってしまった。
確かにどこかで聞いたことがあるような声だった。
でもその声をどこで聞いたのか曖昧になっている。
悠真が人混みを避けて奴隷屋に向かうと、先ほどの男が奴隷屋の裏口から入っていく様子が見えた。
「奴隷屋の人だったのか……でもあの顔は知らないしなぁ……」
そんな疑問を浮かべながらも悠真は奴隷屋真っ直ぐ進んで行った。
「おやおやキサラギさま、今回はどういった要件で?」
さっきの男が呼んだのか偶然なのかは知らないが、悠真が奴隷屋の扉をノックしようとした時に丁度姿を現した。
悠真が『契約書』という単語を出すと少し難しい顔をする。
だがそんな顔はほんの数秒で終わり、悠真は契約を結んだ部屋へ案内された。
その部屋は以前契約を結んだ時よりもすこし臭った。
まるで獣のような臭いだ。
そして床にはほんの数本だが毛が転がっていた。
ちゃんと掃除をしているのだろうか?
「ところで悠真さま。契約を果たしに来たと言いましたが……それは本当なのですか?」
「はい、これが証拠、そしてデッグさんが要求したドロックストーンです」
アイテム袋から丁寧に取り出し、机の上に置かれた布の上に置くと、デッグは呆気に取られた顔をする。
机に手を置き、何度も違う角度からドロックストーンを凝視する。
デッグの額からは汗が滝のように流れ、『何故!?』という顔をしていた。
「どうかしましたか?」
悠真が問いかけてもデッグはなにかブツブツと言って聞く耳を持ってくれない。
『ありえない』や『まだ1週間も……』などとよく分からないことを呟いていた。
そんなデッグに少し引きながら悠真は部屋中を見渡した。
「あれ?」
そして見覚えのあるものを見つけた。
そこにはハンガーのような物にぶら下がっている青いローブ付きのマントだった。
そしてその青いマントにはさらに見覚えのあるものが付着していた。
悠真は未だ困惑しているデッグの目を盗んで『半魔眼(はんまがん)』を発動する。
調べたいものはマントに付着している黒い毛だ。
[『ドロックモンキーの毛』ドロックモンキーの全身に生える黒い毛。装備や素材に使えない。この毛から獣の臭いが溢れ出す]
そして悠真は床に落ちている毛も調べる。
結果は同じ。
床に落ちている毛、そして青いマントに付着している毛は全てドロックモンキーの物だと判断した。
そして机の上に置かれている青紫色のドロックストーン。
悠真の頭の中でバラバラになっていたパズルの欠片が綺麗に組み合わさっていく。
「なるほど……どうりで聞き覚えのある声だ」
悠真は放心状態のデッグを正気に戻し、とある人を連れてくるようにお願いした。
『この奴隷屋にいるとても腕が立つガタイのいい白い髪の男の人』と。
しばらく待つとデッグは先程大広間でぶつかってしまった男を連れてきた。
「キサラギさま……連れてきましたが一体どういったご要件で?」
明らかに知らないふりをしているがデッグの表情はとても分かりやすい。
隣にいる男もなにやら気まずそうな顔をしていた。
なるほど、つまりこの推理はほぼ確定だな。
「まずデッグさん。彼は僕と契約をした日、どこへ行ってました?」
「えー……食材の買い出しですな」
食材の買い出しとは真平な嘘だ。
だってあの日その男と出会ったのは日が暮れた夜。
一部の店はまだ開店していたが出店や食材の売っている八百屋などは全部閉まっていた。
「ではその日、彼はあのマントを着てましたよね?」
それに対しての返答はデッグとガタイのいい男が声を合わせて肯定する。
「僕は彼が紫色っぽいなにかを抱えているように見えました。しかも丁寧にマントの中に隠しながら。食材を持ち運ぶ時わざわざそんなことします?」
「いやぁ……傷つきやすいものでしたから」
男は少し気難しそうに目を逸らしながら答える。
何故こんなに嘘が分かりやすいのだろうか。
先程からデッグも冷や汗をかいては布で拭いていた。
そう、悠真は以前契約を結んだ夜にぶつかってしまった男。
その男が運んでいた物がドロックストーンだと想定したのだ。
持っていた紫色のなにか。
あれは夜なため青紫色のドロックストーンが濃く見えてしまったからである。
そしてその時彼が着ていたのはドロックモンキーの毛が付着した青いローブだと自ら肯定してくれた。
あとはドロックストーンを運んでいた男を特定するだけ。
聞いたことのある声。
そして以前ぶつかった時も『あぁ』と返答した。
人が受け答えをする時の言葉はあらかじめ決まっている。
突然起きたことに対しての言葉は無意識のうちに発言してしまうことが多い。
なので確定要素は少ないがガタイのいい白い髪の彼を選んだのだ。
「それにデッグさん、ちゃんと掃除した方がいいですよ」
悠真は床に落ちている毛とローブに付着している毛を取り、デッグに手渡す。
そしてアイテム袋からわざと『ドロックモンキーとの戦いで入手しました』と言いながら黒い毛を差し出す。
「同じように見えますね……」
ここまで出してもまだしらをきるつもりらしい。
そこで悠真は最終手段をとることにした。
「デッグさん、今まで黙っていたのですが僕は嘘をついている者に発動する『看破眼』があるんですよ」
『半魔眼』を発動させながら『看破眼』を所持していると嘘をついた。
半魔眼(はんまがん)は発動すると右眼が若干だが青くなるのだ。
それを『看破眼発動状態』と見立てて嘘をついたのだ。
デッグはそれを聞いてどう弁解するか悩んでいたが、相手に看破眼があると考えた途端諦め、下唇を噛みながら俯いていた。
それが悠真の嘘とも知らずに。
「ぐぬぬ……はぁ、甘いのは私の方だったのですな……全てキサラギさまのお考えの通りです」
これでチェックメイト、言質はとれた。
「デ、デッグさま……」
「いいのです、あなたはもう休みなさい。あとは私が説明しておきますので」
その顔は男を恨んでいるような目はしていなかった。
むしろ清々しそうな、まるで『一本取られましたな』と言いたげな顔だ。
デッグは机の引き出しから丸い何かを包んだ物を取り出した。
その包装を剥がすとそこには綺麗な青紫色のドロックストーンが姿を現した。
「全てを話します、実は──」
約30分ほどの長い時間をかけてデッグは納得のいくように話してくれた。
どうやら悠真と契約を結ぶ前、ドロックストーンを欲したデッグのためにこの奴隷屋で一番腕のいい先程この部屋に居た男が名乗り出たらしい。
そして朝合計3人で出かけ、その日の夜にレナを購入するという悠真が現れた。
悠真は文無しだと言っていたため上手く騙そうドロックストーンを条件に契約を結んだのだ。
装備もなく、この世界の右も左も分からなそうだったら悠真を見てデッグは利用したらしい。
そして今に至る──と。
「商売をする身がお客様を騙してしまうような真似をしてしまったことはとても申し訳ないと思っています。なのでどんな要求でも飲みます。多額の金や豪華な素材……なんなりと申し付けください」
頭を深く下げてお礼を言うデッグ。
どうやら罪滅ぼしのため、なにか悠真に讓渡してくれるらしい。
そこで悠真が選んだのは──
「えっ……そのようなものでいいんですか?」
悠真のまさかの要求に呆気をとられたのか口が半開きだ。
そんなものって酷いな。
自分で考えた末の要求なのに。
「もっととんでもないのを要求されると思いましたよ……例えば喉を治せだとか」
「喉が簡単に治るなんて思ってませんから。それにこの要求なら明日にでも用意できますよね?」
悠真の問いにデッグは「任せてください」と意気込んでいた。
そしてデッグに明日また来ますと一礼し、疲れた体を休めるために福休亭へ向かうのであった。
机の上に置かれた2つのドロックストーンを見つめながら背もたれに倒れるようにもたれかかるデッグ。
「キサラギさまはある意味本当に甘いですね……」
デッグはドロックストーンをしまい、まだ人が沢山いる街中を1人でのらりくらりと散歩に赴くのであった。
如月 悠真
NS→暗視眼 腕力Ⅱ 家事Ⅰ 加速Ⅰ 判断力Ⅰ 火属性魔法Ⅰ 広角視覚Ⅰ
PS→危険察知Ⅰ 火属性耐性Ⅰ
US→逆上Ⅰ 半魔眼
SS→殺奪
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