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第2章
偽善心
しおりを挟む沈黙で気まづくなる部屋の中。
小さな明かりが部屋を照らしてるため微妙に暗く、それがさらに同調して更に重たい雰囲気になる。
和田は申し訳ないと思っているのか拳を握りながら気まずそうに俯いており、伊藤は悲しそうだが『やっぱりか』と予知していたのか軽く溜め息を吐いていた。
バスローブを着直してゆっくりと立ち上がる伊藤。
和田は気まずそうに顔を逸らしていたが、伊藤に頬を掴まれて首を強引に振り向かされる。
「あーし、和田っちが拒否るって分かってた。でも後悔はしたくなかった。蓮花を見てたら玉砕覚悟で告白するしかないじゃん」
伊藤が急に告白をした理由の大半は蓮花による影響である。
実は伊藤の持ってる『意思疎通』には現段階でもう一つ特殊能力があった。
その特殊能力は『他人のより強い考えが分かる』というものだ。
身体的な疲労はとんでもないものなのだが、使いようによればとても便利だ。
伊藤がこの力に気づいたのは最近である。
1人で自分のスキルの活用を考えた結果、伊藤は『意思疎通』の様々な使用用途を思いついたのだ。
その1つがこの他人の考えていることが分かるという使い方だ。
まだスキルに慣れていないため対象者の強い考えしか分からないのだが、使用次第ではだいぶ使える技だろう。
問題は身体への負担、そして聞きたくもないことが聞こえてしまうことである。
そして伊藤は昨日から元気になった蓮花に『意思疎通』を使用して何を考えているのかと覗いて見たのだが、その内容は少し引いてしまうようなものだった。
『悠真くん……今何してるのかな。ちゃんとご飯食べてるかな?ちゃんと睡眠とってるかな?……はぁ、ご飯作ってあげたいな──』
いつ覗いても『悠真~~』と繰り返してる蓮花が少し怖くなってしまったのだが、最後の最後で伊藤を動かした蓮花の言葉があった。
『(こうなるんだったら向こうの世界でさっさと告白すれば良かったなぁ……)』
この言葉の意味、それは悠真が失踪する前に自分の意志を伝えておけば良かったということであった。
それを覗き見た伊藤はそのことに対して強く共感してしまったのだ。
そして、自分もそうなるのではないのかという得体の知れない恐怖感と、今なら洗いざらいさらけ出せるという謎の勇気が原動力となり、伊藤を動かしたのだ。
「今は無理でも……あーし、諦めないからね」
軽くウインクして伊藤は部屋を出る。
部屋に残された和田はただ呆然と伊藤の居た場所を見続けていた。
「僕は……僕はどうすればいいんだ……?」
触れられた自分の頬をそっと触る。
和田の頬にはいつまでも伊藤の柔らかく暖かい感触が離れなかった。
-リーデ-
「やっぱりレナが使うべきだよ」
[いえ、ご主人様であるハルマさまよりもいい環境で睡眠をとるのは気が引けます]
蓮花が悠真のことを考えて努力をし、和田が悩まされている頃には悠真とレナがベッド論争をしていた。
──論争といってもどっちがベッドを使うかというくだらないことなのだが。
「ほら、レナは女の子でしょ? 体を壊したら元も子もない、でも僕は丈夫だから床にタオルケット敷くだけで寝れるからさ、レナが使って」
[お言葉ですがハルマさま、体なら私の方が丈夫な自信があります。なのでハルマさまがベッドでおやすみください]
……このような他愛のない会話を続けて早10分。
悠真は『女の子だから』と主張し、レナは『ご主人様ですので』と主張を繰り返す。
もう一緒に寝てしまえばいいと思うのだが、その時は悠真が『狭いから』と主張、レナが『同じベッドで寝るなんて烏滸がましい』とどちらも譲る気はなかった。
1度悠真が『命令だから』という特権を使おうとしたのだが以前にレナを仲間と迎え入れたのでとてもじゃないが言いづらかった。
レナもレナで自分は奴隷だと主張する時もあるので、どちらも噛み合ったり噛み合わなかったりしている。
「……なら僕が」
[ハルマさまがそこまで言うのなら……]
「「…………」」
最悪なタイミングで重なってしまい、再び譲り合いが始まり解決しそうだった問題が再び振り出しに戻る。
結局、悠真が椅子に座り頭を伏せるとレナも同様に反対側に座り頭を伏せて目を閉じる。
せっかく用意された暖かいベッドは放置され、1人の青年と猫族が机の上に顔を伏して寝ているという謎の構図になってしまった──
──それから約1時間。
暗い真夜中に浮かんだ綺麗な少し膨らんだ半月が薄暗い部屋の中を照らす。
そんな中、ゆらりと蠢く白い影があった。
「(……寝たようですね)」
白い影の正体はレナ。
レナは悠真をどうしてもベッドに寝させたかった。
硬い机、曲がり続ける腰、寒くはないが温度の下がった部屋。
そんな悪状況の中でレナは悠真を寝させたくなかったのだ。
そしてレナは悠真が眠りにつくのを寝たフリをして待ち、1時間ほど経った今小さな寝息が聞こえてきたので起き上がったのだ。
「(最初はどんな人かと思いましたが……とても優しくて安心しました。それに近い歳とは思えない素敵な寝顔です……)」
身を屈めて悠真の顔を覗き込む。
その時少しだけ瞼が動き、レナがハッと動きを止めるが目は覚めそうになかったのでホッとする。
そして椅子を引き、悠真が目を覚まさないようにそっと持ち上げるレナ。
悠真の体格は中肉中背よりも細身で、最近筋肉がついたのか体重が増えている。
だがそんな悠真をものともせずに持ち上げてベッドに下ろし、肩まで毛布をかけるレナ。
その表情はとても柔らかく、とても美しいものだった。
「(いやいやいやいやいや!ちょっと待って、めっちゃ緊張したぞ!)」
実は悠真もレナ同様に起きていたのである。
何故起きていたのか、その理由はレナと全く同じだった。
「(あんないい香りするのか……それに柔らかかったし……)」
石鹸の香りとレナ特有の少し甘いような香りがマッチし、その匂いが悠真を刺激しているのか心臓が未だにバクバクと音を立てていた。
ただでさえ女の子と触れ合ったことがあまりないのにいきなり触れられてしまったらそれなりに意識してしまう。
それに猫耳と尻尾、そして白い髪の毛の美少女という家のパソコンで見てきたような女の子に触れられてしまったせいで気分が高揚している。
「(そういえば物音がしないな……何してるんだろ)」
ベッドまで運んでもらったあと物音がしない。
寝返りを打つように反対を向き、薄らと閉じていた瞼を開く。
そこには月明かりに照らされたレナの姿があった。
白い髪の毛は月明かりに照らされているせいかキラキラと輝いてるように見え、青い瞳は宝石のように煌めいていた。
そして一瞬、本当に一瞬だったが悠真はレナの右頬にある黒い爪のような3本の模様が見えたような気がした。
「(なんだったんだ……よく見えなかったな)」
その模様はレナの中に溶け込むように消えていった。
だがレナは気にしてないのか気づいていないかは知らないが全くその模様を気にする様子はなかった。
その後レナは椅子に座り、自分のアイテム袋からタオルケットを取り出して自分の体にそっと巻き付け、睡眠をとり始めた。
悠真の頭の中に先ほどの模様がうろ覚えだが現れるが、睡魔に襲れていつの間にか意識は水底に沈んでいった──
──それから2日が経ち、悠真とレナはギルド炎水に向かいルーフとタナの名前を明かすため、バルバの元へ向かっていた。
他にも昨日2人で潜ったダンジョンでの戦利品を売却する目的もあった。
手に入れたのは衝撃を与えることで発火する赤華石と空気中の水分を吸い、砕くことで水が流れ出る性質を持つ青い石、『水蓮石』が各4個ほど。
あとは回復薬が1つと魔力薬が2つ。
そして赤い指輪だった。
『[ 倍火の指輪]装備することで火属性魔法の威力が1.5倍に上がる。しかし稀に消費魔力が1.5倍増えることがある』
『半魔眼』の調査結果、かなりの当たりアイテムを引いたことが分かった。
確かに最大魔力値が低い中での消費魔力増加は少し痛いところがあるが、その分常に威力が上がることを考えたら安い代償だろう。
それよりもレナの戦闘センスが目を見張るものであった。
悠真の『加速』までは速くないが、現れたモンスターの懐に一瞬で潜り込んだと思ったら軽く首を刎ねていた。
リーチが短く、威力が低い小短剣を使っているのだが、レナは悠真やハンマーを軽々しく持つことができる力がある。
そんなレナが小短剣を使うことにより、力が分散することなくモンスターにダメージを与えることが出来るのだ。
そして仲間を呼ぶことが厄介なイエローホーネットもスキルの『忍足』でこっそりと近づき、後ろから首を刈り取ったときがあったのだが、傍から見たら完璧暗殺者であった。
だがそんなレナも汚いものは苦手らしく、ゴブリンが撒き散らす涎にはとても警戒していた。
それでも最後にはきっちりと倒してくれるので文句はないのだが……
問題は攻撃のワンパターン性にあった。
弱いモンスターだからまだいいのだが、レナは基本正面から潜り込むか後ろから接近して倒すことしかしない。
それでもいいのだが、せっかく素晴らしい身体能力があるのだからもっとトリッキーに動いたらいいのに……などと悠真は色々と考えていた。
[ハルマさま、もうすぐ到着しますよ]
考え事をしていて周りが見えてなく、気づけばいつの間にかギルドの前通りだった。
悠真は進行方向を少し変更し、そのまま真っ直ぐギルド炎水に向かって歩み進めるのであった。
────────────────
ギルドに入るとリコルが悠真に気づいて手を大きく振り、こちらに来いと主張していた。
「そちらのお方は……なるほど、購入なされたんですね?」
リコルはレナの腕にはめてある腕輪を見て奴隷だと判断し、悠真に軽く疑問形で投げかけてきた。
だが奴隷を見ても別に嫌な顔をしていない辺りやはり奴隷というのは一般的なものなのだろう。
「あ、そうでした! バルバさんはもうすっかり元気になられましたよ!」
「そうですか! では早速会いに行ってきます」
リコルに軽く一礼をしたあと、その後に続いてレナが会釈をして着いてくる。
やはり物珍しいのかレナへの視線がとても多い。
一応大丈夫かと聞いてみたら本人は慣れているらしく別に心配はないとのこと。
悠真たちはそんな冒険者たちを無視し、バルバの居る大部屋へ進んだ。
部屋に辿り着くと、バルバの声がが入口まで聞こえてきた。
もう本当に具合は良くなったらしい。
「お、キサラギ ハルマじゃねぇか。話は聞いてある、さっさと来てくれ」
バルバに声をかけようとすると先に声をかけられ、返答する時間もくれずに別の部屋に行く。
その部屋の扉はとても強固で黒かった。
中に入ると蝋燭が不気味に揺らめいており、部屋の真ん中にはルーフとタナが椅子に縛り付けられていた。
「おい! こんなことしていいのか!? 罪の無い冒険者を冤罪にかける気か!?」
この期に及んでタナはまだ自分ではないと否定している。
隣では何日も眠れていないのか目の下に大きなクマを作ったルーフが不気味に笑っていた。
「……こいつらの名前はもう『鑑定眼』で調査済みだ。左のうるさいのが『タナ・オルスター』で右の静かなのが『ルーフェス・オルソー』だ。タナの方はあれだけ騒いでいるがルーフにはもう色々と聞き出している。こいつらが賞金首で間違いない」
『ルーフにはもう色々と聞き出している』という言葉を聞いたタナはギロりとルーフを睨みつける。
ルーフは蛇に睨まれた蛙のように固まり、頭の上から指の先までガタガタと震わせていた。
「では早速、罰を与える」
おもむろにバルバは壁に立てかけてある大きな斧を片手で持ち上げる。
その斧の刃は軽く赤くなっており、悠真はこれから起きることが一瞬で理解出来た。
──そう、処刑である。
普通はギルドで処刑は行われない。
しかし犯してきた罪が重ければ重いほどギルドでの処分が許可されているのだ。
「ルーフ、そしてタナ。お前らは若き冒険者を10人以上も殺害し、その死体をダンジョン内に遺棄。そして奪った物は全て売り贅沢の毎日……よって、斬首刑に──」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
自分でもなにが起きたのか分からなかった。
しかしいつの間にか体と口が動いており、ルーフとタナを庇うようにバルバの前へ立ち塞がる。
その様子を見てタナはポカンとしており、ルーフは目を閉じてただ涙を流していた。
「た、確かにルーフとタナは取り返しのつかない罪を犯した! でも処刑することで死んでいった冒険者たちが報われるはずがない……!」
「ならどうする? 正直この仕事はあまり好きではない。だが決まりは決まりだ……」
くそっ……別に殺さなくてもいいのに!
せめて、せめて禁固30年とかそこら辺にすればいい!
ルーフとタナが死んでも誰も救われない、報われない。
それに殺してしまうよりも生かしておいた方が反省だってするし後悔だってする!
だから……だから……!
そんな悠真の想いは口に出なかった。
こんなことを思ってても結局心の奥にはルーフとタナを憎んでる自分がいる。
結局、悠真の想いは『偽善』でしかないのだ。
「キサラギ ハルマ、そこのお嬢ちゃんを連れてこの部屋を出ろ。これはお前らには荷が重すぎる……」
「で、でも……」
分かっている、自分の考えが甘いことも、そして通用しないことも。
まるで足が地面に刺さったように抜けない。
だがそんな悠真を動かしたのはレナだった。
[ハルマさま、ここは出ましょう]
文字だけ見るととても冷たいように見えるが、レナの表情もとても暗いものだった。
部屋を出るためにギイイっと音の鳴る扉を開き部屋を出る。
「いいのか!? 俺らを殺せばお前は絶対にこの先呪われる! 絶対に呪う!」
うるさく醜いタナの声と静かに響き渡るルーフの泣き声が悠真の頭に突き刺さっていく。
「お前もだ! キサラギ ハルマァァァァ──」
名前を呼ばれ、振り向く頃には扉は重くしまっていた。
戦利品を売るのはまた別の日にしよう。
明日この街を出る時に売ればいい話だ。
そんなことを考えながら立ち尽くしていると、悠真の頭の中に聞き覚えのある不気味且つ高い音が響き渡る──
────『ピコーン』と。
如月 悠真
NS→暗視眼 腕力Ⅱ 家事Ⅰ 加速Ⅰ 判断力Ⅰ 火属性魔法Ⅰ 広角視覚Ⅰ
PS→危険察知Ⅰ 火属性耐性Ⅰ
US→逆上Ⅰ 半魔眼
SS→殺奪
レナ
NS→家事Ⅲ 房中術Ⅱ 水属性魔法Ⅰ 光属性魔法Ⅰ
PS→聴覚強化Ⅰ 忍足Ⅰ
US→NO SKILL
SS→NO SKILL
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