俺が信長で、幼馴染が吉乃と濃姫!? ~転生幼馴染トリオ、本能寺フラグ回避して戦国スローライフ目指します

月影 流詩亜

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第八章:演じられた魔王黄金の檻 ~天下という名の牢獄~

第38話 麒麟は来るのか? ~明智光秀の過労と茶会の密談~

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​ 武田信玄の死という歴史の追い風を受け、俺は一気に攻勢に出た。
 槙島城まきしまじょうに立て籠もり、しつこく俺に反旗を翻し続けていた将軍・足利義昭をついに追放したのだ。
​ これにより、二百数十年続いた室町幕府は事実上の滅亡を迎えた。

 朝廷に奏上し、元号も「天正」と改めた。

 天正元年、七月

 俺、織田信長は、名実ともに天下の覇者として君臨した…………と、歴史の教科書風に書けば格好いいが、実情はブラック企業の社長も裸足で逃げ出すほどのデスマーチだった。

​「……終わらねえ、全然終わらねえよ……」

​ 岐阜城の執務室

 俺は目の前に積み上がった決裁書類の山、物理的に俺の身長より高い書類の山を見上げ、虚ろな目で呟いた。
​ 浅井・朝倉の残党狩り、長島一向一揆の不穏な動き、領国の経済政策、朝廷との折衝、そして新たに従属してきた大名たちへの所領安堵……

 将軍という「中間管理職」がいなくなったせいで、全ての決済と責任が俺一人にのしかかってきたのだ。

​「スローライフ……俺の…スローライフ……」

​ 窓の外の青空が恨めしい。

 俺がやりたいのは「天下布武」という名の平和維持活動であって、「天下残業」ではないのだ。

​ そんな過労死寸前の俺を人間離れした……いや、もはや妖怪じみた働きぶりで支えてくれている男がいた。

​ 明智十兵衛光秀

​ 新参者でありながら、その教養と実務能力で瞬く間に織田家の筆頭格に躍り出た男だ。
 彼は、政治、軍事、礼法、和歌、茶の湯に至るまで、あらゆる面で完璧だった。

 俺が「あ」と言えば、彼は食い気味に「はい、その件につきましては既に手配済みでございます」と書類を出してくる、そんなレベルだ。

​ 正直、彼がいなければ今の織田家は回らない。
 だが、その完璧さが俺には時折、薄ら寒く感じられた。


​ ◇


​ ある日の深夜、丑三つ時、蝋燭ろうそくの灯りだけが揺れる執務室に音もなく光秀が現れた。

​「上様、夜分に失礼いたします。
 朝廷よりの勅使への返答案、および丹波の国衆への調略の進捗、まとめました」

​ 光秀が差し出した書類は完璧な筆致で、寸分の隙もない内容だった。
 だが、俺の目は書類ではなく、光秀の顔に釘付けになった。

​ 白い…あまりにも白い……

 まるで蝋人形のように血の気がなく、頬はこけ、目の下には墨を塗ったような濃い隈くまがある。
 だが、その瞳だけは、異様なほどギラギラと輝いている。
 ランナーズハイならぬ、ワーキングハイの状態だ。

​「……十兵衛。お前、いつ寝た?」

​「はて……。昨日は京で公家衆と歌会があり、その足で坂本へ戻り……移動の馬上で少し微睡まどろみましたので、問題ございませぬ」

​ 寝てない、それはだ。

​「お前なぁ……働きすぎだ。倒れられたら俺が困る。
 今日はもう下がって休め」

​ 俺が心からの懸念と、これ以上仕事を増やされたくないという本音でそう言うと、光秀は感極まったように声を震わせた。

​「お、おお……! なんと勿体なきお言葉……!
 上様ご自身が不眠不休で天下静謐せいひつのために身を削っておられるというのに、この光秀如きにまでお心を砕いていただけるとは……!」

​ 光秀は床に額を擦り付けんばかりに平伏した。

​「この光秀、上様の『天下布武』の大業、その礎となれるなら、この身が砕け散ろうとも本望にございます!
 麒麟キリンがくる世を……上様が創られる平らかな世を、この目で見るまでは!」

​ その熱量……澄み切っているようで、どこか狂気を孕んだような純粋すぎる忠誠の光。

​ 彼は俺を「理想の主君」として崇めすぎている……神格化しすぎている。
 俺が内心では「仕事辞めてぇ」「田舎で空と海と畑仕事してぇ」と思っている俗物だとは、夢にも思っていないのだろう。

​ この理想と現実のギャップが、いつか致命的な何かを招く気がしてならなかった。


​ ◇


​ そんな光秀の限界が訪れたのは、それから数日後のことだった。

 岐阜城の渡り廊下、次の会議に向かおうとしていた光秀の足がもつれ、その体がぐらりと傾いた。

​「──っと!」

​ 床に崩れ落ちそうになった彼を支えたのは、偶然通りかかった空だった。

​「明智さん! 大丈夫!?」

​「……こ、これは吉乃様。お見苦しいところを……」

​ 光秀は慌てて体勢を立て直そうとするが、足に力が入らないようだ。
 空は、そんな光秀の様子を一目見て、いつものニコニコ顔を真剣な「看護師モード」に切り替えた。

​「ダメだよ、無理しちゃ! 顔に『限界突破』って書いてあるもん!
 ちょっとこっち来て!」

​ 彼女は遠慮する光秀を半ば強引に近くの客間へ連れ込み、座布団に座らせた。

​「失礼しますね」

​ 空はそう言うと、光秀の背後に回り、その凝り固まった肩に手を置いた。

​「うっ……!」

​「うわ、ガチガチ! 岩みたいだよ!
 ずっと気を張り詰めてるからだよ。たまには力を抜かないと、心の中で何かがプツンって切れちゃうよ?」

​ 空は、現代で覚えたツボ押しの技術を駆使して、光秀の肩や首筋を丁寧にほぐし始めた。
 最初は恐縮して身を固くしていた光秀だったが、空の絶妙な力加減と、「お疲れ様です」「いつもありがとうございます」という優しい言葉に、次第に力が抜けていく。

​ そして、空は侍女に命じて用意させた特製の茶を差し出した。
 カモミールや薄荷はっかを独自にブレンドした、安眠効果のあるハーブティーだ。

​「はい、これ飲んで。少し苦いけど、頭がスッキリするから」

​ 光秀は、その茶を一口すすり、大きく息を吐いた。
 張り詰めていた糸が、ふわりと緩む感覚。
 彼は、自分でも気づかないうちに、涙を一筋流していた。

​「……かたじけのうございます……」

​「謝らないでよ。明智さんが頑張ってるのは、みんな知ってるから」

​ 空は母親が子供にするように、光秀の背中をさすった。

​「でもね、明智さんが壊れちゃったら、一番悲しむのは大ちゃん……上様だよ?
 上様のためにも、明智さんは元気でいなきゃダメ」

​ その言葉に、光秀はハッとして顔を上げた。

 目の前にいるのは、主君が最も愛する側室。

 太陽のような彼女の慈愛は、すなわち、主君・信長の慈愛そのものなのだと彼は解釈した。

​「……吉乃様は、まるで陽だまりのようなお方だ。
 修羅の道を往く上様にとって、貴女様の存在こそが、唯一の救い……いや、上様の心の奥底にある『光』そのものなのかもしれません」

​ 光秀は、濡れた瞳で、空、そしてその背後にいる信長の幻影に向かって、深く頭を垂れた。


​ ◇


​ その一部始終を、襖の影からこっそりと見ていた者がいた。

 海だ、彼女は光秀が去った後、空の元へ歩み寄ると 小さくため息をついた。

​「……空、貴女の優しさは美徳ですが、今回は少し薬が効きすぎたかもしれません」

​「え? どういうこと?」

​「光秀殿のあの目……。あれは、救われた者の目であると同時に信仰を見つけた殉教者の目です」

​ 海は眉間に皺を寄せた。

​「彼は、殿の中に『魔王の冷徹さ』と、貴女を通じて感じる『仏のような慈愛』の二面性を見出し、それを勝手に『高潔なる王の矛盾』として神聖視し始めました。
 ですが……もし殿の『慈愛』だと思っている部分が、実はただの『人間臭い弱音』や『サボり癖』だと知ったら?」

​ 空は、きょとんとしてから、困ったように笑った。

​「そっかぁ~……明智さん、真面目すぎるもんね。
 でもさ、今はそれでいいんじゃない? 
 壊れちゃうよりはマシだよ」


​ ◇


​ その夜、俺たち三人は誰もいない茶室で密談を交わした。
 テーマは「明智光秀のメンタルケア、および暴走対策」だ。
 天下の情勢よりも、一人の部下の精神状態の方が、今の俺たちには切実な問題だった。

​「で、どうするよ。あいつ、俺のことを神か何かだと勘違いしてないか?」

​ 俺が茶菓子、空特製のきな粉クッキーをかじりながらボヤく。

​「褒めて伸ばす? それとも、もっと強制的に休暇を与える?」

​ 空が提案するが、海は首を振る。

​「ダメです。光秀殿のようなタイプは、仕事を取り上げられることを『不信任』『能力不足』と受け取り、逆に精神を病みます」

​「めんどくせぇ~、男だな!」

​「ええ、非常に面倒です。ですが、代わりはいません」

​ 海は、冷静に分析を続けた。

​「対策は一つ。適度に難題を与えて彼の『役に立っている感』を満たしつつ、殿が直接、二人きりの時にだけ人間的な労いの言葉をかける……その絶妙なバランスを綱渡りのように保ち続けるしかありません」

​「要は、ツンデレ対応しろってことか……」

​「アメとムチ、とも言いますね」

​ 俺は頭を抱えた。

 天下統一の敵は、外の武将だけじゃない。

 身内の、それも一番優秀な部下の「重すぎる愛」と「理想の押し付け」が、一番の時限爆弾かもしれないなんて……

​「……分かったよ。やるよ。
 十兵衛の理想の君主を演じつつ、たまにデレればいいんだな?」

​「はい。ただし、デレすぎてもいけません。『やはり上様は甘い』と幻滅されますから」

​「難易度高すぎだろ、スーパーエキスパートモード
かよ!」

​ 俺たちの苦悩をよそに、歴史の歯車は止まらない。
​ 武田信玄亡き後、その跡を継いだ武田勝頼が、偉大すぎる父を超えようと焦り、再び牙を剥こうとしていた。
 そして、光秀の過労の先に待つ「本能寺」へのカウントダウンも、静かに、しかし確実に進んでいる。

​ 麒麟きりんが来る世を作るためには、俺たちはまだ、この危うい綱渡りを続けなければならなかった。
 
光秀という、美しくも鋭すぎる刃を、懐に抱いたままで。



※「麒麟が来る」は、日本の歴史ドラマや文学などで使われる表現で、未来を担う素晴らしい指導者や平和をもたらす存在が現れることを示唆します。
 麒麟は中国の伝説上の生き物で、聖人が現れる前兆とされるそうです。

 chatGPTより参照

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