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第56話「夏休みについて(22)」
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シャワールームからキャンプサイトに戻ると、榊原と朝霧がテントの中で楽しそうに談笑している姿がランタンの灯りに照らされてシルエットとして浮かび上がっていた。
俺と秀一はその影が映るテントの方に歩み寄り、声をかける。
「莉緒、榊原さん。おまたせー。見張りありがとね」
「2人とも待たせて悪いな」
すると、朝霧と榊原はテントのファスナーを下ろしてひょっこりと顔を出した。
「おかえりー! 待ってる間、麗ちゃんとたくさん話し出来て楽しかったし、大丈夫だよ」
「そうか、なら良いんだが。……で、何をそんなに楽しそうに話していたんだ?」
尋ねると、2人は顔を見合わせて可愛らしく微笑んだ。
「なんてことは無い話よ。どの季節が好きだとか、子供の頃何にハマっていただとか、それと…………いえ……まぁ、そんな話」
榊原が「それと」の後に一体何を言おうとしたのかは分からないが、2人がそんな、どこにでもあるような話で楽しそうに笑い合えていることが、俺はなんとなく嬉しく思えた。
「なんかガールズトークって感じしていいねぇ! やっぱり、ここに2人を連れてきて正解だったなぁ」
秀一はそう言って満面の笑みを見せると、「悠もそう思うだろ?」と同意を求めてきた。
確かに、秀一と男2人でキャンプというのもなんだか寂しい気がしたし、2人が来てくれて良かったと思う。
そんなことを考えながら、俺は秀一の言葉に対し、少し笑みを浮かべて「そうだな」と一言呟いた。
すると、榊原と一緒に笑っていた朝霧が突然声をあげた。
「あっ!!」
俺はその声に驚き、朝霧に尋ねる。
「朝霧、どうした? 急に声を出して」
「みんな! 大事なこと忘れてるよ!」
「大事なこと……?」
俺たちがキョトンとした顔で首を傾げるのを見て、朝霧は「アレだよ! アレ!」と興奮気味に声に出した。
「星だよ! 星空!! 榎本が見せたい景色あるって言ってたじゃん!」
「あぁ! そうだった!! なんで忘れてたんだろ……」
朝霧の一言で俺たちは思い出したように口を開けた。
肝心な秀一すら忘れていたとは、一体どう言うことなのだろう。
そう思って俺は空を見上げる。
「あぁ……そういうことか」
俺は真上に広がるその光景を見て、俺たちが星空のことをすっかり忘れていた理由がはっきりと分かった。
つまり、曇っていたのだ。
先ほど、秀一と一緒に月を見たときは、月が雲に隠れず顔を出していたため気がつかなかったが、今一度空を見上げてみると、白く輝く三日月に雲がかかり、月が雲の隙間から見え隠れしている。
「さっきまであんなに晴れていたのにね……」
テントの中から顔を出し、空を見上げた榊原は、酷く落ち込んだ表情で惜しむように呟き、それに同情するように朝霧も口も開いた。
「あー……ホントだ……曇ってる。星見れないのかなぁ……」
すると、意気消沈する2人の姿を見た秀一が励ますように口を開く。
「だっ、大丈夫! これからきっと晴れるって! 天気予報だと一応晴れになってるし!」
秀一はポケットからスマホを取り出すと、天気予報アプリを開いてそれを俺たちの方に向けた。
確かに天気予報には星のマークが出ている。
ひょっとすると、星の気まぐれで今は雲に隠れているだけかもしれない。
「そう言うことなら、もう少し待ってみよう。もしかすると、これから晴れるかもしれない」
俺もホームページで見た、あの星空を見れないのは残念だ。
だが、それ以上に残念そうにする朝霧と榊原をなんとか励ましてやりたいと思い、秀一に続いて俺も言葉をかけた。
「うん……そうだと良いんだけど……」
朝霧は相変わらず不安そうな表情で小さく呟く。
「よっし!それじゃあ、雲が晴れるまで各自仮眠を取っておこう!いつ星が見えても良いようにね!」
前向きな秀一の一言で、落ち込んでいた朝霧と榊原は少しだけ表情に笑顔を取り戻し、コクリと頷いた。
話し合った結果、2時間交代で俺と秀一が交代で眠ることになった。
全員が寝てしまった場合、万が一星が見えた時に見逃してしまう可能性があったためだ。
俺たちは星が見えるその時までしっかりと体を休めるべく、テントへと入った。
「2人は寝ててくれていいぞ。星が見えたら起こしに行くから」
テントに入る前に、朝霧と榊原に向けて一言声をかけた。
「ありがとう、羽島君。羽島君たちも無理しないでね。……それじゃあ、一旦おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
***
それぞれが仮眠に入った後、まず見張り番を引き受けたのは、この俺。
俺はテントのファスナーを少し開け、外の様子を窺う。
先ほどまでポツポツと明かりが灯っていたキャンプサイトには、もうほとんど明かりは見えなくなっており、耳を澄まして聴こえるのはリーンという虫の鳴き声と秀一の寝息だけ。
不用意に物音を立てれば、秀一や隣のテントで寝ている朝霧・榊原を起こしてしまうという可能性があったため、俺はただただ静かに空を眺め、輝く星々が顔を出す瞬間をジッと待つ。
しかし、10分経っても、30分経っても、1時間経っても、星が顔を出す素振りを見せることはなかった。
そして、2時間が経過した。
俺はテントでグーグーと寝息を立てて夢の世界で楽しそうに暮らす秀一をなんとか現実に引き戻し、交代の時間が来たことを伝えた。
「…………んぁ…………? もう2時間経ったの?」
秀一は寝起きでボヤけた目を擦りながら体を起こすと、グッと背中を伸ばす。
「さて……悠、外はどんな感じ? 星、まだ見えない?」
「あぁ、残念ながらな」
俺がそういうと、秀一はずりずりとテントの入り口に這い寄り、頭だけを外に出して空を見る。
夜の藍色で少し見えにくいが、まだ煙のように空を覆う白い雲が残っている。
「あー、そうだなぁ…………ま、そのうち見えてくるだろ! それじゃ、交代! お疲れ、ありがとな。悠」
「あぁ。……それじゃあ、俺は少し寝るよ。おやすみ」
「おう。おやすみ」
そうして、俺は秀一に見張り番を任せ、静かにまどろみにの中へと入っていった——。
俺と秀一はその影が映るテントの方に歩み寄り、声をかける。
「莉緒、榊原さん。おまたせー。見張りありがとね」
「2人とも待たせて悪いな」
すると、朝霧と榊原はテントのファスナーを下ろしてひょっこりと顔を出した。
「おかえりー! 待ってる間、麗ちゃんとたくさん話し出来て楽しかったし、大丈夫だよ」
「そうか、なら良いんだが。……で、何をそんなに楽しそうに話していたんだ?」
尋ねると、2人は顔を見合わせて可愛らしく微笑んだ。
「なんてことは無い話よ。どの季節が好きだとか、子供の頃何にハマっていただとか、それと…………いえ……まぁ、そんな話」
榊原が「それと」の後に一体何を言おうとしたのかは分からないが、2人がそんな、どこにでもあるような話で楽しそうに笑い合えていることが、俺はなんとなく嬉しく思えた。
「なんかガールズトークって感じしていいねぇ! やっぱり、ここに2人を連れてきて正解だったなぁ」
秀一はそう言って満面の笑みを見せると、「悠もそう思うだろ?」と同意を求めてきた。
確かに、秀一と男2人でキャンプというのもなんだか寂しい気がしたし、2人が来てくれて良かったと思う。
そんなことを考えながら、俺は秀一の言葉に対し、少し笑みを浮かべて「そうだな」と一言呟いた。
すると、榊原と一緒に笑っていた朝霧が突然声をあげた。
「あっ!!」
俺はその声に驚き、朝霧に尋ねる。
「朝霧、どうした? 急に声を出して」
「みんな! 大事なこと忘れてるよ!」
「大事なこと……?」
俺たちがキョトンとした顔で首を傾げるのを見て、朝霧は「アレだよ! アレ!」と興奮気味に声に出した。
「星だよ! 星空!! 榎本が見せたい景色あるって言ってたじゃん!」
「あぁ! そうだった!! なんで忘れてたんだろ……」
朝霧の一言で俺たちは思い出したように口を開けた。
肝心な秀一すら忘れていたとは、一体どう言うことなのだろう。
そう思って俺は空を見上げる。
「あぁ……そういうことか」
俺は真上に広がるその光景を見て、俺たちが星空のことをすっかり忘れていた理由がはっきりと分かった。
つまり、曇っていたのだ。
先ほど、秀一と一緒に月を見たときは、月が雲に隠れず顔を出していたため気がつかなかったが、今一度空を見上げてみると、白く輝く三日月に雲がかかり、月が雲の隙間から見え隠れしている。
「さっきまであんなに晴れていたのにね……」
テントの中から顔を出し、空を見上げた榊原は、酷く落ち込んだ表情で惜しむように呟き、それに同情するように朝霧も口も開いた。
「あー……ホントだ……曇ってる。星見れないのかなぁ……」
すると、意気消沈する2人の姿を見た秀一が励ますように口を開く。
「だっ、大丈夫! これからきっと晴れるって! 天気予報だと一応晴れになってるし!」
秀一はポケットからスマホを取り出すと、天気予報アプリを開いてそれを俺たちの方に向けた。
確かに天気予報には星のマークが出ている。
ひょっとすると、星の気まぐれで今は雲に隠れているだけかもしれない。
「そう言うことなら、もう少し待ってみよう。もしかすると、これから晴れるかもしれない」
俺もホームページで見た、あの星空を見れないのは残念だ。
だが、それ以上に残念そうにする朝霧と榊原をなんとか励ましてやりたいと思い、秀一に続いて俺も言葉をかけた。
「うん……そうだと良いんだけど……」
朝霧は相変わらず不安そうな表情で小さく呟く。
「よっし!それじゃあ、雲が晴れるまで各自仮眠を取っておこう!いつ星が見えても良いようにね!」
前向きな秀一の一言で、落ち込んでいた朝霧と榊原は少しだけ表情に笑顔を取り戻し、コクリと頷いた。
話し合った結果、2時間交代で俺と秀一が交代で眠ることになった。
全員が寝てしまった場合、万が一星が見えた時に見逃してしまう可能性があったためだ。
俺たちは星が見えるその時までしっかりと体を休めるべく、テントへと入った。
「2人は寝ててくれていいぞ。星が見えたら起こしに行くから」
テントに入る前に、朝霧と榊原に向けて一言声をかけた。
「ありがとう、羽島君。羽島君たちも無理しないでね。……それじゃあ、一旦おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
***
それぞれが仮眠に入った後、まず見張り番を引き受けたのは、この俺。
俺はテントのファスナーを少し開け、外の様子を窺う。
先ほどまでポツポツと明かりが灯っていたキャンプサイトには、もうほとんど明かりは見えなくなっており、耳を澄まして聴こえるのはリーンという虫の鳴き声と秀一の寝息だけ。
不用意に物音を立てれば、秀一や隣のテントで寝ている朝霧・榊原を起こしてしまうという可能性があったため、俺はただただ静かに空を眺め、輝く星々が顔を出す瞬間をジッと待つ。
しかし、10分経っても、30分経っても、1時間経っても、星が顔を出す素振りを見せることはなかった。
そして、2時間が経過した。
俺はテントでグーグーと寝息を立てて夢の世界で楽しそうに暮らす秀一をなんとか現実に引き戻し、交代の時間が来たことを伝えた。
「…………んぁ…………? もう2時間経ったの?」
秀一は寝起きでボヤけた目を擦りながら体を起こすと、グッと背中を伸ばす。
「さて……悠、外はどんな感じ? 星、まだ見えない?」
「あぁ、残念ながらな」
俺がそういうと、秀一はずりずりとテントの入り口に這い寄り、頭だけを外に出して空を見る。
夜の藍色で少し見えにくいが、まだ煙のように空を覆う白い雲が残っている。
「あー、そうだなぁ…………ま、そのうち見えてくるだろ! それじゃ、交代! お疲れ、ありがとな。悠」
「あぁ。……それじゃあ、俺は少し寝るよ。おやすみ」
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そうして、俺は秀一に見張り番を任せ、静かにまどろみにの中へと入っていった——。
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