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最初は何も起こらないように見えたが、やがて門の内側が虹色に揺らぎ出した。まるで水面に光が反射しているような、幻想的な光景だった。
そして、その揺らめきの向こうに、見知らぬ草原の風景が映し出された。青い空、緑の草原、そして遠くに見える森。確実に、地球ではない世界の風景だった。
「信じられない……」
佐藤がつぶやいた。
「本当に異世界への入口なんですね」
「行きましょう」
サミアが先頭に立って門に向かった。ヨルンヘルドとクロストロフがその後に続く。
使節団のメンバーは、緊張と期待を胸に、一人ずつ門をくぐっていった。
田中が門を通り抜ける瞬間、体に軽い電流のような感覚が走った。そして次の瞬間、彼は異世界の大地に立っていた。
空気が違う。匂いも、湿度も、すべてが地球とは異なっている。でも、決して不快ではない。むしろ、どこか懐かしいような感覚さえあった。
門を越えた先には、四本の石の柱と一軒の建物があった。石柱はかなり古いもののようで、表面には苔が生え、風雨による浸食の跡が見られる。建物は木造で、見張り台のような機能を持っているらしい。
使節団十二名が突然姿を現したことに驚いたように、建物から兵士らしい人物が三名出てきた。彼らは革の鎧を身にまとい、剣を帯びている。典型的な中世ファンタジーの兵士といった出立ちだった。
サミアと花巻が前に出て、現地の言葉で話し始めた。サミアの声は流暢で、明らかにネイティブスピーカーだということがわかる。
しばらく会話が続いた後、兵士の一人がクロストロフに気づいた。その瞬間、兵士の表情が一変した。
「クロストロフ様!」
兵士は膝をついて敬礼した。他の二人も慌てて同じような姿勢を取る。
どうやら、クロストロフは彼らにとって英雄とでも言うべき有名な戦士だったらしい。
「私はもう君たちの指南役ではない。立ちなさい」
クロストロフが優しく言うと、兵士たちは安堵の表情を見せた。
「クロストロフ様がご無事で何よりです……我々は心配しておりました」
「ご苦労様。最近の状況はどうだ?」
クロストロフの質問に、兵士の一人が暗い表情で答えた。
「あまり良くありません。北の方から不穏な動きがあります」
その後、兵士の一人が急いで建物に戻り、伝令を出すための準備を始めた。領主邸から使いが来ることになったのだ。
約二時間後、三台の馬車が到着した。装飾が施された立派な馬車で、領主の威厳を示すものだった。
しかし、問題があった。兵士の格好をしたメンバーには席がないのだ。
「申し訳ございません」
御者が説明した。
「兵士や傭兵の方々は徒歩でお願いします。こちらの慣習でして……」
自衛隊から派遣された特殊部隊員たちは、騎士や傭兵の扮装をしていたため、歩いて行くことになった。
「まさか異世界に来ていきなり歩かされるとは思わなかった」
隊員の一人が日本語で愚痴をこぼすと、同僚が慌てて注意した。
「日本語を話すな。怪しまれる」
確かに、現地の人々に日本語を聞かれるわけにはいかない。彼らは黙々と馬車の後を歩き始めた。
馬車に揺られながら、田中は車窓から見える風景に見入っていた。緑豊かな草原が続き、時々農家らしい建物が見える。人々の服装や建物の様式は、確かに中世ヨーロッパのそれに似ているが、どこか東洋っぽい感じもする。
「本当に異世界にいるんですね」
山本がつぶやいた。
「まだ実感が湧きません」
「私も同じです」
佐藤が答えた。
「でも、確実にここは地球ではありません」
約二時間の道のりを経て、一行は領主邸に到着した。石造りの立派な建物で、まさに中世の貴族の館といった風格を持っている。
玄関で出迎えたのは、年若い貴族の夫婦と執事らしい老人だった。貴族の男性は手を広げ一行を迎え入れようとして、はたと何かに気づいたように手を止め、ややぎこちないお辞儀をした。その後、一行は執事によって館内に案内された。
広間に通された使節団は、そこで意外な人物に出会うことになった。
「初めまして、山﨑と申します」
現れたのは、どう見ても日本人の男性だった。四十代半ばと思われ、現地の文官風の衣装を身にまとっているが、その顔立ちは間違いなく東洋系だった。
「あ、あなたは……」
田中が驚きの声を上げた。
「日本の方ですか?」
「はい、そうです」
山﨑は微笑みながら答えた。
「こちらで外交官のようなことをしております」
「外交官?」
使節団のメンバーは皆、困惑していた。日本政府からは、異世界との正式な外交関係はないと聞いていたはずだ。
「これまで日本がこちらの世界に何もしていなかったって、どうして思われるんですか?」
山﨑の言葉に、一同は絶句した。
「政府を通したものではありませんが、レフュラン王国と日本との外交ルートは一千年以上前から開いていますよ」
そして、その揺らめきの向こうに、見知らぬ草原の風景が映し出された。青い空、緑の草原、そして遠くに見える森。確実に、地球ではない世界の風景だった。
「信じられない……」
佐藤がつぶやいた。
「本当に異世界への入口なんですね」
「行きましょう」
サミアが先頭に立って門に向かった。ヨルンヘルドとクロストロフがその後に続く。
使節団のメンバーは、緊張と期待を胸に、一人ずつ門をくぐっていった。
田中が門を通り抜ける瞬間、体に軽い電流のような感覚が走った。そして次の瞬間、彼は異世界の大地に立っていた。
空気が違う。匂いも、湿度も、すべてが地球とは異なっている。でも、決して不快ではない。むしろ、どこか懐かしいような感覚さえあった。
門を越えた先には、四本の石の柱と一軒の建物があった。石柱はかなり古いもののようで、表面には苔が生え、風雨による浸食の跡が見られる。建物は木造で、見張り台のような機能を持っているらしい。
使節団十二名が突然姿を現したことに驚いたように、建物から兵士らしい人物が三名出てきた。彼らは革の鎧を身にまとい、剣を帯びている。典型的な中世ファンタジーの兵士といった出立ちだった。
サミアと花巻が前に出て、現地の言葉で話し始めた。サミアの声は流暢で、明らかにネイティブスピーカーだということがわかる。
しばらく会話が続いた後、兵士の一人がクロストロフに気づいた。その瞬間、兵士の表情が一変した。
「クロストロフ様!」
兵士は膝をついて敬礼した。他の二人も慌てて同じような姿勢を取る。
どうやら、クロストロフは彼らにとって英雄とでも言うべき有名な戦士だったらしい。
「私はもう君たちの指南役ではない。立ちなさい」
クロストロフが優しく言うと、兵士たちは安堵の表情を見せた。
「クロストロフ様がご無事で何よりです……我々は心配しておりました」
「ご苦労様。最近の状況はどうだ?」
クロストロフの質問に、兵士の一人が暗い表情で答えた。
「あまり良くありません。北の方から不穏な動きがあります」
その後、兵士の一人が急いで建物に戻り、伝令を出すための準備を始めた。領主邸から使いが来ることになったのだ。
約二時間後、三台の馬車が到着した。装飾が施された立派な馬車で、領主の威厳を示すものだった。
しかし、問題があった。兵士の格好をしたメンバーには席がないのだ。
「申し訳ございません」
御者が説明した。
「兵士や傭兵の方々は徒歩でお願いします。こちらの慣習でして……」
自衛隊から派遣された特殊部隊員たちは、騎士や傭兵の扮装をしていたため、歩いて行くことになった。
「まさか異世界に来ていきなり歩かされるとは思わなかった」
隊員の一人が日本語で愚痴をこぼすと、同僚が慌てて注意した。
「日本語を話すな。怪しまれる」
確かに、現地の人々に日本語を聞かれるわけにはいかない。彼らは黙々と馬車の後を歩き始めた。
馬車に揺られながら、田中は車窓から見える風景に見入っていた。緑豊かな草原が続き、時々農家らしい建物が見える。人々の服装や建物の様式は、確かに中世ヨーロッパのそれに似ているが、どこか東洋っぽい感じもする。
「本当に異世界にいるんですね」
山本がつぶやいた。
「まだ実感が湧きません」
「私も同じです」
佐藤が答えた。
「でも、確実にここは地球ではありません」
約二時間の道のりを経て、一行は領主邸に到着した。石造りの立派な建物で、まさに中世の貴族の館といった風格を持っている。
玄関で出迎えたのは、年若い貴族の夫婦と執事らしい老人だった。貴族の男性は手を広げ一行を迎え入れようとして、はたと何かに気づいたように手を止め、ややぎこちないお辞儀をした。その後、一行は執事によって館内に案内された。
広間に通された使節団は、そこで意外な人物に出会うことになった。
「初めまして、山﨑と申します」
現れたのは、どう見ても日本人の男性だった。四十代半ばと思われ、現地の文官風の衣装を身にまとっているが、その顔立ちは間違いなく東洋系だった。
「あ、あなたは……」
田中が驚きの声を上げた。
「日本の方ですか?」
「はい、そうです」
山﨑は微笑みながら答えた。
「こちらで外交官のようなことをしております」
「外交官?」
使節団のメンバーは皆、困惑していた。日本政府からは、異世界との正式な外交関係はないと聞いていたはずだ。
「これまで日本がこちらの世界に何もしていなかったって、どうして思われるんですか?」
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