アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ

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 タリアの宿の一室で、使節団は今後の行動について話し合っていた。窓の外では、武装した者たちが不穏な気配を漂わせながら街を徘徊している。
「エドモンガルドの門が開くまで、まだ日程に余裕があります」
 田中が地図を広げながら言った。
「この機会に、港湾都市ラングームの様子も確認しておきたいと思います」
「賛成です」
 クロストロフが頷いた。
「ラングームの状況を把握できれば、この騒動の全体像が見えてくるかもしれません」
「ただし、全員で行くのは危険です」
 佐藤が慎重な口調で続けた。
「今回は久世、瀬崎、佐野の自衛隊組三名とクロストロフさん、ヨルンヘルムさんの五人で様子を探ってきてください。他の者はタリアで情報収集を続けます」
「了解しました」
 久世が姿勢を正した。
「我々は商人として振る舞い、できる限り目立たないように行動します」
「無理はしないでください」
 サミアが心配そうに言った。
「危険を感じたら、すぐに引き返してくださいね」

 翌朝、久世たち五人は商人の装いでタリアを出発した。背負子には商品らしき荷物を詰め込み、護衛を連れた商人一行に見えるよう細心の注意を払っている。
 最初のうちは平穏な旅だった。いくつかの村や小さな街を経由しながら進んでいく。しかし、ラングームに近づくにつれて、風景が変わり始めた。
「あれは……」
 佐野が声を潜めた。
 道沿いに、焼け焦げた屋敷が見える。壁は黒く煤け、屋根は崩れ落ちていた。
「戦闘があったようですね」
 クロストロフが険しい表情で呟いた。
 さらに進むと、焼かれた商店や倉庫が次々と目に入ってくる。村全体が灰燼に帰している場所もあった。人の気配はなく、不気味な静けさだけが漂っている。
「これは酷い」
 瀬崎が拳を握りしめた。
「一体誰がこんなことを」
 タリアとラングームのちょうど中間あたりに位置すると言われるルラの街に到着した時、五人は言葉を失った。
 街で見るのは、プロネス族と地球の軍服姿の者ばかりだった。それも、日本の自衛隊、C国の人民解放軍、I国陸軍、E国王立海軍の制服まで見られる。肩にかけているのは、明らかに地球の機関銃だ。R国製が多い。
「これは……」
 久世が息を呑んだ。
「一体どういうことだ」
 彼らは慎重に街に足を踏み入れた。しかし、すぐに武装した者たちに取り囲まれてしまった。
「止まれ!」
 自衛隊の制服を着た男が銃を構えた。しかし、その顔つきは明らかに日本人ではない。中東系の彫りの深い顔立ちだった。
「我々は商人です」
 クロストロフが落ち着いた声で説明した。
「ラングームのスタン商会の依頼でレフュランに行き、商談を済ませて帰ってきたところです」
 男は首を振った。何か言葉を発したが、それはレフュラン語でもナリアの共通語でもなかった。アラビア語のように聞こえる。
「我々は通過するだけです」
 クロストロフが再び説明しようとしたが、男は聞き入れない。
「困りましたね」
 ヨルンヘルムが小声で呟いた。
 クロストロフは何度も交渉を試みた。身振り手振りを交えながら、自分たちがただの商人であることを説明しようとする。しかし、男たちは頑として聞き入れなかった。
 ついに、複数の機関銃が五人に向けられた。
「ふざけるな!」
 ヨルンヘルムが怒りを爆発させた。
「我々は何も悪いことはしていない!」
「落ち着いてください、ヨルンヘルムさん」
 瀬崎がレフュラン語で素早く諌めた。
「ここで争っても得るものはありません」
 瀬崎は武装した男たちに向き直り、できる限り穏やかな表情を作った。
「今晩、この街に泊まってから帰るというのではダメでしょうか」
 しかし、男たちは無言のまま銃口を向け続けた。そして、街の出口を指差した。意味は明白だった。
「追い出されるのか」
 久世が歯噛みした。
 五人は仕方なく、ルラの街から退去することになった。武装した者たちに監視されながら、街の外に出る。振り返ると、男たちは依然として銃を構えたまま、五人が完全に見えなくなるまで見張り続けていた。
「くそ……」
 佐野が悔しげに呟いた。
「情報を得るどころか、完全に拒絶されてしまいました」
「あの装備、間違いなく地球からのものです」
 久世が報告した。
「しかし、あれは正規軍ではありません。傭兵か、何かの工作部隊でしょう」
「R国製の機関銃が多かったな」
 瀬崎が付け加えた。
「闇市場から流れてきたものかもしれません」
「一体誰が、何のために」
 クロストロフが拳を握りしめた。
「あいつらがこの世界を戦火に巻き込もうとしているのか」
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