婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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忘れる事なき思い出(アナスタシア)

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きっと私は長くないのだろう、最近になって若かった頃の事をよく夢に見る。
元気に育った孫達を見ると、喜ばしいと思う気持ちと亡くしてしまった子供を思い出して辛く悲しい気持ちとがない交ぜになって何とも言えない気持ちになってしまう。

「お義母様、私のお気に入りの甘味を持って参りましたわ。一緒にお茶に致しましょう」

義理の娘となったフェリシア嬢は胆力も然る事ながら、体術や剣技も納めてるらしく息子ハインリッヒに負けない程強い。
彼女程強ければ……きっと私も子供を亡くす事など無かったろう……

「お義母様、今日は二人っきりですわ。ゆっくりお話致しましょう」

「そうね……」

いつもなら余りあれこれと聞いてくる人となりでは無いのに……

「お義母様、お気持ちを口に出さないのは苦しいでしょう。私、お義母様とお義母様の苦しみを分かち合いと思ってますの」

彼女は子供を亡くした訳でもないのに私と苦しみを分かち合う?

「お義母様、私はね……いえ、私達は帝国皇帝の為に幼い頃から帝国皇室の血塗られた……隠された歴史を教えられます。皇帝の妃の哀しみ苦しみ……決して華々しく輝くばかりではない世界を見、必要とあらばその花を手折りに行く。それが私達シルヴァニアの女です。私達はその苦しみや哀しみを分かち合い生きております。でないと苦しんだまま死なねばならないからです。お義母様、私は何も知らず何も出来ない女ではありませぬ。私はお義母様の味方になりたいのです」

フェリシアの目は真剣そのものでした。私はとつとつと愚かで幼い……シュバルツバルト領の恐ろしさを分かってなかった昔を話した。
大好きだった婚約者の事、弟にしか思ってなかったマクスウェルとの婚約……そして婚姻。
中々出来なかった子供……私を心配し、こまめに届く手紙に疲弊していった日々……
いつの間にかフェリシアは私の隣で、私の手を握りしめていた。
やっと生まれた我が子は男の子で跡継ぎに沸いた館。
ずっと長い事心配をかけた両親に早く見せたかった愛しい我が子。
良くやったと褒めて貰いたかった。
マクスウェルと共に公爵領へ出向き、強い絆の証たる我が子のお祝いをしたかった。
私は公爵令嬢の気分が抜けきらなかった……シュバルツバルト領が恐ろしい魔物が跋扈すると理解してなかった……
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