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第四章 平民ライフ災難編

閑話:次期侯爵の困りごと。

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 ※久々の更新が、閑話で申し訳ないです……。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 僕は、レオン・デュアル。
 グリーンフィール王国デュアル侯爵家の嫡男だ。

 数年前、父上の従兄妹家族が我が国に移住してきてから。
 僕らの生活は激変した。

 と言っても、その家族と関わりがあったのは父上だけで。
 僕が、何かをしたわけではない。

 生活環境がかなり快適になって。
 食事も、格段に美味しくなって。

 ありがたいとは思ったけれど。
 すごい親戚がいたんだな、くらいにしか思ってなかった。

 でも、我が領の特産物である塩の商品企画をもらってからは。
 さすがに興味が湧いた。
 塩をアレンジするだなんて、目から鱗だったからね。

 それで、少し突っ込んで話を聞いたら。
 父上の従兄妹の娘さん――リディア――の企画とのことで。

 しかも、話を聞けば聞くほど。
 父上が、その子をすごく可愛がっているのがわかった。

 となれば、会ってみたくなるのもしょうがないと思う。

 だから、面会できるように父上にお願いしていたんだけど。
 会える機会はなかなかやってこなかった。

 父上は、タイミングが悪いだけって言っていたけれど。
 僕の評判の悪さも、たぶんに影響していたと思ってる。

 僕は、学院を卒業するまで婚約者も作らなくて。
 特定の相手も作らずに、いろんな女の子と遊んでたからね。

 今となっては、節操がなかったと反省しているし。
 結婚してからは、もちろん、遊んでなんかいない。

 リディア嬢のことだって、仕事絡みで興味があるだけで。
 言ってみれば、親戚の子に会うってだけなんだから。

 変に警戒されて、正直心外ではあったけれど。

 諦めずに、なんとか機会をうかがっていたら。
 漸く会えたリディア嬢が、想像以上に美人でびっくりした。

 ちょっと胸が高鳴ったけど。
 顔も赤くなってたかもしれないけど。

 一目惚れなんて、認めてはいけない。
 二十歳も過ぎて妻子もいる身で、一目惚れなんてあり得ない。
 おまけに、僕らはお互いに既婚者なんだ。

 そう思って、芽生えた気持ちに蓋をして。
 つい、かつてのくせで、口説きモードで挨拶してしまったら。

 旦那くんからのブリザードはすごかったし。
 父上や彼女の両親にも呆れられてしまった。

 だから、その後は、印象がよくなるように笑顔でいたんだけど。
 余計に引かれてしまったから、後日、全力で謝罪した。

 彼女に嫌われるのだけは、避けたかったんだ。

 それに、彼女はいい子だし、賢いし、発想も面白いから。
 惹かれていくのも、止められなかった。

 必死で抑えてるけどね。
 妹ポジションに置くようにがんばってる。

 そうして、少しずつ受け入れてもらえてるんじゃないかな?
 って思ってたところだったのに。

 まさか、妻のせいでリディアが攫われてしまうなんてね。

 あのときは、申し訳なくて、心配で心配でしかたなくて。
 見つかるまでは生きた心地がしなかったけれど。

 無事戻ってきてくれて、本当によかった。
 謝罪に行ったときに笑顔が見れて、僕は、どんなにホッとしたことか。

 今、彼女は、旦那くんの兄君の結婚のお祝いに隣国に行ってるけれど。
 きっと、帰国したら、また新しい何かを発表してくれるだろうから。
 僕は、それを楽しみにしているんだ。

「随分と楽しそうだな」
「え?………あ、父上」
「ノックしたんだけどね、返事がなかったから、入らせてもらったよ」

 リディアのことを考えてたら、父上に話しかけられてびっくりした。
 気づかなかったなんて、僕は、一体どれだけ思考を飛ばしてたんだ。

「よかったら、少し飲まないか」
「誘ってくれるなんて珍しいね。あと少しで終わるから、その後でもいい?」
「ああ。仕事が終わったら、僕の部屋にきてくれ」

 酒の誘いだなんて、何か言いづらいことでもあるのかな?

 とは思うけれど、純粋にうれしくもある。
 最近は、一緒に飲む機会なんて、ほとんどなかったから。

 だから、残務をさくっと片付けて、父上の部屋に行ったら。
 すっかり準備が整ってて、飲む気満々で。ちょっと笑った。

「今日のつまみも美味しそうだね。でも、この、ピンク色の薄いのは何?見たことないんだけど」
「ああ、生のハムなんだそうだ。リディアが作ってくれてね、新商品にしようかと思ってる。よかったら、感想を聞かせてくれ」
「ハムってことは肉なんだよね?生で食べれるの?」
「僕も最初はちょっと引いたんだけどね。これがまたいけるんだ」
「へえーー」

 肉を生で食べようなんて、よく思い付いたもんだ。
 リディアは、本当に、すごい発想をするよね。

 なんて思いつつ、早速いただいたら。
 しっとりしてて、口当たりもいい。
 ちょっとトロっとしている感じが生っぽいけど、臭みもなくて食べやすいね。

「変わった食感だね。でも、おいしいよ。僕は好きだな」
「そうか。よかった。実は、試食した人たちの評価は半々なんだ。生ってだけで駄目な人もいるし、食感が苦手な人もいる」
「あー、そうかもね」

 確かに、好き嫌いは分かれそうだ。

「いつから発売するの?」
「それが、製造には一年以上かかるらしくてね」
「は?」
「これはリディアが魔法を駆使して早く仕上げてくれたものなんだけど、まともに作るとなると、それくらいかかるそうだよ」
「うわー、それは大変だね」

 どうやら、まだ、製造量や製造担当も検討中らしい。

「だから、市場に出すのは結構先になるかな。でも、個人的な分はリディアが先行して作ってくれてるよ」
「あ、そうなんだね。なら、僕らは待たなくても食べれる?」
「今、試作分でもらってるのは、これだけだ」
「え、そうなの?ちょっと、もっとゆっくり食べようよ」

 そういうことは早く言ってよ。
 思わずバクバク食べちゃったじゃないか。

「それにしても、リディアは本当にすごいな。こんなものまで作っちゃうなんて。こういう知識や発想はどこから仕入れてるんだろうね?」
「それは、僕も、最初は気になってたんだけどね。リディアの実績を聞いたら、次元が違い過ぎて、もうどうでもよくなったよ。多分、剣や魔法の才能と一緒だ。あの子は凡人にはないものを持ってるんだよ」

 所謂、天才って事かな?
 まあ、それは違いないんだろうけど。

「未来から来た人みたいだよね」
「ああ、なるほどね。確かに、リディアなら、例えそうでも驚かない」
「でしょ?今度聞いてみようかな」
「……それは、おすすめしないな」
「え?なんで?」
「もし、秘密があるのなら、話さない理由があるんだろう。それを無理に聞き出すのはよくないよ。これからも付き合いを続けたいのなら、聞くのはやめておいたほうがいい」

 なるほど。それもそうだ。
 嫌われたくないし。
 ここは、父上の言う通りにしておいたほうがいいか……。

 そうして、それからは、リディアの物凄い実績を教えてもらって。
 ちょっとあり得ないような話ばかりで、開いた口が塞がらなかったんだけど。

 話が途切れたところで、父上が、少しまじめな顔をした。
 多分、今からの話が本題なんだろう。

「メリアはどうしてる?」

 あー、やっぱり。
 妻のことだったか……。

「リディアのこともあったしね、しばらくは外出禁止にしたよ。報告を聞く限りでは、大人しくしてるみたい」
「そうか……」

 僕は忙しくて、あまり様子を見には行けていないんだよね。

「メリアはなんで、あんなにリディアを嫌ってるんだ?」

 そこ、突いてくる?
 できれば、聞いてほしくなかったんだけど。

「多分、僕が褒めたから、かな?」
「褒めただけか?まさか、お前、」
「あ、いや、商会に面白い子がいるって軽く話をしただけだよ?」

 決して、僕が気に入ってるなんて話はしていない。
 バレてもいない。
 ……………はず。

「それだけで、あんなに嫌うか?」
「僕が他の女性の話をしたのが悪かったんだろうけど、そのリディアが美人だからね。嫉妬したのかも」
「あのふたり、面識があるのか?」
「時々、ラディンベル君と一緒に邸に来てるでしょ?その時に見たんじゃないかな。挨拶は交わしてないみたいだけどね」
「そうか、見られていたのか……」

 あと、これは、できれば言いたくなかったんだけど。

「それと………」
「ん?まだ何かあるのか?」
「メリアの態度に我慢が効かなくて、一度、感情的になっちゃったことがあるんだ。それで、思わず、離縁をほのめかしちゃって……。リディアの話をした後だから、自分の後にリディアがおさまるって誤解してるのかもしれない」
「………はぁ。そういうことか。まあ、それが一番の理由だろうね」

 だよね………。

「にしても、お前がそんなに感情的になるなんて、メリアは一体何をしたんだ」
「その時に何かされたというよりは、積み重ねかな?」

 妻は、婚約時は大人しくて、我儘とかも言わなかったんだけど。
 結婚した途端に贅沢を望むようになった。

 必要以上にドレスや宝石を買い漁るし。
 化粧品や小物にしても、高級品ばかりを欲しがる。
 要は、金遣いが荒いんだ。

 おまけに、女主人としての意識も低い。
 確かに、まだ、次期侯爵夫人、という立場ではあるけれど。
 僕は幼い頃に母を亡くしているから。
 できれば、積極的に動いてほしいんだけど、全くそんな気はないみたいだ。

 更には、興味がないのか、息子のライルのこともほったらかしだし。
 社交も苦手みたいで、人脈もない。

 こういうことは、都度、話をしてるんだけど。
 全然改善しようとしてくれなくて、困ってる。

 挙句の果てには、勝手に出かけることも多くなって。
 問題が山積み過ぎて、思わず、感情が高ぶってしまったんだ。

 なんてことを説明してみたら。

「何とも、困ったことだね」
「うん。僕が、もっとちゃんと諫められればいいんだけど」
「言いすぎても逆効果だし、難しいな。でも、そうか、離縁か……」

 いや、売り言葉に買い言葉みたいな感じだったし。
 別に本気じゃなかったよ?

「お前がどうしても許容できないようであれば、それもひとつの手ではあるな」
「え、いいの?」
「うちは構わないよ。ライルの親権さえ取れればね。それに、表立っては言えないけど、彼女の実家との縁が切れるのは、正直、ありがたい」

 あー、そうだった。

 妻の実家とは、元々、ちょっとした取引をしていたんだけど。
 妻との縁を結んでからは、取引量や金額の要求が大きくなってきて。
 終いには、金の無心までされるようになってしまったんだった。

「もしかして、また、無茶な要求をされたの?」
「そうじゃなくてね。実は、あの家が密猟に関わっているらしくてね」

 は?遂に、犯罪に手を出したってこと?

 詳しく聞けば、都合のいい儲け話に食いついた結果らしいけれど。
 大金に目が眩んで、何度も繰り返しているようで。
 もう、庇い立てもできないところまで足を突っ込んでいるという話だ。

 そりゃ、縁も切りたくなるね。

「メリアは関わってはいないようだし、この件でメリアを咎めることはないけどね。念のため、話しておこうと思ってね」

 なるほど。それで、このサシ飲みとなったわけだ。

 父上は、罪が確定してから話すか迷ったみたいだけどね。
 早めに話してくれて、僕としてはうれしかったよ。

 そうして、その後は、商会の話とかを聞いたりして。
 久々に父上との酒を楽しんだんだけど。

 後日―――。

 結局、妻の実家は、罪が暴かれてお取り潰しとなった。
 おまけに、妻が護衛と不貞を働いてくれたものだから。
 妻とも離縁することになった。

 社交界では、格好の噂話になってるけどね。
 父上と叔母上が工作してくれるみたいだから、甘えさせてもらおう。

 これで、僕も、晴れて独り身となったわけだけど。
 だからって、リディアとどうこうなりたいとは思っていない。
 あのふたりを別れさせるなんて、無理な話だしね。

 でも、あわよくば。
 もし、彼女たちに女の子が産まれたら。
 息子の婚約者に望んでしまうくらいは許してほしいな。


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 ※近日中に、第五章を開始予定です。
 長らく更新できてなくて、すみませんでした。

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