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第2章
神使白竜の聖森
しおりを挟むグランデスタ白竜祭の朝は早い。
目が覚めると既に外はワイワイと騒がしく、笑い声などが小さくだが聞こえてきた。
現在の時刻はまだ8刻にも関わらず、カーテンをゆっくりと開くと人通りは少ないがリーデの2倍以上の観光客や冒険者たちで賑わっていた。
隣では珍しくレナがまだ熟睡中だ。
やはりいくら体力があっても疲れることは疲れるし、性別も違う。
体への負担のかかり方、そして体の負担や疲労の回復速度も性別によって違えば人それぞれ異なるものがある。
悠真は体力は多くはないものの休むことで得る回復量は多いため、その点を考えればレナと大きな差が開かれることはない。
それでも『広角視覚』などによる脳への負担の回復速度は著しく遅いのだが……それも慣れの問題だろう。
レナよりも早く寝たことでもう眠気はなく頭も冴えてるので、悠真はベッドの上に黒鉄のガントレットとタオルを取り出して手入れをする。
グランデスタに来るまでは使用してないのだが、細かな手入れをしないといつ何が起こるか分からない。
備えあれば憂いなしとはこのことである。
「はぁ、未だに倍火の指輪が忘れられない……やっぱり今考えてもバカなことしたよなぁ……」
今頃誰かの所有物になってるか、はたまた何処かに届けられてるかは不明だ。
せめて悪いことに悪用されていないことを願っているものの、やはり何故置いてきたのかという自分の愚かさに頭を抱えてしまう。
火属性魔法しか使えない悠真にとってあの指輪はとても貴重かつ素晴らしいものであった。
確かに消費魔力が減る可能性があるのは痛手だが、その分常時威力増加という効果に惹かれてしまったのだ。
「まぁ……別にあれくらい手に入るだろう。それに水属性魔法や風属性魔法、それに光属性魔法もあるんだ。そう考えたら一つの魔法に縛られることないって思えば少し気分が安らぐというか安心するというか……うん、別にあれくらい……あれくらい……」
口ではそう言ってもやはりどうしても悔やみきれない。
どうにか自己暗示をして自分を誤魔化そうとしてもやはり欲求には勝てないのだ。
それにフォルムもカラーリングもカッコよく、悠真の好みにとても合っていたため尚更である。
そんなくだらないことを考えながらも手ではガントレットを手入れしており、部屋にキュッキュと心地の良い音が鳴り響く。
その音のせいかレナは喉元を軽く鳴らし、大きなあくびをして体を起こす。
そして悠真がこちらを見ていることに気づいたレナは少し布団で口元を隠しつつも、あることに気づいて慌てて何かを書き始めた。
[おはようございます。そして申し訳ございません。ご主人様であるハルマさまよりも遅く起きてしまって。自分が奴隷という認識が足りませんでした]
そんなことを考えていたのか。
やはり仲間のように接しろと言ってもまだ抵抗があるようだ。
とりあえずレナの喉を治すことと並列してこの無駄な上下関係を無くす必要がありそうだ。
しかしだからといって奴隷の腕輪を外すわけにもいかない。
正直ここまでの美少女がいたらナンパだとか、それどころか変な店の勧誘とかも受けるかもしれない。
腕輪を外すのは目を離しても大丈夫になった時だな。
若干悠真の思考が父親っぽくなっているが、それほど悠真にとってレナは大切な存在なのだ。
とても無下にはできないのである。
「別に気にしなくてもいいよ? 気持ちよく寝てるならそれで寝過ごしても大丈夫。それに僕は他の所有者とかと違って生活まで強要することはしない。だからレナは自然体で過ごしていいんだよ」
[自然体、ですか?]
「そう、自然体。確かに今は主従関係にあるけど僕はいつかこの関係を断ち切ろうと思う……あ、別にレナを解雇するとかじゃないんだ。ただ主従関係ではなく『仲間』として過ごしたいんだ」
『関係を断ち切る』と言って少し焦り顔になるレナだが、それの真意を知りホッとしていた。
この反応を見る限り自分の奴隷の扱い方がイレギュラーであることがなんとなく理解することが出来た。
奴隷というのだからもっと家事を全てまかせ、戦闘もほとんどおまかせ。
そして夜には相手をしてもらうというのが普通なのだろう……あくまでゲームとかラノベでの話だが。
でも自分はそんな関係はあまり好きではない。
確かに苦手な家事等は任せるが、基本対等な関係でいたいのだ。
[ハルマさまは本当に優しいですね。私はもっと色々と使われると思ってました。奴隷として使われることは仕事であり、それが役目なのですがやはり嫌なことだってあります。しかしハルマさまはそんなことは命令しませんし行おうともしません。そんなハルマさまは私の誇るべきご主人様です]
「そ、そうかな? えと、その……あ、ありがとう」
いきなりそんなこと言われて照れない男がいるだろうか。
現に今、目の前の美少女は照れた顔を紙で隠し、白くて綺麗な耳と尻尾をこれでもかと動かしている。
そのせいで昔の気持ちの悪い言動が出てしまった。
はずかしくなったり困ったりした時にでるこの言動をどうにかしないといけないな。
「まぁ……その、せっかく祭りが開催されてるんだし……ちょっと回ってみない?」
[そうですね、私もお祭りがどういったものなのか興味があるので回ってみたいです。お祭り自体初めてなのでこれでも結構楽しみにしてるんですよ?]
確かに昨日ルルクから話を聞く時もやけに目を輝かせていたし、なにより奴隷として生きてきたから祭りも経験したことがないのだろう。
リーデに祭りがあるか、そしてレナがデッグの元にいつやってきたかは不明だが、奴隷として生きてきたため祭りがあっても眺めることしかできなかったのだろう。
とりあえず悠真はこの少し恥ずかしい空気から逃げ出したかったため、言葉がところどころ吃りながらも急いで外出の準備をする。
そしてレナの準備が終わるのを待ち、2人は微妙な距離感のまま宿をあとにした。
────────────────────
宿を出てすぐ、目の前には早速露店や屋台が立ち並んでおり、明らかに昨日よりも店が増えたことが分かる。
他にも真っ赤な鎧で身を固めた筋肉マッチョの男やセクシーな服装の女、推測だがきっと色んな国や街から人が訪れているのだろう。
[珍しい種族の方も多いですね、それほどこのお祭りが魅力的なのでしょうか]
いやいやレナさん。
あなたも十分珍しい部類に入りますよ?
そんなツッコミを入れてみたかったのだがそんな勇気なんてあるわけもなく、ただレナに肯定するだけで終わる。
「早速だけど立ち食いでもしようか。きっと珍しい食べ物とかも多いと思うよ」
[そうですね、朝食はとってないのでのんびりと回りましょうか。ところで、ハルマさまは神使白竜の聖森には今日向かわれますか?]
あ、そういえばそんな話だったな。
正直今は祭りを楽しみたいのだが……まぁ、そんな長くいてもどうしようもないし昼を過ぎたら向かうことにしよう。
それを伝えるとレナは頷き了承をする。
でも今は祭りの時間だ、十分に楽しませてもらうことにしよう。
グランデスタの白竜祭を満喫して早2時間ほど。
2人のお腹も十分に膨れ、今は少し人の多い丘の上にタオルケットを敷きその上に座り、甘酸っぱい柑橘系のジュースで喉を潤していた。
白竜祭、一体どんな奇抜な店があるのかと期待していたのだが、結果だけをいうと前の世界にあった縁日とあまり変わりはなかった。
フライドポテトやりんご飴、揚げ餅やタピオカに似た物が入ったジュース。
正直に言うと期待をしすぎた反面、あまりにも普通すぎて少し落胆してしまったというのが素直な感想である。
だが隣ではとても楽しそうに店を回るレナがいるため、そこに水を差すわけにもいかず、ただ悠真は後ろからレナを見守ることにした。
今は遊び疲れたのか隣でジュースをグビグビと飲み干している。
よっぽど祭りというものを気に入ったのだろう。
そんなレナを見れただけでも十分な得はあると感じていた。
[初めてのお祭りでしたがなかなか良いものですね。食べ物も美味しいですしなにより楽しいです]
「そっか、楽しんでもらえてなによりだよ。それより他にも回りたいところはある? 時間はあるから遠慮しないでね」
そう提案するが、レナは即答するかのように首を横に振った。
レナは十分に満喫したらしく、次は悠真の目的である神の塔に挑戦したいらしい。
その刹那、悠真の頭の中であることが過ぎった。
──『今の自分たちに神の塔を攻略することはできるのか?』と。
リーデに居た頃は2人で力を合わせてもやはりキラービーの群れを倒すので精一杯であった。
そしてグランデスタに来るまで特に強くなったわけでもない。
自分はルーフから『底力』というUSを奪ったのだが、それの発動条件が曖昧なため頼ることもできない。
それにレナに関しては武器もそのまま、そして目新しいスキルも覚えたわけでもないので、実質リーデに居た頃と対して強さに変わりはないのだ。
本当に自分たちが攻略できるのか。
自分たちの力が神の塔に通用するのか。
今になってそんなことが頭を過ぎり、次第にはジワジワと埋め尽くしていく。
だが、そんな悠真に元気づけたのはやはりレナであった。
[私も正直とても怖いです。そして得体の知れない恐怖に襲われています。ですがやらずして成すことは絶対に不可能なことです。目標は攻略ですが今は攻略なんて目指さなくてもいいんです。とりあえず何事にも挑戦してみましょう。そして通用しなくても互いに成長して挑戦すればいつか必ず成し遂げることはできますから]
読むだけで1分ほどかかる長い文。
そこにはレナの気持ちが素直に書き並べてあった。
そうだ、レナの言う通りだ。
自分は目先のゴールを見すぎていたんだ。
別に攻略はしなくてもいい。
今は攻略よりも立ち向かうことが大事なんだ。
そしてどんな高い壁が立ちはだかろうと、力を合わせて乗り越えればいいだけだ。
「そうだね、目先のことに囚われすぎてたよ……うん、レナの言う通りだ。とりあえず挑戦しよう。そして何度でも何度でも……何度折れようとも執念強く諦めなければいいんだ」
『その通り』と言いたいのか、レナの表情が弾けるような笑顔に変わる。
こんな女の子がここまで言うんだ。
男の自分がビビってちゃどうにもならない。
「よし、じゃあ早速向かおうか。目的地は『神使白竜の聖森』だ!」
悠真が拳を作り、振り上げるとそれに習ってレナも真似をする。
それを見ていた周りの人たちはそんな悠真たちを穏やかな表情で見てニコニコとしていた。
2人で顔を見合わせ、少し照れながら笑いつつも悠真たちはゆっくりと立ち上がり、神使白竜の聖森へ足を運ぶのであった。
────────────────────
人が賑わう大通りをくぐり抜け、正門並に立派な裏門を通って30分ほど。
目の前に白っぽい色をした木が混ざった森、神使白竜の聖森が見えてくる。
やはりそこにも観光客がとても多く、街中ほどではないがとても賑わっていた。
だが誰も森の中へ入ろうとはしない。
小耳に挟んだのだが、この森には意外と恐ろしいモンスターも多いらしく、無武装の一般人は立ち入り禁止とのこと。
そのため森の付近には鎧で身を固めた警戒兵が何人もそこらへんを歩きながらパトロールをしていた。
「お前たちは……まぁ、装備もしてるし通っていいだろう。森への立ち入りを許可する!」
そんかガバガバな判断でいいのだろうか。
まぁ個人的に面倒な検査とか無いだけまだマシなのだが。
森の中へ立ち入ってからの感想は、とりあえず神秘的だとまず思うだろう。
銀色の蝶が舞い、不思議な形と色をした植物がクネクネと動き、小さな兎が野を駆ける。
そしてところどころに銀に近い色をした木々が並び、それに似合わず赤色の小さな果実を実らせていた。
その果実をついばむ赤い小鳥や鎌を振り上げて威嚇をするカマキリ。
ここは生き物の楽園なのかもしれない。
「予想以上だな……モンスターがいるとは思えない、まるで別の世界に足を踏み入れた気分だよ」
[そうですね、それになんだか心地が良いです。魔力が漂ってるのでしょうか?]
魔力が漂っているから心地いい?
その理屈はよく分からないが、悠真は『半魔眼』を使用して森の中を観察する。
右目が青くなると、目の前に微細だがとても小さな魔力の粒が漂っていることを確認できた。
その粒を手で掴んでも何も起きず消えてしまうだけ。
なにをしているのかとレナが不思議そうにこちらを見てくるが、なんでもないと誤魔化しておいた。
自分の魔力が弱いのか、それともレナが魔力に敏感なのかは分からないが、魔力が強い者にとって自然に漂う魔力は心地が良いものなのだろう。
「……ん?なんだあれは」
『半魔眼』を利用して色々周りを見渡していると、遠くの方で白く強い魔力の集まりがあることが確認できた。
「レナ、ちょっと着いてきて」
悠真が何をするか分からない。
だがレナはただ頷いて悠真に着いてくる。
草がボーボーに生えているけもの道を抜け、階段状の岩を登っていく。
「これかな……うん、合ってる。でもこれって……」
白く強い魔力の正体。
それは木で造られた小さな小屋のような家だった。
如月 悠真
NS→暗視眼 腕力Ⅲ 家事Ⅰ 加速Ⅰ 判断力Ⅱ 火属性魔法Ⅰ 広角視覚Ⅰ 大剣術Ⅰ 脚力Ⅰ 短剣術Ⅰ
PS→危険察知Ⅰ 火属性耐性Ⅰ
US→逆上Ⅰ 半魔眼 底力
SS→殺奪
レナ
NS→家事Ⅲ 房中術Ⅱ 水属性魔法Ⅰ 光属性魔法Ⅰ
PS→聴覚強化Ⅰ 忍足Ⅰ
US→NO SKILL
SS→NO SKILL
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