婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生

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妻の嗜み (フェリシア)

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注意!このお話しはエリーゼが開拓地に掛かりきりになってる間のお話しです。



「フェリシア様、エルフ達の所に行って参りました」

侍女の一人シンシアが今朝エルフの元に行き、頼んでおいたふんどしと様々な色に染め上げられた糸を持ってきた。
差し出された天蚕の美しい糸で織られた布で作られたふんどしと色糸。
愛する旦那様に相応しい……艶々と光る布を撫でると笑みが零れてしまう。

「今日は皆で刺繍を致しましょう。それぞれの分もあるでしょう?」

「勿論です」

シンシアは肩に掛けていた袋を降ろし、丸テーブルの上に中身を手早く出す。
糸が太い……私用の物とは違う織りのふんどしが積み上げられる。
それでも刺繍糸は皆同じ物を使うのだから、良い物が出来るでしょう。

「では始めましょうか」

「「「はい」」」

今日のこの為に仕事を片付け、今日一日刺繍が出来る。息子達は仕事、エリーゼも開拓地へ行ってる。旦那様は仕事に忙殺されかかってる。
薄い青に染められたふんどしを手に取り木枠を嵌め、濃い青の刺繍糸を手に取り針へと通す。
もう何度となく刺したハインリッヒの紋を前垂れの中央に刺していく。
初めて刺した時は少し難しい紋章で時間が掛かったわ……今では良い思い出だわ。
侍女達もそれぞれの夫の為の刺繍を刺している、皆真剣なのか誰も口を開かない。
それもその筈、今までとは比にならない美しい布と糸に集中してしまう。
私だって今までの物と違うものだから指先に僅かに力が入ってしまう……でも一針一針と進め、形になってくると美しくて思わず溜息が出てしまう。

「フェリシア様、こうなると手布も刺したくなりますね」

エミリも軽い溜息を吐いて刺し終わったふんどしの刺繍部分を撫でている。

「ええ。こんなに美しいと自慢させたくなるわね」

エリーゼのドレスだけでなく、様々な物を天蚕糸で作るようになっていた。
旦那様の紋を刺し終わり木枠を外す。

「見えないのは残念。手布、刺したい」

ソニアの素直な意見に頷いて二枚目を選ぶ。やはり刺し始めの方が出来上がりは美しいし、気に入って欲しいからつい真剣になってしまう。
そして二枚目に選んだのは黒いふんどし。これに黒い糸で刺したら渋いけど美しく仕上がるわね。
身につけた姿を想像するだけで笑みが深くなる。
そして私達は数枚無言のまま刺し、休憩にお茶を飲みながら紋章だけでなく色んな模様を刺す事を喋ったり……こんな風にのんびりと刺繍を刺しながら過ぎる時間を楽しみながら一日を過ごした。
夕食の前にはあんなに沢山あったふんどしの全てを刺し終わり、出来上がった物を丁寧に畳んでいく。
これら全てが洗濯され旦那様の元へと運ばれる。
きっと驚くでしょうね。
今までと違う肌触りのふんどしに……そして身につけた姿を見せに来るであろう旦那様……朝まで帰しませんわよ。
だってエミリだってそこは期待してる筈だもの。

「フフ……楽しみね」

コクコクと頷く侍女達も期待してる。
ええ!朝まで帰しませんわ!愛してるのは私もですもの。
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