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6.フランセ・ブリス・ド・カーロン
その通りだよ
フランセと格闘した翌日の執務室。
リーリウスの呼び出しに、興味津々の顔で応じたシュナイゼに事の顛末を話すと、
「殿下に正攻法で乗っかろうとするなんて、おバカですね~フランセの奴」
ゲラゲラ大笑いした。
そんな友に、リーリウスはにっこり笑って、新鮮果汁の入ったグラスを手渡す。
笑いながらそれを受け取ったシュナイゼは、口に含んだ瞬間、ブホッ! と盛大に噴き出した。
「ん゛がーっ! 苦っ! 辛っ! ま゛ーッ!!!」
「この世で最も苦いと言われるゲンロウ草と、激辛レベル特級のツァイフー草入り特製果汁だ。どちらも高い解毒作用で知られる薬草だから、そなたにピッタリだろう」
「ひどっ! ん゛がーっ! たひけて殿下、も゛がーっ!」
「私の花嫁捜しに、花婿を仕込んだりするからだ」
水をがぶ飲みする友に、リーリウスは「やれやれ」と蜜ポットを持たせてやった。シュナイゼは真っ赤な顔でそれを受け取り、熊より猛烈な勢いで口に運んでいたが、汗をかきながらも目が輝いてきた。
「わぁ、何だこれ。めっちゃ効く! うま甘! ヒリヒリが無くなりましたよ!」
「ミュスラ蜜は、苦み辛みの口直しに最適と言われている。主にカブトムシが食べる」
「……ムシ用の蜜を食わせたのですか……」
「ムシに感謝しなさい。人が普通の状態で食べても雑味ばかりで美味いと感じないのに、そなたのように『ん゛がーっ!』となっているときに食すと甘く感じるらしい。まさにその通りだったな」
苦笑したシュナイゼが頭を下げた。
「もうお許しください。二度としませんから」
「当然だ。私はじき結婚するのだから、おかしな候補者を捻じ込む余地はもう無い」
ふふんと笑うと、立ち直りの早い友は「それでそれで?」と、執務机の向こうに椅子を持ってきた。
「なぜフランセの『本当の気持ち』にこだわったのです? 殿下を慕っているという言葉に、俺は偽りを感じませんでしたが」
「真実を混ぜれば本当っぽく聞こえるというやつだ。フランセが私を慕ってくれているのは事実だとしても、愛の告白は薄っぺらくて、下手な演技そのものだった」
「これは手厳しい」
リーリウスは新しいグラスを手に取り、薬草の入っていない果汁を注ぐと、シュナイゼの前に置いた。心の友は礼を言うや、警戒もせずがぶ飲みしたので、こんな大型犬の子犬みたいな友にひどいことをしてしまったと、ちょっぴり反省した。
「フランセの前にルイスを見ていたから、余計に違いが際立ったのであろうな」
同じ「一度だけでも」という言葉でも、ルイスの純粋で真摯な告白とはまるで違った。
一方で、兄への贈りものに喜んだり、カブトムシに大はしゃぎする表情に嘘はなかった。
「私はそなたに負けぬくらい、観察力があるのだ」
「はい、存じてますよ? 見ただけで相手の躰のサイズもわかっちゃいますもんね」
「それ以上に勘も鋭いのだ」
「ええ。たまに野生の獣かな? と思うときがあります」
「……そなたは気づかなかったのか?」
「はい?」
リーリウスも、最初から気づいたわけではないが。
これまでのカーロン兄弟の話や、どこか「明るい人」を装っている風にも見えるフランセが、兄に関わること(と虫)には素の顔で食いつく。
そうして思い返せば、「大人っぽい男」が好みという彼がヤり部屋で抱いていた青年たちも、どこかほんのり、エアハルトに似ていた気もする。……中身は伴わずとも。
ゆえにフランセに、「本当の気持ち」を詰問した。殆ど鎌をかけただけだが。
男遊びをするだけならまだしも、本気の愛でもないくせに大胆にも王子の尻を狙ったのだから、そのくらいの代償は支払うべきだろう。
「それで本当にフランセは……兄を恋愛対象として見ていると?」
真顔に戻ったシュナイゼに、軽くうなずいた。
「そのようだ」
最初は頑として話さなかった。が、リーリウスの指でうしろを開発されるうち、本番に突入されるのを恐れたか、とうとう降参した。
「昔から本気で惚れてる人がいます、でもそれが誰かは絶対言いません!」と。
だから、
「エアハルトを愛しているのだろうと言ったら、ポカンとしておった」
その後、赤くなるやら青くなるやら、汗が滝のように噴き出して止まらなくなるやら。尻をいじっている場合でなくなったのは、彼にとって幸いだったろうが。
涙目で「どうして……?」と問うてきたけれど、『勘で鎌をかけただけだ』とも言いづらく、とりあえず意味深に笑うと、観念した様子で自分から打ち明けてきた。
実のところ、初めて夢精したのが兄の夢で、それをきっかけに兄への想いを自覚したという。
カーロン領に移り住んだのも、兄と距離を置くべきだと考えたから。
けれどやっぱりそばにいたくて、戻って来てしまった。
そしてリーリウスに近づいたのも、
「兄は昔からよく、あなたのことを褒めていたので……おれもあなたに憧れを抱いたのは嘘ではありませんが、兄が尊敬する人をよく知りたかったというのが本音だった……かもしれません」
フランセ自身、それが真実だと思っているのかもしれないが。
リーリウスはもっと率直に、兄が憧れる男より、自分のほうが「上」だと思いたかったのでは……という気がした。
自分の手で王子を征服することで、「兄が憧れるほどの男ではない」と確認したかったのではないか。
「――まあ、これ以上は立ち入るつもりも無い。人は人、私は私の愛を追わねば」
「そうですね、一直線に!」
「そなたが脱線させたのだがな。フランセは舞踏会に参加もしていなかったそうじゃないか」
すると、シュナイゼはニヤリと笑った。
「……だって殿下。『運命の人』捜しなんて、はじめから、本気じゃなかったでしょう?」
挑むようなその言葉に、リーリウスも笑みをこぼす。
「――さすが心の友。その通りだよ」
リーリウスの呼び出しに、興味津々の顔で応じたシュナイゼに事の顛末を話すと、
「殿下に正攻法で乗っかろうとするなんて、おバカですね~フランセの奴」
ゲラゲラ大笑いした。
そんな友に、リーリウスはにっこり笑って、新鮮果汁の入ったグラスを手渡す。
笑いながらそれを受け取ったシュナイゼは、口に含んだ瞬間、ブホッ! と盛大に噴き出した。
「ん゛がーっ! 苦っ! 辛っ! ま゛ーッ!!!」
「この世で最も苦いと言われるゲンロウ草と、激辛レベル特級のツァイフー草入り特製果汁だ。どちらも高い解毒作用で知られる薬草だから、そなたにピッタリだろう」
「ひどっ! ん゛がーっ! たひけて殿下、も゛がーっ!」
「私の花嫁捜しに、花婿を仕込んだりするからだ」
水をがぶ飲みする友に、リーリウスは「やれやれ」と蜜ポットを持たせてやった。シュナイゼは真っ赤な顔でそれを受け取り、熊より猛烈な勢いで口に運んでいたが、汗をかきながらも目が輝いてきた。
「わぁ、何だこれ。めっちゃ効く! うま甘! ヒリヒリが無くなりましたよ!」
「ミュスラ蜜は、苦み辛みの口直しに最適と言われている。主にカブトムシが食べる」
「……ムシ用の蜜を食わせたのですか……」
「ムシに感謝しなさい。人が普通の状態で食べても雑味ばかりで美味いと感じないのに、そなたのように『ん゛がーっ!』となっているときに食すと甘く感じるらしい。まさにその通りだったな」
苦笑したシュナイゼが頭を下げた。
「もうお許しください。二度としませんから」
「当然だ。私はじき結婚するのだから、おかしな候補者を捻じ込む余地はもう無い」
ふふんと笑うと、立ち直りの早い友は「それでそれで?」と、執務机の向こうに椅子を持ってきた。
「なぜフランセの『本当の気持ち』にこだわったのです? 殿下を慕っているという言葉に、俺は偽りを感じませんでしたが」
「真実を混ぜれば本当っぽく聞こえるというやつだ。フランセが私を慕ってくれているのは事実だとしても、愛の告白は薄っぺらくて、下手な演技そのものだった」
「これは手厳しい」
リーリウスは新しいグラスを手に取り、薬草の入っていない果汁を注ぐと、シュナイゼの前に置いた。心の友は礼を言うや、警戒もせずがぶ飲みしたので、こんな大型犬の子犬みたいな友にひどいことをしてしまったと、ちょっぴり反省した。
「フランセの前にルイスを見ていたから、余計に違いが際立ったのであろうな」
同じ「一度だけでも」という言葉でも、ルイスの純粋で真摯な告白とはまるで違った。
一方で、兄への贈りものに喜んだり、カブトムシに大はしゃぎする表情に嘘はなかった。
「私はそなたに負けぬくらい、観察力があるのだ」
「はい、存じてますよ? 見ただけで相手の躰のサイズもわかっちゃいますもんね」
「それ以上に勘も鋭いのだ」
「ええ。たまに野生の獣かな? と思うときがあります」
「……そなたは気づかなかったのか?」
「はい?」
リーリウスも、最初から気づいたわけではないが。
これまでのカーロン兄弟の話や、どこか「明るい人」を装っている風にも見えるフランセが、兄に関わること(と虫)には素の顔で食いつく。
そうして思い返せば、「大人っぽい男」が好みという彼がヤり部屋で抱いていた青年たちも、どこかほんのり、エアハルトに似ていた気もする。……中身は伴わずとも。
ゆえにフランセに、「本当の気持ち」を詰問した。殆ど鎌をかけただけだが。
男遊びをするだけならまだしも、本気の愛でもないくせに大胆にも王子の尻を狙ったのだから、そのくらいの代償は支払うべきだろう。
「それで本当にフランセは……兄を恋愛対象として見ていると?」
真顔に戻ったシュナイゼに、軽くうなずいた。
「そのようだ」
最初は頑として話さなかった。が、リーリウスの指でうしろを開発されるうち、本番に突入されるのを恐れたか、とうとう降参した。
「昔から本気で惚れてる人がいます、でもそれが誰かは絶対言いません!」と。
だから、
「エアハルトを愛しているのだろうと言ったら、ポカンとしておった」
その後、赤くなるやら青くなるやら、汗が滝のように噴き出して止まらなくなるやら。尻をいじっている場合でなくなったのは、彼にとって幸いだったろうが。
涙目で「どうして……?」と問うてきたけれど、『勘で鎌をかけただけだ』とも言いづらく、とりあえず意味深に笑うと、観念した様子で自分から打ち明けてきた。
実のところ、初めて夢精したのが兄の夢で、それをきっかけに兄への想いを自覚したという。
カーロン領に移り住んだのも、兄と距離を置くべきだと考えたから。
けれどやっぱりそばにいたくて、戻って来てしまった。
そしてリーリウスに近づいたのも、
「兄は昔からよく、あなたのことを褒めていたので……おれもあなたに憧れを抱いたのは嘘ではありませんが、兄が尊敬する人をよく知りたかったというのが本音だった……かもしれません」
フランセ自身、それが真実だと思っているのかもしれないが。
リーリウスはもっと率直に、兄が憧れる男より、自分のほうが「上」だと思いたかったのでは……という気がした。
自分の手で王子を征服することで、「兄が憧れるほどの男ではない」と確認したかったのではないか。
「――まあ、これ以上は立ち入るつもりも無い。人は人、私は私の愛を追わねば」
「そうですね、一直線に!」
「そなたが脱線させたのだがな。フランセは舞踏会に参加もしていなかったそうじゃないか」
すると、シュナイゼはニヤリと笑った。
「……だって殿下。『運命の人』捜しなんて、はじめから、本気じゃなかったでしょう?」
挑むようなその言葉に、リーリウスも笑みをこぼす。
「――さすが心の友。その通りだよ」
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