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33 鍛冶屋と
しおりを挟む宿屋での夜に情熱的なイベントなどもちろんあるはずもなく、ただマックスの奥さんへの惚気だけを聞かされただけだった。
茶化すんじゃなかった。
「お前、鍛冶屋に行ったらその足で帰れ。なっ、お前の足なら三日もかからないだろ?」
そんなに奥さんが好きなら離れるな。
「そういうわけにはいかん。ソフィーからの返信を受け取っていない」
「返信?」
「いつも手紙を運んでいる。あいつ、母さんからの手紙の返事には時間がかかるんだ」
「ああ」
そういえば、マックスが来ている日はよく自分の部屋で頭を抱えているな。
手紙を書いていたのか。
「まぁ、そんなことはいい。まずは鍛冶屋の件を終わらせよう」
朝食は朝市の屋台通りで済ませる。
ハムのサンドイッチとスープ。
エルホルザの街は特に見応えのあるようなものではない。
傾斜の浅い坂がたくさんある街だ。
牧畜が盛んな地区なだけあって、市場には肉と乳製品が多い。
それらを目当てにやってきた行商人もいる。
旅人には面白みの少ない街だ。
後、荒事が好きな連中にとってもそうだろう。
まぁ、そういう連中が近づかないように街道の管理はしっかりされているのだろう。
だからこそ、先日の竜の時には対処が遅れたのだろうが。
「こっちだ」
マックスは屋台で料理を頼むついでに、鍛冶屋の場所を聞いていた。
朝市のあった場所からそれなりに歩いていると、濃い熱気が漂ってくる。
槌を打つ音はまだ聞こえない。
いまは炉を温めている最中か。
「いらっしゃい。あん、なんだい旦那。うちは、あんたみたいな立派な騎士を相手にするところじゃないよ」
店に行くと、入り口で茶を飲んでいた男がそう言った。
マックスの背負っている大剣を見て、騎士だと判断したようだ。
間違ってはいない。
「いや、今日の用は俺じゃない。これを作って欲しいんだが」
「あん?」
マックスの出したクナイを眺めて、鍛冶屋は鼻息を吹く。
「武器か? にしてはそれほど手が込んでないな。鋳造でも良さそうだ」
「それでいいからたくさん作って!」
「なんだ、この坊ちゃんにか?」
「初めての武器だ」
「はん? まぁ、難しくなさそうだからいいけどよ」
「どれくらいかかる?」
「とはいえ初めてだ。型を作って、何度か試して、とりあえず一本目は三日後ってところか。完成品は七日目だな」
「なら、完成品を十本だ」
マックスが金貨をテーブルに詰むと、鍛冶屋は目を見開いた。
「もらいすぎだ」
「なら、その分、いいものを作れ」
「やれやれ」
「できたら、丘のボロ屋に届けてくれ」
「丘のって、あんた王妃様の騎士か?」
「こいつはその王妃様の子だ」
「はぁっ⁉︎」
すっ頓狂な声をあげて、鍛冶屋は改めて俺を凝視し、そして笑った。
「こいつはすげぇ! じゃあ、王子様の初めての武器を献上することになるのか! そいつは気張らないとな!」
ガハハと笑う鍛冶屋に肩をバンバン叩かれる。
なんでこういう、豪快おっさん系はすぐに人を叩くのか。
謎だ。
それから、しばらく見本のクナイを眺めたり、俺の体付きを確認したり、実際に振ってみたりとかさせられた。
普段は鍋やら包丁やら作っているのに本格的だなと棚に並んでいる商品を見て思っていると、そもそもは武器の鍛冶屋だったそうだ。
ただ、いろいろあってこの街に流れて鍋やらを作るようになったそうだ。
「たまにはサビ落としをしないとな!」
とか言っていたが、クナイとはいえ久しぶりに武器を作れるのが嬉しいらしい。
解放された時には太陽がほぼ真上に来ていた。
マナナは途中で飽きて離れたぐらいだ。
「悪かった。マナナ!」
鍛冶屋を出てから名前を呼ぶ。
「……おや?」
返事がない。
マナナがどこかに行ってしまった。
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