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討伐の旅 16
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宿屋の食堂に行くと、シュタインが呟くように「昨日と同じ席です。」と言って先に歩いて行った。俺はシュタインの後を付いて行き、昨日と同じように席について待つ。
声を掛けられる事も無く、コトンコトンと食器が置かれる……野菜が申し訳程度に入ったスープと薄切りにされた肉、パンが入った木のボウル。
「頂きましょう。」
肉……何の肉なんだ?昨日食べた兎とは違う、ボアか?それとも…………
「シュタイン……この肉の事だが……」
「殿下、この肉は昨晩の牙猪です。お食べ下さい。」
昨晩……ミヒャエル達を襲ったあれらの肉を?食べるだと……!人間を食う魔物の肉を食べる事など出来ると思うのか?!
「お先に頂きます。」
躊躇う事無く、その肉を上品に切り分け口に運ぶ……口に入れ咀嚼する口元から目が離せなかった。一口……二口……なんで……なんで平気な顔して食べれる…………あれらは襲っただけじゃなく、ミヒャエル達を食べたんだぞ!
「何故、口に入れれるのか?そんなお顔ですね、殿下。」
シュタインにそう話しかけられ、まじまじと顔を見つめる。昨日までの穏やかな優しい顔では無く、今は厳しく険しい表情だった……なんで、そんな顔で俺を見る?俺は間違って無い筈だ。
「ここは王宮ではないのです。人も動物も魔物も、互いの命を奪い合い生きてます。昨晩の事は我等にとっても、又村で暮らす者にとっても不幸な出来事です。人が食われるのも、今まで皆無だった訳では無いでしょう。食べる物が無ければ、食べる為に……生きる為に襲い食う。牙猪は小型が殆どですが、討伐するには中々厄介な魔物です。昨晩はその小型を率いる群れの主……中型が居ました、中型を討伐するには手練れが連携でもって攻撃せねば逆にやられてしまう強い魔物です。更に言えば中型は小さな集落であれば、魔物除けを破壊し集落に住む者全てを蹂躙し食い散らかします。不幸な出来事もありましたが最悪な出来事にはならなかった。シュバルツバルトの方々は、昨晩の牙猪の何頭かを我等にくださった。有難い事です……さぁ、殿下……どうかお食べ下さい。私達に真心を尽くそうとしている宿屋の方の為にも、残さず食べ尽くし礼を述べなければならない。上に立っているからと、その真心を無碍にする事は王族である以上許されません。…………さぁ、お口お運び下さい。」
食べ終えるまで、決して許さないと……そう言われた気がした。震える手で焼かれた薄切り肉を切り、恐る恐る口に運ぶ。
「殿下が今まで王宮で口にしていた物も、幾つかこう言った魔物の肉があった筈です。気になさらず、お食べ下さい。」
……?!今まで……?知らされる事無く、口にしていた?
呆然としながらノロノロと口に入れ咀嚼する……食べた事のある味…………そうだ……骨付きのあばら肉が旨くて好んで食べていた…………あれは……あの肉はコレだったのか……咀嚼した肉を飲み込む。
「良かったですね。殿下も昨晩の事で食事を受け付け無いかと心配しておりましたが、きちんと肉を食べて下さった。貴重な牙猪の肉を出して頂いて、有難い事です。」
シュタインの優しげな物言いに、首を巡らすと宿屋の奥さんが心配そうな顔で立っていた。
「いえ……主まで居たと聞いて、家族全員震え上がりました。娼婦達が食われたのは残念な事でしたが、村が無事で良かったです。うちは宿屋な分、他所より多めに分けて頂いて助かりました。もし、足りないようなら仰って下さい……その焼いて来ますんで。」
「いや、十分ですよ。……足りませんか?」
シュタインに聞かれ、首を振る。
「十分です、その……気を使わせて申し訳ない。」
「そうですか?もし、足りなくなったら言って下さいね。」
宿屋の奥さんはそう言うとペコリと頭を下げ、奥に消えて行った。
俺は何も言わずに黙々と出された食事を食べた、シュタインも話し掛ける事無く食べ進めた。昨晩、部屋に来た男が薄いワインを入れたカップを俺とシュタインの前にそれぞれ置くと空になった食器を下げようとした。
「昨晩はありがとう、そのまま寝てしまったが朝使わせて貰った。部屋に置いたままで申し訳ない。」
『下々の者だから、何も言わなくて良い等ということはありません。声を掛けるだけで違ってくるのです、良くして頂いたのなら礼を述べるだけで人の気持ちと言うものが変わります。心からでなくても構わないのです、簡単な言葉だけで良いのです。』あぁ……エリーゼ、そうなんだな……ちょっとした積もりの言葉だった、だのに目の前の男は跪き「勿体ないお言葉……ありがとうございます。」そう小さな声で、俺に言ったんだ。
薄いワイン……不味いだけのワインを初めて美味しいと感じた。
その薄いワインを一気に煽り、飲み干す。
「馳走になった。シュタイン、そろそろ行こうか?」
シュタインは昨日と同じように微笑み、コクリと頷く。
「お部屋に忘れ物はございませんか?」
「あぁ、無い。」
シュタインは俺を頭の上から下まで、ジロジロと見るとウンウンと頷いた。
「大丈夫のようですね、では参りましょう。世話になった。」
「ありがとうございました!」
シュタインは堂々と前を歩き出し、俺も顔を上げ付いて行く。
まだ、旅は始まって間もないのだ。
声を掛けられる事も無く、コトンコトンと食器が置かれる……野菜が申し訳程度に入ったスープと薄切りにされた肉、パンが入った木のボウル。
「頂きましょう。」
肉……何の肉なんだ?昨日食べた兎とは違う、ボアか?それとも…………
「シュタイン……この肉の事だが……」
「殿下、この肉は昨晩の牙猪です。お食べ下さい。」
昨晩……ミヒャエル達を襲ったあれらの肉を?食べるだと……!人間を食う魔物の肉を食べる事など出来ると思うのか?!
「お先に頂きます。」
躊躇う事無く、その肉を上品に切り分け口に運ぶ……口に入れ咀嚼する口元から目が離せなかった。一口……二口……なんで……なんで平気な顔して食べれる…………あれらは襲っただけじゃなく、ミヒャエル達を食べたんだぞ!
「何故、口に入れれるのか?そんなお顔ですね、殿下。」
シュタインにそう話しかけられ、まじまじと顔を見つめる。昨日までの穏やかな優しい顔では無く、今は厳しく険しい表情だった……なんで、そんな顔で俺を見る?俺は間違って無い筈だ。
「ここは王宮ではないのです。人も動物も魔物も、互いの命を奪い合い生きてます。昨晩の事は我等にとっても、又村で暮らす者にとっても不幸な出来事です。人が食われるのも、今まで皆無だった訳では無いでしょう。食べる物が無ければ、食べる為に……生きる為に襲い食う。牙猪は小型が殆どですが、討伐するには中々厄介な魔物です。昨晩はその小型を率いる群れの主……中型が居ました、中型を討伐するには手練れが連携でもって攻撃せねば逆にやられてしまう強い魔物です。更に言えば中型は小さな集落であれば、魔物除けを破壊し集落に住む者全てを蹂躙し食い散らかします。不幸な出来事もありましたが最悪な出来事にはならなかった。シュバルツバルトの方々は、昨晩の牙猪の何頭かを我等にくださった。有難い事です……さぁ、殿下……どうかお食べ下さい。私達に真心を尽くそうとしている宿屋の方の為にも、残さず食べ尽くし礼を述べなければならない。上に立っているからと、その真心を無碍にする事は王族である以上許されません。…………さぁ、お口お運び下さい。」
食べ終えるまで、決して許さないと……そう言われた気がした。震える手で焼かれた薄切り肉を切り、恐る恐る口に運ぶ。
「殿下が今まで王宮で口にしていた物も、幾つかこう言った魔物の肉があった筈です。気になさらず、お食べ下さい。」
……?!今まで……?知らされる事無く、口にしていた?
呆然としながらノロノロと口に入れ咀嚼する……食べた事のある味…………そうだ……骨付きのあばら肉が旨くて好んで食べていた…………あれは……あの肉はコレだったのか……咀嚼した肉を飲み込む。
「良かったですね。殿下も昨晩の事で食事を受け付け無いかと心配しておりましたが、きちんと肉を食べて下さった。貴重な牙猪の肉を出して頂いて、有難い事です。」
シュタインの優しげな物言いに、首を巡らすと宿屋の奥さんが心配そうな顔で立っていた。
「いえ……主まで居たと聞いて、家族全員震え上がりました。娼婦達が食われたのは残念な事でしたが、村が無事で良かったです。うちは宿屋な分、他所より多めに分けて頂いて助かりました。もし、足りないようなら仰って下さい……その焼いて来ますんで。」
「いや、十分ですよ。……足りませんか?」
シュタインに聞かれ、首を振る。
「十分です、その……気を使わせて申し訳ない。」
「そうですか?もし、足りなくなったら言って下さいね。」
宿屋の奥さんはそう言うとペコリと頭を下げ、奥に消えて行った。
俺は何も言わずに黙々と出された食事を食べた、シュタインも話し掛ける事無く食べ進めた。昨晩、部屋に来た男が薄いワインを入れたカップを俺とシュタインの前にそれぞれ置くと空になった食器を下げようとした。
「昨晩はありがとう、そのまま寝てしまったが朝使わせて貰った。部屋に置いたままで申し訳ない。」
『下々の者だから、何も言わなくて良い等ということはありません。声を掛けるだけで違ってくるのです、良くして頂いたのなら礼を述べるだけで人の気持ちと言うものが変わります。心からでなくても構わないのです、簡単な言葉だけで良いのです。』あぁ……エリーゼ、そうなんだな……ちょっとした積もりの言葉だった、だのに目の前の男は跪き「勿体ないお言葉……ありがとうございます。」そう小さな声で、俺に言ったんだ。
薄いワイン……不味いだけのワインを初めて美味しいと感じた。
その薄いワインを一気に煽り、飲み干す。
「馳走になった。シュタイン、そろそろ行こうか?」
シュタインは昨日と同じように微笑み、コクリと頷く。
「お部屋に忘れ物はございませんか?」
「あぁ、無い。」
シュタインは俺を頭の上から下まで、ジロジロと見るとウンウンと頷いた。
「大丈夫のようですね、では参りましょう。世話になった。」
「ありがとうございました!」
シュタインは堂々と前を歩き出し、俺も顔を上げ付いて行く。
まだ、旅は始まって間もないのだ。
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