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セッティングされる縁談

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父が1代で大企業に育て上げたカグラホーム。
木造建築と鉄骨建築の両方をてがけているハウスメーカーで、デザイン専門の建築家や設計士、インテリアコーディネーターが打ち合わせに入って外観や内装を設計しているため、かなりオシャレな建築物を建てている。
施工を自社行い住宅機器メーカーと電気メーカーと提携を結ぶ事で建設資材の低価格化を実現させた。
標準装備もかなり充実させている事から、今では年間売り上げ第5位、年間施工棟数第3位のハウスメーカーに登り詰めた。

創業22年と歴史は浅いが、耐震技術、高気密・高断熱に優れた創エネ・蓄エネ・省エネができるスマート設備を搭載した耐久性が高い家を建てると、今、もっとも注目を受けている。

そのカグラホームの社長令嬢の私は都内にある国内最高峰の大学で建築学を学び、卒業後は本社の建築部意匠設計課で設計士をしていた。

大学の夏休みに毎年のようにヨーロッパに留学し、精錬された北欧デザインの建築物やお城や宮殿、教会などの歴史ある建造物に触れていたのもあり、意匠設計士として働き始めてから、美術館や役所などの公共施設のデザインコンペを数回勝ちとり、人気女性建築士として戸建住宅やカフェ、レストランなどの仕事の依頼を多数受けるようになり、一級建築士の資格を取得してからは任される仕事の規模も大きくなり、働きづめの日々を送ってた。

「……結芽、悪いな。クライアントが結芽に依頼したいといって譲らないから」

「……大丈夫。デザインコンペで勝ちとった案件だから、他の人には任せられないよ」

仕事をしている時は無心になれる。
完全に心が麻痺して、働き蜂のように請け負ってる仕事を熟していく。

「結芽、今日の19時にグランドプリンセスホテル品川の最上階にあるフレンチレストラン カンテサンス・ジョエルに来いよ」

「……仕事なら致し方がないですが、お見合いは嫌です」

父と創兄が私に縁談をもってくる。

結婚式をあげる直前に婚約破棄され、おてつきがついた曰くつきの御令嬢になってしまい、歳も27でこのままだと嫁の貰い手がつかなくなると焦ったらしい。
だけど、雅樹が亡くなった3ヶ月後から月2でお見合いをさせられ、かなり嫌だった。

「結芽、15人目だぞ!!カグラホームの御令嬢は性格が悪くて嫁の貰い手がつかないと思われてしまう。そろそろ、結婚する相手を決めろ!!」

創兄を交えて1度食事はするも、直ぐに丁重にお断りを入れてた。


足場の悪い建築現場へいく事もある事から、パンツスーツを仕事着にしてる。
お見合い相手に対して失礼だと思いつつも、家に戻って着替える時間はなく、グレーのスプライト柄のスラックスに白いジャケットという女性らしさのかけらもない装いでレストランに入った。

「結芽、久しぶり。美人女性建築士として活躍してるらしいな!!」

「……須藤さん、ご無沙汰してます。須藤さんほどではないです。湘南競技場完成しましたね。最新技術を駆使して、おしゃれなだけでなく人にも環境にも配慮した設計をされていて、流石だと思いました」

若手天才建築士と世界規模で活躍してる須藤結翔さん。
夏休みの建築留学で一緒に学んでた先輩で、創兄の親友だったりする。

「ありがとう。あれ、結構無理ある設計だったんだよな。自然のメカニズムを活用したエコな仕様。なんとかカタチになってほっとしてる」

オリンピックの新競技場の5つのうち2つの設計を任され、多忙な日々を送ってた須藤さん。
ハーバード大学院時代から建築士として活動をしていて、アメリカを拠点に個人設計事務所を構えて活動をしてる。

「あれは施工もかなり大掛かりできつかった」

日本で受けた建築物件に関して、須藤さんは大手ゼネコンでなくカグラホームに施工を委託してくれる。
フレンチのコース料理を頂きながら、須藤さんと創兄から大規模物件の施工秘話に耳を傾けた。

「……仕事の話はここまでにして、本題。須藤、結芽を貰ってくれるんだよな?」

「結芽が承諾してるならな」

カフェ・ブティフールが運ばれ、コーヒーを口に含んでいると、いきなりその話題にかわり、咽せる。

「結芽に断る権限はない。須藤が貰い受けてくれなかったら15人に縁談を断られた残念な御令嬢になってしまう」

「なら、ありがたく結芽を奥さんに貰うよ。結芽、大切にするから俺の元においで」

須藤さんが私の方を向き、笑顔を浮かべて手を差し伸べてきた。

「……ごめんなさい。私、誰とも結婚したくないです」

「結芽、お前に断わる権限はないといっただろ。須藤、頼むからこいつを嫁に貰ってくれ!!」

犬猫を里子に出すように、創兄は私を嫁に出そうとする。

「創兄こそ、32歳なんだから、仕事を理由に逃げず、どこぞの御令嬢とお見合いして結婚したら!!」

積りに積もった創兄に対する不満が爆発する。
創兄が私を思って、色々世話を焼いてくれてるのはわかってる。
雅樹の交際を認めなかったのは、雅樹が私の夫になる器がないとわかってたから。

「俺はまだ所帯を持つのは早い。ここぞという時に会社のために結婚する。とにかくだ、お前は須藤と結婚しろ!!」

創兄に口では到底勝てない。
言い返す事ができず、須藤さんと婚約が成立してしまった……。



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