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第6唱 竜王の呪い
呪いの話でキャッキャする師弟
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「えっと、それはつまり……僕も母様のように、『呪われて穢れに触れた』ということ、なのでしょうか? そのせいで熱が出たと」
「そうだ。……怖かったろう。守ってやれなくて、すまなかった」
白皙を悔しげに歪めた師の、長い腕に抱きしめられる。
(そういえば……)
ラピスは高熱で寝込んでいたときのことを思い出した。
確かにすごく怖い夢を見ていた。
ズブズブと底なし沼に沈んでいくような、たった独りで右も左もわからぬ闇の中を落下していく夢。
痛くも苦しくもないのに、ものすごくつらくて恐ろしくて。
あれは単なる悪夢ではなく、呪いに囚われていたということなのだろうか。
思い起こしただけで全身が粟立ち、ぽふんと師の胸元に顔を押しつけた。
いつもの、心落ち着くいい匂いが、記憶に残った悪夢を浄化し消し去っていく。
深く吸い込んでから顔を上げると、さっきまで笑っていたディードたちも、心配そうにラピスを見ていた。クロヴィスも沈痛な面持ちだ。
「呪詛だの呪法だの、そんな話はできればお前に聞かせたくない。だが相手は想定以上に強力な呪術者で、明らかにお前を狙った。そしてこの先も狙われるかもしれない。ならば避けて通るより、正面から備えるべきだろう」
確かにそうだと、ラピスも思う。
古竜から、母は呪われて殺されたと知らされたとき、本当にショックだった。怖かったし、ひどく混乱した。
けれど今にして思えばあのときは、呪詛という得体の知れないものに対してというより、大好きな母が誰かに呪われていたという事実に、大きな衝撃を受けたのだと思う。竜は嘘など言わないから。
優しくて躰が弱くて、誰かの脅威になるような人ではなかったのに、なぜ……と。
そして今回、自分が狙われたと聞かされても、あのときほど衝撃を受けていない自分にラピスは気づいた。その理由ははっきりしている。
竜と世界を呪う呪術師にとって、竜と世界を救うことを目的とした巡礼の成功は阻止すべきこと。だから古竜の知恵に触れたラピスが狙われた。
相手にとって一番の脅威はクロヴィスであろうが、大魔法使いに呪詛で挑むことに尻込みしたのかもしれない。
「なんたって大魔法使いだもんね!」
「ん?」
ひとりで納得してうなずくと、師が眉根を寄せた。
そう。呪詛が怖くないと言えば噓になるけれど、ラピスにはクロヴィスがいる。世界一の腕を持つ、世界一優しい大魔法使いが守ってくれているのだから、恐怖に縮こまる必要はないのだ。
「お師匠様、あのとき、古竜さんを呼んでくれましたよね」
にっこり笑うと、紅玉の瞳が大きく見ひらかれた。
「――知っていたのか」
「はい! でも夢かなぁとも思っていたのですけど。真っ暗闇の中で名前を呼んでもらったおかげで、怖い夢から戻れたんです。お師匠様の声と……それと、母様も」
古竜が夢の中で昔の想い出を見せてくれたことを話すと、少し沈んでいたクロヴィスの表情に喜色が浮かんだ。
「すごいな! 俺が竜へ呼びかけた声が聞こえていたというのもすごいが、古竜に過去を見せてもらったというのもすごい。さすが俺の弟子だ! この調子なら、お前と念話で話せる日もそう遠くないかもしれないぞ……! しかし本当にすごい。これまで出現した古竜は自分たちの記憶を伝えてくれたが、人の記憶を取り出して見せるということもできるんだな」
「ですよね、ですよねっ! すごいです! そうだ、思い出しましたっ。夢の中で母様が言ってたことで、気になることが」
師弟で竜談義に花を咲かせかけて、二人同時にハッと気がついた。
ジークたちが、困惑の表情のまま固まっていることに。
(そうだった。呪詛の話から脱線しちゃった)
クロヴィスもそう思ったようで、舌打ちしつつも「どこまで話したっけ」と話を戻した。
「呪詛に正面から備えましょうって話でした! 僕もそれが良いと思います、だから備え方を教わりたいです!」
「ラピんこ……怖くないのか?」
「怖いですっ!」
「元気口調と言葉の内容が合ってねえな」
「怖いのですけど、僕ひとりではありませんから! お師匠様も、ジークさんもディードも、ヘンリックやギュンターさんも、みんながいてくれますから!」
笑顔で振り向くと、ディードとヘンリックの頬が赤く染まった。ジークとギュンターは、なぜか気まずそうに視線を交わしている。
彼らを半目で眺めていたクロヴィスが、「聞いたか? お前ら」とからかうように声をかけた。
「どうよ、うちの弟子の純粋な信頼っぷり。これほどあけっぴろげな好意を寄せられているのに、まだ偽り続けるつもりか?」
「い、偽ったわけでは……!」
ディードが珍しく大きな声を上げた。しかしすぐに言葉を詰まらせ、いつもは勝ち気に輝く榛色の瞳を潤ませてラピスを見る。
「ラピスぅ」
「そうだ。……怖かったろう。守ってやれなくて、すまなかった」
白皙を悔しげに歪めた師の、長い腕に抱きしめられる。
(そういえば……)
ラピスは高熱で寝込んでいたときのことを思い出した。
確かにすごく怖い夢を見ていた。
ズブズブと底なし沼に沈んでいくような、たった独りで右も左もわからぬ闇の中を落下していく夢。
痛くも苦しくもないのに、ものすごくつらくて恐ろしくて。
あれは単なる悪夢ではなく、呪いに囚われていたということなのだろうか。
思い起こしただけで全身が粟立ち、ぽふんと師の胸元に顔を押しつけた。
いつもの、心落ち着くいい匂いが、記憶に残った悪夢を浄化し消し去っていく。
深く吸い込んでから顔を上げると、さっきまで笑っていたディードたちも、心配そうにラピスを見ていた。クロヴィスも沈痛な面持ちだ。
「呪詛だの呪法だの、そんな話はできればお前に聞かせたくない。だが相手は想定以上に強力な呪術者で、明らかにお前を狙った。そしてこの先も狙われるかもしれない。ならば避けて通るより、正面から備えるべきだろう」
確かにそうだと、ラピスも思う。
古竜から、母は呪われて殺されたと知らされたとき、本当にショックだった。怖かったし、ひどく混乱した。
けれど今にして思えばあのときは、呪詛という得体の知れないものに対してというより、大好きな母が誰かに呪われていたという事実に、大きな衝撃を受けたのだと思う。竜は嘘など言わないから。
優しくて躰が弱くて、誰かの脅威になるような人ではなかったのに、なぜ……と。
そして今回、自分が狙われたと聞かされても、あのときほど衝撃を受けていない自分にラピスは気づいた。その理由ははっきりしている。
竜と世界を呪う呪術師にとって、竜と世界を救うことを目的とした巡礼の成功は阻止すべきこと。だから古竜の知恵に触れたラピスが狙われた。
相手にとって一番の脅威はクロヴィスであろうが、大魔法使いに呪詛で挑むことに尻込みしたのかもしれない。
「なんたって大魔法使いだもんね!」
「ん?」
ひとりで納得してうなずくと、師が眉根を寄せた。
そう。呪詛が怖くないと言えば噓になるけれど、ラピスにはクロヴィスがいる。世界一の腕を持つ、世界一優しい大魔法使いが守ってくれているのだから、恐怖に縮こまる必要はないのだ。
「お師匠様、あのとき、古竜さんを呼んでくれましたよね」
にっこり笑うと、紅玉の瞳が大きく見ひらかれた。
「――知っていたのか」
「はい! でも夢かなぁとも思っていたのですけど。真っ暗闇の中で名前を呼んでもらったおかげで、怖い夢から戻れたんです。お師匠様の声と……それと、母様も」
古竜が夢の中で昔の想い出を見せてくれたことを話すと、少し沈んでいたクロヴィスの表情に喜色が浮かんだ。
「すごいな! 俺が竜へ呼びかけた声が聞こえていたというのもすごいが、古竜に過去を見せてもらったというのもすごい。さすが俺の弟子だ! この調子なら、お前と念話で話せる日もそう遠くないかもしれないぞ……! しかし本当にすごい。これまで出現した古竜は自分たちの記憶を伝えてくれたが、人の記憶を取り出して見せるということもできるんだな」
「ですよね、ですよねっ! すごいです! そうだ、思い出しましたっ。夢の中で母様が言ってたことで、気になることが」
師弟で竜談義に花を咲かせかけて、二人同時にハッと気がついた。
ジークたちが、困惑の表情のまま固まっていることに。
(そうだった。呪詛の話から脱線しちゃった)
クロヴィスもそう思ったようで、舌打ちしつつも「どこまで話したっけ」と話を戻した。
「呪詛に正面から備えましょうって話でした! 僕もそれが良いと思います、だから備え方を教わりたいです!」
「ラピんこ……怖くないのか?」
「怖いですっ!」
「元気口調と言葉の内容が合ってねえな」
「怖いのですけど、僕ひとりではありませんから! お師匠様も、ジークさんもディードも、ヘンリックやギュンターさんも、みんながいてくれますから!」
笑顔で振り向くと、ディードとヘンリックの頬が赤く染まった。ジークとギュンターは、なぜか気まずそうに視線を交わしている。
彼らを半目で眺めていたクロヴィスが、「聞いたか? お前ら」とからかうように声をかけた。
「どうよ、うちの弟子の純粋な信頼っぷり。これほどあけっぴろげな好意を寄せられているのに、まだ偽り続けるつもりか?」
「い、偽ったわけでは……!」
ディードが珍しく大きな声を上げた。しかしすぐに言葉を詰まらせ、いつもは勝ち気に輝く榛色の瞳を潤ませてラピスを見る。
「ラピスぅ」
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