ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

文字の大きさ
44 / 228
第2唱 可愛い弟子には旅をさせよ

衝撃のお偉方と、謎の少女の敗北

しおりを挟む
「くっ、くだらん画策とはなんですか!」

 大神殿から出張ってきていたパウマン祭司が、憤慨した様子で立ち上がった。

「聖なる巡礼に向かう者たちへ祝福と守護の祈りを捧げる我々に、悪逆な二心でもあるような物言いは、いくら大魔法使い様といえど許せません!」
「今からうちの弟子を呼ぶから、見せたくないけど顔をよくおぼえとけ」
「無視されましたよっ!?」

 パウマンが涙目で隣席のアカデミー学長タイバーに訴えたが、タイバーはもう何も言う気力はないというように首を振る。
 しかし脂ぎったエルベン総長にはまだ闘争心が残っていたようで、大きな顔に歪んだ笑みを浮かべた。

「弟子? ふん、噂の『介護人』か。こんな無礼で傲慢な大魔法使いサマに見込まれるとは、哀れなことだ。さぞボロ雑巾のごとくくたびれきっていることだろうな」

 その言葉に追従して嘲笑が広がる。

「そうですなあ。天才が優秀な指導者とは限りませんからな」
「口の悪さと態度の悪さであれば、簡単に学べたのでは?」

 悪態をつくことで、アカデミーの面々は元気を取り戻したようだ。
 クロヴィスはそれにはかまわず扉をひらき、「入ってこい」と廊下に向かって声をかけた。

「失礼いたします」

 まず入って来たのは、アシュクロフト騎士団長。
 そしてその大きな手に白い手をそっと引かれてきたのは、ボロ雑巾どころか、玉のような美少年だった。

「こんにちは、はじめまして。お師匠様の弟子で、このたび養子にしてもらいました、ラピス・グレゴワールです!」 

 容姿ばかりか声まで可愛らしく耳に心地良い。
 驚愕のあまり目を剥いて、呆然と口をあけたまま凝視するエルベン総長らに向かって、ラピスは行儀よくぺこりと頭を下げた。顔を上げて彼らと目が合うと、ニコニコと見つめ返してくる。
 誰かが「うっ」とか「眩しいっ」などと呻いた。

「なっ、なんっ、なんで……」
「か、かわわ、可愛いじゃないの……!」

 くたびれきった子供か、師匠に感化された目つきの悪い生意気なガキが、挑戦的に入ってくるのだろうくらいに考えていた一同は。
 見るからに素直そうで、見たこともないほど愛らしく、明らかに大事に大事にされている宝石のような少年が、あのクロヴィスの弟子とはとても思えぬほど無邪気に懐っこく笑みを向けてくるものだから、すっかり混乱してしまった。

「ら、ラピスくん? きみ、本当に、この……グレゴワール氏の、弟子なのかい?」

 なぜか赤面したエルベン総長が、おずおずと腰を浮かせて話しかけると、ほかの者たちも続いて身を乗り出す。
 挙動不審な大人たちに動じず、ラピスは幸せそうにうなずいた。

「はい! お師匠様の弟子にしていただけた上、家族になってくださったんです!」

 頬を薔薇色に染めて、星の輝きの瞳で師を見上げるそのさまの、愛らしいことときたら!
 クロヴィスが手を伸ばすと、当たり前のように手をつなぐ。その笑顔がまた、実に嬉しそうなのだ。

「い、いいなぁ……」
「うちなんて、孫すら手をつないでくれない……」

 衝撃のあまり羨望と嫉妬を隠せずラピスに見惚れる視線の数々を、「はい、おしまい」と自らの躰で遮ったクロヴィスは……

「おぼえたな? どう見ても忘れようがないな? これで『知らなかった』なんて言わせねえからな」

 ビシッと指を突きつけて、名残惜しげに「ああっ」と切ない声の漏れる議事室から、ラピスと共に退室したのだった。
 当然、続いて役員たちに頭を下げて退室した騎士団長が、無表情のまま笑いをこらえていたことなんて、誰も気づいていなかった。


☆ ☆ ☆


 ラピス目当てに学術研究棟に入ったドロシアは、ぐるりと辺りを見回した。
 広い館内のどこに向かったのかと考え、(お手洗いかしら)と視線を走らせた廊下の中ほどに、騎士の制服を着た二人連れがいる。

(あれは……アシュクロフト団長によく同行している騎士見習いの、ディードくんだわ)

 通常であれば騎士見習いの顔と名前などいちいちおぼえないが、ディードはすらりとバランスの良い体型に制服が映える美少年なので、ドロシアの脳内の『美少年の書』に、しっかり記録されている。
 彼がいるということは団長やラピスも近くにいるかもしれないと期待したが、その気配はなく、ディードはこちらに背を向けた人物と話し込んでいた。

(あのうしろ姿……あれもたぶん美少年。もしくは美青年)

 興味津々で見つめすぎたか、ドロシアに気づいたディードと目が合った。
 彼が二言三言喋ると、相手の『推定美少年か美青年』は、ドロシアのいる場所と反対方向へ去ってしまった。
 一方ディードはつかつかと、ドロシアの前までやって来た。

「なにかご用でしょうか?」

 愛想のない声で訊いてくる。
 男子にすげなく扱われることに慣れていないドロシアは内心ムッとしたが、綺麗な顔に免じて受け流し、ついでにここへ来た目的を思い出した。
 そうして先ほどイーライにも使って効果てきめんだった『よく褒められる笑顔』をつくる。

「あのぅ、わたし、ずっと憧れてきた大魔法使い様に、ぜひ訊いてみたいことがあるんです。巡礼に出る前に、ほんの少しでいいのでお会いできませんか? もしもダメなら、遠くからお姿だけでも拝見させてもらえないかしら」

(――決まった)

 可愛い女学生が控えめにお願い。それも「遠くから見せてくれ」程度のお願いであれば、断られることはあるまい。本命はラピスを拝むことだから、ひとつ目のお願いは本当はどうでもいい。
 しかし。
 ディードはニコリともせずドロシアを見下ろした。

「グレゴワール様は大事な会談の最中なので、人払いを命じられています」

 秒で断られた。
 あまりに容赦なく断られて、ムッとしつつ食い下がる。

「遠くから見るだけでもダメですか? 会談が終わるまで待ってますから」

 これなら断れまい! ドロシアはここの学生で、出待ちするのは自由なのだから。
 どや、とディードを見返すと……

「はあ。別に俺に訊かずとも、待ちたければ待てばいいのでは」

(しまった、その通りだ)

 計算しすぎて無策と化した。
 ディードは「それでは」と背を向け、エントランスの大階段をのぼっていく。
 ドロシアは脳内の『美少年の書』のディードの項に、『性格は可愛くない』と書き加えた。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい

megane-san
ファンタジー
私、クリスティーナは、前世で国税調査官として残業漬けの日々を送っていましたが、どうやら過労でぶっ倒れそのまま今の世界に転生してきたようです。 転生先のグリモード伯爵家は表向きは普通の商会を営んでおりますが裏では何やら諜報や暗部の仕事をしているらしく…。そんな表と裏の家業を手伝いながら、前世で汚部屋生活をしていた私は、今世で断捨離に挑戦することにしたのですが、なんと断捨離中に光魔法が使えることが発覚! 魔力があることを国にバレないようにしながら、魔術師の最高峰である特級魔術師を目指します!

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

処理中です...