26 / 51
26 旧友の訪問
しおりを挟む●●マクシミリアン●●
マクシミリアン・アンハルト侯爵の日々は忙しい。
領民からの訴えを解決し、国境に睨みを効かせ、他領との交易に頭を悩ませる。
最近は大規模な金山なんて見つかったものだから、その管理もしなければならない。
その上で王妃と望まれて娘を王都にやったのに、実質追い出されたような状態となっていることに南部諸侯が我が事のように怒っているので、それを宥めたりもしなければならない。
本当に忙しい。
それでも頻繁に娘の顔を見に行くことができるのは、旧友から学んだ魔功の技によって無尽蔵の体力を得ているからだ。
そんなマクシミリアンが領の仕事に区切りをつけて、そろそろ娘の顔を見に行くかと思っていると、来客があった。
「ゼルディアの使い?」
懐かしい名前を聞いたと思ったが、同時に使いというのもよくわからず、首を傾げた。
あの賢者ぶったグータラ男が現在、獣人連邦という国の相談役という地位に就いているのは知っている。
だがどうせ、たいした仕事などしていないだろうこともわかっていた。
高給だけかすめとって、魔法の研究以外はダラダラと過ごしているに違いない。
そんな旧友だが、動くときには他人を使わずに、自分で動く。
それなのに、使い?
疑問に思いながら待たせてある応接室に向かうと、そこには小さな狐の獣人がいた。
小麦色の耳をピンと立てた少女……というよりも女の子は、マクシミリアンが部屋に入ると、座っていたソファから立ち上がってこちらに頭を下げた。
東方系の儀礼を使う。
アルブレヒトと同い年ぐらいだろうか。
着ているのは白と赤の、こちらではあまり見ない服だ。膨らんだ袖などからしてやはり東方系だろう。
ゼルディアはヴァルトルク王国に近い獣人連邦の出身で、東方との関係はなかったように思うが。
「よく来てくれた。まぁ、座ってくれ。菓子は足りているか?」
孫と同い年ぐらいの子供を一人で来させるとは、あいつのグータラも極まったな。
呆れと怒りを覚えつつ、笑顔で女の子を座らせる。
「大丈夫です。ありがとうございます」
女の子はしっかりとした声で応じた。
「ああ……君の名は?」
「カシャと呼んでください」
「そうか。ではカシャ、ゼルディアの使いだというが、どういうことかな?」
「それは……」
問われたカシャは困ったように自分の尻尾を触った。
「もう、お師匠様! いい加減に出てきてください!」
しばらく困った様子を見せていると、カシャは急に誰もいない空間に向かって叫んだ。
「ああん? なんだ、もう着いたのか」
「もう着いたじゃないです! もうっ!」
なにもない空間から覚えのある声が聞こえたかと思うと、そこに突如として銀色の球が生まれ、膨らみ、解けるようにして広がると人の姿を吐き出した。
銀色の獣人。
複数の尻尾を持つ特殊な狐獣人は欠伸をしながら、そこに立った。
「ゼル……」
「よう、マックあああああ」
答えている途中で大あくび。
昔の通りのグータラ賢者、ゼルディアだ。
「ん? 尻尾が増えたか?」
以前と変わらない姿に呆れていたマクシミリアンだが、変化に気付いた。
複数の尻尾を持つという異常を持つゼルディアだが、以前はたしか五本ぐらいだったはずだ。
いまはあの時よりも増えている。
それは、彼を取り巻く毛量でわかる。
凄まじい。
自らの尻尾の毛でコートができている。
「ああ、九本になった」
「それはすごいな」
「おかげでな、東方の獣人国家で亜神扱いされてな」
「は?」
「それでこいつが巫女として送られてきた」
「巫女?」
「こっちでいう女神官みたいなもんだ」
「そうか。まぁ、座れ」
「尻尾が邪魔で座れんのは知っているだろう」
そう言うと、ゼルディアはその場で宙に浮き、足を組んだ。
マクシミリアンは鈴を鳴らして侍女を呼ぶとお茶と菓子の追加を頼んだ。
まぁ、見えないようにしながらも、カシャと共に旅をして来たというのなら、こいつなりに気を使っていたのかもしれない。
他人が共感できるような気遣いの形を求めても仕方ない。
こいつにしても、ジークにしても。
いや、他の連中もそうか。
みんな、アクの強い奴らばかりだった。
「それで、急になんの用だ?」
「それだ」
「だからなんだ?」
「お前の娘の件だ」
「娘? ソフィーがどうした?」
「お前の娘から手紙が来てな。これだ」
と、ゼルディアは懐から出した手紙をテーブルに投げた。
封の開けられたテーブルはマクシミリアンの前でぴたりと止まる。
封筒に書かれた名前は、たしかにソフィーの筆跡だ。
中にある文を書いたのも彼女だ。
『初めてお手紙を差し上げます。マクシミリアンの娘でソフィーと申します。
早速ですが、私は息子の代筆として筆を取っております。この後に書きますのは、一言一句、息子の言葉ですのでご容赦いただきますよう伏してお願い申し上げます。
ゼルへ、魔晶卵を孵化してやったぞ。お前には絶対できないだろ、やーいやーい。
以上です。是非ともお知恵を借りたく、できればこちらへ足をお運びいただければと願っております。
私の現在の住まいに関しましては、父マクシミリアンにお尋ねいただければ幸いです。
それでは失礼いたします。
ソフィー・アンハルト』
「う~む」
「で、どういうことだ?」
「俺は知らん」
「なに?」
「娘……というか孫だな、これは」
「そうみたいだが、お前の孫ということは、あれだろう、王子だ」
「ああ」
「王子の悪ふざけなのか? 魔晶卵を孵化させたなんて大嘘、魔法を使う者に向かっていうには性質が悪すぎるぞ。お前は孫にどういう教育をしているんだ?」
「教育……」
その言葉を聞いて、急におかしくなった。
あいつを教育できる人間なんて、この世にいるのか?
いや、目の前にいるのか。
「ふっ、ふふふ」
「なんだ?」
「いや、そうだな。もしも、もしもだ。この手紙の内容が本当だったらどうする?」
「なに?」
「本当だったら、孫の教育係になってくれるか?」
そうだな。
こいつだったら、あいつの教育係にだってなれるかもしれない。
あいつは、庶民の間で生きるには十分すぎる知識と教養があるが、さすがに王侯貴族として生きるには色々と足りない。
その点こいつは、知識だけは山ほどある。
腐っても賢者だからな。
「どうだ?」
「ふん、いいだろう」
引っかかった。
きっと驚くことだろう。
あいつのことだ、手紙の内容に嘘はないだろう。
ゼルディアはきっと驚くことになる。
だが、それだけでは面白くない。
どうせなら、アルブレヒトにも驚いてもらわないとな。
43
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?
大好き丸
ファンタジー
天上魔界「イイルクオン」
世界は大きく分けて二つの勢力が存在する。
”人類”と”魔族”
生存圏を争って日夜争いを続けている。
しかしそんな中、戦争に背を向け、ただひたすらに宝を追い求める男がいた。
トレジャーハンターその名はラルフ。
夢とロマンを求め、日夜、洞窟や遺跡に潜る。
そこで出会った未知との遭遇はラルフの人生の大きな転換期となり世界が動く
欺瞞、裏切り、秩序の崩壊、
世界の均衡が崩れた時、終焉を迎える。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!
HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。
跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。
「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」
最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
《小説家になろうにも投稿しています》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる