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バス通りに沿って進み、野菜の無人販売所の横を右に曲がると、小学校らしい建物が見えてきた。蚕桑小学校と書かれた看板も確認できる。
のどかな場所ではあるが、子育てには適しているのか、校舎は三階建てで校庭も広い。少子化が進む地方にしては、立派な設備を持つ学校のようだ。
校庭を左に見ながら進み、角を曲がると正門らしい場所があった。まだヘリは来ていない。間に合ったようだ。
花巻が蚕桑小学校に着くと、正門で駐在さんと校長先生らしい人が待っていた。
「花巻先生ですか?」
校長らしい人が確認するように聞いてきた。五十代後半と思われる、教育者らしい落ち着いた雰囲気の男性だった。
なんと答えてよいのかわからず、とりあえず返事だけと思い「はい」と答える。
「校長の吉井です。お待ちしていました。まあ、それにしても、いくら防災訓練のためとはいえ、急にヘリを着陸させるなんて言われたら困りますよ」
鮎川は防災訓練とでも校長に伝えたのだろう。花巻は校長に少し申し訳ないような気がした。確かに、学校側としては迷惑な話に違いない。
「はあ。すみませんねえ」
花巻は恐縮しながら頭を下げた。
「放課後だって学校は使われているわけですし、急だと困るんですよ。急だと」
吉井校長の小言を聞きながら運動場側に回ると、校舎沿いに野球のユニフォームを着た子どもたちが何人もしゃがんでいる。スポーツ少年団の練習中だったのだろう。指導者や母親らしい大人の姿も何人か見える。
花巻が校長の話を聞きながら子どもたちの方を見ていると、指導者らしい人と目が合ったので、思わず会釈をした。突然の出来事で、関係者以外にも迷惑をかけているようだ。
その時だった。
「おおー」
突然、子どもたちの歓声が上がった。向かいに見える山を越えて、自衛隊のヘリコプターが姿を現したのだ。
ヘリはあっという間に学校上空に到着し、地上三メートルほどの高さで一度ホバリングした後、ゆっくりと着地した。ローターの巻き上げる土煙が激しく舞い上がる。
大人たちは皆、手で口を覆って土煙から身を守っているが、子どもたちは興味津々な様子で、全く気にした様子はない。間近で見る自衛隊のヘリコプターは、彼らにとって滅多にない体験なのだろう。
「うわあ、すげえ!」
「本物だ!」
「かっこいい!」
子どもたちの声が聞こえてくる。確かに、こんな小さな町でヘリコプターを見る機会などほとんどないだろう。
花巻は口だけでなく目まで覆っている校長に、「すぐに出ると思います。ご迷惑をおかけしました」と伝えた。
そして、帽子を右手で押さえながら腰をかがめて、ヘリに向かって走り出した。ローターの風圧は想像以上に強く、体が持って行かれそうになる。
ヘリの扉が開くと、中から自衛隊員が顔を出し、花巻に手招きをした。
「花巻先生ですね! すぐに出発しますので、お急ぎください!」
大きなローター音に負けじと、隊員が大声で呼びかける。
花巻は慌ててヘリに乗り込んだ。座席に座ってシートベルトを締めると、すぐにヘリは浮上を始めた。
窓から見下ろすと、校長先生や駐在さん、そして野球少年たちが手を振っているのが見えた。花巻も窓から手を振り返した。
「突然の出動、お疲れさまでした」
隣に座った自衛隊員が、ヘッドセットを通して話しかけてきた。
「いえいえ、こちらこそ。ご迷惑をおかけして」
花巻も渡されたヘッドセットを装着して答えた。
「百里基地までは約一時間の飛行予定です。明日の大分行きの詳細は、基地で説明があります」
「ありがとうございます」
ヘリは高度を上げながら、白鷹町の美しい田園風景を後にした。窓の下には、夕日に照らされた田んぼが金色に輝いている。さっきまでいた平和な世界が、どんどん小さくなっていく。
花巻は胸のポケットから、今日収集した民話のメモを取り出した。優しい鬼の話。村人を守ってくれる化け物の伝説。それらの話の中に、門に関する手がかりが隠されているかもしれない。
「大分で何が見つかったんだろうな」
花巻は窓の外を見ながらつぶやいた。夕日が西の空に沈もうとしていた。
百里基地に到着したのは、完全に日が暮れてからだった。花巻は基地内の宿泊施設で一夜を過ごし、翌朝早くに大分へ向かうことになっている。
部屋に案内されて荷物を置くと、すぐに鮎川から電話がかかってきた。
「先生、お疲れさまでした。無事に到着されたようですね」
「ああ、今着いたよ。それで、大分の件は?」
「古い石板が発見されたようです。そして、その石板には門に関する記述があると思われます。それ以上のことはまだ何もわかっていないようなので、明日現地で確認をお願いします」
花巻は身を乗り出した。
「石板に門の記述が?」
「ええ、ですからそれが本当なら世間に知られる前に対応をしなければと思い、確認に行ってもらいたいとのことです」
「それって、写真とかない?」
「現地で発見者が撮った写真が2枚手に入りましたが、秘匿情報ですので自衛隊のラインで送るようにしました。もう届いていると思います。あとは明日用意します」
花巻は考え込んだ。門に関する遺物はこの国では少ないながらもいくつか出ているが石板というのはあまり例がない。
「わかった。明日詳しく聞くよ」
「はい。明日は地元の市役所の方が案内してくださるそうです。それと文科省の人も同行されるそうです。それでは、お疲れでしょうからゆっくりお休みください」
電話を切った後、花巻は窓の外を見つめた。基地の向こうには、星空が広がっている。
花巻は深いため息をついて、ベッドに横になった。
のどかな場所ではあるが、子育てには適しているのか、校舎は三階建てで校庭も広い。少子化が進む地方にしては、立派な設備を持つ学校のようだ。
校庭を左に見ながら進み、角を曲がると正門らしい場所があった。まだヘリは来ていない。間に合ったようだ。
花巻が蚕桑小学校に着くと、正門で駐在さんと校長先生らしい人が待っていた。
「花巻先生ですか?」
校長らしい人が確認するように聞いてきた。五十代後半と思われる、教育者らしい落ち着いた雰囲気の男性だった。
なんと答えてよいのかわからず、とりあえず返事だけと思い「はい」と答える。
「校長の吉井です。お待ちしていました。まあ、それにしても、いくら防災訓練のためとはいえ、急にヘリを着陸させるなんて言われたら困りますよ」
鮎川は防災訓練とでも校長に伝えたのだろう。花巻は校長に少し申し訳ないような気がした。確かに、学校側としては迷惑な話に違いない。
「はあ。すみませんねえ」
花巻は恐縮しながら頭を下げた。
「放課後だって学校は使われているわけですし、急だと困るんですよ。急だと」
吉井校長の小言を聞きながら運動場側に回ると、校舎沿いに野球のユニフォームを着た子どもたちが何人もしゃがんでいる。スポーツ少年団の練習中だったのだろう。指導者や母親らしい大人の姿も何人か見える。
花巻が校長の話を聞きながら子どもたちの方を見ていると、指導者らしい人と目が合ったので、思わず会釈をした。突然の出来事で、関係者以外にも迷惑をかけているようだ。
その時だった。
「おおー」
突然、子どもたちの歓声が上がった。向かいに見える山を越えて、自衛隊のヘリコプターが姿を現したのだ。
ヘリはあっという間に学校上空に到着し、地上三メートルほどの高さで一度ホバリングした後、ゆっくりと着地した。ローターの巻き上げる土煙が激しく舞い上がる。
大人たちは皆、手で口を覆って土煙から身を守っているが、子どもたちは興味津々な様子で、全く気にした様子はない。間近で見る自衛隊のヘリコプターは、彼らにとって滅多にない体験なのだろう。
「うわあ、すげえ!」
「本物だ!」
「かっこいい!」
子どもたちの声が聞こえてくる。確かに、こんな小さな町でヘリコプターを見る機会などほとんどないだろう。
花巻は口だけでなく目まで覆っている校長に、「すぐに出ると思います。ご迷惑をおかけしました」と伝えた。
そして、帽子を右手で押さえながら腰をかがめて、ヘリに向かって走り出した。ローターの風圧は想像以上に強く、体が持って行かれそうになる。
ヘリの扉が開くと、中から自衛隊員が顔を出し、花巻に手招きをした。
「花巻先生ですね! すぐに出発しますので、お急ぎください!」
大きなローター音に負けじと、隊員が大声で呼びかける。
花巻は慌ててヘリに乗り込んだ。座席に座ってシートベルトを締めると、すぐにヘリは浮上を始めた。
窓から見下ろすと、校長先生や駐在さん、そして野球少年たちが手を振っているのが見えた。花巻も窓から手を振り返した。
「突然の出動、お疲れさまでした」
隣に座った自衛隊員が、ヘッドセットを通して話しかけてきた。
「いえいえ、こちらこそ。ご迷惑をおかけして」
花巻も渡されたヘッドセットを装着して答えた。
「百里基地までは約一時間の飛行予定です。明日の大分行きの詳細は、基地で説明があります」
「ありがとうございます」
ヘリは高度を上げながら、白鷹町の美しい田園風景を後にした。窓の下には、夕日に照らされた田んぼが金色に輝いている。さっきまでいた平和な世界が、どんどん小さくなっていく。
花巻は胸のポケットから、今日収集した民話のメモを取り出した。優しい鬼の話。村人を守ってくれる化け物の伝説。それらの話の中に、門に関する手がかりが隠されているかもしれない。
「大分で何が見つかったんだろうな」
花巻は窓の外を見ながらつぶやいた。夕日が西の空に沈もうとしていた。
百里基地に到着したのは、完全に日が暮れてからだった。花巻は基地内の宿泊施設で一夜を過ごし、翌朝早くに大分へ向かうことになっている。
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「先生、お疲れさまでした。無事に到着されたようですね」
「ああ、今着いたよ。それで、大分の件は?」
「古い石板が発見されたようです。そして、その石板には門に関する記述があると思われます。それ以上のことはまだ何もわかっていないようなので、明日現地で確認をお願いします」
花巻は身を乗り出した。
「石板に門の記述が?」
「ええ、ですからそれが本当なら世間に知られる前に対応をしなければと思い、確認に行ってもらいたいとのことです」
「それって、写真とかない?」
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花巻は考え込んだ。門に関する遺物はこの国では少ないながらもいくつか出ているが石板というのはあまり例がない。
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