ドラゴン☆マドリガーレ

月齢

文字の大きさ
89 / 228
第5唱 母の面影

ドロシアの情報網 1

しおりを挟む
 その後は、「念のため」とジークに言われるままゴルト街滞在を延ばして、ゆっくりと心身を休めることになったのだが。
 のんびりしているあいだに、街は古竜の話題一色になっており、巡礼の参加者たちはいつの間にか皆そろって、次なる目的地を『ロックス町』に定めていた。ここから少し南下したところにある町だ。

 ラピスが古竜の歌を聴いた夜、ほかの聴き手たちの中にも、歌を解く機会に恵まれた者が複数いた。とはいえ解けたのは各々ほんの一部分のみだったので、協定を結んで情報を共有し分析した結果、ロックス町へ行こうと結論が出たらしい。
 
「さらに詳しく教えてもらおうと思ったら、みんな口を閉ざしちゃってさ」

 昼食の席で、ヘンリックが不満そうに言った。
 巡礼参加者たちはもちろん、護衛役の騎士や騎士見習いたちからも、「口外するなと約束させられているから」と断られたという。
 ラピスは「ほへ~」と驚いた。
 ラピスはあの歌の中に、ロックス町に関することなど聴いた記憶はなかったからだ。

「僕は歌の途中で目がさめたから、その前にロックス町について歌っていたのかな?」
「そうかもな。ここにきて、あいつら一致団結してラピスに対抗しようとしてるんだよ。誰が見てもラピスが一番優秀だから」

 共に情報収集していたディードも、不機嫌さを隠さず同意した。

「ラピスを出し抜いて、少しでも優位に立とうとしてるんだよな。ほんとセコい。立場が逆なら、ラピスは喜んで教えてやるだろうに」
「喜んで教えてあげる人が、ここにもいますけど?」

 聞きおぼえのある声に、ディードが「うわあ」と顔を歪めるのをラピスは見た。

「ちょっと、騎士見習いくん。その見るからに嫌そうな顔やめてくれる?」

 ラピスが振り返るとそこには、宿の食堂レストランの案内役を従えたドロシアが、不機嫌顔で立っていた。
 緑の瞳はディードを睨んでいるが、ディードは特に言い返しもせず、やれやれというように首を振る。
 ドロシアの目がさらに吊り上がったところへ……

「ドロシアさん、こんにちは~」

 ラピスが挨拶すると、彼女はハッとしたようにこちらを向いて、ラピスの左隣のヘンリックを突き飛ばす勢いで横に陣取り、目を潤ませながら跪いた。

「ラピスくぅんっ! 今日もまた一段と可愛いわ~。会いたかったわ~。ほんと会いたかったわ……。熱を出したらしいと聞いて、心配してたのよ? 大丈夫? もう大丈夫なの? 男ばかりじゃお世話も行き届かないのでしょう。あ、皆さん、ごきげんよう」

 今気づいたみたいに、円卓を囲むジークらに声をかけている。
 殆ど関りはないのに、他人であるラピスをこれほど心配してくれるなんてと、ラピスはとても感動した。

「ありがとうございます、僕はもう大丈夫です! ドロシアさんって、とっても優しいんですね」
「はうぅっ!」

 礼を言っただけなのに、真っ赤になって胸を押さえている。

(そういえば……)
 
 ラピスは彼女と初めて会ったときのことを思い出した。
 あのときも彼女を見ながら、コーフンした馬のようになっているなあと心配したのだった。こんなにしょっちゅう苦しそうにするなんて、実はドロシアのほうこそ、何かの病気なのではなかろうか。
 体調を尋ねてみようと思ったら、彼女に押しのけられていたヘンリックが先に声を上げた。

「失敬だぞ、きみ! こっちは食事中なんだ!」
「あら失礼。どうぞ続けてくださいな? わたしはラピスくんに……ラピスくんに! 情報を届けに来ただけだから」

 なぜかラピスの名を強調したことには触れずに、ディードがドロシアを見た。

「情報とは、古竜の歌に関することですか? アリスンさん」
「……こういうときは名前を間違わないというわけね……書いてやる」
「は?」

 眉根を寄せるディードから、ドロシアの視線が再度ラピスに戻った。

「あのね、古竜の歌を解いた聴き手のうちのひとりが、うちの班にいるの。解いたといってもほんの一部分だけ。『解いた』と騒いでるけど、みんなごく一部だけなのよ。そりゃそうよね。みんながみんなラピスくんみたいに古竜の歌を簡単に解けたら、苦労はないわ」
「そりゃそうだ」

 自らも聴き手であるヘンリックが、うんうんとうなずいている。
 ドロシアはちらりと彼を見て、「……載せよう」と謎の呟きを漏らしたが、すぐに話を戻した。

「で。今回、古竜の歌の断片を解いたアカデミーの聴き手たち数人が集まって、互いのわずかな情報を出し合い相談したのね。その結論が『ロックス町に救いの対象がある』というものだったのよ。それだけ。でもわたしが教えたってことは秘密よ?」

 綺麗にウィンクしているが、ラピスは心配になった。

「秘密なのに、教えてくれちゃって大丈夫ですか? みんなに怒られませんか?」
「うおぉぉ……!」

 ドロシアはまたも謎のうめき声を漏らして胸を押さえた。

「やべえ破壊力だぜ、この天使はよう! ……だいじょぶ、だいじょぶよ~」

 あまり大丈夫そうには見えない。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい

megane-san
ファンタジー
私、クリスティーナは、前世で国税調査官として残業漬けの日々を送っていましたが、どうやら過労でぶっ倒れそのまま今の世界に転生してきたようです。 転生先のグリモード伯爵家は表向きは普通の商会を営んでおりますが裏では何やら諜報や暗部の仕事をしているらしく…。そんな表と裏の家業を手伝いながら、前世で汚部屋生活をしていた私は、今世で断捨離に挑戦することにしたのですが、なんと断捨離中に光魔法が使えることが発覚! 魔力があることを国にバレないようにしながら、魔術師の最高峰である特級魔術師を目指します!

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

処理中です...