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第一章 平民ライフ突入編
21.彼女は母の決断に驚く。
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(side リディア)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
両親がグリーンフィールにやってきた。
レンダルを捨てて。
執事のセバスチャンも来ているということだから、公爵家――ではなくなったわね。爵位を返上したから、今はただのサティアス家ね――の使用人たちも一緒に来ているのだと思う。全員ではないかもしれないけれど。
サティアス家は建国時からある由緒正しい家で、王家に忠誠も誓ってきた。
でも、お父様が宰相になって、わたしが王子の婚約者になってからは、王家や他の貴族から、あまりにも都合よく使われてきたと思う。
臣下ならば、それでも仕えるのが当然なのかもしれないけど、そうは言っても我慢にも限界があるのだ。我が家はほとほとうんざりしていた。
だから、サティアス家が国を出る可能性は高いと思っていたし、両親は、その決断力も行動力もある人たちだから、今回の結果は想定通りだ。
わたしと王子の婚約破棄と冤罪による国外追放はただのきっかけであって、これまでの積み重ねが、国を出る判断をさせたのだと思う。
でも、まさか、三ヶ月で片を付けてくるとは思わなかったのだ。
お父様は宰相で、重要ポジションにいた上にものすごい仕事量だった。
お母様の商会も、年々評判が上がって、売り上げも伸びていた。
そんな仕事をしている人たちが、簡単に国を出れるはずがない。
仕事の引継ぎにも時間がかかるだろうし、引っ越しだって大がかりだ。
何よりも、お父様に頼り切っていた陛下がかなりごねると思っていたのだけど。
あろうことか、無理やりペンと印璽を持たせていただなんて。
「お父様、陛下のこと脅したの?」
「いやいや、そうじゃない。なんてことを言うんだ」
「だって、無理やり持たせたって」
「ああ、説明が足りなかったな。今回の殿下の暴走について責任追及をしたら、陛下が拗ねてしまってね。今まで以上に仕事をしなくなったんだ」
「は?」
陛下、何してるの?拗ねるって、子供か!
さすがあの王子の親だとは思うけど、仕事はちゃんとしてください。
「だから、仕事をさせるために無理やりペンと印璽を持たせたんだ。爵位の返上やグリーンフィールへの移籍書類は、溜まった仕事の中の一部だよ」
あ、移籍書類もちゃんと申請してきたのね。
たぶん、こっちで国民登録ができたらレンダルから除籍するような条項も追加してきているに違いない。お父様、抜かりないから。
―――ちなみに、わたしとラディは、その手続きをもう終えている。
っていうか。
「え、それ、紛れ込ませたっていうんじゃないの?」
「陛下の仕事はそれだけじゃないからね、しょうがないだろう。それに、いくら何でも、普通は内容を確認してから承認するだろう?」
普通はそうだけど!
あの陛下だよ?しかも、やる気がないときの陛下だよ?
機械的にサインして押印してただけのような気がする。
「ちゃんと説明はしてきたの?」
「当然だろう」
「…………………………………」
陛下はきちんと理解していないに一票。
「でもね、リディアちゃん。それくらいしないと出て来れなかったわよ?」
「確かに、それはそうかもしれないけど」
「でしょう?だから、いいのよ。書類はあるんだし、もう終わったことよ」
まあ、そっか。そうよね。
もう国を出てきたんだし。終わったことだ。
ある意味、よくやった、くらいのことよね。
うん。お父様、お疲れさまでした。
「お仕事の引継ぎは大丈夫なの?」
「責任を取って辞任しろと言われたのだ。私を引きずり降ろそうとしたんだから、やれる自信があるってことだろう?」
「うわー……」
お父様、それは、ちょっと。
お父様だから何とかなっていた、と言われていたお仕事よ?
ラディも遠くを見ているわ。わかるわ、その気持ち。
「商会のほうは大丈夫なの?グリーンフィール進出のお仕事までお任せしちゃったから、すごく大変だったでしょう?」
「この国での商会立ち上げは、ルイスに話を振っているのよ」
「え、そうなの?」
「だって、あの人、あれでこの国では結構権力があるのよ?人脈もあるし、情報も確かだから、打ってつけなのよ」
ルイスというのは、お母様の従兄で、隣領のデュアル侯爵領の領主様。
お祖母様の実家であるデュアル侯爵家とは今でも付き合いが続いているのだ。
お祖母様が別邸を持っていて、それをお母様が相続したから、今回の引っ越し先もその別邸のはず。ここからは馬で半日くらいかしら?
このあたりの話はまだラディにはしていなかったわね。
後でちゃんと説明しておかないと。
今は、なんとなくでいいから、話について来てね?
「ルイス伯父様、お元気かしら?お手紙は出したんだけど、ずっと王都にいらっしゃってまだお会いできてないのよね」
「そろそろ戻ってくるはずよ。商会の話もかなり乗り気だから」
あら、それは心強い。
この国で発言力がある人が付いてくれるなら、安心感が増すわよね。
「伯父様が、こっちでの商会を取り仕切ってくれるの?」
「レンダルとは商会の規則とか常識がちょっと違うみたいなのよね。だから、ルイスにはかなり動いてもらっているけれど、基本的には私がやるわよ?」
「え、じゃあ、レンダルのほうはどうするの?」
「撤退してきたわよ?」
「「は?」」
これはさすがに、ラディも声が出た。
え、何、何なの。撤退って、なんでそんな話になってるの?
「え、ちょっと待って。お母様、撤退ってどういうこと?」
「リディアちゃん。グリーンフィールで立ち上げようとしている商会の規模、わかってる?レンダルの時よりも商品がかなり増えるのよ?」
「そうね。わたしも好き勝手に提案しちゃったけど、その通りね」
確かにそうだ。
今回は、魔道具と非売品扱いだったものまで売ろうとしてるんだもの。
製造も販売も、かなりの人員が必要になるはずよね。
技術者だって、今のメンバー総出でも結構な忙しさになると思う。
「アーリア商会の規模でも足りないくらいなのに、支店として一部の人間だけでやるのは無理があるでしょう?調査結果を見ても、素材が豊富で市場も大きいのがわかったから、グリーンフィールのほうが商売がしやすいと判断したの。それで、商会ごと移転したほうがいいってことになったのよ」
「じゃあ、商会のみんなもこっちに来てるの?」
「そうよ。みんなの住むところを確保するのにも時間がかかってしまったのよね。ルイスに頼んで、集合住宅を建ててもらったの。今は、準備ができたメンバーから順番に引っ越してもらってるところよ」
うわーー。そんな大移動なことになってたんだ。
でも、故郷を離れるなんて、みんな、よかったんだろうか。
やっぱり、生まれたところを捨てるのは抵抗があるんじゃないかしら?
「みんなは大丈夫なの?納得してる?」
「レンダルとの共通語があるから、抵抗は少なかったと思うわよ?それに、この国は環境がいいもの。リディアちゃんのおかげね。水道設備に感動してたわよ。集合住宅には魔道具も付けたから、みんな喜んでるわ」
ああ、そうか。言葉に不自由しないのは大きいかも。
―――両国は仲が悪いくせに共通語があるなんて変な話だけど。
レンダルより格段に住みやすいのは保証する。
だからって、やっぱり、国を出るのは勇気が必要だったと思うのよね。
商会が始まったら、ちゃんとみんなのフォローをしよう。そうしよう。
「ならよかったけれど。集合住宅はサティアス家の近くなの?」
「そう遠くないわ。商会の拠点をね、我が家の敷地内に作るから、そこに通える範囲に場所を確保してもらったのよ」
「あ、そうなのね。今度遊びに行くわ」
「我が家にも魔道具を設置したから快適になったわよ」
そういえば、デュアル侯爵領のサティアス邸は改築をしていなかったから、魔道具は入ってなかったわね。今回、その工事もしてたってことは、かなりの作業量だったに違いない。
って、これ、全部、ルイス伯父様が手配してくれたのよね?
伯父様、めちゃくちゃ働いてない?
伯父様っていうよりは、伯父様の部下だろうけど。
デュアル侯爵家の方々、なんか、本当にありがとうございます。
今度、何か美味しいもの持っていきます。
―――なんてことを考えてたら、ラディが意を決した顔で口を開いた。
そんなに構えなくても大丈夫よ?気軽に話に入ってきてね?
「あ、あの。レンダルの王都のお店も撤退してしまったんですか?」
「うふふ。閉店セールで大儲けしてきたわ」
あらやだ。お母様ったら、悪い顔になってるわ。
ラディ、引かないであげてね。
でも、閉店セール大事よね。
在庫整理に移転資金の確保。そこは外せない。
「そうなんですか…。グラント家でもよく利用させてもらってたので残念です」
あああ、そうだったわ。
ラディのおうちでは贔屓にしてくれてたんだったわ。
それは、ものすごく申し訳ないことになっているかもしれない。
何とかならないかしら?
「まあ、そうだったの?うれしいわ。ラディン君のおうちならいつでも融通するから、欲しいものがあったら言ってちょうだいね」
「いいのですか?」
「勿論よ。……と言ってもね、これからずっとレンダルで手に入らないわけではないの。一部技術を売ってきた商品もあるし、類似品も出回っていたと思うわ」
「そうなんですか?」
「ええ。ただ、うちの商会よりも品質が落ちるかもしれないから、もし、うちの商品を希望してくれるなら、注文票を渡すわね」
「でしたら、注文票をいただけるとうれしいです」
「あら。ご贔屓にありがとう」
これ、ラディのおうちに転送装置を設置したほうがいいんじゃないかしら。
容量を大きめにするとなると、今あるものではちょっと改良が必要だけど。
あとで作ってみよう。
というか、技術売ってきたものもあるのか。
でも、そうね。
今まであったものがいきなり手に入らないとなると困るわよね。
別に、レンダルに嫌がらせをしたいわけではないし。
すべての技術を売るのは難しいけど、汎用性のあるものなら、技術ごと売ってしまうのがいいのかもしれない。
「お仕事のお話はこれくらいにしましょう?ルイスが領地に戻ってきたら打ち合わせをする予定なのよ。詳しくはその時に話しましょう」
「わかったわ。企画書も練り直しておくわね」
「それよりも、このおうちを案内してくれないかしら?また、何か新しいものを作ったでしょう?あなたとラディン君は男同士のお話でもしててくださいな」
おっと。ここで分かれるのね。
でも、そういうのもいいわね。
ただ、ラディが一気に緊張した面持ちになってしまったわ。
「ラディ。お父様が怖いのは顔だけだから、大丈夫よ?」
「なんてことを言うんだ……」
ラディの緊張をほぐしたかっただけなんだけど、逆効果だったかしら。
お父様、落ち込まないで。ごめんなさい。
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両親がグリーンフィールにやってきた。
レンダルを捨てて。
執事のセバスチャンも来ているということだから、公爵家――ではなくなったわね。爵位を返上したから、今はただのサティアス家ね――の使用人たちも一緒に来ているのだと思う。全員ではないかもしれないけれど。
サティアス家は建国時からある由緒正しい家で、王家に忠誠も誓ってきた。
でも、お父様が宰相になって、わたしが王子の婚約者になってからは、王家や他の貴族から、あまりにも都合よく使われてきたと思う。
臣下ならば、それでも仕えるのが当然なのかもしれないけど、そうは言っても我慢にも限界があるのだ。我が家はほとほとうんざりしていた。
だから、サティアス家が国を出る可能性は高いと思っていたし、両親は、その決断力も行動力もある人たちだから、今回の結果は想定通りだ。
わたしと王子の婚約破棄と冤罪による国外追放はただのきっかけであって、これまでの積み重ねが、国を出る判断をさせたのだと思う。
でも、まさか、三ヶ月で片を付けてくるとは思わなかったのだ。
お父様は宰相で、重要ポジションにいた上にものすごい仕事量だった。
お母様の商会も、年々評判が上がって、売り上げも伸びていた。
そんな仕事をしている人たちが、簡単に国を出れるはずがない。
仕事の引継ぎにも時間がかかるだろうし、引っ越しだって大がかりだ。
何よりも、お父様に頼り切っていた陛下がかなりごねると思っていたのだけど。
あろうことか、無理やりペンと印璽を持たせていただなんて。
「お父様、陛下のこと脅したの?」
「いやいや、そうじゃない。なんてことを言うんだ」
「だって、無理やり持たせたって」
「ああ、説明が足りなかったな。今回の殿下の暴走について責任追及をしたら、陛下が拗ねてしまってね。今まで以上に仕事をしなくなったんだ」
「は?」
陛下、何してるの?拗ねるって、子供か!
さすがあの王子の親だとは思うけど、仕事はちゃんとしてください。
「だから、仕事をさせるために無理やりペンと印璽を持たせたんだ。爵位の返上やグリーンフィールへの移籍書類は、溜まった仕事の中の一部だよ」
あ、移籍書類もちゃんと申請してきたのね。
たぶん、こっちで国民登録ができたらレンダルから除籍するような条項も追加してきているに違いない。お父様、抜かりないから。
―――ちなみに、わたしとラディは、その手続きをもう終えている。
っていうか。
「え、それ、紛れ込ませたっていうんじゃないの?」
「陛下の仕事はそれだけじゃないからね、しょうがないだろう。それに、いくら何でも、普通は内容を確認してから承認するだろう?」
普通はそうだけど!
あの陛下だよ?しかも、やる気がないときの陛下だよ?
機械的にサインして押印してただけのような気がする。
「ちゃんと説明はしてきたの?」
「当然だろう」
「…………………………………」
陛下はきちんと理解していないに一票。
「でもね、リディアちゃん。それくらいしないと出て来れなかったわよ?」
「確かに、それはそうかもしれないけど」
「でしょう?だから、いいのよ。書類はあるんだし、もう終わったことよ」
まあ、そっか。そうよね。
もう国を出てきたんだし。終わったことだ。
ある意味、よくやった、くらいのことよね。
うん。お父様、お疲れさまでした。
「お仕事の引継ぎは大丈夫なの?」
「責任を取って辞任しろと言われたのだ。私を引きずり降ろそうとしたんだから、やれる自信があるってことだろう?」
「うわー……」
お父様、それは、ちょっと。
お父様だから何とかなっていた、と言われていたお仕事よ?
ラディも遠くを見ているわ。わかるわ、その気持ち。
「商会のほうは大丈夫なの?グリーンフィール進出のお仕事までお任せしちゃったから、すごく大変だったでしょう?」
「この国での商会立ち上げは、ルイスに話を振っているのよ」
「え、そうなの?」
「だって、あの人、あれでこの国では結構権力があるのよ?人脈もあるし、情報も確かだから、打ってつけなのよ」
ルイスというのは、お母様の従兄で、隣領のデュアル侯爵領の領主様。
お祖母様の実家であるデュアル侯爵家とは今でも付き合いが続いているのだ。
お祖母様が別邸を持っていて、それをお母様が相続したから、今回の引っ越し先もその別邸のはず。ここからは馬で半日くらいかしら?
このあたりの話はまだラディにはしていなかったわね。
後でちゃんと説明しておかないと。
今は、なんとなくでいいから、話について来てね?
「ルイス伯父様、お元気かしら?お手紙は出したんだけど、ずっと王都にいらっしゃってまだお会いできてないのよね」
「そろそろ戻ってくるはずよ。商会の話もかなり乗り気だから」
あら、それは心強い。
この国で発言力がある人が付いてくれるなら、安心感が増すわよね。
「伯父様が、こっちでの商会を取り仕切ってくれるの?」
「レンダルとは商会の規則とか常識がちょっと違うみたいなのよね。だから、ルイスにはかなり動いてもらっているけれど、基本的には私がやるわよ?」
「え、じゃあ、レンダルのほうはどうするの?」
「撤退してきたわよ?」
「「は?」」
これはさすがに、ラディも声が出た。
え、何、何なの。撤退って、なんでそんな話になってるの?
「え、ちょっと待って。お母様、撤退ってどういうこと?」
「リディアちゃん。グリーンフィールで立ち上げようとしている商会の規模、わかってる?レンダルの時よりも商品がかなり増えるのよ?」
「そうね。わたしも好き勝手に提案しちゃったけど、その通りね」
確かにそうだ。
今回は、魔道具と非売品扱いだったものまで売ろうとしてるんだもの。
製造も販売も、かなりの人員が必要になるはずよね。
技術者だって、今のメンバー総出でも結構な忙しさになると思う。
「アーリア商会の規模でも足りないくらいなのに、支店として一部の人間だけでやるのは無理があるでしょう?調査結果を見ても、素材が豊富で市場も大きいのがわかったから、グリーンフィールのほうが商売がしやすいと判断したの。それで、商会ごと移転したほうがいいってことになったのよ」
「じゃあ、商会のみんなもこっちに来てるの?」
「そうよ。みんなの住むところを確保するのにも時間がかかってしまったのよね。ルイスに頼んで、集合住宅を建ててもらったの。今は、準備ができたメンバーから順番に引っ越してもらってるところよ」
うわーー。そんな大移動なことになってたんだ。
でも、故郷を離れるなんて、みんな、よかったんだろうか。
やっぱり、生まれたところを捨てるのは抵抗があるんじゃないかしら?
「みんなは大丈夫なの?納得してる?」
「レンダルとの共通語があるから、抵抗は少なかったと思うわよ?それに、この国は環境がいいもの。リディアちゃんのおかげね。水道設備に感動してたわよ。集合住宅には魔道具も付けたから、みんな喜んでるわ」
ああ、そうか。言葉に不自由しないのは大きいかも。
―――両国は仲が悪いくせに共通語があるなんて変な話だけど。
レンダルより格段に住みやすいのは保証する。
だからって、やっぱり、国を出るのは勇気が必要だったと思うのよね。
商会が始まったら、ちゃんとみんなのフォローをしよう。そうしよう。
「ならよかったけれど。集合住宅はサティアス家の近くなの?」
「そう遠くないわ。商会の拠点をね、我が家の敷地内に作るから、そこに通える範囲に場所を確保してもらったのよ」
「あ、そうなのね。今度遊びに行くわ」
「我が家にも魔道具を設置したから快適になったわよ」
そういえば、デュアル侯爵領のサティアス邸は改築をしていなかったから、魔道具は入ってなかったわね。今回、その工事もしてたってことは、かなりの作業量だったに違いない。
って、これ、全部、ルイス伯父様が手配してくれたのよね?
伯父様、めちゃくちゃ働いてない?
伯父様っていうよりは、伯父様の部下だろうけど。
デュアル侯爵家の方々、なんか、本当にありがとうございます。
今度、何か美味しいもの持っていきます。
―――なんてことを考えてたら、ラディが意を決した顔で口を開いた。
そんなに構えなくても大丈夫よ?気軽に話に入ってきてね?
「あ、あの。レンダルの王都のお店も撤退してしまったんですか?」
「うふふ。閉店セールで大儲けしてきたわ」
あらやだ。お母様ったら、悪い顔になってるわ。
ラディ、引かないであげてね。
でも、閉店セール大事よね。
在庫整理に移転資金の確保。そこは外せない。
「そうなんですか…。グラント家でもよく利用させてもらってたので残念です」
あああ、そうだったわ。
ラディのおうちでは贔屓にしてくれてたんだったわ。
それは、ものすごく申し訳ないことになっているかもしれない。
何とかならないかしら?
「まあ、そうだったの?うれしいわ。ラディン君のおうちならいつでも融通するから、欲しいものがあったら言ってちょうだいね」
「いいのですか?」
「勿論よ。……と言ってもね、これからずっとレンダルで手に入らないわけではないの。一部技術を売ってきた商品もあるし、類似品も出回っていたと思うわ」
「そうなんですか?」
「ええ。ただ、うちの商会よりも品質が落ちるかもしれないから、もし、うちの商品を希望してくれるなら、注文票を渡すわね」
「でしたら、注文票をいただけるとうれしいです」
「あら。ご贔屓にありがとう」
これ、ラディのおうちに転送装置を設置したほうがいいんじゃないかしら。
容量を大きめにするとなると、今あるものではちょっと改良が必要だけど。
あとで作ってみよう。
というか、技術売ってきたものもあるのか。
でも、そうね。
今まであったものがいきなり手に入らないとなると困るわよね。
別に、レンダルに嫌がらせをしたいわけではないし。
すべての技術を売るのは難しいけど、汎用性のあるものなら、技術ごと売ってしまうのがいいのかもしれない。
「お仕事のお話はこれくらいにしましょう?ルイスが領地に戻ってきたら打ち合わせをする予定なのよ。詳しくはその時に話しましょう」
「わかったわ。企画書も練り直しておくわね」
「それよりも、このおうちを案内してくれないかしら?また、何か新しいものを作ったでしょう?あなたとラディン君は男同士のお話でもしててくださいな」
おっと。ここで分かれるのね。
でも、そういうのもいいわね。
ただ、ラディが一気に緊張した面持ちになってしまったわ。
「ラディ。お父様が怖いのは顔だけだから、大丈夫よ?」
「なんてことを言うんだ……」
ラディの緊張をほぐしたかっただけなんだけど、逆効果だったかしら。
お父様、落ち込まないで。ごめんなさい。
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