37 / 60
第2章
美しく怪しい美女
しおりを挟む草木が青々と生い茂る神使白竜の聖森。
鳥は歌い、虫たちは踊り、まるで悠真たちを歓迎しているようだった。
そんな森の入口、悠真は『半魔眼』を使用して、謎の魔力の塊を見つけた。
その魔力の発生地は普通、人が気づくはずのないけもの道を通った先にある木でできた小屋。
小屋の周りには赤や黄などの色とりどりな花が太陽に向かって咲いており、小屋の裏では小さな滝が静かな音を立てて流れ落ちていた。
「ここは……?」
1歩踏み込むと、まるで別世界に来たかのような感覚が悠真を包む。
魔力に鈍感な悠真でも分かるくらい濃い魔力が充満しており、ここはさきほど居た場所よりも特別な場所だと瞬時に理解出来た。
試しに『半魔眼』を使用してみると太陽が指しているこの場所の周りに、とても強い光の魔力壁があることが分かった。
「これは一体……もしかして結界ってやつかな?」
その結界のような壁に手を突っ込むと手が溶けるように通り抜ける。
体全体を通し後ろを見ると先程あったはずの小屋と美しい風景が森に包まれて無くなっていた。
それを不審に思い、悠真はトコトコと歩いているトカゲを捕まえて指に乗せながら小屋があったはずの場所へ歩くと、再び目の前に小屋が現れて指からはトカゲが消えていた。
「なんだこれ……? レナ、どういうことか分かる──って、レナ!?」
後ろを振り向くがレナの姿はない。
この小屋に来る道中は確かに居たはずなのだが……もしかしてはぐれてしまったのかもしれない。
いや、その可能性はないだろう。
実際レナは悠真よりも足も速く跳躍力も違う。
そんなレナが見失ってはぐれることがあるだろうか?
もしかしてこの謎の結界が関係している可能性があるのかもしれない。
「おーい! レナー!」
一旦結界から出て大声で呼んでみるがレナは姿を現さない。
レナは『聴覚強化』のスキルを持っているため大声で呼べば気がついてくれると思ったのだ。
結果、3分ほど待ってもレナは姿を現さず、悠真は森の中でポツンと立ち尽くしていた。
「おかしい……なにかがおかしいぞ……」
とりあえずここでレナを探して森の中を走っても効率が悪い。
それにきっとレナだって自分を探しているはずだ、なので今はここで動かず待機してた方がいいだろう。
すると後ろの方から落ち葉を踏むような音が聞こえ始めてくる。
レナかと思い振り向くが、そこには金色の髪を腰まで伸ばし、白と青の薄い生地でできた可憐な服をまとった女性がそこに立っていた。
「さきほどから少し騒がしいと思えば……どうかなされましたか?」
彼女は悠真を見ると優しく微笑み、そっと手を握ってくる。
その手はとても小さいが柔らかく、そして彼女からはとても優しい香りが漂っていた。
そんな優しいお姉さん的な人だが、意外と服は大胆だった。
滑らかな肩は顕になり、零れてしてしまうのではないかと思うほど大きな胸が強調されている。
「この先になにか魔力の気配がして、その正体を探るため近づいてみたら小屋があったんです。ですがそのときには仲間の姿がなくて……」
そう説明すると目の前の女性は少し驚いたような顔になるが、すぐに優しく微笑み手を少し強く握ってくる。
「そうですか、小屋……ね」
「ん? なにか言いましたか?」
なにかポツリと呟いたように聞こえたが、目の前の女性はなんでもないと場を濁した。
そのまま女性に引っ張られ続け、どこへ向かうのかと聞くと彼女はただ微笑みながら目を合わせてくるだけ。
抵抗しようとするも、彼女の結界に似た魔力が心地よくて手が振りほどくことができない。
するといつの間にか再びあの小屋の前まで来ていた。
「この小屋は私の家なんです。とりあえずそのお仲間さんが来るまでここで待ちませんか? おもてなししますよ」
レナが来るまで待つと言ってももしこの小屋に気づいたとしても訪ねるかどうか分からない。
そんなことを考えているともうすでに小屋の扉前まで来てしまっていた。
仕方がない。
とりあえず少しだけここで休み、すぐにレナを探しに向かうことにしよう。
小屋に入ると、まず目に入ったのは大きな本棚と、床一面に広がる白い羽でできた絨毯だった。
だがそんな内装と違って家具の量はとても少なく、明るい色の木でできた机と椅子、睡眠をとるための大きめなベッドがあり、部屋の奥には黒い扉があった。
「ありがとうございます……あ、自分は悠真って言います。ちなみにあなたは……?」
「あら、若いのにしっかりしてるのねぇ。私は……えーと……そう、ルミアって呼んで」
今なぜ自分の名前を言うのを渋ったのだろうか。
別に渋る必要はないと思うのだが……まぁ、特に気にすることはなさそうだ。
自己紹介を終えたルミアはすぐ黒い扉の向こうに行ってしまい、少し待つとお茶と茶菓子、そして分厚い一冊の本を持ってきてくれた。
お茶と茶菓子のことに対し礼を言い、その後この本がなんなのかと聞いてみた。
するとその本はグランデスタと神使白竜の聖森のことが記されている本らしく、その本には付箋のような紙が何枚も挟まれていた。
その付箋のあるページは重要な部分らしく、そこは必ず読んでほしいと釘を刺された。
早くレナを探しに行きたいのだがルミアの優しく、そしてどこか色気のある目に見つめられたせいで歯向かうことができず、ただルミアに従うしかなかった。
「えーと……[グランデスタの国章と名前の由来]グランデスタの国章は神使白竜の聖森に訪れるグローリアと、白く美しいランデスタの花がモチーフとなっている。グローリアとランデスタの文字をとって『グランデスタ』という国名になった」
なるほど、そんな歴史があったのか。
グランデスタ内にあった白い竜と花の描かれた旗……あれが国章なのだろう。
それにしても歴史を知ることができるというのはなかなかいいものだな。
これだけ分厚いと全て読み尽くしてしまいたいくらいの興味深さだ。
悠真にとって読書は趣味の一部である。
それは漫画やライトノベルだけでなく、伝記や歴史本など、本であれば色々なジャンルは悠真の大好物であった。
普段知ることがないことを知れるのが悠真は好きなので、時間があれば『半魔眼(はんまがん)』で色々なものを調べているのだ。
「[ランデスタの花について]ランデスタの花は1年に7日しかない『大満月』の時だけある特別な条件を満たすことで普段閉じている白いつぼみが開き純白の花が咲く。その中に『全治の果実』と言われている果実があり、食べたら体内にある欠損した臓器が再生し、果汁を塗れば深く抉れた傷も瞬時に治る……ってすごいですね、このランデスタの花って」
「えぇ、でも書いてある通り特別な条件でしか花は咲かないの。だから毎年全治の果実を求めて多くの冒険者や権力者が来るけどここ10年以上誰も手に入れてないのよ」
その特別な条件っていうのはそこまで厳しいものなのか……いや、そもそもその条件が分からなくては話にもならないだろう。
万が一にもその条件が分かったとしてもその条件は安易にこなすことは不可能に近そうだ。
そもそもランデスタの花を見ることよりも神の塔へ挑戦しに来たため正直どうでもいいのだが。
──しかしそこで悠真の頭の中にある文字の羅列が並んでいく。
『食べたら体内にある欠損した臓器が再生し、果汁を塗れば深く抉れた傷も瞬時に治る』これはレナの喉も治せるのではないだろうか?
そう考えた瞬間悠真は自然と次のページ、次のページへと手と目を動かし始める。
だが、どこを見てもその特別な条件の答えが記載されていなかった。
「この森にある神の塔は『親交神』という名の神が創造、管理しています。そしてミアーラルはランデスタの花を創った張本人なのです。ミアーラルはランデスタの花を咲かせる特別な条件についてこう述べました──『二つの月が重なる時、その光を浴びて花は咲く』と」
ミアーラル……聞いたことない神の名前だが、神の塔とランデスタの花を創ったということはそれほどの力を持つ神なのだろう。
だがその特別な条件の意味が分からない。
二つの月が重なる……ここから読み取れるに、ランデスタの花が咲くのは夜ということだ。
そして夜空に浮かぶ月の数は一つ……おそらくもう一つの月は何かの比喩表現だと考えた方が妥当だろう。
しかし今悠真の中ではランデスタの花のことよりも大きな疑問が生まれてきた。
なぜルミアはどこの馬の骨かも分からない自分にこのようなことを教えてくれるのだろう。
それにあまりにも詳しすぎる。
まるで体験したことがあるような口調である。
その疑問をルミアに投げかけようとするが、タイミング悪くルミアと言葉が重なり投げかけることが出来なくなってしまった。
「そろそろお仲間さんが来るんじゃないかしら? じゃあ最後のアドバイスよ? 『時には疑い、別の答えを導く必要がある』……分かった?」
「よく分かりませんが……とりあえず、色々とありがとうございました。ルミアさんのアドバイスを元に神の塔、そして全治の果実を手に入れてみせます」
本には他にもグローリアの子供は白くフカフカだとかグランデスタの名産品だとか記載されていたがそこはスルーでいいだろう。
丁寧に頭を下げてお礼を言い、悠真は椅子から立ち上がり外へ出る。
ルミアは小屋の外まで見送ってくれ、結界を抜けようとすると「頑張りなさい」と背中をトンと押して激励してくれたので、元気よく応えて結界を抜ける。
すると結界を抜けてすぐに見慣れた女の子の姿が見えてくる。
「あ、レナ!」
カサカサと草が揺れる音がして、そこからレナがひょっこりと出てくる。
悠真に声をかけられたレナはパアっと表情が明るくなっていき、早歩きでこちらへ近づいてくる。
尻尾が左右にゆらゆらと揺れており、耳もピコピコと動いていた。寂しかったのだろうか?
[私としたことがハルマさまを見失ってしまいました。お怪我はありませんか? 主人に同行すらできない奴隷で申し訳ございません]
「ううん、僕も後ろを確認せず走っちゃったからさ。一概にレナが悪いわけじゃないよ……あ、そうだ。ルミアさん、この子が仲間のレナで──ってあれ?」
さきほど後ろに居たはずのルミアの姿はなく、綺麗な景色も小屋も消え、そこには草木で包まれたただの森の一部となっていた。
不思議そうな顔をするレナを連れて引き返してみるが、どれだけ歩いても小屋のある場所に出ることはなかった。
[どうかなされましたか? それにさきほどルミアという人名を言っていたような気がしますが]
「うん、さっき綺麗な女性……ルミアさんが住む小屋に辿り着いたんだけど……あ、でも服装的になんかあまり見ない感じだったしもしかしたら精霊のイタズラかもね」
悠真は『精霊のイタズラ』と適当なことを言って話すが、レナはその話を聞いて[そうですね、きっと精霊のイタズラですよ]と笑顔で肯定してくれた。
その後、悠真は森の奥へ目指すために来た道を引き返そうとするが、そこでレナが何かに気づいたのか悠真の背中から何かをペリっと剥がした。
その正体は綺麗な白い花が写った写真のような絵だった。
そういえばレナはランデスタの花、そして全治の果実について何も知らないはずだ。
開けた道に出て落ち着いたら話そうと悠真は決め、レナからランデスタの花の絵を受け取り、来た道を真っ直ぐ戻るのであった。
───────────────────
静かになった綺麗な部屋の中。
窓から見える景色は森ではなく、黄色い暖かな光が小屋を包み、窓から室内を照らしていた。
『ふーん、で? その話は本当なの?』
「えぇ、私もビックリしたわよ……あ、アルト。あなた信じてないでしょ」
ルミアは机に置かれた水晶に手を置いて、誰かと会話をしていた。
しかしその会話相手は声だけ聞こえるだけで顔などはこれっぽっちも見えることはない。
『えーと……『異端者』である 如月 悠真 が1人で辿り着いたっていうのよね? はぁ、全く。恐ろしいわね』
「えぇ、その通りよ。私はあと1ヶ月は『ルザイン』が遅れてくると思ったのだけれど……」
彼女らの会話には悠真が 如月 悠真 とフルネームで呼ばれ、他にも『異端者』や『ルザイン』という単語が何度も出されていた。
「私からの報告は以上だわ。じゃ、監視頼むわよ?」
『だから監視って呼ぶな! あくまで観察だからね! ……はぁ、まぁいいわよ。えーと? 『異端者』であり『ルザイン』である 如月 悠真 と 西園寺 蓮花 を『神視』の対象にするわ』
ルミアは謎の女性との会話を切り、再び普通の部屋に戻る。
「さぁ、あれだけヒントを与えたんだもの。きっとすぐクリアするわよね」
優しくも少し怪しげに笑みを浮かべるルミア。
その笑顔はとても美しく、柔らかいものだったが少し裏に何かあるような不思議な笑顔だった。
如月 悠真
NS→暗視眼 腕力Ⅲ 家事Ⅰ 加速Ⅰ 判断力Ⅱ 火属性魔法Ⅰ 広角視覚Ⅰ 大剣術Ⅰ 脚力Ⅰ 短剣術Ⅰ
PS→危険察知Ⅰ 火属性耐性Ⅰ
US→逆上Ⅰ 半魔眼 底力
SS→殺奪
レナ
NS→家事Ⅲ 房中術Ⅱ 水属性魔法Ⅰ 光属性魔法Ⅰ
PS→聴覚強化Ⅰ 忍足Ⅰ
US→NO SKILL
SS→NO SKILL
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,052
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる