婚約破棄されまして(笑)

連載

嫁入り支度 2

「やっと新館に入りましたね……」

アニスよ……もっと覇気を出して頂戴よ！まだ午前中ですよ。

「お待ちしておりました。新館の二階左奥の続き部屋が姫様と婿様のお部屋となります」

……えーと……確かアンソニーよね？キャスバルお兄様の執事の一人の……

「案内は嬉しいけど……」

私の言葉に折り目正しい一礼をした後、私を見つめてニコリと微笑む。うん、無駄に格好いいし色気あるわね。

「申し遅れました。私、アンソニー・フォン・オースティンは今日付けでルーク様の執事となります。いずれルーク様の執事が見習いから卒業致しましたら、引き継ぎを行いキャスバル様の元へ帰ります」

まだ不慣れで見習いのルーク専用の執事が育つまでキャスバルお兄様の執事がルークの補佐をしてくれるって訳ね。

「アニス様とキース様には上級使用人として必要な仕事をお教えするので覚えて頂きます。特にアニス様、新館の使用人の管理は貴女が行うので宜しくお願いします」

アニスと無言でついて来ていたキースの顔がピクリと強張る。キースの存在感が薄い！とか言うのは止めて下さい。一番不慣れだからなのか気配まで消して私達の後ろを歩いてましたから。

「いえ！ではこちらの監督権は私が？」

お？アニスの顔が気合い入ってるぞ！

「勿論です。ルーク様の補佐の筆頭はキース様になります、それは執事達の頭でもあると言う事です。私に気兼ねせず、分からない事は分からないと仰って下さい。その都度どの様に指示を出すべきなのかお教え致します。勿論、慣れた後であれば私への指示も出して下さって結構です。その様に気配を殺し、まるで存在を無視しろと言わんばかりな態度は宜しくありません。それでは主たるルーク様の為にもなりません。仮とはいえルーク様は今は主様です、そしてキース様は私の上司です。堂々となさって下さい」

縦割り社会！ルークの下にキース、キースの下に執事達っていう縦割りがあるからの言葉なのね！
アニスもキラキラした目でキース見ちゃってるじゃない！

「アニス様も後ほど新館の侍女頭やメイド長が来ます。そして新館は距離があるので本館から料理人が何人かこちらに配属されます。なので新館の料理長が後ほど挨拶に参ります」

「分かったわ」

とりあえず私が返事しました。邸の使用人の決定権は私で、使用人達の監督権はアニスって事なんで！
それにしても本館料理人達から数人引っ張って来たのか……