アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ

文字の大きさ
53 / 84

53

しおりを挟む
 タリアの宿の一室で、使節団は今後の行動について話し合っていた。窓の外では、武装した者たちが不穏な気配を漂わせながら街を徘徊している。
「エドモンガルドの門が開くまで、まだ日程に余裕があります」
 田中が地図を広げながら言った。
「この機会に、港湾都市ラングームの様子も確認しておきたいと思います」
「賛成です」
 クロストロフが頷いた。
「ラングームの状況を把握できれば、この騒動の全体像が見えてくるかもしれません」
「ただし、全員で行くのは危険です」
 佐藤が慎重な口調で続けた。
「今回は久世、瀬崎、佐野の自衛隊組三名とクロストロフさん、ヨルンヘルムさんの五人で様子を探ってきてください。他の者はタリアで情報収集を続けます」
「了解しました」
 久世が姿勢を正した。
「我々は商人として振る舞い、できる限り目立たないように行動します」
「無理はしないでください」
 サミアが心配そうに言った。
「危険を感じたら、すぐに引き返してくださいね」

 翌朝、久世たち五人は商人の装いでタリアを出発した。背負子には商品らしき荷物を詰め込み、護衛を連れた商人一行に見えるよう細心の注意を払っている。
 最初のうちは平穏な旅だった。いくつかの村や小さな街を経由しながら進んでいく。しかし、ラングームに近づくにつれて、風景が変わり始めた。
「あれは……」
 佐野が声を潜めた。
 道沿いに、焼け焦げた屋敷が見える。壁は黒く煤け、屋根は崩れ落ちていた。
「戦闘があったようですね」
 クロストロフが険しい表情で呟いた。
 さらに進むと、焼かれた商店や倉庫が次々と目に入ってくる。村全体が灰燼に帰している場所もあった。人の気配はなく、不気味な静けさだけが漂っている。
「これは酷い」
 瀬崎が拳を握りしめた。
「一体誰がこんなことを」
 タリアとラングームのちょうど中間あたりに位置すると言われるルラの街に到着した時、五人は言葉を失った。
 街で見るのは、プロネス族と地球の軍服姿の者ばかりだった。それも、日本の自衛隊、C国の人民解放軍、I国陸軍、E国王立海軍の制服まで見られる。肩にかけているのは、明らかに地球の機関銃だ。R国製が多い。
「これは……」
 久世が息を呑んだ。
「一体どういうことだ」
 彼らは慎重に街に足を踏み入れた。しかし、すぐに武装した者たちに取り囲まれてしまった。
「止まれ!」
 自衛隊の制服を着た男が銃を構えた。しかし、その顔つきは明らかに日本人ではない。中東系の彫りの深い顔立ちだった。
「我々は商人です」
 クロストロフが落ち着いた声で説明した。
「ラングームのスタン商会の依頼でレフュランに行き、商談を済ませて帰ってきたところです」
 男は首を振った。何か言葉を発したが、それはレフュラン語でもナリアの共通語でもなかった。アラビア語のように聞こえる。
「我々は通過するだけです」
 クロストロフが再び説明しようとしたが、男は聞き入れない。
「困りましたね」
 ヨルンヘルムが小声で呟いた。
 クロストロフは何度も交渉を試みた。身振り手振りを交えながら、自分たちがただの商人であることを説明しようとする。しかし、男たちは頑として聞き入れなかった。
 ついに、複数の機関銃が五人に向けられた。
「ふざけるな!」
 ヨルンヘルムが怒りを爆発させた。
「我々は何も悪いことはしていない!」
「落ち着いてください、ヨルンヘルムさん」
 瀬崎がレフュラン語で素早く諌めた。
「ここで争っても得るものはありません」
 瀬崎は武装した男たちに向き直り、できる限り穏やかな表情を作った。
「今晩、この街に泊まってから帰るというのではダメでしょうか」
 しかし、男たちは無言のまま銃口を向け続けた。そして、街の出口を指差した。意味は明白だった。
「追い出されるのか」
 久世が歯噛みした。
 五人は仕方なく、ルラの街から退去することになった。武装した者たちに監視されながら、街の外に出る。振り返ると、男たちは依然として銃を構えたまま、五人が完全に見えなくなるまで見張り続けていた。
「くそ……」
 佐野が悔しげに呟いた。
「情報を得るどころか、完全に拒絶されてしまいました」
「あの装備、間違いなく地球からのものです」
 久世が報告した。
「しかし、あれは正規軍ではありません。傭兵か、何かの工作部隊でしょう」
「R国製の機関銃が多かったな」
 瀬崎が付け加えた。
「闇市場から流れてきたものかもしれません」
「一体誰が、何のために」
 クロストロフが拳を握りしめた。
「あいつらがこの世界を戦火に巻き込もうとしているのか」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界で農業を -異世界編-

半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。 そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

35歳バツイチオッサン、アーティファクト(美少女)と共に宇宙(ソラ)を放浪する

エルリア
SF
35歳バツイチ。 長年勤めていた清掃会社をクビになり、その日のうちに家族にも見放され。 更にはしがない辺境のボロ商店を運営していた親が急に亡くなり、急遽その船を引き継ぐことに。 そんな中、船の奥を片づけていると倉庫の奥にヒューマノイドを発見。 それが実はアーティファクトと呼ばれる超文明の遺産だと判明したその時から彼の新たな目標が決定した。 そうだ、自分だけの星を買おう。 そこで静かに余生を過ごすんだ、そうだそうしよう。 かくして、壮大すぎる夢に向かって万能美少女ヒューマノイドとの旅が始まったのだった。

処理中です...