婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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ある日の帝国皇室 7

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この皇子宮は主が外遊に出てからというもの、めっきり寂しくなった。第五皇子ルーク殿下の住まう皇宮は皇子の趣味等が反映された、落ち着いた意匠の皇宮となっていた。
それでも、この皇子宮を預かる立場にある執事長はいつでもルーク殿下が帰って来れるように采配していた。
今日も帰って来ない主の為の掃除等を済ませてしまい、使用人共々残りの時間をどうしようかと悩み始めた頃合だった。

「ああ、居た居た。朗報だ。」

執事長からすれば、滅多に会う事の無い立場の人物が来ていた。

「朗報ですか?一体何だと言うのですか。」

執事長からすればルーク殿下が帰って来る事が一番の朗報だが、外に出る事を望んでいたルーク殿下が外遊に出て三ヶ月もしない内に帰って来るなど有り得ないと理解していた。だからこそ、朗報だと伝えに来た人物を胡乱げに見詰めてしまうのは仕方ないとしかいいようがなかった。

「ルーク殿下が半年後にオーガスタ王国シュバルツバルト侯爵家令嬢と婚姻する。」

その言葉に執事長は驚き、愕然とした。

「半年後ですって!では、こちらに勤めている者達はどうなるのですか!」

執事長はルーク殿下がお生まれになってからずっとお側で仕え見守って来た自分も乳母も、気心の知れた優しい侍女達全員が放りだされるような喪失感に襲われ哀しくもなった。それだけでは無い、ルーク殿下をお守りするために配置された騎士や兵士。身の回りを整える為の従僕や皇子宮に配置されたメイド達……多くの者がルーク殿下の為に心を砕いてお仕えしたのだ。それが隣国の貴族令嬢と婚姻すると……しかも半年後に。何が朗報だ!そう叫びたかった。高位貴族のご令嬢であれば帝国内に大勢いるではないか!

「希望すれば、あちらに行けると思うがどうした?」

「全員がですか?それ程の余裕があるとは到底思えませんが。」

執事長の苛ついたような刺々しい物言いに、困ったように笑うと真面目な顔で応える。

「シュバルツバルト侯爵はオーガスタ王国辺境侯だ。我が国最大の輸出入の相手だ。それだけじゃない、シュバルツバルト侯爵夫人はシルヴァニア公爵家令嬢だったフェリシア嬢だ。」

「青氷の薔薇……」

思わず出たのは、かつて帝国内貴族を畏れさせたアーネスト宰相の懐刀と思われていた令嬢のあだ名だった。
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