婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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晩餐会の前(ハインリッヒ)

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行ってしまった……可愛いノエルとルチルを連れて婿と言うより、新たな息子となるルークが行ってしまった。支度もあるし、仕方ないと分かってるが視界に入るノエルとルチルの可愛さは荒んだ俺の心に温かさと潤いと癒しをくれた。あれは良い!

「ルーク様はかなり仕事が出来ますね。仕分けられた物を見ましたが優秀です。ただの皇子としての教育ならば帝国は恐ろしい国です。仕事も出来て、豪胆で優しいときてる……エリーゼ様との婚姻が待ち遠しいですね。」

むぅ……そうなんだよな。あのバカ王子に比べたら、とんでもなく良いんだがやっぱり可愛い愛娘が……いや、あんなに幸せそうなんだから喜ばんとな。でもなぁ……せっかく領地に帰って来て、一緒に大型討伐行きたかったなぁ。俺の勇姿を見せたかったんだが、旅の間に出くわした時の姿で我慢しろって事かなぁ……

「ハイル。格好いい所を見せたかった気持ちは分かりますが、エリーゼ様は暫くこちらで過ごすのでしょう。きっと機会はありますよ。それよりも、ハインリッヒ様もお支度して大広間に先に入りませんと。口頭で伝えるのでしょう?」

そうだ!ルークの側近の事を言っておかんとな!

「勿論だ!早い所、側近を付けて慣れて貰わんとな!」

アレクと共に部屋へ戻り、アレクの手によって支度を終える。今日は愛娘の為の晩餐会だ、張り切っていかんとな!


アレクを連れて大広間に向かう。中央階段を降り始めて気がつく、エントランスホール皆が集まっている事を。眼下には着飾った寄子貴族の当主達が俺を待ち構えていた。
階段を降りきらず、数段残した所で歩みを止め見回す。

「皆、ご苦労。こうして集まってくれた事に感謝する。早速だが、晩餐会の前に言わねばならぬ事がある。」

無言で姿勢を正し、俺の言葉を待つ我が配下の貴族達。

「婿となるルークに側近を付ける。我が息子同様となる故、しっかりとした者を望む。初である事には拘らん。有能である事こそが大事である。」

「「「「「おおおお!」」」」」

「では後程、晩餐会で会おう。」

一斉に正面玄関から出て行く者達に少しだけ笑む。それぞれの子息や側近へと教育を施された者達へ伝令を飛ばさなければならないからだ。領主の子供達の側近や侍女は特別だ。エリーゼの侍女はフェリシアの子飼いの娘が早々に決められ、鍛錬を積んだ。アレクの娘でもあるがシルヴァニアの教育は厳しかった、アレクも時折何かしら言っていたようだが聞き入れられる事は無かったとぼやいていた。王族には側近は居ない……だがルークはエリーゼの婿になる。我が家に来る以上、側近を付けるのは必須だ。諦めていた我が家との繋がりを持てるかもしれない出来事にあれ等も期待していた。
どれ程の者が来るかは分からない。だが、我が家の一員になる者に付くのだ……トールの時と違って新参者は居ない。期待しても良いだろう。
言うべき事は言った。大きく息を吐き階段を戻り自室ではなく、フェリシアの部屋へと向かう。人気の無い長い廊下を歩いて行く。この本館の両端に別れた俺とフェリシアの部屋。この領主館は元々城だった。硬い守りの魔法が賭けられているから、壁一つ欠けること無く姿を変えること無くあり続けている。にも関わらず主とその妻のどちらかを、生かす為にわざと部屋が離されている。この城の主となると明かされる様々な事には驚きしかなかった。王国よりも古い歴史を持つ我が領主館と言う名の城の中、俺は最愛の妻の笑顔を見たくて歩き続けた。
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